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執着旦那と愛の子作り&子育て編

きっと勘違い。

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ハイシア家に割り当てられた部屋。
あれから冷静に振舞いつつも体調が悪いと言って部屋を出た。

部屋にはシャリオンとガリウス以外にゾルと年長のハイシア家の者が集っている。

「どう?」
「準備を整えている」
「そう。・・・はぁ。・・・あ、ありがとう」

テーブルに出された紅茶に、シャリオンはふらふと近寄る。
確かに喉が渇いていて、今は熱くても良いから喉を潤したい。
ふぅと冷ましていると、ガリウスの指先がカップに触れた。

「ガリィ?・・・あ」

気付けばカップの中身は適温になっていた。
ガリウスが魔法で冷ましてくれたようだ。
今見るとガリウスもゾルもその瞳は自分のことを心配に染まっていた。
どんなに冷静を装ってもこの2人にはバレてしまったようだ。

「それにしても。まさかドラゴンが出てくるとは思いませんでしたね」
「、・・・」

『そうだね』なんて返せたら良かった。
しかし、『ドラゴン』と聞いて今まで体験したことがないものにぶち当たってしまい、シャリオンも良くわからないのだ。

「すみません。今のは私の言葉が悪かったです」
「ううん。・・・ごめん」
「貴方の采配は間違っていませんでした。私が同じ立場だったとしても同じ様にします」
「・・・、」

カルガリア国王とその伴侶に猛獣の正体がドラゴンだと聞かされた。
ただなにもなかったなら、警備を強めるだけでここまで平常心が揺さぶられたりしなかった。
しかし、因果が分からないが壊される橋や、その向こうの村や砦の兵士たち、そして修復に行った者達の行方不明者たちの件が冷静に居させてはくれなかった。

もっと、淡々と報告に私情を挟まなければ良いのだが、・・・先日領地内の町村を視察して人々と触れ合い彼等の生活を見て余計に判断できなくなっていた。
そんな状態で・・・

『猛獣とは・・・ドラゴンです。なので、人は襲いません』

そう言われて素直に『はい。そうですか』で頷けるはずが無かった。
こちらは領民の命が掛かっている。
ドラゴンと聞いても、重ねて仕留める方法を尋ねようとしてしまうほどに冷静を欠いた。
ドラゴンだと知る前に、始末して良いか確認したときは辛うじて許してくれたが、流石に神だと知った後の発言だったら怒りを買っていたはずだ。

カルガリアではドラゴンは神聖化され神として崇められている。
始まりは一部の一族からだったが、それは徐々に国土全体に広まり、国の神となっている。
『キュリアスのトカゲ』のような事実があり、一部の地域で結界を張り籠っていたとしてもだ。
そんな神聖なものに対して害するような発言をしそうになってしまった。
直前に自分を止めることは出来たのは本当に幸いであった。

結局。その場では特に猛獣が出ていないと話し、情報に感謝した。
もし本当にいたとしたら、彼等が言ってくれなかったら知りえなかった情報だ。
それと同時にシャリオンはゾルに思考共有で、捜査の為に動けるウルフ家の選抜と同行出来るハイシア城に残る兵士たちの招集、セレスにはその人数分の往復転移石の準備、そして現公爵であるレオンへの伝達だ。
シャリオンが領主ではあるが、公爵はレオンの為話をとおしておく必要がある。

「・・・まだ、陛下達には黙って置こうと思う」

自領内で終わる話かもしれないし、今王家はルークの結婚のことでそれどころではないだろう。

「シャリオンとレオン様がそうおっしゃられているなら、私に異存はありません」
「あちらも目撃情報が正確じゃないみたいだしね」

努めて明るく言ったのだが、そっと肩を抱き寄せられた。

「大丈夫です。・・・必ずいい案を見つけ出します」
「・・・ガリィ・・・。・・・ありがとう」

払しょくされたわけではないが、それでもその言葉は安心できるだのだった。

☆☆☆

隠したいとかそう言う事ではなく、ルークには結婚に専念してもらいたい。
そんな気持ちで言わなかった。
・・・のだが。

ずっと先延ばしにされていたカイザーとのお茶会。
それはライガーにルーク、それにサーベル国からはポンツィオとカイザ、シディアリアからはディディとジジも同席していた。
堅苦しいのは嫌いだと言うカイザーに合わせて、皆立場を気にしないで意見を交換し合った。

最初でこそカイザーに良い思い出が無かったわけだが、アルアディアにいる間に態度は改められ、国に帰った後もなんと修行に来ていたゾルに礼儀作法を習っていたらしく見違えるようだった。
それに、今はガリウスもゾルもいるから不安や恐怖は全くなく、シャリオンも普通に会話に参加できた。

そんなときだった。
会話が弾んだカイザーが思い出したように切り出した。

「昨日は随分面白そうな話をしていたが」
「?」

そういう視線はこちらを見ているから、シャリオンに言っているのだろうと分かったが、言われている内容が分からずに首を傾げる。

「ポンツィオ。俺も異名にドラゴンキラーが付いたらより箔がつくんじゃないか?」
「!」

カルガリア国王はあえてシャリオン達の周りに人がいない時に来ていた。
それにカイザーはポンツィオの護衛で離れた場所にいたはずだ。
驚いているとポンツィオが答える。

「カイザーは地獄耳なんだ」
「人聞きが悪い。あれくらい聞こえるし、出なければ敵の攻撃をよける事も出来ないだろう」

それは英雄故の事なのか、しかしながらあのカイザーが力になってくれるのは頼もしい。
コンドル家のルシエルに古城で閉じ込められ逃げ出した時、あの男と対戦したのはカイザーだ。
あの時眩しくて目にすることは出来なかったが、ガリウスが言うにはその戦う様は『英雄』と言うより『鬼神』のような立ち回りで圧倒するほどの強さだったそうだ。
そんな彼がいてくれたなら、本当にドラゴンが出たとしても大丈夫なのではないかと期待したくなる。が、・・・・今は都合が悪すぎる。


「ドラゴン?」
「籠ってるから、見た事ないけど、一柱いる」

ジジはドラゴンに『一柱』と現したという事は、シディアリアもドラゴンを神として崇めているのだろうか?
いやそんな事よりも話をそらさねばと思ったのだが。

「ドラゴンは、倒してはいけない」
「そうですね。神とされてますから・・・。サーベル国に何か害があったのですか」

そう言うディディにカイザーは首を振る。

「いや。うちじゃない。シャリオン殿のところだよ」
「シャリオン殿のところ・・・、そうなのですか」
「・・・えっと」
「「シャリオン?」」


最後に呼ばれたライガーとルークの声はどことなく怒っているように感じた。

☆☆☆

「へぇ~」

1人掛けのソファーのサイドレストに肩肘をつき、足を組んでこちらを見てくるルークは怒りを隠す気もない様で、不機嫌さにこちらを見てくる。


あれから、解散し早々に自室に帰ろうとしたのだが、ルークに捕まってしまった。
同じように驚いていたはずのライガーの方は見当がついているのか、今は収まっているようで動向を見守る様にこちらを見てくる。

「別に・・・隠してたわけじゃないよ?」
「じゃぁーどういうつもり?」
「ルーは・・・ほら。今忙しいから余計なことかなって」
「シャリオンが悩んでるのに話を聞けない程、人でなしに見える?」
「そうじゃないから黙ってたんだよ」
「・・・。ガリウスも。それって領地だけの問題じゃないように聞こえるんだけど」
「まずは確認が必要だと思いましたので」
「それで事実だったら報告してくれたってわけ?」
「えぇ」

ウルフ家だったらハイシア家に準じてだが、ガリウスはもし本当にそうなったらシャリオンを説得してくるだろうし、シャリオンもそこは間違えない。

「それに。シャリオンからレオン様には報告しております」
「海を越えた宰相よりも、ここに俺がいるのにね。王太子なのに信用ないな」
「っ・・・そんなんじゃっ」
「ルー。いい加減拗ねるな」

溜息交じりでライガーが窘めるが、ルークはそれにチラリと視線を向けたけれど不満げだ。

「・・・。・・・、・・・はぁ」

そう言うと、ルークは立ちあがるとドアの方へ向かっていく。
そして、・・・。

「・・・。出国の時。・・・アンジェリーンになって言われたの」
「え?・・・アンジェリーン・・・?」

このタイミングに出てくると思って見なかった言葉に、少々間の抜けた声になってしまう。
今までアンジェリーンを気にした素振りなんて見せなかったのに、少々驚いた。

「・・・ち、違うよ?何もやましいことは」
「じゃぁ何?」

ちらりとこちらを見てくる視線にシャリオンは焦った。

「本当に!王配候補に手をだそうだなんて」
「そんな事一ミリも心配してないよ」

即答されると、それはそれで困ってしまうが。

「え。そうなの?・・・、・・・ん、まぁ・・・お土産が欲しいって言われたんだ」
「本当に?」
「本当だよ」

そう答えるシャリオンの隣で、ガリウスが呆れたようにため息をついた。
そして肩を抱き寄せると、ルークに問いかけた。

「あまり、シャリオンを責めないで頂けますか?
シャリオンよりむしろ彼の管理をしっかりしてください」
「出来るわけないよ。俺とアレは水と油だよ?絶対混じるわけない」

そう言うとフン!と言い捨てると、ルークは出て行ってしまう。
あんなのはめずらしい。

「・・・。なんなだったんだろ。
というか・・・仲悪かったんだ」

以前の事があるから仲が良いとは思っていない。
出国前にはあんなに仲睦まじく、・・・まるで愛し合っているかのようにさえ見たのに。
もし、あれが演技だったとしても、割り切っているのかと思っていた。

「ですが、ルーク様は今度こそ決めると仰っていますから」
「まぁアイツなりになんか思う事があったんだよ。
・・・でも、俺も教えてくれなくて寂しかったぞ?」
「ラ・・・ライ」
「ガリウス。お前もだ。俺にはこっそり教えてくれても良かったじゃないか」
「次回はそのようにしますよ」

あまりそうは思ってなさそうな声色に、ライガーはクスリと笑った。

「しかし、あの場でカイザーが話しを出してくれてよかった点もあるな」
「・・・でも、本当なのかな」

あの後、ディディから面白い情報を聞けた。
それは、ドラゴンは清らかな音色に反応すると言われているそうなのだ。

「でも、本当に出てきたら試すしかない。
・・・戦って勝てる見込みもないし、カイザーならもしかしたらあるかもしれないが・・・」

そういうライガーは難しい表情を浮かべる。
神殺しの祟りなどは聞いたことがない。
しかし、それと同等の反乱がおこるだろう。

「うちの国は主たる神はいないからな」

アルアディアには『神』という言葉は存在するが、神話があったり崇めるものがない。
だから、信仰がある国がどれほど神を心のありどころにしているか、本当の理解は難しい。

「本当にドラゴンがいて、暴れているのなら一旦全軍撤退させるしかないでしょうね。
・・・その時までには『清らかな音色』とやらを見つけないとですが」
「・・・。ドラゴンなんていない。だって大昔の話だよ?なんでこのタイミングで現れるの」
「そうだな。きっと悪戯な子供が橋を壊しているんだろう」

それは不安がるシャリオンの為にそんな冗談を言ったのだろう。

「はぁ・・・そしたら、中央に連れてきて勉学を学ばせるよ」

『何もない』と自己暗示を掛けながら、そう答えるシャリオンだった。

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