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執着旦那と愛の子作り&子育て編
なんか外堀を埋められた気分だよ・・・。
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迎えに来たミクラーシュと共にシャリオン達は王都へと向かった。
表向き罰と言う形になっており終了に伴う召喚である。
召喚主は陛下であり、そこに王太子や各大臣も同席した。
勿論、レオンも同席するが、今日は父ではなく宰相だ。
とは言っても今回は発言権はないのか、始終発言はなかった。
代わりに謹慎が決定し出発する時よりも、不機嫌さをあからさまに出している。
不機嫌なレオンは数えるほどしかないのだが、シャリオンがいても怒り心頭の様だ。
シャーリーがいるから少しは収まってくれていないかと思ったのだが全くない。
シャリオン自身、レオンの過保護さは知っているからこうなる予感は出来ていた。
しかし、自領の事だからと国へ報告が遅れてしまったことは確かだ。
「シャリオン・ハイシア、並びにガリウス・ハイシア。謹慎をあけ、ただいま戻りました」
礼をとり陛下に2人で頭を垂れる。
「この度は、領主としての報告を怠り申し訳ございませんでした」
「うむ。今後とも善き領主とし領民を一番にすること」
「はい」
お叱りの言葉は可笑しいと思うほどなかった。
口調が一貴族に対してのそれだが、内容が甘いなと思いつつも改めてシャリオンがしっかりしないと、と思った。
甘やかしとも言えるほど気を遣ってくれるが、それに甘んじてはいけない。
「引き続き村の調査と消えた魔物の行方を追います。その報告は防衛大臣のお耳にも入れる様にいたします」
「・・・、」
「ガリウスを使えばよいぞ」
そう言ったシャリオンに陛下は少し間を置いたが、またもや気を遣ってくれたのだろう。
しかし、シャリオンは首に振った。
「いいえ。大臣の仰ることは正しいと私も思いました。
村の消失からあの規模の魔物が出現することは想定できませんでしたが、
村の消失だけでも十分に不可解なことでございました。
同様の事が他領地にもないとも言えません」
防衛大臣は驚いたように固まっている。
シャリオンからアクションが起こされるとは思っていなかったのだろう。
「この国が魔の手に染まる前に、不可解なことを未然に防げるよう。
つきましては防衛大臣のこれまでの知識をお借りしたいと思います」
「シャリオン」
「はい。宰相閣下」
低い声で名前を呼んでくるレオンにそう返せば、レオンは眉を顰めた。
そして口を開こうとしたところで、陛下がそれを止める。
「宰相よ。今回の事は口を出すな。公平にならぬ」
「・・・ハッ」
大変不服そうに、一瞬目が光ったがレオンは他大臣がいる手前、わきまえて下がる。
「この様に申しておるがどうする?」
「ッ・・・国としても是非そうありたいと思います」
「そうか。では、ハイシア家と手を取り、無事に究明してくれることを望んでいるぞ、大臣」
「・・・仰せのままに」
そう言うと、大臣と共にシャリオンは頭を下げた。
肩身が狭くなっているとゾルが言っていたが、シャリオンがこう動くことで多少は解消されるだろうか。
ふっと小さく息を吐いたところだった。
ルークが一歩前に出てきた。
「陛下。別件でシャリオン殿に依頼をしたいことがあるのですが」
「・・・例の事か」
「はい。全大臣も揃っている為、丁度いいのでお時間を頂きたい」
「良かろう」
国を司る大臣達がいる前でシャリオンに何の用があるのだろうか?
改めて人を集めて話をするなんて聞いていなかったのだが。
ガリウスの方をちらりと見上げたが、ガリウスも特に聞いてないようだ。
シャリオンはルークの方に向き直ると、そちらに頭を下げる。
「どのようなご用件でございましょう」
「簡単なことだ。私の王配であるアンジェリーンと、ミクラーシュの相談役になってもらいたい」
「・・・相談役?」
「あぁ」
思っても見ない言葉に反芻する。
相談事ならその都度聞くが、改めてそう言うのは・・・つまり明確にする必要があると言う事。
「領主としての執務が忙しいのは知っている。
今回のことで調査も加わり余計多忙になると想像は出来る。
・・・しかし、2人は不安定な時期。
2人が良く知っていて王家の事も良く知っているシャリオン殿にその役を担ってほしいのだが」
「とても光栄なことではございますが・・・」
それはシャリオンは良く知っているに決まっている。
だが、ルークも知っている通り領主の事も、村の事も、そしてセレスの事で頭が一杯なのだ。
どうにかして断りたい案件であるが、王太子からの命に断れるわけがない。
特に大臣が勢ぞろいしている前でだ。
「アンジェリーンもミクラーシュも。貴方に助言されたことをとても感謝している」
そういうと周りが騒めき始めた。
どちらかと言えば2人ともシャリオンとは仲が悪かった。
仲良くしたくて拗らせていたアンジェリーンはあからさまに、洗脳が掛けられたミクラーシュには無言な態度で。
結構有名な話だったと思うのだが・・・。
サーベル国のポンツィオの戴冠式に出席の為、ハドリー港で出航前に親し気に話したりして徐々に知られてはいるが、まだ噂だと思っている人間もいる様だ。
「助言などそんな」
「アンジェリーンから、王配たるもの王族としてどのようにあるべきを教わったと聞いたが」
何をさしているかはわかる。
けれどそんな大それたことなど本当にしてない。
聞かれたことを答えただけで、そんなに持ち上げられては困る。
だから、周りで聞いてる大臣達もそんなに驚かないで欲しい。
・・・、そう思いつつもアンジェリーンの態度が激変したのはシャリオンも傍で見ていたから分かっているのだが。
「ミクラーシュも。例の件で一時は辞退しようとしていたが、シャリオン殿のお陰で踏みとどまったと聞いている」
「・・・それは、・・・」
皆の視線が一斉にこちらに向いているのが分かる。
王太子の長らく空いていた王配の席だけでなく、側室を置くきっかけになったのだ。
「流石」などと称賛する声が聞こえてくるが、困ってしまう。
あれは、この国の貴族として次期王配の為にしたことだ。
「2人からの要望もあるが、私からの願いでもある。
2人の良き相談相手になってくれないか?」
王配の相談役なんて他の貴族でなりたい人物はゴロゴロいるはずだ。
アルカス家も、フィラーコヴァー家も上流の貴族なのだから、沢山いるに決まっている。
・・・しかし、王太子の願いに断れるわけがない。
「・・・私で宜しければ喜んで」
「そうか。・・・勿論毎日と言った頃ではない。
領主の仕事があることは2人も良く知っているから安心してほしい。
週に一回ほど来てやって欲しい」
月一くらいに思ったのだが甘かった。
「ハイシア家のワープリングをもってすれば容易いだろう?」
「・・・はい」
そう返事を返しつつ、何故か道を塞がれた気がしてならないシャリオンだった。
☆☆☆
大した抵抗も出来るはずもなく、領地に帰ってきたシャリオンとガリウス。
ガリウスは今日は休んで良いと言われ、シャリオンと共にまっすぐ領地に帰ってきた。
2人で村と砦の調査を聞きく。
新たに調書をまとめる人間が王都から派遣されて来ており、その人物を交えてだ。
砦での見張りの話によると、魔物そのもの姿は確認できなかったが、大きな影が地面に映ったことがあったそうだ。
それは南の方角から来た様に思うが一瞬で、すぐに上空を見たが何もなかったそうだ。
それからしばらくして砦から出られないことに気付いたそうだ。
一方の村の方ではすぐに村から出られないことに気付いた。
混乱しているうちに、突如現れた第一陣の橋の補修者が現れ事情を知った。
それで事態を把握するために村の中で行方不明者を探したが、数名いることが分かった。
彼等は古くからその村にいるわけではなく、流れてきた者らしい。
・・・ガリウスが疑われた原因の人物だ。
それから調査を行っているが、新しい情報はなかった。
せめてその行方不明者の住んでいたところを特定できればいいのだが、・・・村を消していた人物の仕業なのか、住んでいるところが特定できなかったのだ。
こんな時にセレスを頼りたいが彼は今、あの魔物と行方不明。
頼りすぎだと分かりつつも、この事件について何かきっかけを見出せそうなのはセレスしかいない。
この領地で一番魔力の高い魔術師にセレスの跡を追えないか聞いてみたが、時間も開いている為難しいと言われてまった。
それはそうだと納得しつつ、シャリオンは小さくため息をついた。
何故、一つ減ったと思ったのに問題がまた一つ増えるのだろうか。
思わず眉間に皺が寄ってしまうが、そうしているとガリウスに慰められる。
「ゆっくり解いていきましょう」
「・・・ガリィ。うん・・・そうだね」
「セレスが消えた後、そのほかに可笑しなことはありませんでしたか?」
ガリウスはシャリオンの手を安心させるように握りしめた後、執事の方に尋ねる。
「あの魔物が再びこの地にも現れることはありませんでした」
「周辺の魔物が活発化するなどということは」
「ありません」
魔物が活発化していないことは良いことだ。
しかし、何故あの巨大な魔物はハイシアに突然現れたのだろうか。
「・・・、あれ?そう言えば・・・セレス・・・あの魔物を知っているかの様だったけど」
そもそもセレスは村に調査に行っていたはずだ。
そう言って執事を見ると、彼も困った様に眉を下げる。
「実は・・・私も気になり、その件については同行した兵士達に尋ねたのですが、
場所に着くなりセレスは何かを感じ取ると一直線に飛んでいった様なのですが、咄嗟には追い付けない程の速さで消えたらしく、追い付けなかったようです。
その後、見つかった時はかなり損傷をした状態で倒れていたようですが、起き上がるとすぐにワープリングで姿を消し、おそらくこの城へと戻ってきたのでしょう」
「っ・・・かなりの、・・・損傷?」
シャリオンが反芻すると執事は、ハッとしてこちらを見てきた。
思わず息を飲んだ。
「・・・。・・・、・・・ガリィ」
「はい」
そう、呼びかけながら、心臓がドクドクと脈打つ。
「セレスは・・・怪我を・・・してたんだ」
「はい」
ここに来てようやくわかった。
あの魔物が現れた時、セレスも現れたはずなのに急に視界が悪くなった理由が。
その原因はセレスがやったのだと予測づいたが理由は分からなかった。
戻ってきたら聞こうと思っていたのだが・・・。
「・・・、・・・、」
嫌な予感しかしない。
いや、・・・予感ではない。
きっとそうだ。
激しい損傷があったから、シャリオンの視界を封じたのだ。
「・・・、・・・っ」
「シャリオンの所為ではありません」
「でも」
あの時早く逃げ出していれば、セレスは助けに来ることはなく治療を受けていたのではないだろうか?
と、そんな思考が浮かんでしまう。
「シャリオンを守るためと言うより、取り逃がしたために追ってきたのでしょう。
あの時のシャリオンは動かない様に見えた彼は手っ取り早く貴方を運ぶ手法を考えた」
「・・・、」
「どうせなら視界を奪うではなく、王都へ転移してくれればよかったのですが」
「っ」
そういう問題じゃない。
そう言いたくなったが、寸前のところで言葉を飲み込む。
「・・・、あの場で僕は足を引っ張るしかなかったからね」
「あの時ハイシア家の次期当主として身を守ることが最善です」
「・・・」
「セレスがあのようにしていなかったら、私やウルフ家の者達が同様に何かしらの手段で貴方を遠ざけていましたよ」
「っ・・・うん」
「シャリオン・・・。・・・セレスはハイシア一の魔術師ですよ。
領主であるシャリオンが信じないで誰が信じるんですか」
「!」
「戻ってきたら休みが欲しいと言っていたのですから、必ず帰ってきますよ」
「っ・・・、・・・うんっ・・・そうだね。
・・・でもこれでわかった。
村と砦を消していた人物・・・いや、人ではなく魔物でそれはこの城を襲った魔物と同一だってことだね」
「その様です」
「このことを、防衛大臣に知らせて欲しい」
「はい」
「それと、高等な魔術師・・・出来れば黒魔術師が居れば力を借りたい」
「・・・。承知しました。そのように伝えます」
調書を取っている男は、そう返事をすると速報を別の者に伝える。
ガリウスでもセレスの跡を追えないと言う事は、それなりの魔術師では追えないだろう気がした。
そうなったら同じ黒魔術師しか対応できない。
もしかしたら、そのことによりセレスがセレドニオであることがバレてしまうかもしれない。
黒魔術師は高額でもその仕事の完璧さ故に貴族に重宝されている。
当然、ファングス家の専属黒魔術師の事は知っているだろうと考えられる。
しかし、迷っていられない。
セレスが行方不明だったのも心配だが、大怪我をしている状態だと言えばなおさらだった。
☆☆☆
自室に戻ってきても、シャリオンはずっと考え込んでいた。
セレスは大丈夫なのだろうか。
怪我人はセレスしか出ていないようだが、行方不明者の事も気になる。
ガリウスに似た男は一体どこに行ってしまったのだろうか。
そして、・・・相談役の件も。
「・・・。こんな時に、何故僕なんだろ」
領地の事に全力投球で行きたいのに。
先ほどの報告で、考えなおしてくれないだろうか?
アルアディアの一貴族と言う事を抜いても、ルークの伴侶達の事なら力になる。
けれど、やはり適任は他にも居たと思うのだ。
誤解は解けたと言えど親密な家はもっとあったはずだ。
「彼等もきっと不安なのでしょう」
「そうだと、・・・思うけれど。・・・部屋を城に作るとかやりすぎだよ」
シャリオンが遠慮したいと言うのを感じ取ってなのか、子供達と一緒に来れる様にと城にシャリオン達の部屋が作ってあると告げられた。
おまけにそれは事後の知らせ。つまりあの時にはすでに部屋があったことになる。
その部屋に入室が出来るのは、シャリオンにガリウス、それにアシュリーとガリオンだ。
陛下の側室であるルーティーの相談役となっているシャーリーさえ部屋がないのに、何故そうなってしまったのだろうか。
溜息をつくシャリオンの肩を慰めるように撫でるガリウス。
「こうなっては仕方がありません。
王家の力を最大限に利用し、・・・王家のマナー講師を使ったり武術や魔術を覚えさせては」
そんなことをいうガリウスにシャリオンは眉を顰める。
「・・・2人はあと少しで一歳になるんだよ?
そんなに小さいのに・・・」
魔術の師を付ける時にまだ幼いと言ったのはガリウスだが。
「・・・、・・・まぁ・・・でもマナー講師は良いかもね」
ここ最近色々な貴族と顔を合わせる機会が増えた。
隠す必要はないと決めた途端こんな勢いで困ってしまう。
相談役として城を出入りする様になるなら、もっと増えるはずだ。
普通の子供ではまだ話すことは難しいだろうが、あの子達は出来てしまうから早めに覚えさせた方が良い気もする。
伯爵であるアルベルトはガリウスの知人だからまだ笑って許してくれたが、王族の彼等には別だ。
子供達は領地にいる時のように、ルークやライガーを愛称で呼んでしまう気がする。
アンジェリーンやミクラーシュもそうだ。
「・・・あの調子じゃ・・・子供を成したら、友人として当てられそう」
それは丁度、ライガーとルークの友人にとシャリオンが紹介された時のようにだ。
そう考えたらガリウスの言う通りなのかもしれない。
「そうですね」
出来れば否定してほしかった。
しかし、ガリウスもそう考えているとなると、そう思って間違いないのだろう。
「2人が悩んでる事か・・・」
「ミクラーシュ様は特にシャリオンの力が必要になるでしょう」
「ミクラーシュ??」
それは家格的な問題だろうか。
公爵家と伯爵家であれば、後ろ盾が必要なのも分かるが。
「結婚式は何時なの?」
「どうでしょうか。無いかもしれません」
「・・・どういうこと?」
ミクラーシュは側室だから仕方がないにしても、アンジェリーンは王配だ。
そして王太子の結婚に式を挙げないと言う意味が分からなかった。
そういうものは普通盛大に行われるものじゃないのだろうか。
以前の婚約者は結婚式にやたら豪勢にしたがってるとルークが文句を言っていたが。
「まさか・・・アンジェリーンが拒否をしているの?」
「拒否をしているわけではありませんが、お2人とも必要性を感じないと仰っているのです」
「必要性とかそう言う問題じゃないでしょう。
王太子の結婚だよ?普通立派な式は平和の象徴とかそう言うものでしょう」
「私もそう思うのですが。・・・・質素倹約で良いとも仰ってましたね」
その言葉に呆然とガリウスを見つめるが、冗談を言っている様ではなかった。
2人とも愛し合う予定は無いと言う姿勢は見て取れるが、そこで意気投合しなくても良いのではないだろうか。
「・・・、そういう事も相談されるのかな。
え。式はしない方がいいの?」
国としてどういう考えなのか思わず聞き返してしまうと、ガリウスは苦笑した。
「いいえ。していただきたいですよ。各国への対面もありますし」
「そう・・・だよね」
ルークもアンジェリーンもそんなことが分からない人間ではないと思うのだが。
「まぁ・・・話してみようか」
「お願いします」
あの時にガリウスが否定しない理由が何となくわかった気がして、思わず苦笑を浮かべる。
「いつもの様に強気で言ったらよかったのに」
「一応謹慎明けだったので」
「あぁ・・・そうか。僕も強めに言わない方が良いのかな」
結果として迷惑をかけてしまっている。
「いいえ。シャリオンは気にせず言って下さい。
私はどちらかと言うと呆れて言わないだけです。
このまま放っておけばライガー様がおそらく仰ると思いますけど、ライガー様は余りルーク様の伴侶の事や後継ぎの事に口出ししたがらないでしょう?」
「・・・そうだよね」
シャリオンは困った様に答えながら、こくりと頷いた。
「わかったよ」
「お願いします」
結婚式を挙げるとなっても魔物の件がもう少しクリアーにならないと難しいだろうが、説得を早めにしてもかまわないだろう。
どうせ城に行く予定はあるのだ。
その時に説得しようと思うシャリオンだった。
表向き罰と言う形になっており終了に伴う召喚である。
召喚主は陛下であり、そこに王太子や各大臣も同席した。
勿論、レオンも同席するが、今日は父ではなく宰相だ。
とは言っても今回は発言権はないのか、始終発言はなかった。
代わりに謹慎が決定し出発する時よりも、不機嫌さをあからさまに出している。
不機嫌なレオンは数えるほどしかないのだが、シャリオンがいても怒り心頭の様だ。
シャーリーがいるから少しは収まってくれていないかと思ったのだが全くない。
シャリオン自身、レオンの過保護さは知っているからこうなる予感は出来ていた。
しかし、自領の事だからと国へ報告が遅れてしまったことは確かだ。
「シャリオン・ハイシア、並びにガリウス・ハイシア。謹慎をあけ、ただいま戻りました」
礼をとり陛下に2人で頭を垂れる。
「この度は、領主としての報告を怠り申し訳ございませんでした」
「うむ。今後とも善き領主とし領民を一番にすること」
「はい」
お叱りの言葉は可笑しいと思うほどなかった。
口調が一貴族に対してのそれだが、内容が甘いなと思いつつも改めてシャリオンがしっかりしないと、と思った。
甘やかしとも言えるほど気を遣ってくれるが、それに甘んじてはいけない。
「引き続き村の調査と消えた魔物の行方を追います。その報告は防衛大臣のお耳にも入れる様にいたします」
「・・・、」
「ガリウスを使えばよいぞ」
そう言ったシャリオンに陛下は少し間を置いたが、またもや気を遣ってくれたのだろう。
しかし、シャリオンは首に振った。
「いいえ。大臣の仰ることは正しいと私も思いました。
村の消失からあの規模の魔物が出現することは想定できませんでしたが、
村の消失だけでも十分に不可解なことでございました。
同様の事が他領地にもないとも言えません」
防衛大臣は驚いたように固まっている。
シャリオンからアクションが起こされるとは思っていなかったのだろう。
「この国が魔の手に染まる前に、不可解なことを未然に防げるよう。
つきましては防衛大臣のこれまでの知識をお借りしたいと思います」
「シャリオン」
「はい。宰相閣下」
低い声で名前を呼んでくるレオンにそう返せば、レオンは眉を顰めた。
そして口を開こうとしたところで、陛下がそれを止める。
「宰相よ。今回の事は口を出すな。公平にならぬ」
「・・・ハッ」
大変不服そうに、一瞬目が光ったがレオンは他大臣がいる手前、わきまえて下がる。
「この様に申しておるがどうする?」
「ッ・・・国としても是非そうありたいと思います」
「そうか。では、ハイシア家と手を取り、無事に究明してくれることを望んでいるぞ、大臣」
「・・・仰せのままに」
そう言うと、大臣と共にシャリオンは頭を下げた。
肩身が狭くなっているとゾルが言っていたが、シャリオンがこう動くことで多少は解消されるだろうか。
ふっと小さく息を吐いたところだった。
ルークが一歩前に出てきた。
「陛下。別件でシャリオン殿に依頼をしたいことがあるのですが」
「・・・例の事か」
「はい。全大臣も揃っている為、丁度いいのでお時間を頂きたい」
「良かろう」
国を司る大臣達がいる前でシャリオンに何の用があるのだろうか?
改めて人を集めて話をするなんて聞いていなかったのだが。
ガリウスの方をちらりと見上げたが、ガリウスも特に聞いてないようだ。
シャリオンはルークの方に向き直ると、そちらに頭を下げる。
「どのようなご用件でございましょう」
「簡単なことだ。私の王配であるアンジェリーンと、ミクラーシュの相談役になってもらいたい」
「・・・相談役?」
「あぁ」
思っても見ない言葉に反芻する。
相談事ならその都度聞くが、改めてそう言うのは・・・つまり明確にする必要があると言う事。
「領主としての執務が忙しいのは知っている。
今回のことで調査も加わり余計多忙になると想像は出来る。
・・・しかし、2人は不安定な時期。
2人が良く知っていて王家の事も良く知っているシャリオン殿にその役を担ってほしいのだが」
「とても光栄なことではございますが・・・」
それはシャリオンは良く知っているに決まっている。
だが、ルークも知っている通り領主の事も、村の事も、そしてセレスの事で頭が一杯なのだ。
どうにかして断りたい案件であるが、王太子からの命に断れるわけがない。
特に大臣が勢ぞろいしている前でだ。
「アンジェリーンもミクラーシュも。貴方に助言されたことをとても感謝している」
そういうと周りが騒めき始めた。
どちらかと言えば2人ともシャリオンとは仲が悪かった。
仲良くしたくて拗らせていたアンジェリーンはあからさまに、洗脳が掛けられたミクラーシュには無言な態度で。
結構有名な話だったと思うのだが・・・。
サーベル国のポンツィオの戴冠式に出席の為、ハドリー港で出航前に親し気に話したりして徐々に知られてはいるが、まだ噂だと思っている人間もいる様だ。
「助言などそんな」
「アンジェリーンから、王配たるもの王族としてどのようにあるべきを教わったと聞いたが」
何をさしているかはわかる。
けれどそんな大それたことなど本当にしてない。
聞かれたことを答えただけで、そんなに持ち上げられては困る。
だから、周りで聞いてる大臣達もそんなに驚かないで欲しい。
・・・、そう思いつつもアンジェリーンの態度が激変したのはシャリオンも傍で見ていたから分かっているのだが。
「ミクラーシュも。例の件で一時は辞退しようとしていたが、シャリオン殿のお陰で踏みとどまったと聞いている」
「・・・それは、・・・」
皆の視線が一斉にこちらに向いているのが分かる。
王太子の長らく空いていた王配の席だけでなく、側室を置くきっかけになったのだ。
「流石」などと称賛する声が聞こえてくるが、困ってしまう。
あれは、この国の貴族として次期王配の為にしたことだ。
「2人からの要望もあるが、私からの願いでもある。
2人の良き相談相手になってくれないか?」
王配の相談役なんて他の貴族でなりたい人物はゴロゴロいるはずだ。
アルカス家も、フィラーコヴァー家も上流の貴族なのだから、沢山いるに決まっている。
・・・しかし、王太子の願いに断れるわけがない。
「・・・私で宜しければ喜んで」
「そうか。・・・勿論毎日と言った頃ではない。
領主の仕事があることは2人も良く知っているから安心してほしい。
週に一回ほど来てやって欲しい」
月一くらいに思ったのだが甘かった。
「ハイシア家のワープリングをもってすれば容易いだろう?」
「・・・はい」
そう返事を返しつつ、何故か道を塞がれた気がしてならないシャリオンだった。
☆☆☆
大した抵抗も出来るはずもなく、領地に帰ってきたシャリオンとガリウス。
ガリウスは今日は休んで良いと言われ、シャリオンと共にまっすぐ領地に帰ってきた。
2人で村と砦の調査を聞きく。
新たに調書をまとめる人間が王都から派遣されて来ており、その人物を交えてだ。
砦での見張りの話によると、魔物そのもの姿は確認できなかったが、大きな影が地面に映ったことがあったそうだ。
それは南の方角から来た様に思うが一瞬で、すぐに上空を見たが何もなかったそうだ。
それからしばらくして砦から出られないことに気付いたそうだ。
一方の村の方ではすぐに村から出られないことに気付いた。
混乱しているうちに、突如現れた第一陣の橋の補修者が現れ事情を知った。
それで事態を把握するために村の中で行方不明者を探したが、数名いることが分かった。
彼等は古くからその村にいるわけではなく、流れてきた者らしい。
・・・ガリウスが疑われた原因の人物だ。
それから調査を行っているが、新しい情報はなかった。
せめてその行方不明者の住んでいたところを特定できればいいのだが、・・・村を消していた人物の仕業なのか、住んでいるところが特定できなかったのだ。
こんな時にセレスを頼りたいが彼は今、あの魔物と行方不明。
頼りすぎだと分かりつつも、この事件について何かきっかけを見出せそうなのはセレスしかいない。
この領地で一番魔力の高い魔術師にセレスの跡を追えないか聞いてみたが、時間も開いている為難しいと言われてまった。
それはそうだと納得しつつ、シャリオンは小さくため息をついた。
何故、一つ減ったと思ったのに問題がまた一つ増えるのだろうか。
思わず眉間に皺が寄ってしまうが、そうしているとガリウスに慰められる。
「ゆっくり解いていきましょう」
「・・・ガリィ。うん・・・そうだね」
「セレスが消えた後、そのほかに可笑しなことはありませんでしたか?」
ガリウスはシャリオンの手を安心させるように握りしめた後、執事の方に尋ねる。
「あの魔物が再びこの地にも現れることはありませんでした」
「周辺の魔物が活発化するなどということは」
「ありません」
魔物が活発化していないことは良いことだ。
しかし、何故あの巨大な魔物はハイシアに突然現れたのだろうか。
「・・・、あれ?そう言えば・・・セレス・・・あの魔物を知っているかの様だったけど」
そもそもセレスは村に調査に行っていたはずだ。
そう言って執事を見ると、彼も困った様に眉を下げる。
「実は・・・私も気になり、その件については同行した兵士達に尋ねたのですが、
場所に着くなりセレスは何かを感じ取ると一直線に飛んでいった様なのですが、咄嗟には追い付けない程の速さで消えたらしく、追い付けなかったようです。
その後、見つかった時はかなり損傷をした状態で倒れていたようですが、起き上がるとすぐにワープリングで姿を消し、おそらくこの城へと戻ってきたのでしょう」
「っ・・・かなりの、・・・損傷?」
シャリオンが反芻すると執事は、ハッとしてこちらを見てきた。
思わず息を飲んだ。
「・・・。・・・、・・・ガリィ」
「はい」
そう、呼びかけながら、心臓がドクドクと脈打つ。
「セレスは・・・怪我を・・・してたんだ」
「はい」
ここに来てようやくわかった。
あの魔物が現れた時、セレスも現れたはずなのに急に視界が悪くなった理由が。
その原因はセレスがやったのだと予測づいたが理由は分からなかった。
戻ってきたら聞こうと思っていたのだが・・・。
「・・・、・・・、」
嫌な予感しかしない。
いや、・・・予感ではない。
きっとそうだ。
激しい損傷があったから、シャリオンの視界を封じたのだ。
「・・・、・・・っ」
「シャリオンの所為ではありません」
「でも」
あの時早く逃げ出していれば、セレスは助けに来ることはなく治療を受けていたのではないだろうか?
と、そんな思考が浮かんでしまう。
「シャリオンを守るためと言うより、取り逃がしたために追ってきたのでしょう。
あの時のシャリオンは動かない様に見えた彼は手っ取り早く貴方を運ぶ手法を考えた」
「・・・、」
「どうせなら視界を奪うではなく、王都へ転移してくれればよかったのですが」
「っ」
そういう問題じゃない。
そう言いたくなったが、寸前のところで言葉を飲み込む。
「・・・、あの場で僕は足を引っ張るしかなかったからね」
「あの時ハイシア家の次期当主として身を守ることが最善です」
「・・・」
「セレスがあのようにしていなかったら、私やウルフ家の者達が同様に何かしらの手段で貴方を遠ざけていましたよ」
「っ・・・うん」
「シャリオン・・・。・・・セレスはハイシア一の魔術師ですよ。
領主であるシャリオンが信じないで誰が信じるんですか」
「!」
「戻ってきたら休みが欲しいと言っていたのですから、必ず帰ってきますよ」
「っ・・・、・・・うんっ・・・そうだね。
・・・でもこれでわかった。
村と砦を消していた人物・・・いや、人ではなく魔物でそれはこの城を襲った魔物と同一だってことだね」
「その様です」
「このことを、防衛大臣に知らせて欲しい」
「はい」
「それと、高等な魔術師・・・出来れば黒魔術師が居れば力を借りたい」
「・・・。承知しました。そのように伝えます」
調書を取っている男は、そう返事をすると速報を別の者に伝える。
ガリウスでもセレスの跡を追えないと言う事は、それなりの魔術師では追えないだろう気がした。
そうなったら同じ黒魔術師しか対応できない。
もしかしたら、そのことによりセレスがセレドニオであることがバレてしまうかもしれない。
黒魔術師は高額でもその仕事の完璧さ故に貴族に重宝されている。
当然、ファングス家の専属黒魔術師の事は知っているだろうと考えられる。
しかし、迷っていられない。
セレスが行方不明だったのも心配だが、大怪我をしている状態だと言えばなおさらだった。
☆☆☆
自室に戻ってきても、シャリオンはずっと考え込んでいた。
セレスは大丈夫なのだろうか。
怪我人はセレスしか出ていないようだが、行方不明者の事も気になる。
ガリウスに似た男は一体どこに行ってしまったのだろうか。
そして、・・・相談役の件も。
「・・・。こんな時に、何故僕なんだろ」
領地の事に全力投球で行きたいのに。
先ほどの報告で、考えなおしてくれないだろうか?
アルアディアの一貴族と言う事を抜いても、ルークの伴侶達の事なら力になる。
けれど、やはり適任は他にも居たと思うのだ。
誤解は解けたと言えど親密な家はもっとあったはずだ。
「彼等もきっと不安なのでしょう」
「そうだと、・・・思うけれど。・・・部屋を城に作るとかやりすぎだよ」
シャリオンが遠慮したいと言うのを感じ取ってなのか、子供達と一緒に来れる様にと城にシャリオン達の部屋が作ってあると告げられた。
おまけにそれは事後の知らせ。つまりあの時にはすでに部屋があったことになる。
その部屋に入室が出来るのは、シャリオンにガリウス、それにアシュリーとガリオンだ。
陛下の側室であるルーティーの相談役となっているシャーリーさえ部屋がないのに、何故そうなってしまったのだろうか。
溜息をつくシャリオンの肩を慰めるように撫でるガリウス。
「こうなっては仕方がありません。
王家の力を最大限に利用し、・・・王家のマナー講師を使ったり武術や魔術を覚えさせては」
そんなことをいうガリウスにシャリオンは眉を顰める。
「・・・2人はあと少しで一歳になるんだよ?
そんなに小さいのに・・・」
魔術の師を付ける時にまだ幼いと言ったのはガリウスだが。
「・・・、・・・まぁ・・・でもマナー講師は良いかもね」
ここ最近色々な貴族と顔を合わせる機会が増えた。
隠す必要はないと決めた途端こんな勢いで困ってしまう。
相談役として城を出入りする様になるなら、もっと増えるはずだ。
普通の子供ではまだ話すことは難しいだろうが、あの子達は出来てしまうから早めに覚えさせた方が良い気もする。
伯爵であるアルベルトはガリウスの知人だからまだ笑って許してくれたが、王族の彼等には別だ。
子供達は領地にいる時のように、ルークやライガーを愛称で呼んでしまう気がする。
アンジェリーンやミクラーシュもそうだ。
「・・・あの調子じゃ・・・子供を成したら、友人として当てられそう」
それは丁度、ライガーとルークの友人にとシャリオンが紹介された時のようにだ。
そう考えたらガリウスの言う通りなのかもしれない。
「そうですね」
出来れば否定してほしかった。
しかし、ガリウスもそう考えているとなると、そう思って間違いないのだろう。
「2人が悩んでる事か・・・」
「ミクラーシュ様は特にシャリオンの力が必要になるでしょう」
「ミクラーシュ??」
それは家格的な問題だろうか。
公爵家と伯爵家であれば、後ろ盾が必要なのも分かるが。
「結婚式は何時なの?」
「どうでしょうか。無いかもしれません」
「・・・どういうこと?」
ミクラーシュは側室だから仕方がないにしても、アンジェリーンは王配だ。
そして王太子の結婚に式を挙げないと言う意味が分からなかった。
そういうものは普通盛大に行われるものじゃないのだろうか。
以前の婚約者は結婚式にやたら豪勢にしたがってるとルークが文句を言っていたが。
「まさか・・・アンジェリーンが拒否をしているの?」
「拒否をしているわけではありませんが、お2人とも必要性を感じないと仰っているのです」
「必要性とかそう言う問題じゃないでしょう。
王太子の結婚だよ?普通立派な式は平和の象徴とかそう言うものでしょう」
「私もそう思うのですが。・・・・質素倹約で良いとも仰ってましたね」
その言葉に呆然とガリウスを見つめるが、冗談を言っている様ではなかった。
2人とも愛し合う予定は無いと言う姿勢は見て取れるが、そこで意気投合しなくても良いのではないだろうか。
「・・・、そういう事も相談されるのかな。
え。式はしない方がいいの?」
国としてどういう考えなのか思わず聞き返してしまうと、ガリウスは苦笑した。
「いいえ。していただきたいですよ。各国への対面もありますし」
「そう・・・だよね」
ルークもアンジェリーンもそんなことが分からない人間ではないと思うのだが。
「まぁ・・・話してみようか」
「お願いします」
あの時にガリウスが否定しない理由が何となくわかった気がして、思わず苦笑を浮かべる。
「いつもの様に強気で言ったらよかったのに」
「一応謹慎明けだったので」
「あぁ・・・そうか。僕も強めに言わない方が良いのかな」
結果として迷惑をかけてしまっている。
「いいえ。シャリオンは気にせず言って下さい。
私はどちらかと言うと呆れて言わないだけです。
このまま放っておけばライガー様がおそらく仰ると思いますけど、ライガー様は余りルーク様の伴侶の事や後継ぎの事に口出ししたがらないでしょう?」
「・・・そうだよね」
シャリオンは困った様に答えながら、こくりと頷いた。
「わかったよ」
「お願いします」
結婚式を挙げるとなっても魔物の件がもう少しクリアーにならないと難しいだろうが、説得を早めにしてもかまわないだろう。
どうせ城に行く予定はあるのだ。
その時に説得しようと思うシャリオンだった。
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