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執着旦那と愛の子作り&子育て編

んー。取り敢えずわかった。

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日々成長する子供達。
セレスに見てもらう様になってまだ一週間だが、様々なことを教えてもらっている様だ。
まずは魔力のコントロールの仕方や、簡単な魔法を覚える様にしているらしい。
それ以外は本人達がしたいことを教えているようで、その一つが浮遊。
難しいか簡単かと言えば、難しい部類に入る浮遊。
そもそも騎士団の魔術師達に浮いている者はいなかった。
シャリオンは数えるほどしか言った事がないが、つまりあまり良く使う魔法ではないのであろう。
禁術ではないようなので止めたりはしないが。

セレス曰く乳幼児のハイハイのようなもので、早く動きたいけど筋力も体力もないが、魔力があるため浮上するという事に至っているそうだ。
浮遊も少しずつ使える様になり、子供部屋の中では自由に移動できるようになったようだ。
その為か、シャリオンとガリウスが部屋に現れる時は真っ先に向かってくる。

「ちーうー」
「ちーち」

飛んでくる子供達を抱き止める。
シャリオンがガリオンを、ガリウスがアシュリーを受け止めた。
途端に浮力が無くなり、腕に重みを感じるがそれがだんだん重くなっていくのも愛おしい。

「おはよう。シュリィ。
おはよう。リィン」
「おはようございます。
シュリィにリィン」

「とーしゃ」
「がーと」

どうやら子供達はシャリオンのことは『父上』、ガリウスのことは『父様』『ガリウス父様』と呼びたい様だ。
ガリウスに至ってはシャリオンが頻繁に名前を呼ぶからだろう。
腕の中できゃっきゃと名前を呼ぶ子供達に笑みがやまない。
小さくて柔らかい子供達は、腕の中で必死に挨拶をする。
そして、2人を引き留めようと光の環を造りだした。

「わぁ!綺麗。上手だよリィン」
「うーっ」
「ふふっシュリィも上手。凄いね」
「あう」

負けじと張り合うアシュリーにシャリオンはクスクスと笑いながら2人をほめた。

「ガリィもこんな感じだったのかな」
「私はこんなに愛らしくはなかったと聞いてますよ」
「本当に?今度義父様方に聞いてみようかな」

シャリオンは久しく社交の場に出ていない。
貴族としてまた公爵として権威を表す必要性はあまり感じないが、情報交換は必要だ。
それにサーベル国の戴冠式に出る前に、少しは勘を取り戻しておく必要がある。

ガリウスにそう言った時、当然あまりいい顔をしていないように見えたが、理由も理解しているのか承諾してくれた。
でもシャリオンとてガリウスの不安を煽りたいわけではない。
だから、ガリウスがいる時のみ行くように約束した。
そんなわけで久しぶりに出席する社交の場は、知人が多いものにしたのだ。

「父は家のことに無関心だったのでどうでしょうね」
「子爵がいらっしゃるなら、 ガウディーノ様もおられるでしょう?」
「どうでしょう。領地に戻っているかもしれません。兄はいるでしょうが」

義父の名はガーブリエル・ガディーナ、伴侶でガリウスの産み親はガウディーノ。
そして義兄はガヴィーノだ。

「義兄上がおられるなら聞いてみよう」

なぜ「義兄上あにうえ」呼びなのかと言ったら、本人のご要望だ。
なんでも可愛げのある弟が欲しかったらしく、是非そう呼んで欲しいと言われているのである。
『もう1人兄上が出来て、僕も嬉しいです』と答えたらハグをされるほど喜ばれたが、同時にガリウスから1.5mくらいは距離を置くように言われたのは楽しい思い出だ。

「兄上は良くないことばかりシャリオンに吹き込むのであまり話して欲しくはないのですが」

そう言って苦笑交じりで答えるガリウス。
確かにガリウスとは異なり良く話す人物で、あれやこれやと話してくれるのだ。

「でも義兄上も子供がいらっしゃって良い話が聞けると思うんだ。
・・・まぁこの子供の話は夜会で出来るようなことは無いのだけど」
「そうですね。・・・もし、もっと話を聞きたくなったら日を改めた方が良いと思います」

腕の中の天使をみると、きょとんとした表情でこちらを見上げてきていた。
そんな可愛い子供達の額に口付ける。

「私にはしてくださらないのですか?」

そんな風に拗ねて見せたガリウスに、
クスクスと笑いながら背伸びをすると、その唇に触れる様に口付けた。


☆☆☆

朝の幸せなひと時を終えガリウスを見送った後。
今日は試作の廉価版転移魔法石の使用感を確かめようと思っていた。
ハドリー侯爵に譲ってもらった鉱山から採れる魔法石と、セレスの黒魔術のお陰で整いつつある収入源。
あとは安全性を保ちたい。

セレスの力を疑っているわけではないが、確認は必要である。
予め選抜していた職人たちに、シャリオンが確かめることは伝えてある。
だからと言ったわけではないが、より気を引き締めて作ってもらった。

いくら安いからとはいえ、正確に飛べなかったり勝手に人の家の住居に侵入してしまうのもダメだ。

今出回っている魔法石は、建物に何も対処していないとそれが出来てしまう。
だから本来は城の中で使うのも禁止だ。
・・・ガリウスは執務室と王都にあるいくつかのハイシア家に飛ぶことを事前に申請し、緊急事態と言ってたびたび使っているが。(ガリウスの魔力を乗せて結界を壊して閉じると言うのを瞬時にやっているらしい)

それを実現するにはセレスによるとさほど難しいことではなかった。
建造物には特殊な魔力が流れており、それがたくさん流れている所には飛ばない様に、つまりは町の外にしか飛べない様にした。
また、通常の転移の魔法石には無い、往復機能付きのものと、片道と同時に発売する。
転移装置との差分は入口から飛べることと、領地以外の場所に使えると言ったところだろうか。

その石の出来を確認するのを含めて、かねてからしたかった領地の視察をすることにした。
年一回の税収のタイミングで各町村からの報告は確認しているが、書面だけでは分からないこともある。
彼らは本当に辛いことは書いてくれるが、例えば孤児が多くなっただとか、識字率が低い、無職のものが一定数いるなどは、あまり報告書中書かない。
シャリオンはそう言った問題を減らしていきたいのだ。
文字が読めて書ければ働く先の窓口も増える。

そして、数日かけてすべての町や村を見終わった。
ハイシア領にある町や村は片手で足りるほどである。
全体的に災害などもなく安定して作物も畜産物も取れているようだ。
もっと安定をしたら、町や村、そして城下町を繋ぐ転移装置を作るのも良いかも知れない。

村長に話を聞いたり、村民に話を聞いたりもしたが特に困ったことがなさそうで何よりだ。
今のところ、貧困で困ってる村や町、孤児院は特に無さそうだった。
シャリオンが領主になるにあたって、まず貧困の格差を無くす様手をつけた。
そのおかげで、孤児は減少していっている様でホッとしている。

「問題は無さそうだね」
「その様だな」

視察を終えて城下町へ戻ることにした時だった。
ゾルから通常の魔法石を手渡された。

「シャリオンはこれで城に直接帰ってくれ」
「どう言うこと?」
「予定が出来た」

予定と違うことをすると言うことは問題があったということで、そうすることが最善と判断したからなのだろう。
それは分かっているが相変わらず過保護に言わないゾルには慣れている。

「本当の理由は?」

誤魔化せないと知ったゾルはため息をついた。

「城下町に困ったお客が来ている様だ」
「え、ルー?」

ルークが無断で来たのは記憶に新しいが、まさかまた来たのだろうか。
いや、その前に本当に門前払いをしているのかと、一瞬焦ったのだが。

「違う。・・・王太子にそんな扱いするわけないだらう」

どうやら先日のは冗談だった様で安心する。

「なら、ライ?」
「あの方は弟よりも根は真面目だ。
実際に来るとなったら使いをよこすし、今はガリウスにも知らせを入れるだろう」
「なら誰が来たの。教えて」
「・・・。教えたら城に直接飛ぶか?」
「それは聞いてから判断する」

これは『しない』と言ったようなものだ。
しかし、折れないシャリオンにゾルが譲った。
結局はシャリオンが主だからである。

「はぁ・・・。殿下の婚約者候補がきている」
「へぇ。・・・え。それでなんで?
僕に用事があるってこと?」

特に面会の知らせは来てなかった様に思うが。
しかし、それはゾルを見てたらなんとなくピンと来た。

「もー・・・どういう理由で来たか分からないけど、過保護すぎだよ。
どちらにしたってその方が伴侶になったら、結局繋がりができるんだよ?」

そう言ったシャリオンに何故か呆れた様にため息をつくゾル。

「繋がりなんて持たなくて良いだろう。
シャリオン。
いい加減世の中にはお前みたいのばかりじゃないと言う事は分かっているだろう。
誰しもが友好的に話を進められるわけじゃない」
「わかってるよ。
けど、相手は家族でこれから王太子の伴侶になろうって人物が、公爵に手を挙げると思う?」
「攻撃は物理だけではない」

その言葉には困ってしまうが、乳母兄からの心配に苦笑を浮かべた。

「ありがとう。ゾル。傷ついたときには慰めてね」
「・・・。その時は俺があの男に嫌味を言われるとしてもか?」
「ちゃんと今回も一緒に怒られてあげるよ」

いつかのように、そう言うとゾルは盛大にため息を吐いた。
そして、渋々こう呟いた。

「ガリウスには自分で一言言っておくことをお勧めする」

その言葉にお礼を言うと、秘術を使いガリウスに連絡をした。

☆☆☆

ハイシア領、城下町の門の外。
そこには多くの人が行き来していた。
商人や働きに来たもの様々だ。
転移装置が出来てもまだ領地内の移動は徒歩や辻馬車だ。

魔法石の使用感に問題はなかった事に安心をしつつ城に戻る。
戻るまでに会えればいいのだが。
外面用のゾルの表情は相変わらず読めないが、長年の付き合いから警戒しているのがわかる。

メイン通りを歩いていると、そのお客よりも良く領民に話しかけられた。
他の領地から来た人間に見られると驚かれるのだが、シャリオンはこの領地で育ちこの城下町は幼い頃にはよく来ていたから、話しかけられる事をなんとも思っていない。
むしろ嬉しいとさえ思っている。
城下町へ来れたのはシャーリーのお陰だ。

城の中から殆ど出られれなかったシャリオン。
ある日窓から街の方を見ていると、シャーリーが月に一度護衛とゾルを付けて街に出るのが許してくれていた。
今思うと、あれはレオンには内密だったかもしれない。
その城下町散策は、ライガーとの婚約が決まるごろまで続けられた。
祭の時の様に人が多い時は護衛の関係で出る事はしなかったが、月一社会勉強がてら遊びにやってくるシャリオンに領民たちにはよく知られているのだ。
幼い頃から愛らしくきらきらと輝く振りまき挨拶をするシャリオンは、誰にでも話しかけ大人から子供まで皆にもてはやされていた。
そんなわけで、特に昔から住んでいる領民にはすれ違うたびに話しかけれられ、それに答えながら歩くと進みは遅くなり目に見えてる城には中々つかなかった。
それどころか人がますます集まってきていないか?と、心配した所だった。

「ハイシア殿!・・・漸く・・・見つけたぞ!!」
「ミッ・・・ミクラーシュ様っ」

そちらを見れば赤毛に赤目をもったその彼は、フィラーコヴァー伯爵家の長男のミクラーシュだ。
最後に会った時よりもまた立派な体格になっている事に羨ましく感じる。
彼はシャリオンは勿論ルークよりも背が高く体格も大きい彼は、武術に長けているそうだ。
長男でなければ騎士団に配属する可能性もあったほどの人物である。

先日までは次期伯爵と言う肩書があったが、ルークの婚約者候補になるにあたって弟に家督を譲ったそうだ。
いわば婚約して結婚する以外道はない状態と聞いている。
シャリオンを見るなり余程探していたらしく興奮しているミクラーシュを従者が慌てて抑えている。
そんな様子に周りの領民が訝し気に眉を顰めた。
身なりは貴族の様だが、随分乱暴な言い回しであるからだ。
不味いと感じ取ったシャリオンはすかさず、省略的にボウ・アンド・スクレープをする。

「ミクラーシュ・フィラーコヴァー殿。お久しぶりです」

相手が『殿』呼びをしてきたからそれに合わせる。
挨拶をされたミクラーシュはそんな丁寧に挨拶されるとは思わなかったらしく、慌てて返してくれた。
探している間に頭に血が登っていったのだろう。
余裕がな無くなっている様子だった。

「なぜこちらに?転移装置の使い心地を確かめるためですか?
最近そう言った貴族の方が良く見えるのです」
「いや。貴方にお話があり参りました」
「私に?」
「はい。何度も申し込みをしているのに良きお返事が頂けず直接伺った次第です」

いや、良い返事をしてないなら諦めてくれ・・・。と、言いたくなるのを寸前でこらえ、表情は優雅に振舞いつつも困ったように微笑みを浮かべた。

「そうなのですか?
申し訳ありません。こちらに不備があった様です」

先ほどゾルからその様な工作が見て取れたが、あえて初めて知った様に答える。

「この後お時間はありますか?」
「っある」
「では、お詫びをさせて頂きたいのですが、昼食はいかがですか?」
「あぁ。こちらもお願いしたい」

その言葉にゾルは護衛と共についてきている使用人に目配せをする。

「今のは」 
「ご案内致します」

ゾルはミクラーシュの質問に応えずに辻馬車を捕まえにいった。
貴族の言葉を無視するなんて使用人(ゾルは側近だが)としては失格だ。
だが、そういう時ハイシア家の言葉は決まっている。

「ッチッ・・・ウルフ家め」
「申し訳ありません。うちの者が失礼を」
「!と、飛んでもございませんッハイシア家に仕えるウルフ家の者達はお話は存じております」

ついてきている従者は顔面蒼白である。
シャリオンは苦笑を浮かべた。
どうやら思った言葉がすぐに出てしまうタイプらしい。

ルーは苦労しそうだな

思わずそんな事を思ってしまう。

「先ほどの者はおそらくこれから行く屋敷に、迎える準備をする様に言いに行ったのでしょう」
「城でも構わないが」

親しい間柄ならその発言も気にしないが、いくらこれからルークの伴侶になる可能性があるとしてもこれはいかがなものなのだろうか。

「城では対したおもてなしを出来ませんので。
ご理解ください」
「っ申し訳ありません。ハイシア様。此方が突然押しかけたにも関わらず手配いただき誠にありがとうございますっ」
「いいえ。私も殿下の婚約者候補殿がどの様な方か気になっておりましたので、ちょうど良いタイミングでした」


・・・
・・


城下街の一等地。
ここには王都でないにもかかわらず、貴族の別荘もある貴族街。
貴族向けの宿泊施設や、店が立ち並ぶ通りだ。
そこから少し奥に入ったところにハイシア家の所有する屋敷の一つがある。
王都の屋敷よりも客人を招待することを目的として作られた屋敷で、広々と壮大な庭に、豪華に花々が彩られている。
利用者は主にハイシア家だが事前に申し込みのある貴族が利用することもできる。
社交会の会場としても利用できる施設で、年に何回かは使われているようだ。

転移装置のできた今。
それも減少していく事だろうが。


屋敷につくと伝達は間に合った様で、急にも関わらず十分に迎えられた。
そして、部屋にたどり着きソファーにかける。
食事が出来るまで軽食を摘みながら待っているのだが、男は始終硬い面持ちだ。
と言っても過去にも笑っているのはルークと話している時にしか見たことがない。

「酒を持って来させましょうか?」
「酔わせて何をさせるつもりですか?」
「・・・え?」

シャリオンが襲うと思われたのだろうか。
何時も他人からの目を気にしていたが、そう言われてみれば逆もあり得るのだ。
悪いことをしたと思いつつ、皆から『気を付けろ』と言われてる身としてはなんだか嬉しく感じてしまった。
表情がにやけないようにしつつ詫びをする。
先ほどから壁際に控えているミクラーシュの従者の鼻息が凄い。
彼も自ら家督を弟に渡し、逃げ道を絶った主人が心配でならないのだろう。

「婚前の貴方に配慮がないことでした。失礼しました。ではお茶を」
「いえ・・・やはり頂きます」

一度は拒否したものの自分が固くなっていることに気付いたのだろう。
冷静になろうとするが気が動転して言葉が出ない。
シャリオンはそれに追求せずに、何を呑むか尋ねる。

「なににしますか」
「適当に」
「わかりました」

その適当が分からないので、使用人に任せる事にすると、暫くして運ばれてきたのはレオンがよく好む蒸留酒だ。
同じ物を出してるかは、シャリオンの目では分からないが、言えるのは度数が高いと言う事。
それをロックで出してきた。
自分にも出されるのではないかと嫌な予感がしたが、ウルフ家の者がシャリオンの嫌がる物を出すわけがなかった。
出されたホワイトワインにホッとしつつ、ふとミクラーシュの視線に気付いた。

「なにか?」
「・・・いえ」
「もしかして、得意ではありませんか?」
「そんなことはないっ」

どうやら苦手らしい。
その気持ちはよくわかるし、得意でない物を無理に飲まれて倒れられても困る。
さっきも言ったように婚前で、王太子の婚約者候補だ。
そう改めて思いつつも、この行動は迂闊なのではないだろうか。
と、シャリオンにまで思われてしまう。
シャリオンの手元のホワイトワインを凝視してたと言うのなら、これは得意なのかもしれない。

「もしお好きならば、一緒にいかがですか?
私の好みのものになりますが、とても気に入っておりとても飲みやすいです」
「っ・・・ならば、頂きます。しかしっこちらも頂く!」
「あ」

酒を欲した割に呑めないと思われるのが癪だったのか、そう言うとグッと一気に煽った。
壁際に控えていた彼の従者のため息が聞こえてきた。
思わず酒が強さを確認したくなったが、そう聞くのは彼のプライドが許さないだろう。

首筋まで真っ赤に染めて睨む姿はもう酔っているのではないだろうか。
この様なことは普通ならしないし、親しい人物の前でしかしない。
今は公の場ではないから良いにしてもだ。

「私が好むのは弱いものだけど良いですか?」
「っ・・・あぁ」

今度はゾルのため息が聞こえたが、使用人に弱めの酒を準備させた。
後のことは任せるとシャリオンは彼に視線を戻す。

「今日の来訪理由は?」
「・・・」

目的があって相手から欲しい情報を得る様に誘導することもあるが、今のシャリオンにはそれがない。
故に遠慮なく尋ねる。

「私を邪険にしてる理由も教えて欲しいな。
ガリィと違ってあんまり回りくどいの苦手なんだ」
「・・・ガリィ?」

今のはシャリオンが悪いが他人から聞くその呼び方が、酷くつまらなく感じた。

「・・・。ガリウスの事」

はっきりと『呼ばないで』と言えたらよかったのだが、そこをぐっと堪えた。

「!そ、そうか」

気まずそうにするミクラーシュはもじもじと手を動かす。
一体何がしたいのだろうか。
困ってしまったシャリオンはその様子を見ていた。
自分よりも年上のこの男は一体何を聞きたいのだろうか。

「ルーのことを聞きに来たのですか」

先ほどの気まずそうな感じが一転し、ギロリと睨まれた。

「随分親し気に呼ばれるのだな」
「幼馴染なので」

そう答えながらシャリオンは驚いていた。
公式の場ではちゃんと殿下と呼んでいるが、シャリオンと王子達が幼馴染なのは周知の事実だ。

「知っている」
「・・・。殿下のことで何か用なのですか?」

伴侶になるにあたってやはり自分以外が親し気に呼んでほしくないという事なのだろうか。
少々シャリオンもムッとしたが、そこを言い争っても仕方がないことだ。
言い直したのだが、怒りは収まらないようだ。

この男は昔からそうだ。
シャリオンが挨拶をしてもあからさまな態度で挨拶をする。
そう言う人物なのかと思ったが、シャリオン以外には普通。
ルークに至っては満面の笑みで察しているところを見た事がある。

なんだか僕がルーと何かするのがつまらないみたいだ

何をしていると言っても会話しかしていないのだが。
まるで憎い相手を見る様に睨んでくる人物は珍しい。

「殿下の優しさを利用し、言い寄るのはやめていただきたい」
「ん?」

シャリオンが気聞き返すとミクラーシュは興奮して立ちあがると、こちらを見下ろしてきた。

「だから誑かすなと言っているんだ!」
「っミクラーシュ様っ」

従者の悲鳴に近い制止でも止まらなかった。

「貴方は何が目的だ!」
「・・・それは僕が貴方に聞きたいよ。
はぁ・・・。僕の勘違いだったら悪いのだけど。
貴方は殿下愛しているの?」
「っ・・・それを答える必要はない!」

少なくともシャリオンにとっては重要だ。
だが漸く理由が分かった。

「僕が愛してるのはガリィ1人だし、殿下・・・ルーは大切な幼馴染の1人だよ」

相手を刺激しないようにと言いなおすのはやめた。
どうせこの男が伴侶になっても、シャリオンが愛称で呼ばなかったらルークが気付くからだ。

「それ以上でもそれ以下でもない。
親が仲良くてそう見えるかも知れないけど、これは事実だよ」
「っ・・・嘘だ。
お前はルーク様を誑かしているっ」
「ルーを?・・・ないない。
たしかに、僕はライを愛していた時期があったよ。
けど、それでルーもとはならないよ」

2人は腹違いだがとても良く似ている。
しかし、だからと言ってそれはない。
ルークは友人として大切だ。
確かにそのほかの友人以上なところはある。
けれど、それは恋愛感情ではない。

「嘘だ!あんなに美しく凛々しく思慮深いお方のそばにいることを許されていて、好きにならないわけがない!
だから大公との婚約も破棄したんじゃないのか!
それで気を引くために次期宰相の男と結婚したんだろっ」

あまりの想像力の豊かさに呆気に取られた。
だが、思っている以上に拗れている様で、笑ってしまいそうになるのも通り越した。

「ちょっとまって。
僕がガリィを愛してることは否定しないでくれる?」
「そっ」
「しないで」
「っ」

静かに見つめると男は息をのんだ。
そして、こくりとうなづいた。
だがシャリオンは頭ごなしに怒鳴られてストレスが溜まっていた。
婚約者候補に何故そんなことを言われなければならないのか。
恋愛感情を持っていて、仲が良いのが面白くないというのは分かる。
しかし、ガリウスへの気持ちを否定されるのは面白くない。

「僕が愛してるのはガリィだけ。取り敢えず他のことはゆっくり理解してくれればいい」
「っ・・・」
「それとさっきのもいただけない」
「なんのことだ」
「『ウルフ家め』て言ったでしょう」
「たかが使用人」
「たかがじゃないよ。大切な使用人だよ」
「っはぁ?」

シャリオンは何度もウルフ家の者にすくわれている。
彼ら以外にだってハイシア家に携わる使用人はいて、その彼等にも助けられてている。
それをぞんざいに扱うことは許せなかった。
しかし、擁護した言葉が思っても見ない方向に話が飛躍した。

「っやはり、お前たちは・・・独立を狙っているのだなっ」
「え?」
「最初は半信半疑だった。
ハイシア家がサーベル国の傭兵を囲い戦力を高め、国家転覆をねらっていると。
しかし、ここ数日調査をして分かった。
城壁にも砲台があった!」

シャリオンはこめかみに手を当てながらため息をついた。
来訪者につくづく恵まれないなと、自嘲気に笑った。

「城壁の砲台はここ数百年使ってないし、肝心の大砲はとっくに撤去されて残ってないよ。
国の成り立ちと、うちの領地を調べればすぐにわかるから勉強し直してきて。
で、傭兵??」
「そこのもの達だ!」

そう言ってゾルや使用人達を指さした。
ウルフ家の者達は肌は白色だが、目の色はサーベル国特有の金色の目、そしてアリアディア人と比べ体格が大きいのが特徴である。

「彼等ウルフ家のものは確かにサーベル国の血を引く者だけど傭兵のために雇ってるわけじゃないよ」
「嘘だ!!」
「・・・。
なら傭兵だとしてどうやって国家転覆を図ろうと言うの。ウルフ家だけでは国の抱える騎士団の半分にも満たないよ」
「か、彼らは戦闘に長けて」
「そう。でもうちはご覧の通り内陸地だよ?
独立したとしても直ぐに攻め込まれる。
特に今は転移装置があるんだよ?」
「っ」
「それに。今のうちの状況で独立してのメリットは??
父上もガリウスも宰相という立場にいて、なんの不服があるというの」
「そ、それは、きっと面白くないことがあって、
内面から転覆を」
「はぁ・・・」

なんだか頭が痛い。
しばらく無言になり考えた結果顔を上げた。

「仮にも貴方は先日までは次期伯爵だったと記憶してたけど違かったかな」
「いや、今は弟に」
「先日まではと言ったでしょう?」

シャリオンの優しげな雰囲気は一切なくなり、その様子に気圧されている。
しかし、シャリオンは手を緩めない。

「今から厳しいことを言うよ。それを君がどう受け止めるかでこれからが変わる」
「!」
「もし、本気でルーの伴侶になりたいならもっと広い視野と落ち着きがなければ難しい」
「んなっ」
「勢いだけじゃ側室になれるかも危うい」
「き、貴様」
「さっき『聞いた』と言っていたけど、
それが誰かは聞かない。
けど、貴方がそれを鵜呑みにして動いた事に対しては抗議するよ。
ちゃんと裏をとって。
僕に直接確認するのも一つだけど決めつけないで。
僕が言った言葉を自分自身でも調べて。
ウルフ家は傭兵じゃない。
それは証明が難しいかも知れない。
けど、親友であるブルーノ陛下と父上の関係はどう説明するの?
彼等の中に亀裂が入ったというのなら、その根拠を示して。
それが揃ったなら、貴方だけでは確認にくいだろうからその時は僕も付き添うよ」
「っ」
「今日の話は貴方が『ルーク殿下を愛してる』と言う話しか聞いてなかった事にするから、よく考えて」
「っそんなことっ」
「ミクラーシュ殿」

シャリオンが一言名前を呼ぶと、続けようとした言葉を飲み込んだ。

「貴方は本当にルーを愛しているの?」
「っ・・・本当だ!俺は・・・あの方をずっと」
「だったらもっと彼が何をしたら喜ぶか考えて。
国家転覆をはかっているハイシア家を突き詰めるでも良いけど、ちゃんとした裏を取るべきだ」
「っ・・・」
「事実無根で逆に訴えられる状況だよこれは」

そう言うと、ミクラーシュは俯いた。
黙って考えている様子にシャリオンはつづけた。

「私が解明することも出来る。勿論、貴方を訴えるつもりはない。
どうする?」

すると、バっと勢いよく顔を上げた。

「俺が自分で調べるっ!」

その言葉にシャリオンはホッとして微笑みを浮かべた。

「そう。ではちゃんと何が正しいか調べてきて。
それで結局どういう事の真相か私に説明してくださいね」
「・・・ハイシア殿に?」
「父上にでも良いけど」
「・・・いや。迷惑を掛けたのは貴方にだ」

興奮して血が上っていただけな様で、漸く落ち着いてきたのか・・・それとも純粋にレオンが恐怖なのか。
だが、その返事はシャリオンを安心させた。

☆☆☆

結局、ミクラーシュは昼食を取らずに帰って行った。
突然来たから大したもてなしも出来なかったから良かったが、動かしてしまった使用人や料理人達には申し訳ない。

「・・・どうしよう。なんかおなかすかないや」
「昼食はしっかりと食べる約束ですよね」
「!ガリィ!・・・大丈夫だって言ったのに」
「知らせていただいてありがとうございます。
仕事が早く終わったので上がらせていただいたのですよ」

それはどう考えても早い時間だ。
シャリオンを安心させるための優しい嘘に気付かない訳なくて、もう一度訪ねる。

「父上になんか言ったの?」
「少々体調を崩したようだと」
「そう。・・・ありがとう」

その返答にホッとする。
体調を崩したから見に帰るなんて、過保護だと思うが先ほどのことをレオンに知られるのは不味い。

「ルーにも言っちゃ駄目だよ?」
「駄目ですか?」

そう言いながら小首をかしげるガリウス。
そんなガリウスは滅多にない。

「か・・・可愛く言っても駄目」
「残念。せっかく候補者から引き摺り下ろそうかと思ったのですが」
「え」
「恋愛感情で暴走したためでシャリオンへの無礼を見なかったとしてもです。
アレは不味いですね。救いがあるかと思ったんでが」
「ん?困るところはあるけれど、良いんじゃないのかな」
「本気で仰っているんですか・・・?」

眉を顰めるガリウスにシャリオンはクスリと笑みを浮かべる。

「あのままじゃダメだろうね。
でもルークを本気で好きなのは良いと思う。
知らないことは勉強すればどうにかなるんじゃないかな。
あの人次期伯爵だっていうけど・・・なんか」
「騎士っぽいですね。あのうざ・・・熱血なところが」

そう言いながらガリウスはため息をついた。

「それ以前にルーク様がお気に召すかどうか」
「気に入らなかったなら、後から告白された人物も候補者にしようなんて言わないんじゃないのかな」
「果たしてそう言う感情でしょうか」
「違うかな・・・」

ガリウスへの気持ちを疑われたことやウルフ家を見下すような発言は腹が立ったが、
大元はルークを想っての暴走である。
どうせ伴侶や側室になる人は、家の事ばかりではなくルーク自身を愛してほしい。
・・・そうは言っても自分も最初ガリウスを選んだのは家の為だ。

「・・・。私の悪い癖です。ルーク様を愛してくださる方が一番です。
・・・それより」

なんだかもや付いていると、シャリオンの顎をクイっとすくわれて上を向けさせられた。

「先ほどの嬉しかったですよ」
「先ほど?・・・、・・・!もうっそんな前から聞いてたの?」
「すみません」

そう言いながら唇をちゅっと啄まれる。

「本当は・・・僕がガリィを愛していることは、ガリィだけ知っていればいいことなんだけど。
・・・他の誰かを想っているて思われるの嫌だったんだ」
「シャリオン」

その呼び声は甘くとろけるような嬉しそうな声だった。
それからバードキスを繰り返し、激しくなりそうなそんなタイミングだった。

コンコンと、扉をノックされ弾かれるようにそちらを見ると、やはりゾルであきれ顔だ。


「泊りの手配はしていないんだが」
「っ・・・帰るよ」
「義兄さんは舅のようですねぇ」
「貴様の兄なった記憶はない」

心底嫌そうな声を出すゾルにシャリオンの方が慌てる。

「ゾッ・・・ゾルッ・・・ここは城の部屋じゃないんだから」

慌てるシャリオンにガリウスはクスクスと笑った。

「はぁ。・・・お前たちは城に帰れ。
子供達が昼間にシャリオンが現れなかったことにご機嫌斜めだそうだ」
「え。そうなの・・・?時間把握も出来ちゃってるのかな・・・凄いなうちの子は」
「・・・。料理は城に持っていくように手配しておく」

そういうとゾルはさっさと帰れと言う様に手を振ってきた。
シャリオンとガリウスは顔を見合わせる。
ゆっくりと歩き出すと数名の護衛を引き連れながら、城へと帰っていったのだった。


☆☆☆

その日の夜。
今日は朝から町村の視察もし、あんなこともあって本当に疲れた。
ベッドに沈みこみながら撫でられるその掌の温かさは、疲れをすべて取ってくれているかのようだ。

「・・・まほう・・・?」

眠気のなかでいつもより幼げな声で尋ねればガリウスはクスリと笑った。

「シャリオン専用のね」

柔らかな声に、フッと微笑んだ。

「ぼくも・・・ガリィにできたら、・・・いいのに」

そう言って手を伸ばして頬に触れた。
でも、そこまでだった。
エネルギーが切れた魔法人形のように動かなくなったシャリオンにクスリと笑みを浮かべつつ、ちゅっと唇に触れた。返したいのにもう眠くて仕方がなかった。

シャリオンはそれに抗えたのは数回で、すっと眠りの底へ落ちて行った。
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