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執着旦那と愛の子作り&子育て編
不安は着いたら無くなってた。
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ハドリー領の端の端。
前はキラキラと海が輝き、後ろには森が鬱蒼と茂る。
森の少し手前の開けた土地にくたびれた小屋があった。
人里離れ辺鄙なところにある小屋。
これは、この領がアボットと名乗っている頃からあったようだ。
何時誰が何のために住んでいたのか分からないが、今はガリウスのものだ。
ここに一週間ほど前にここにやってきた。
小屋は寝室と食卓に台所が一つにまとまった作りだ。
領地にあるシャリオンの部屋の中に4つほど入ってしまうほど狭い空間ではあるが、不満は全くなかった。
小屋は新しいとは程遠いいが、手入れをされたのが分かる。
長年使われていなかったという割には埃もなく片付いていた。
それをガリウスに言うと驚かれるが、冒険ものの本を読むのが好きだった為すべて受け売りだ。
詳しく聞くと、どうやらガリウスは各地にこうした建物を持っているらしい。
恨まれる事が多い仕事に、もしもを考えた結果だそうで、今回はそのうちの一つをあらかじめウルフ家の者達にしらせ手入れをしてもらったそうだ。
なお今見える範囲にはゾルを含めたウルフ家の者達はいない。
この小屋を中心に張られた結界の外側に待機をしているらしい。
シャリオンがガリウスに掛けられた嫌疑に心配していたのは数時間だ。
子供達が大はしゃぎになってしまったのだ。
それは、一週間たっても変わらない。
ベッドの上で転がり、シャリオンに許可を求める様にこちらを見てくる。
「ガリィの結界から出ないと約束できるなら良いよ」
「あいー!」
「はーい!」
2人はまだ歩行が出来ないが、セレスのお陰で魔力が安定し浮遊することが上手に出来る様になった。
その為この地に来てからはシャリオンが良しと言った時のみ、自由に歩くことを許している。
両手を上げて目を輝かせる2人にガリウスと苦笑を浮かべていた。
「私も付いていきましょうか」
その申し出はとても嬉しいがシャリオンは首を横に振る。
魔術を使えるガリウスはもっぱら狩に出てくれているのだから、自分で出来ることは何でもしたい。
「大丈夫。ついでに食べられそうな気の実と水を探してくるね」
「ありがとうございます。では、私も食材を入手してきましょう」
「うん。ありがとう」
初めて獲ってきた獣を見た時は血を見慣れていないため、気持ち悪くなってしまうほど衝撃だった。
けれど、生きていくと言うのはそう言う事だ。
食べることだけでなく、何かをするには何かの犠牲がうまれている。
しっかりと目をそらさずに生きて行かなければならない。
「ガリィは強いけれど。・・・気をつけね」
「えぇ。貴方も。何かあったらすぐに問いかけて下さいね」
「うん。ガリィもね」
困った時に思考共有をするのを忘れてしまいがちなため、特にここにきてからはそう言われている。
・・・
・・
・
心配性のガリウスに見送られながら子供達と森の入口辺りを歩きながら木の実を探す。
小屋を出たらすぐに森が始まるのだが、勢いよく茂みに飛び込んでいくガリオン。
まだ礼儀を教えてはいないとは言え、野性味が強くてシャリオンはクスクスと笑った。
そしてガサゴソと動きまわっている。
昨日も同じところに飛び込んでいったという事は、お気に入りの何かがあるのだろう。
「ちーちうぇー」
ガリオンに呼ばれて見上げると、木の実を齧ってしまったのか口の周りを真っ赤にしながら、嬉しそうにその木の実を差し出してくる。
最近果物をすり潰したものを食べる様になり、その美味しさの虜になっている様だ。
野生の果物だからそこまで甘くはないのだが、子供達はそれでも喜んでいる。
「口の周りをそんなに真っ赤にして。リィン。ほら、おいで」
籠と筒を置き両手を広げるとガリオンが飛び込んでくる。
それを受け止めながらハンカチで口の周りを拭いてやる。
「まだ歯がはえてないのだから、ちゃんと食べれないでしょう?
小屋に戻ったらちゃんと食べさせてあげるから」
シャリオンに叱られても構われる事が嬉しいのか、ガリオンはきゃっきゃと笑いながら返事をする。
「はーい!」
するとそれを聞きつけた、アシュリーが飛んできた。
「じゅるいー」
「もちろんシュリィも。流石レディだね」
アシュリーの方はつまみ食いなどをせずに、せっせと果物を集めてきてくれるようだ。
シャリオンに褒められると得意げに手をパタパタさせて、胸に飛び込んできた。
2人ともシャリオンが力が無いと言う事が分かっているのか、飛び込んできてはくれるが自分達で浮遊してくれている。そんな2人をぎゅうっと抱きしめる。
領主をしていた時よりも断然同じ時間を過ごせているのに、なんど抱きしめても愛しさがこみあげてくる。
きらきらと輝く宝石のように美しい瞳でシャリオンを見上げてくる2人の額にチュっとキスを落とした。
何時までもこうしていたいのだが、もうそろそろ動かなければ。
領主の仕事は無いが、その代わりに食べ物や飲み物を自分達で用意をしなければならないからだ。
それから、3人で木の実や水を採りにいった。
湧き水が出ている場所はすでに調べているから、そこに行けば済むのだが、ここを何度も行き来しなければならないため、あまり遊んでいる間は無い。
「本当ならうちの領地を歩きたかったんだけどね」
目的地に向かいながら、いつかの願いを思い出した。
「いくっ」
「いくー!」
シャリオンの周りを嬉しそうに飛び回る子供達にクスクスと笑った。
どちらが継いでくれるかわからないが、領を見てもらいたいのは確かだ。
「そう。ならもう少し大きくなったら一緒に行こうか」
「「はーい♪」」
元気な返事を聞きながら優しくシャリオンは微笑んだ。
☆☆☆
一週間前。
シャリオンは先に領地に返され、嫌疑を掛けられたガリウスを待っている時は気が気ではなかった。
おまけに、帰ってきたガリウスは・・・。
『夢物語を真実にすることが出来そうです』
なんてことを言うものだから困惑した。
色々考えすぎて、爵位を取り上げられたのかと思ったのだが。
ハイシア領の事とは言え、ガリウスから領地で起きている内情を説明する。
しかし、知らされていなかった防衛大臣があまり良い反応をしなかった。
ハイシア領のこととは言え、村や砦が消えたことも、そんな大型の魔物が現れたのは国全体の事に関わってくる。
何よりワープリングの存在で、その技術をハイシア家が所有していることが知られたわけだが、それを面白く思っていないらしい。
内密にしていたのは噂のハイシア家が国家転覆を企んでいるのではないか。と・・・、はっきりと口にはしなかったが暗に言ってきたそうだ。
しかし、陛下がワープゲートの種明かしをした。
あの技術は元々ハイシア家のシャリオンに贈られた技術で、贈られた技術は当然秘術であり公開元がシディアリア同様知らせることが出来ない事、シャリオンがその技術を公開できない代わりに無償で各領地に置いたことを話すと、流石の大臣も黙った。
ガリウスによると元々彼は仕事でレオンと良くぶつかることがあり、ここぞとばかりに突っかかってきたようだ。
なおも文句がありげな大臣に陛下は突っぱねようとした。
しかし、そこで口を挟んだのはアンジェリーンだった。
シャリオンが退出をした後、アンジェリーンとミクラーシュも続いたのかと思ったが、どうやら彼等は残っていたらしいことに驚いた。
王配になると宣言し、あの場ではルークも陛下も何も言わなかった。
だが、うんともすんとも言っていない状態だと言うのに、それで口を出せるアンジェリーンはやはり強い。
アンジェリーンは怪しむ大臣を見て、その意見を肯定しながら、陛下に罰則を与えたらどうかと言い出した。
最初でこそ陛下やルーク、そしてライガーも反対する。
しかし最後まで聞いてみたら内容は罰ではなかった。
まずハイシア家はワープゲートを設置したのは次期公爵のシャリオンである事を公開すること。
そして、国民に虚偽の告知を王家に強いた罪を受け、シャリオンとガリウスは謹慎。
レオンやシャーリーはこの件に深く関わっていないため咎めなしで、領主代理には経験のあるシャーリーを推した。
謹慎の期間は王族と防衛大臣などでハイシア城を調査するので打倒ではないかと提案すると、防衛大臣は「それは良い!」と食いついたそうだ。
しかし、それは先ほども言ったように罰にはならない。
調査にどの王族が立ち合ったとしても、ハイシア家が悪くなるように動く人間はいないし、立ち合う事で防衛大臣が可笑しなことをすることに見張ることが出来るからだ。
そして、彼はこうも続けたそうだ。
シャリオンに深く反省させるために使用人を付けずに、ガリウスと子供達だけでその謹慎期間、貴族とは無縁の暮らしてはどうかと。
普通の貴族なら嫌がることだが、事情を知らない防衛大臣はその提案に賛同した。
流石にレオンは渋い表情を浮かべ「王都での謹慎が妥当だ」と言ったのだが、ガリウスはシャリオンがアンジェリーンに夢物語の話をしたことを悟ったそうだ。
だから、ガリウスは自ら「その罰、謹んでお受けいたします」と、受けてきたらしい。
罰にしては軽いとは言え、罰を下されたという事実に良しとしなかったが、ガリウスが引き受けてしまったのを見ると陛下達は何かあると察したらしく、それを認めた。
話したときは余り良い顔をしていなかったというのに、そう話を進めるアンジェリーンに不思議に思いつつも、今となっては感謝をしている。
ワープゲートやワープリングを公開するタイミングにもなったし、こうしてガリウスとのびのびと暮らせるのは、期間付きだと分かっていても嬉しかった。
☆☆☆
森での散策を終えシャリオン達が小屋に帰る。
水汲みは往復しなければだめだなと思っていたのだが、アシュリーとガリオンは魔法で大きな水の玉を造った。
それほど必要ないと思ったのだが、2人が楽しそうにしているのを見て、シャリオンは止めずに小屋に帰る。
水なのだしその辺に流せばいいと思ったのだ。
それに、その様は素晴らしくてガリウスにも見せたかった。
小屋に戻るとガリウスはすでに戻っていたようで、調理中だった。
そんなガリウスを外に呼ぶとやはりとても驚き、そして子供達を「良くやりました」と褒めた。
魔法を褒めたというより、持ってきたことに褒めた様に見えて不思議に思っていると、どうやら風呂の水にしようという考えらしい。
確かに、ここ最近は水を沸かし湯にし清拭してばかりだ。
しかし、あの小屋には風呂桶などないと思っていると・・・ガリウスが海辺の岩を魔法で砕き始めた。
もう、呆気にとられるしかなかった。
だが、久しぶりに体を清潔に出来る訳でそれを止める訳もなく、開放的過ぎる空間を埋めるためにシャリオンは小屋からシーツを持ってきたりして手伝った。
シャリオンは以前から冒険物語を好きだったわけだが、ガリウスもこの状況を楽しんでいる様だ。
ここに来てからガリウスが特に逞しく見えた。
城では本しか読んでなさそうなのに、魔術は勿論剣術も出来るのは驚いた。
てっきりガリウスの魔術は諜報や結界などは良く使うが、騎士団の魔術師が使うような魔法は使わないと思っていた。学園で技術は習っていたはずだし器用なのですぐ使えるだろうが、ガリウスは幼い頃からレオンの元にいたので実践は無いと思っていたのだ。
・・・
・・
・
夜。
明るいうちに体を清めて、食事をとったシャリオン達は小屋の中だ。
子供達は今日もくたくたになるまで遊び、二つのベッドをくっつけた真ん中で、すやすやと寝ている。
起こさないように少し離れ、暖炉の傍でシャリオン達は椅子を並べてひそひそと話す。
魔術がうまいと褒めつつもガリウスは宰相の側近よりも魔術師になりたかったと思い出した。
「・・・ごめんね。父上が」
ガリウスと言う逸材を見つけてレオンは嬉々としていたのだろうなと思うと苦笑を浮かべた。
「ですが、そのおかげで貴方に会えたので」
騎士団の魔術師になっていたら会えなかったのは確かだ。
側近になってレオンの屋敷に出入りしていなかったら、婚約者にもならなかっただろう。
そう思うとレオンにも感謝する。
シャリオンがふにゃりと微笑むとガリウスはくすりと笑みを浮かべ眦に優しいキスを落とした。
キスは一度で止まらずに、繰り返されるとくすぐったくてクスクスと笑った。
幸せだ。
忙しい時間を考えることなく、毎日ガリウスと子供達に囲まれる。
けれど、幸せだと思うの当時に寂しさもある。
今この状況は期限がある。
いや、無いと困る。
早く戻ってセレスの事も探したいし、村の調査結果を聞きたい。
「・・・、」
その憂いを読み取ったのか、ガリウスはシャリオンの唇にチュっと口づける。
啄むようなキスは心地よくて、子供達が寝ている傍で駄目だと思うのに甘受してしまう。
それに、最近忙しかったこともあり全くしていない。
心地いいのに、切ない。
少し顔をそらせると、拗ねたようにガリウスを見る。
毎晩こんなキスを送られ、駄目だと理由も話しているのに当然である。
「っ・・・もう」
「寂しそうな顔をするので、慰めただけです。不要でしたか・・・?」
そう言ってまたそんな表情をする。
シャリオンが弱い顔だ。
「駄目なわけないでしょう?・・・嬉しいよ。けど、・・・言ったでしょう?」
「なんでしたでしょうか・・・?」
意地悪に首筋にキスを落としてくるガリウス。
ちゅっと吸われると体がピクンと動いた。
このままでは流されてしまう。
それに、ガリウスがシャリオンを引き寄せる力が日に日に強くなっていくのは勘違いではないはずだ。
話しを逸らそうとあがく。
「っ・・・今日、お風呂・・・ありがとね」
子供達が水を運んでくれて、ガリウスが岩を掘り水を温めてくれたおかげで、体を清めることが出来た。
その時に子供達が興奮して火の魔法を繰り出したことを言おうとしたのだが、それは悪手だった。
「あんな開けた所で、貴方の肌を見れるとは思いませんでした」
「っ」
「誰かに見られるかもしれないという懸念は、結界の中なのでありませんでしたが、・・・子供達に見せてしまいましたね」
そう言いながらペロリと首筋を舐められた。
流石にシャリオンもガリウスがどうしたいのか分かる。
シャリオンだってしたい。
けれど、・・・葛藤しながら震えた。
「っ・・・そん、・・・覚えていないよ、きっと」
「そうでしょうか。・・・あの子達は賢いですからね」
そうだ。そうなのだが、覚えているのが親の裸と言うのは考えものだ。
「ガリィが作ってくれた炎の事は覚えていると、思う。・・・っぁ」
悪戯な手が伸びてきて、服の隙間から忍び込んできた。
平民の服は何故こんなにガードが弱いのだろうか。
寝間着並みの防御の低さだ。
何より困るのは・・・拒否しきれない自分だ。
「・・・ガリィ・・だめ」
その手を止める様に手を添え、見上げる。
自分の声が甘いことに気付いていたが、制御できる物じゃ無い。
「ここにも結界を張っていますし、子供達には眠りの魔法も掛けてあります」
そんな用意周到な言葉にシャリオンは呆気にとられた後、吹き出してしまう。
暫く笑った後視線をあげると、許しを請うように甘える熱い視線に絡んだ。
「少し・・・だけだよ?」
その言葉に嬉しそうに微笑んだ。
「えぇ・・・」
もう一度唇が重なるのに、そう時間は掛からなかった。
前はキラキラと海が輝き、後ろには森が鬱蒼と茂る。
森の少し手前の開けた土地にくたびれた小屋があった。
人里離れ辺鄙なところにある小屋。
これは、この領がアボットと名乗っている頃からあったようだ。
何時誰が何のために住んでいたのか分からないが、今はガリウスのものだ。
ここに一週間ほど前にここにやってきた。
小屋は寝室と食卓に台所が一つにまとまった作りだ。
領地にあるシャリオンの部屋の中に4つほど入ってしまうほど狭い空間ではあるが、不満は全くなかった。
小屋は新しいとは程遠いいが、手入れをされたのが分かる。
長年使われていなかったという割には埃もなく片付いていた。
それをガリウスに言うと驚かれるが、冒険ものの本を読むのが好きだった為すべて受け売りだ。
詳しく聞くと、どうやらガリウスは各地にこうした建物を持っているらしい。
恨まれる事が多い仕事に、もしもを考えた結果だそうで、今回はそのうちの一つをあらかじめウルフ家の者達にしらせ手入れをしてもらったそうだ。
なお今見える範囲にはゾルを含めたウルフ家の者達はいない。
この小屋を中心に張られた結界の外側に待機をしているらしい。
シャリオンがガリウスに掛けられた嫌疑に心配していたのは数時間だ。
子供達が大はしゃぎになってしまったのだ。
それは、一週間たっても変わらない。
ベッドの上で転がり、シャリオンに許可を求める様にこちらを見てくる。
「ガリィの結界から出ないと約束できるなら良いよ」
「あいー!」
「はーい!」
2人はまだ歩行が出来ないが、セレスのお陰で魔力が安定し浮遊することが上手に出来る様になった。
その為この地に来てからはシャリオンが良しと言った時のみ、自由に歩くことを許している。
両手を上げて目を輝かせる2人にガリウスと苦笑を浮かべていた。
「私も付いていきましょうか」
その申し出はとても嬉しいがシャリオンは首を横に振る。
魔術を使えるガリウスはもっぱら狩に出てくれているのだから、自分で出来ることは何でもしたい。
「大丈夫。ついでに食べられそうな気の実と水を探してくるね」
「ありがとうございます。では、私も食材を入手してきましょう」
「うん。ありがとう」
初めて獲ってきた獣を見た時は血を見慣れていないため、気持ち悪くなってしまうほど衝撃だった。
けれど、生きていくと言うのはそう言う事だ。
食べることだけでなく、何かをするには何かの犠牲がうまれている。
しっかりと目をそらさずに生きて行かなければならない。
「ガリィは強いけれど。・・・気をつけね」
「えぇ。貴方も。何かあったらすぐに問いかけて下さいね」
「うん。ガリィもね」
困った時に思考共有をするのを忘れてしまいがちなため、特にここにきてからはそう言われている。
・・・
・・
・
心配性のガリウスに見送られながら子供達と森の入口辺りを歩きながら木の実を探す。
小屋を出たらすぐに森が始まるのだが、勢いよく茂みに飛び込んでいくガリオン。
まだ礼儀を教えてはいないとは言え、野性味が強くてシャリオンはクスクスと笑った。
そしてガサゴソと動きまわっている。
昨日も同じところに飛び込んでいったという事は、お気に入りの何かがあるのだろう。
「ちーちうぇー」
ガリオンに呼ばれて見上げると、木の実を齧ってしまったのか口の周りを真っ赤にしながら、嬉しそうにその木の実を差し出してくる。
最近果物をすり潰したものを食べる様になり、その美味しさの虜になっている様だ。
野生の果物だからそこまで甘くはないのだが、子供達はそれでも喜んでいる。
「口の周りをそんなに真っ赤にして。リィン。ほら、おいで」
籠と筒を置き両手を広げるとガリオンが飛び込んでくる。
それを受け止めながらハンカチで口の周りを拭いてやる。
「まだ歯がはえてないのだから、ちゃんと食べれないでしょう?
小屋に戻ったらちゃんと食べさせてあげるから」
シャリオンに叱られても構われる事が嬉しいのか、ガリオンはきゃっきゃと笑いながら返事をする。
「はーい!」
するとそれを聞きつけた、アシュリーが飛んできた。
「じゅるいー」
「もちろんシュリィも。流石レディだね」
アシュリーの方はつまみ食いなどをせずに、せっせと果物を集めてきてくれるようだ。
シャリオンに褒められると得意げに手をパタパタさせて、胸に飛び込んできた。
2人ともシャリオンが力が無いと言う事が分かっているのか、飛び込んできてはくれるが自分達で浮遊してくれている。そんな2人をぎゅうっと抱きしめる。
領主をしていた時よりも断然同じ時間を過ごせているのに、なんど抱きしめても愛しさがこみあげてくる。
きらきらと輝く宝石のように美しい瞳でシャリオンを見上げてくる2人の額にチュっとキスを落とした。
何時までもこうしていたいのだが、もうそろそろ動かなければ。
領主の仕事は無いが、その代わりに食べ物や飲み物を自分達で用意をしなければならないからだ。
それから、3人で木の実や水を採りにいった。
湧き水が出ている場所はすでに調べているから、そこに行けば済むのだが、ここを何度も行き来しなければならないため、あまり遊んでいる間は無い。
「本当ならうちの領地を歩きたかったんだけどね」
目的地に向かいながら、いつかの願いを思い出した。
「いくっ」
「いくー!」
シャリオンの周りを嬉しそうに飛び回る子供達にクスクスと笑った。
どちらが継いでくれるかわからないが、領を見てもらいたいのは確かだ。
「そう。ならもう少し大きくなったら一緒に行こうか」
「「はーい♪」」
元気な返事を聞きながら優しくシャリオンは微笑んだ。
☆☆☆
一週間前。
シャリオンは先に領地に返され、嫌疑を掛けられたガリウスを待っている時は気が気ではなかった。
おまけに、帰ってきたガリウスは・・・。
『夢物語を真実にすることが出来そうです』
なんてことを言うものだから困惑した。
色々考えすぎて、爵位を取り上げられたのかと思ったのだが。
ハイシア領の事とは言え、ガリウスから領地で起きている内情を説明する。
しかし、知らされていなかった防衛大臣があまり良い反応をしなかった。
ハイシア領のこととは言え、村や砦が消えたことも、そんな大型の魔物が現れたのは国全体の事に関わってくる。
何よりワープリングの存在で、その技術をハイシア家が所有していることが知られたわけだが、それを面白く思っていないらしい。
内密にしていたのは噂のハイシア家が国家転覆を企んでいるのではないか。と・・・、はっきりと口にはしなかったが暗に言ってきたそうだ。
しかし、陛下がワープゲートの種明かしをした。
あの技術は元々ハイシア家のシャリオンに贈られた技術で、贈られた技術は当然秘術であり公開元がシディアリア同様知らせることが出来ない事、シャリオンがその技術を公開できない代わりに無償で各領地に置いたことを話すと、流石の大臣も黙った。
ガリウスによると元々彼は仕事でレオンと良くぶつかることがあり、ここぞとばかりに突っかかってきたようだ。
なおも文句がありげな大臣に陛下は突っぱねようとした。
しかし、そこで口を挟んだのはアンジェリーンだった。
シャリオンが退出をした後、アンジェリーンとミクラーシュも続いたのかと思ったが、どうやら彼等は残っていたらしいことに驚いた。
王配になると宣言し、あの場ではルークも陛下も何も言わなかった。
だが、うんともすんとも言っていない状態だと言うのに、それで口を出せるアンジェリーンはやはり強い。
アンジェリーンは怪しむ大臣を見て、その意見を肯定しながら、陛下に罰則を与えたらどうかと言い出した。
最初でこそ陛下やルーク、そしてライガーも反対する。
しかし最後まで聞いてみたら内容は罰ではなかった。
まずハイシア家はワープゲートを設置したのは次期公爵のシャリオンである事を公開すること。
そして、国民に虚偽の告知を王家に強いた罪を受け、シャリオンとガリウスは謹慎。
レオンやシャーリーはこの件に深く関わっていないため咎めなしで、領主代理には経験のあるシャーリーを推した。
謹慎の期間は王族と防衛大臣などでハイシア城を調査するので打倒ではないかと提案すると、防衛大臣は「それは良い!」と食いついたそうだ。
しかし、それは先ほども言ったように罰にはならない。
調査にどの王族が立ち合ったとしても、ハイシア家が悪くなるように動く人間はいないし、立ち合う事で防衛大臣が可笑しなことをすることに見張ることが出来るからだ。
そして、彼はこうも続けたそうだ。
シャリオンに深く反省させるために使用人を付けずに、ガリウスと子供達だけでその謹慎期間、貴族とは無縁の暮らしてはどうかと。
普通の貴族なら嫌がることだが、事情を知らない防衛大臣はその提案に賛同した。
流石にレオンは渋い表情を浮かべ「王都での謹慎が妥当だ」と言ったのだが、ガリウスはシャリオンがアンジェリーンに夢物語の話をしたことを悟ったそうだ。
だから、ガリウスは自ら「その罰、謹んでお受けいたします」と、受けてきたらしい。
罰にしては軽いとは言え、罰を下されたという事実に良しとしなかったが、ガリウスが引き受けてしまったのを見ると陛下達は何かあると察したらしく、それを認めた。
話したときは余り良い顔をしていなかったというのに、そう話を進めるアンジェリーンに不思議に思いつつも、今となっては感謝をしている。
ワープゲートやワープリングを公開するタイミングにもなったし、こうしてガリウスとのびのびと暮らせるのは、期間付きだと分かっていても嬉しかった。
☆☆☆
森での散策を終えシャリオン達が小屋に帰る。
水汲みは往復しなければだめだなと思っていたのだが、アシュリーとガリオンは魔法で大きな水の玉を造った。
それほど必要ないと思ったのだが、2人が楽しそうにしているのを見て、シャリオンは止めずに小屋に帰る。
水なのだしその辺に流せばいいと思ったのだ。
それに、その様は素晴らしくてガリウスにも見せたかった。
小屋に戻るとガリウスはすでに戻っていたようで、調理中だった。
そんなガリウスを外に呼ぶとやはりとても驚き、そして子供達を「良くやりました」と褒めた。
魔法を褒めたというより、持ってきたことに褒めた様に見えて不思議に思っていると、どうやら風呂の水にしようという考えらしい。
確かに、ここ最近は水を沸かし湯にし清拭してばかりだ。
しかし、あの小屋には風呂桶などないと思っていると・・・ガリウスが海辺の岩を魔法で砕き始めた。
もう、呆気にとられるしかなかった。
だが、久しぶりに体を清潔に出来る訳でそれを止める訳もなく、開放的過ぎる空間を埋めるためにシャリオンは小屋からシーツを持ってきたりして手伝った。
シャリオンは以前から冒険物語を好きだったわけだが、ガリウスもこの状況を楽しんでいる様だ。
ここに来てからガリウスが特に逞しく見えた。
城では本しか読んでなさそうなのに、魔術は勿論剣術も出来るのは驚いた。
てっきりガリウスの魔術は諜報や結界などは良く使うが、騎士団の魔術師が使うような魔法は使わないと思っていた。学園で技術は習っていたはずだし器用なのですぐ使えるだろうが、ガリウスは幼い頃からレオンの元にいたので実践は無いと思っていたのだ。
・・・
・・
・
夜。
明るいうちに体を清めて、食事をとったシャリオン達は小屋の中だ。
子供達は今日もくたくたになるまで遊び、二つのベッドをくっつけた真ん中で、すやすやと寝ている。
起こさないように少し離れ、暖炉の傍でシャリオン達は椅子を並べてひそひそと話す。
魔術がうまいと褒めつつもガリウスは宰相の側近よりも魔術師になりたかったと思い出した。
「・・・ごめんね。父上が」
ガリウスと言う逸材を見つけてレオンは嬉々としていたのだろうなと思うと苦笑を浮かべた。
「ですが、そのおかげで貴方に会えたので」
騎士団の魔術師になっていたら会えなかったのは確かだ。
側近になってレオンの屋敷に出入りしていなかったら、婚約者にもならなかっただろう。
そう思うとレオンにも感謝する。
シャリオンがふにゃりと微笑むとガリウスはくすりと笑みを浮かべ眦に優しいキスを落とした。
キスは一度で止まらずに、繰り返されるとくすぐったくてクスクスと笑った。
幸せだ。
忙しい時間を考えることなく、毎日ガリウスと子供達に囲まれる。
けれど、幸せだと思うの当時に寂しさもある。
今この状況は期限がある。
いや、無いと困る。
早く戻ってセレスの事も探したいし、村の調査結果を聞きたい。
「・・・、」
その憂いを読み取ったのか、ガリウスはシャリオンの唇にチュっと口づける。
啄むようなキスは心地よくて、子供達が寝ている傍で駄目だと思うのに甘受してしまう。
それに、最近忙しかったこともあり全くしていない。
心地いいのに、切ない。
少し顔をそらせると、拗ねたようにガリウスを見る。
毎晩こんなキスを送られ、駄目だと理由も話しているのに当然である。
「っ・・・もう」
「寂しそうな顔をするので、慰めただけです。不要でしたか・・・?」
そう言ってまたそんな表情をする。
シャリオンが弱い顔だ。
「駄目なわけないでしょう?・・・嬉しいよ。けど、・・・言ったでしょう?」
「なんでしたでしょうか・・・?」
意地悪に首筋にキスを落としてくるガリウス。
ちゅっと吸われると体がピクンと動いた。
このままでは流されてしまう。
それに、ガリウスがシャリオンを引き寄せる力が日に日に強くなっていくのは勘違いではないはずだ。
話しを逸らそうとあがく。
「っ・・・今日、お風呂・・・ありがとね」
子供達が水を運んでくれて、ガリウスが岩を掘り水を温めてくれたおかげで、体を清めることが出来た。
その時に子供達が興奮して火の魔法を繰り出したことを言おうとしたのだが、それは悪手だった。
「あんな開けた所で、貴方の肌を見れるとは思いませんでした」
「っ」
「誰かに見られるかもしれないという懸念は、結界の中なのでありませんでしたが、・・・子供達に見せてしまいましたね」
そう言いながらペロリと首筋を舐められた。
流石にシャリオンもガリウスがどうしたいのか分かる。
シャリオンだってしたい。
けれど、・・・葛藤しながら震えた。
「っ・・・そん、・・・覚えていないよ、きっと」
「そうでしょうか。・・・あの子達は賢いですからね」
そうだ。そうなのだが、覚えているのが親の裸と言うのは考えものだ。
「ガリィが作ってくれた炎の事は覚えていると、思う。・・・っぁ」
悪戯な手が伸びてきて、服の隙間から忍び込んできた。
平民の服は何故こんなにガードが弱いのだろうか。
寝間着並みの防御の低さだ。
何より困るのは・・・拒否しきれない自分だ。
「・・・ガリィ・・だめ」
その手を止める様に手を添え、見上げる。
自分の声が甘いことに気付いていたが、制御できる物じゃ無い。
「ここにも結界を張っていますし、子供達には眠りの魔法も掛けてあります」
そんな用意周到な言葉にシャリオンは呆気にとられた後、吹き出してしまう。
暫く笑った後視線をあげると、許しを請うように甘える熱い視線に絡んだ。
「少し・・・だけだよ?」
その言葉に嬉しそうに微笑んだ。
「えぇ・・・」
もう一度唇が重なるのに、そう時間は掛からなかった。
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体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
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せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
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―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
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