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執着旦那と愛の子作り&子育て編
やるしかない。
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自分を分析すると単純だけど、面倒くさいとシャリオンは思っている。
ガリウスに大丈夫だと言われればそう思うのに、何故か直面するとすぐに緊張やら何やらが押し寄せてくる。
劣等感が自分にあるから余計だ。
人に期待され上手くやりたいのに、それがこなせない自分は歯痒い。
まともに領主をやれているように見えるのは、全て周りのおかげだ。
だから、シャリオンにとお願いされたら頑張ってしまう。
そんな真面目さが顔に出てしまっていたらしい。
「あまり気に病まないで欲しい」
相談役としてアンジェリーンとミクラーシュの元へ通っているが、今日はミクラーシュの話を聞いてる時だった。
表情が固いシャリオンにそう言ったのはミクラーシュだ。
「えーっと」
「お願いしたのは俺なのに、こんなこと言ったら色んな人間から怒られそうだが。
気を張らずに気楽にやって欲しい」
そう笑うミクラーシュ。
しかし、それは気を遣っているのだろう。
洗脳という状況、恐れを感じていたのをシャリオンは見て聞いて知っている。
「ごめん。・・・魔法を譲渡できたら良いのだけど」
ヴィンフリートに魔力を上げることを止められ、次に考えたのは魔法の譲渡だった。
魔力の低いシャリオンではかけるだけで倒れるし、そもそも技術が追いつかない。
魔力が得られないのは残念だが、この魔法自体を譲渡出来たなら、ミクラーシュの洗脳もきっと完全に解ける。
そう思ったのだが。
ヴィンフリートはそれもあまり良い顔をしなかった。
帰るという彼に『その魔法をガリウス達と育てるのが最善じゃ』と、先制を打たれてしまい最後のお願いは出来なかったのを思い出す。
「ガリィならきっと上手くやれたと思うんだけど」
「俺はシャリオンに直してもらえるのは嬉しいと思ってる。
それにこの先時間はたくさんあるのだから何度だって試せば良い」
シャリオンが気にしない様にそうは言ってくれてるが、そう時間はない。
ルークも言っていたが洗脳状態で、子を成すのは洗脳をかけた術者の目的がわからない以上不安要素は消えない。
ハイシア家の失墜と見せかけた、王家転覆だってあり得る。
・・・まだ、ミクラーシュは例で悩んでいて、それだけじゃないようだが。
「その間に俺の考えも固まるかもしれないしな」
ミクラーシュはそう言いながら苦笑を浮かべた。
ルークを愛していると言ったミクラーシュ。
それは、その愛情は恋と言うより敬愛に近いものだった。
真面目な性質で自分の置かれてる状況を理解しているようで、世継ぎには真剣に悩んでいるようで、声を掛けるシャリオンも言葉を選んでしまう。
「あの、」
「大丈夫だ」
「え?」
「前に相談をした事を気にしてくれているのだろう?」
側室とは言え王族に属する者として自覚と落ち着きが付いたのだろうか。
シャリオンを気遣うようにこちらに微笑んできた。
ホッとしたのは束の間だった。
「えっと、・・・うん」
「殿下とはより多くの時間を過ごしている」
「そうなんだ・・・?」
「あぁ」
長く一緒にいれば敬愛も、いつしかその愛情にも変化があるだろうかとそんな期待した。
穏やかにだが心強く返事をする様子は間違いなく安心が出来たのだが・・・。
「朝は殿下のお部屋にお迎えに上がるところからだ」
「へぇ」
随分熱心だ。
そう言えばシャリオンとガリウスは領ではそれぞれに部屋があるが、常にガリウスはシャリオンの部屋か執務室に居る。部屋を出る時はリングかゲートで王都に向かっているから、基本同じであるため似たようなものだろうか。
しかし、側室なのだから入ってしまえばいいのにとは思ったが、理由はすぐ後になってわかる。
「食堂までお連れして」
「一緒に食事をとってるんだ」
「いや。私は先に頂いている」
「え」
「朝の鍛錬があるからな。
実は以前世話になっていた第一騎士団に出入りの許可をもらっていて、そこで日々体を動かすのは欠かせないんだ。
それからは体を清め身支度が終わったら殿下の元へ向かっているんだ」
「・・・、」
「それから、移動はいつでもお側に寄り添わせていただいている」
「えっと・・・。城内を?」
「あぁ。基本殿下は執務室から出られることは無いが、どこかへ足を運ばれる際は共に向かう。
シャリオンの部屋に来るときも外に控えている」
「えっ入ってくればいいのに」
「殿下の自由な時間を邪魔することなど出来るわけないだろう」
まるでシャリオンが可笑しなことを言っているかのように眉を顰められた。
王配であるアンジェリーンなどは気にせずに入ってきそうなところだが。
「そ・・・外で何を?」
「怪しいものがいないからチェックをしている」
「そうなんだ」
「あぁ。その後は執務室の傍らで殿下の様子をうかがっている」
「え」
「執務の抱えすぎはないか、心の機微に変化がないかを見ているんだ」
「・・・、」
今言った事に一切の疑問も不満もないのか、嬉しそうにそう言うミクラーシュに固まる。
従者と側近の合間の様にしか聞こえないからだ。
「それで最近癒しが足りない様だ」
「!それならミクr」
「そこでなのだが、アシュリーとガリオンの時間は取れないだろうか」
「え?」
名案を重いつた目を輝かせるミクラーシュ。
ここは、子供達よりも2人の時間を作り絆を深めた方が良いのではないのだろうか。
先程から聞いているとなんだかプライベートと言っていい時間には聞こえないのだ。
「えっと、大丈夫だけど」
そう答えるとほっとした様に息をつく。
「それは良かった。
ここ最近子供達とマナーレッスンを受けているが、俺自身あの子達に癒やされているからな」
その気持ちはわかるし嬉しい。
しかし、それは!と、言いたくなったがシャリオンは寸前で止めた。
もしかしたら、照れ隠しなのではないのかと思ったのだ。
相談役なんてものになってしまったのだ。
ここは聞き出して2人が落ち着きやすい方向に導くのも自分の役目の様に感じてきた。
急かすつもりはないが、なんだかこのままでは先にいかない様な気がしてきた。
本来、後継ができれば良いので、恋愛でなくとも良い。
だが、2人を見てるとそれすら行かなそうな気がしてならない。
果たしてそれは良いのだろうか。
このままにしておいたら、ガリウスもきっと困る事に放っておけなくなる。
そう考えると、自分の時は無知過ぎたせいで、ガリウスが気を使い、強引だったが進めてくれたおかげで前に進めた。
ルークにも後継のためにもしっかりしないと!と、言ってやりたいのだが、・・・初恋の話を聞いてからはなんだか進めにくい。
で、あれば気があるミクラーシュが進んでいくしかない様に思うが、・・・こんな調子である。
側から見ている方が焦ってしまうが、ミクラーシュの心の変化を待ちたい。
「なら、4人で庭を散歩してみる?」
シャリオンの提案に驚いた様だが嬉しそうにするミクラーシュ。
「いいのか?」
「うん。子供達とルークとミクラーシュで」
「え」
「え?」
不思議そうに返すミクラーシュに首を傾げる。
「シャリオンが行くと思った」
そう言う言葉にシャリオンは苦笑した。
以前の様に攻撃的に絡まれるのは困る。
しかしだ。
「えっと・・・、嫉妬しないの?」
「何に?」
「僕に」
「シャリオンはガリウスにしか興味がないじゃないか」
ガリウスとの関係を疑われないようになったのは嬉しさもあるが、複雑な気持ちに苦笑を浮かべた。
「僕はもっとルーとプライベートな時間をとった方が良いと思うけど」
「だが、俺では殿下に安らぎを作り出すのは難しい・・・。
シャリオンは知らないか?
アシュリーとガリオンは天使なんじゃないかと思うほど、癒しをくれるんだ」
「知ってるけど、そうじゃなくてね」
「それに殿下はシャリオンといる時が1番自然体だからな」
「それは幼馴染だから。・・・もっと2人の時間を作らないと溶ける緊張もそのままだよ?」
「いつもお側にいるが」
「いや、だから仕事じゃなくてね」
「シャリオンは仕事でもガリウスといられるのは嬉しくないのか?」
「嬉しいよ?て、そうじゃなくて!
もうっミクラーシュ、わかってて僕のことからかってるでしょう・・・!」
そう言うとついに吹き出したミクラーシュ。
どうやら確信犯らしい。
ムゥっとしてジト目でみると苦笑を浮かべた。
「ごめん。なんだか弟よりも素直でついな」
クスクスと笑いながらこちらを見てくるミクラーシュは、本気でそう思っているらしい。
嫌がらせという事ではないなら良いのだが、・・・そこで思い至ってしまう。
「・・・ごめん、お節介・・・だったね」
はぐらかしている様なそれは、触れてほしくなかったのだろうか。
それに、ミクラーシュの方が年上で、数ヶ月前までは自信も次期伯爵で婚約者もいる様な立場だったのだ。
シャリオンが心配している事などとっくに考えているだろう。
「俺からシャリオンに相談したんだ。
そう思うわけないだろう?
・・・もし、そうならなかったなら薬でも使う」
「そう?」
まさかシャリオンが通じないとは思わなかったらしく、少し照れながらも答えた。
「・・・閨の時だ」
「!!!っ・・・えっと・・・その、薬?」
「・・・初夜に飲む様なものだ」
初夜はただひたすら緊張と歓喜に溢れていた。
詳細を思い出し、そこでゴブレットに注がれた甘い酒を思い出す。
確かに、あれを飲んだら一気に体も心も熱くなったのを思い出して、シャリオンの頬は一気に紅潮した。
「っそ、そうだよねっ」
「あぁ。それが駄目なら別の薬と・・・いや、なんでない」
「他にも薬?・・・なにが??」
言い濁すミクラーシュにシャリオンが理解するのは難しかった。
なにせ、その方面は全くの無知だ。
受け入れる方しか教わってないハイシア家の教育は偏りがある。
「・・・なんだか何も知らない子供にいけない事を教えている気分になるな」
シャリオンには聞こえないくらい小さい声でぽそりと呟いた。
「ミクラーシュ?」
「いや。・・・あの、シャリオン」
「なに?」
「・・・、いや・・・なんでもない」
そう言ったミクラーシュを見ると、視線を逸らしてしまう。
とても『なんでもない』そんな姿にシャリオンは苦笑を浮かべた。
ルークを愛していて子供も好きだが、触れ合う事が考えられないなんて、今のシャリオンには難しいことだ。
少し間をおいて考えた後、シャリオンは口を開いた。
「少し・・・昔の話をしても良いかな」
「なんだ?」
「昔と言っても、僕の婚約当時の話なんだけれど」
「うん」
「僕・・・最初体外で子を成そうと思っていたんだ」
「え?」
初めはガリウスとの仲は最悪に近かった。
それは優秀なガリウスに対しての激しい劣等感からくるものだ。
加えて、今とは考えられない程強引なガリウスの進め方に反発をしていたのだ。
後継ぎを最優先に考えた時点で確立の低い方よりも高い方で、性行為は必須だと言われてしまえば、願ったシャリオンはぐぅの音もでなかった。
「僕の魔力低いから現実的じゃないって」
「・・・、」
「それに僕が受け入れる前提で話すの腹が立っちゃって。
・・・魔力が多い方が良いならガリィでも良いじゃないかって言ったんだけど・・・。
でも、その頃僕達仲悪かったから。・・・でも、そうか。
そういう薬があったなら僕がガリィを抱けたのかも知らないんだね。
・・・ガリィ、知ってて黙ったんだろうな」
思わず呆れた様にため息をついた。
驚いた様子のミクラーシュに苦笑を浮かべる。
「体内に核を持っていた方が安定して魔力が送れるみたいだけど、体外だって同じなら良いんじゃないかな」
「・・・、」
「それに核組織が出来てから体内にいれたって良いのだし。・・・シディアリアの神官に出来そうな人が居るから、確認することも出来るよ」
そう答えた。
実のところ、体外で育てるのはあまり一般的ではない。
貴族同士の結婚ではたまにあるが、それでも珍しいとされている。
「そもそもどうやって子を授かるか?なんて話しないでしょう?」
だから、そう思うのだろう。
すると、ミクラーシュは目元に手を置いた。
「たくさん魔力が必要になるから、ルークにも手伝って貰わないとね」
「・・・、あぁ」
ミクラーシュはルークを嫌ってる事はない。
愛しているのも本当の様に見える。
ミクラーシュのルークを見る目はとても優しく慈しみを感じる程。
それでも、そう言った意味で触れたいと思わないことも、あるのだろう。
今はそれでも、将来は変わるかもしれないし。
で、あれば些細なことである。
☆☆☆
その日はとても綺麗な青が映える空だった。
それだけでなんだか成功する様な気がする。・・・なんていう暗示をかけてみる。
シャリオンは付け焼き刃の如く、毎夜魔力の練習を頑張り、初めての頃よりも上手く動かせている様に自分でも感じる様になった。
しかし、特訓にそういつまでも時間をかけていられないのは分かっていた。
ある程度まともになったある日。
王城のとある部屋に関係者が呼ばれる。
今日、ミクラーシュの洗脳に状態異常回復の魔法をかけるためだ。
ルークやミクラーシュ。
それにアンジェリーンやライガーまで着ていた。
子供達は色んな人間にちやほやされ得意げに話すから、余計に喜ばれる。
普通の赤子では話せない歳なのだから当たり前だ。
ライガーなどは『これは神童と呼ばれるかもしれない』などと言って2人を持て囃す。
可愛らしい見た目と、愛らしい言葉を操り天使の様な子供達に皆が虜になっていた。
そんな調子でミクラーシュの緊張はすっかり解けたが、一方のシャリオンは緊張が高まるばかりだ。
するりと手に指を絡ませられ、視線をあげると優しく微笑むガリウスの視線と絡んだ。
「貴方なら大丈夫です」
「・・・、うん」
「私がついてます」
「・・・ガリィ」
「いつもの練習の様に、ミクラーシュ様に掛けて差し上げればいいのです」
「・・・うん」
「・・・、」
カチコチに固まったシャリオンに、ガリウスは体を引き寄せると腕を上げ、ローブの袖がカーテンの様なった隙間、アメジストの瞳がこちらを捕えた。
そしてコツンと額と額を合わせる。
「っ・・・??」
「・・・やはり無理だと断りますか?」
「!」
「貴方が望むのなら」
「っ・・・やる!」
不安はどうやったて尽きない。
しかし、何もやらないで逃げるのは別だ。
そう言ったシャリオンにガリウスはクスリと微笑み、唇にチュっと口づけた。
「うまく出来たら今日はご褒美です」
「!」
そう言われると一気に頬が赤くなった。
もう少し待ってくれればいいのに、ふぁさりと下ろされたローブの袖が無くなると皆からの視線に耐えられない。
思わず視線を合わせない様にしつつもシャリオンは両手を広げた。
「シュリィにリィン」
「はーい」
「ちちうえー」
ふわりとこちらの呼びかけに2人が胸に飛び込んできた。
片手にはシュリィとリィンが握り、もう片方の手はガリウスが握る。
準備は整い、ミクラーシュに視線を向けるとコクリと頷いた。
・・・
・・
・
詠唱もない術式も特にない、不思議な魔法。
その魔法を『ミクラーシュが幸せになれますように』と願いながら行使する。
いつもの様に体が熱くなっていくのを感じている。
子供達もガリウスもやる気を出してくれているのか、少し熱く感じる。
体内を駆け巡る魔力の流れを早く感じた。
部屋の中はキラキラとした粒子が部屋に舞い、特にミクラーシュを包んでいく。
その表情は、自分で溶けているのが分かるのか笑顔になって行った。
そして、セレスの作ったタリスマンに手を伸ばし外すと、嬉しそうだった。
シャリオンにはこの魔法が使えてもミクラーシュがどんな様子かわからないが、それを見る限り解けたのだろうか。
そう、思った時だった。
立っていられないくらいの地震が、王城を揺らした。
ガリウスに大丈夫だと言われればそう思うのに、何故か直面するとすぐに緊張やら何やらが押し寄せてくる。
劣等感が自分にあるから余計だ。
人に期待され上手くやりたいのに、それがこなせない自分は歯痒い。
まともに領主をやれているように見えるのは、全て周りのおかげだ。
だから、シャリオンにとお願いされたら頑張ってしまう。
そんな真面目さが顔に出てしまっていたらしい。
「あまり気に病まないで欲しい」
相談役としてアンジェリーンとミクラーシュの元へ通っているが、今日はミクラーシュの話を聞いてる時だった。
表情が固いシャリオンにそう言ったのはミクラーシュだ。
「えーっと」
「お願いしたのは俺なのに、こんなこと言ったら色んな人間から怒られそうだが。
気を張らずに気楽にやって欲しい」
そう笑うミクラーシュ。
しかし、それは気を遣っているのだろう。
洗脳という状況、恐れを感じていたのをシャリオンは見て聞いて知っている。
「ごめん。・・・魔法を譲渡できたら良いのだけど」
ヴィンフリートに魔力を上げることを止められ、次に考えたのは魔法の譲渡だった。
魔力の低いシャリオンではかけるだけで倒れるし、そもそも技術が追いつかない。
魔力が得られないのは残念だが、この魔法自体を譲渡出来たなら、ミクラーシュの洗脳もきっと完全に解ける。
そう思ったのだが。
ヴィンフリートはそれもあまり良い顔をしなかった。
帰るという彼に『その魔法をガリウス達と育てるのが最善じゃ』と、先制を打たれてしまい最後のお願いは出来なかったのを思い出す。
「ガリィならきっと上手くやれたと思うんだけど」
「俺はシャリオンに直してもらえるのは嬉しいと思ってる。
それにこの先時間はたくさんあるのだから何度だって試せば良い」
シャリオンが気にしない様にそうは言ってくれてるが、そう時間はない。
ルークも言っていたが洗脳状態で、子を成すのは洗脳をかけた術者の目的がわからない以上不安要素は消えない。
ハイシア家の失墜と見せかけた、王家転覆だってあり得る。
・・・まだ、ミクラーシュは例で悩んでいて、それだけじゃないようだが。
「その間に俺の考えも固まるかもしれないしな」
ミクラーシュはそう言いながら苦笑を浮かべた。
ルークを愛していると言ったミクラーシュ。
それは、その愛情は恋と言うより敬愛に近いものだった。
真面目な性質で自分の置かれてる状況を理解しているようで、世継ぎには真剣に悩んでいるようで、声を掛けるシャリオンも言葉を選んでしまう。
「あの、」
「大丈夫だ」
「え?」
「前に相談をした事を気にしてくれているのだろう?」
側室とは言え王族に属する者として自覚と落ち着きが付いたのだろうか。
シャリオンを気遣うようにこちらに微笑んできた。
ホッとしたのは束の間だった。
「えっと、・・・うん」
「殿下とはより多くの時間を過ごしている」
「そうなんだ・・・?」
「あぁ」
長く一緒にいれば敬愛も、いつしかその愛情にも変化があるだろうかとそんな期待した。
穏やかにだが心強く返事をする様子は間違いなく安心が出来たのだが・・・。
「朝は殿下のお部屋にお迎えに上がるところからだ」
「へぇ」
随分熱心だ。
そう言えばシャリオンとガリウスは領ではそれぞれに部屋があるが、常にガリウスはシャリオンの部屋か執務室に居る。部屋を出る時はリングかゲートで王都に向かっているから、基本同じであるため似たようなものだろうか。
しかし、側室なのだから入ってしまえばいいのにとは思ったが、理由はすぐ後になってわかる。
「食堂までお連れして」
「一緒に食事をとってるんだ」
「いや。私は先に頂いている」
「え」
「朝の鍛錬があるからな。
実は以前世話になっていた第一騎士団に出入りの許可をもらっていて、そこで日々体を動かすのは欠かせないんだ。
それからは体を清め身支度が終わったら殿下の元へ向かっているんだ」
「・・・、」
「それから、移動はいつでもお側に寄り添わせていただいている」
「えっと・・・。城内を?」
「あぁ。基本殿下は執務室から出られることは無いが、どこかへ足を運ばれる際は共に向かう。
シャリオンの部屋に来るときも外に控えている」
「えっ入ってくればいいのに」
「殿下の自由な時間を邪魔することなど出来るわけないだろう」
まるでシャリオンが可笑しなことを言っているかのように眉を顰められた。
王配であるアンジェリーンなどは気にせずに入ってきそうなところだが。
「そ・・・外で何を?」
「怪しいものがいないからチェックをしている」
「そうなんだ」
「あぁ。その後は執務室の傍らで殿下の様子をうかがっている」
「え」
「執務の抱えすぎはないか、心の機微に変化がないかを見ているんだ」
「・・・、」
今言った事に一切の疑問も不満もないのか、嬉しそうにそう言うミクラーシュに固まる。
従者と側近の合間の様にしか聞こえないからだ。
「それで最近癒しが足りない様だ」
「!それならミクr」
「そこでなのだが、アシュリーとガリオンの時間は取れないだろうか」
「え?」
名案を重いつた目を輝かせるミクラーシュ。
ここは、子供達よりも2人の時間を作り絆を深めた方が良いのではないのだろうか。
先程から聞いているとなんだかプライベートと言っていい時間には聞こえないのだ。
「えっと、大丈夫だけど」
そう答えるとほっとした様に息をつく。
「それは良かった。
ここ最近子供達とマナーレッスンを受けているが、俺自身あの子達に癒やされているからな」
その気持ちはわかるし嬉しい。
しかし、それは!と、言いたくなったがシャリオンは寸前で止めた。
もしかしたら、照れ隠しなのではないのかと思ったのだ。
相談役なんてものになってしまったのだ。
ここは聞き出して2人が落ち着きやすい方向に導くのも自分の役目の様に感じてきた。
急かすつもりはないが、なんだかこのままでは先にいかない様な気がしてきた。
本来、後継ができれば良いので、恋愛でなくとも良い。
だが、2人を見てるとそれすら行かなそうな気がしてならない。
果たしてそれは良いのだろうか。
このままにしておいたら、ガリウスもきっと困る事に放っておけなくなる。
そう考えると、自分の時は無知過ぎたせいで、ガリウスが気を使い、強引だったが進めてくれたおかげで前に進めた。
ルークにも後継のためにもしっかりしないと!と、言ってやりたいのだが、・・・初恋の話を聞いてからはなんだか進めにくい。
で、あれば気があるミクラーシュが進んでいくしかない様に思うが、・・・こんな調子である。
側から見ている方が焦ってしまうが、ミクラーシュの心の変化を待ちたい。
「なら、4人で庭を散歩してみる?」
シャリオンの提案に驚いた様だが嬉しそうにするミクラーシュ。
「いいのか?」
「うん。子供達とルークとミクラーシュで」
「え」
「え?」
不思議そうに返すミクラーシュに首を傾げる。
「シャリオンが行くと思った」
そう言う言葉にシャリオンは苦笑した。
以前の様に攻撃的に絡まれるのは困る。
しかしだ。
「えっと・・・、嫉妬しないの?」
「何に?」
「僕に」
「シャリオンはガリウスにしか興味がないじゃないか」
ガリウスとの関係を疑われないようになったのは嬉しさもあるが、複雑な気持ちに苦笑を浮かべた。
「僕はもっとルーとプライベートな時間をとった方が良いと思うけど」
「だが、俺では殿下に安らぎを作り出すのは難しい・・・。
シャリオンは知らないか?
アシュリーとガリオンは天使なんじゃないかと思うほど、癒しをくれるんだ」
「知ってるけど、そうじゃなくてね」
「それに殿下はシャリオンといる時が1番自然体だからな」
「それは幼馴染だから。・・・もっと2人の時間を作らないと溶ける緊張もそのままだよ?」
「いつもお側にいるが」
「いや、だから仕事じゃなくてね」
「シャリオンは仕事でもガリウスといられるのは嬉しくないのか?」
「嬉しいよ?て、そうじゃなくて!
もうっミクラーシュ、わかってて僕のことからかってるでしょう・・・!」
そう言うとついに吹き出したミクラーシュ。
どうやら確信犯らしい。
ムゥっとしてジト目でみると苦笑を浮かべた。
「ごめん。なんだか弟よりも素直でついな」
クスクスと笑いながらこちらを見てくるミクラーシュは、本気でそう思っているらしい。
嫌がらせという事ではないなら良いのだが、・・・そこで思い至ってしまう。
「・・・ごめん、お節介・・・だったね」
はぐらかしている様なそれは、触れてほしくなかったのだろうか。
それに、ミクラーシュの方が年上で、数ヶ月前までは自信も次期伯爵で婚約者もいる様な立場だったのだ。
シャリオンが心配している事などとっくに考えているだろう。
「俺からシャリオンに相談したんだ。
そう思うわけないだろう?
・・・もし、そうならなかったなら薬でも使う」
「そう?」
まさかシャリオンが通じないとは思わなかったらしく、少し照れながらも答えた。
「・・・閨の時だ」
「!!!っ・・・えっと・・・その、薬?」
「・・・初夜に飲む様なものだ」
初夜はただひたすら緊張と歓喜に溢れていた。
詳細を思い出し、そこでゴブレットに注がれた甘い酒を思い出す。
確かに、あれを飲んだら一気に体も心も熱くなったのを思い出して、シャリオンの頬は一気に紅潮した。
「っそ、そうだよねっ」
「あぁ。それが駄目なら別の薬と・・・いや、なんでない」
「他にも薬?・・・なにが??」
言い濁すミクラーシュにシャリオンが理解するのは難しかった。
なにせ、その方面は全くの無知だ。
受け入れる方しか教わってないハイシア家の教育は偏りがある。
「・・・なんだか何も知らない子供にいけない事を教えている気分になるな」
シャリオンには聞こえないくらい小さい声でぽそりと呟いた。
「ミクラーシュ?」
「いや。・・・あの、シャリオン」
「なに?」
「・・・、いや・・・なんでもない」
そう言ったミクラーシュを見ると、視線を逸らしてしまう。
とても『なんでもない』そんな姿にシャリオンは苦笑を浮かべた。
ルークを愛していて子供も好きだが、触れ合う事が考えられないなんて、今のシャリオンには難しいことだ。
少し間をおいて考えた後、シャリオンは口を開いた。
「少し・・・昔の話をしても良いかな」
「なんだ?」
「昔と言っても、僕の婚約当時の話なんだけれど」
「うん」
「僕・・・最初体外で子を成そうと思っていたんだ」
「え?」
初めはガリウスとの仲は最悪に近かった。
それは優秀なガリウスに対しての激しい劣等感からくるものだ。
加えて、今とは考えられない程強引なガリウスの進め方に反発をしていたのだ。
後継ぎを最優先に考えた時点で確立の低い方よりも高い方で、性行為は必須だと言われてしまえば、願ったシャリオンはぐぅの音もでなかった。
「僕の魔力低いから現実的じゃないって」
「・・・、」
「それに僕が受け入れる前提で話すの腹が立っちゃって。
・・・魔力が多い方が良いならガリィでも良いじゃないかって言ったんだけど・・・。
でも、その頃僕達仲悪かったから。・・・でも、そうか。
そういう薬があったなら僕がガリィを抱けたのかも知らないんだね。
・・・ガリィ、知ってて黙ったんだろうな」
思わず呆れた様にため息をついた。
驚いた様子のミクラーシュに苦笑を浮かべる。
「体内に核を持っていた方が安定して魔力が送れるみたいだけど、体外だって同じなら良いんじゃないかな」
「・・・、」
「それに核組織が出来てから体内にいれたって良いのだし。・・・シディアリアの神官に出来そうな人が居るから、確認することも出来るよ」
そう答えた。
実のところ、体外で育てるのはあまり一般的ではない。
貴族同士の結婚ではたまにあるが、それでも珍しいとされている。
「そもそもどうやって子を授かるか?なんて話しないでしょう?」
だから、そう思うのだろう。
すると、ミクラーシュは目元に手を置いた。
「たくさん魔力が必要になるから、ルークにも手伝って貰わないとね」
「・・・、あぁ」
ミクラーシュはルークを嫌ってる事はない。
愛しているのも本当の様に見える。
ミクラーシュのルークを見る目はとても優しく慈しみを感じる程。
それでも、そう言った意味で触れたいと思わないことも、あるのだろう。
今はそれでも、将来は変わるかもしれないし。
で、あれば些細なことである。
☆☆☆
その日はとても綺麗な青が映える空だった。
それだけでなんだか成功する様な気がする。・・・なんていう暗示をかけてみる。
シャリオンは付け焼き刃の如く、毎夜魔力の練習を頑張り、初めての頃よりも上手く動かせている様に自分でも感じる様になった。
しかし、特訓にそういつまでも時間をかけていられないのは分かっていた。
ある程度まともになったある日。
王城のとある部屋に関係者が呼ばれる。
今日、ミクラーシュの洗脳に状態異常回復の魔法をかけるためだ。
ルークやミクラーシュ。
それにアンジェリーンやライガーまで着ていた。
子供達は色んな人間にちやほやされ得意げに話すから、余計に喜ばれる。
普通の赤子では話せない歳なのだから当たり前だ。
ライガーなどは『これは神童と呼ばれるかもしれない』などと言って2人を持て囃す。
可愛らしい見た目と、愛らしい言葉を操り天使の様な子供達に皆が虜になっていた。
そんな調子でミクラーシュの緊張はすっかり解けたが、一方のシャリオンは緊張が高まるばかりだ。
するりと手に指を絡ませられ、視線をあげると優しく微笑むガリウスの視線と絡んだ。
「貴方なら大丈夫です」
「・・・、うん」
「私がついてます」
「・・・ガリィ」
「いつもの練習の様に、ミクラーシュ様に掛けて差し上げればいいのです」
「・・・うん」
「・・・、」
カチコチに固まったシャリオンに、ガリウスは体を引き寄せると腕を上げ、ローブの袖がカーテンの様なった隙間、アメジストの瞳がこちらを捕えた。
そしてコツンと額と額を合わせる。
「っ・・・??」
「・・・やはり無理だと断りますか?」
「!」
「貴方が望むのなら」
「っ・・・やる!」
不安はどうやったて尽きない。
しかし、何もやらないで逃げるのは別だ。
そう言ったシャリオンにガリウスはクスリと微笑み、唇にチュっと口づけた。
「うまく出来たら今日はご褒美です」
「!」
そう言われると一気に頬が赤くなった。
もう少し待ってくれればいいのに、ふぁさりと下ろされたローブの袖が無くなると皆からの視線に耐えられない。
思わず視線を合わせない様にしつつもシャリオンは両手を広げた。
「シュリィにリィン」
「はーい」
「ちちうえー」
ふわりとこちらの呼びかけに2人が胸に飛び込んできた。
片手にはシュリィとリィンが握り、もう片方の手はガリウスが握る。
準備は整い、ミクラーシュに視線を向けるとコクリと頷いた。
・・・
・・
・
詠唱もない術式も特にない、不思議な魔法。
その魔法を『ミクラーシュが幸せになれますように』と願いながら行使する。
いつもの様に体が熱くなっていくのを感じている。
子供達もガリウスもやる気を出してくれているのか、少し熱く感じる。
体内を駆け巡る魔力の流れを早く感じた。
部屋の中はキラキラとした粒子が部屋に舞い、特にミクラーシュを包んでいく。
その表情は、自分で溶けているのが分かるのか笑顔になって行った。
そして、セレスの作ったタリスマンに手を伸ばし外すと、嬉しそうだった。
シャリオンにはこの魔法が使えてもミクラーシュがどんな様子かわからないが、それを見る限り解けたのだろうか。
そう、思った時だった。
立っていられないくらいの地震が、王城を揺らした。
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