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執着旦那と愛の子作り&子育て編

予定より大分早い。

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領地の城で執務室。
仕事がひと段落したところで、執事から来訪者の名前を聞いたシャリオンが訝し気にしたのに気づき、まだ聞いてもいないのに答えを教えてくれる。

「転移装置の設置が終わられ、すぐにこちらに参られたようです。
お会いになりますか?」

予定よりも大分早いが、それで追い返すことはない。
むしろ早い分には良いし、仕事も今はタイミングいい。
まぁ、タイミングはこの執事が計ってくれたのだろうが。

「うん。こっちの仕事はひと段落着いたから大丈夫。
サロンに通してくれる?
あと子供達も連れてきてもらえるかな」
「かしこまりました」

そう返事をすると、執事は丁寧にお辞儀をすると部屋を出ていった。
思わずゾルに視線を流す。

来訪者はセレスだった。
元々の期日よりも大分早く終わらされると宣言したのに、さらに少し早く終わらせてくれたようだ。
休みは与えているというが、疑わしく思ってしまう。
そもそも、急かさなくて良いと言ったはずだ。

「詳しくはしらない。
あの男なりに子供達が心配だったのだろう。
聞いてみたらどうだ?」

あの男とはガリウスの事だ。
秘術を使えば簡単に確認をすることは出来るが今はガリウスを信じよう。
シャリオンは首を横に振る。

「いや。いいよ」
「些細なことでも連絡されたら喜ぶんじゃないか?」
「それは、そうだけど。
でも、仕事の邪魔をしたくない」
「あの男は邪魔だとは思わないだろうがな」
「ガリィはいつも僕を優先してくれるからね・・・。
いつも僕のために最善を尽くそうとしてくれる」
「余計なことだったか?」
「まさか。そんなこと思ってないよ」

ガリウスがしていることに対してシャリオンがそんなことを思うわけがない。
苦笑して言えば、やはり彼は笑った。

「でも、それに甘えてるだけでは駄目だと思うんだ。
嫌な事や辛い事から逃げても何もならない」

そんな姿を見せたらガリウスは全力で排除するだろう。
例えシャリオンがやらなくて良いと言っても。
甘いのだ。シャリオンにガリウスは。

「僕も親になったのだから、そんな所を子供達に見せるわけにはいかないからね」

そういうとシャリオンが立ち上がると、ゾルもそれにつづいた。

☆☆☆

部屋に入ると華やかで可愛らしいピンクが目に入る。
シャリオンの入室に気付いたセレスもこちらに視線を向け立ちあがった。


それに構わず座っているように手で示すと、後ろから聞こえた物音に視線を向ければ、今度は子供達がもこちらに着いたらしい。
シャリオンの到着に合わせていたようだ。

可動式のベッドが複数人の使用人達に守られながらこちらに入ってくる。
ベッドの中の子供たちを見ればシャリオンを見て、きゃっきゃっと反応している。
どうやら先日のような不機嫌な様子はなく、微笑みを浮かべるシャリオン。
半月の間流し続けていたセレスの魔力は功を奏したらしい。

「シュリィにリィン。ほら、以前にあったことのあるセレス先生だよ。ご挨拶は?」
「あぅー」
「あー!」

その言葉に合わせるように2人は挨拶をし、手足をパタパタさせている。

「やっほ~」

既視感のあるフランクな感じで話すセレス。
初めてこの姿であってからずっと考えているが、未だに誰か思い出せない。
まぁそれはさておき、予定よりも大分早く疲れていると思ったのだが、それ程ではないようだ。

「おかえり。セレス。お疲れ様」

労う様に言えばセレスは驚いたようにこちらを見たが、視線を逸らした。
なにか不快なことでも言ってしまっただろうか。
以前のセレドニオは大人の壮年の男性と言った感じだったが、今は同年代の青年と言う見た目だ。
もっと言ったらその口調からは年下にも見える。

「あぁ。王都に暮らしだったかな。馴れ馴れしくて申し訳ない」
「!・・そういう事でなくて。
んー。
そもそも王都にボクの居場所はないかな」

セレスは苦笑しながらそう言うと、シャリオンが何を考えているのか分かるのか、おちゃらける様につづけた。

「まぁでも。ハイシア様がお許しいただけるならここの領地に住もうかな?」
「もちろん良いよ?なんならこの城に住む?」

城下町に住居を探すとなると時間がかかるし、確実に開いているかはわからない。
しかし、この城は要塞などのような戦目的に作られたものではない為、部屋が多数ある。
イメージとしては宮殿に近い。
確かに国として構えていた時代に建てられたものなので、過去には戦の為の部屋がいくつもあったし小高い山のような傾斜の上に建てられているが、今は内装は造り替えられている。
砲台などは跡としか残っていない。
城壁の見回りは他者からの進撃を備えてと言うものではなく、よからぬ侵入者を防ぐためである。

持て余している部屋は多数あるなら、そこにセレスが住むことも問題がない。
と言うか、思い付きで言ったのだが、中々いい案だと我ながらに思った。
振り返り執事に視線を合わせれば何も言わずとも理解をしたのかこくりと頷く。
そして傍にいた使用人の一人に指示をすると音もなく部屋を出て行った。

「え」

セレスは冗談で言ったのだが、まさかそうなるとは思ってなかったようで、間の抜けた声を出した。

「よろしくね」
「えーっと・・・ボクは子供達の教師だよ??」

シャリオンはあまり貴族としてのプライドと言うものはない。
勿論教えられているので、そう言ったものがあると知ってはいる。
それはシャーリーの教えてによるものだ。

シャーリーは陛下の寵愛を一身に受けている側室のルーティーと仲が良い。
親友と呼べるくらいには仲が良いのだが、側室となり後宮に入るまで、男爵と言う身分で馬鹿にされたりするのを、傍で見て不快に思っていた為、シャーリーから徹底して偏見や爵位での差別はしてはいけないと教えられたのだ。

セレスが困惑しているのは分かるが、その理由は余り良くわかっていないシャリオンは首を傾げた。

「うん。そうだね。あー子供達と部屋が近い方がいい?」
「シャリオン様。それはいかがなものかと思います」

公爵家のそれも後継ぎになる子の部屋の近くに、いくらシャリオンの命令とて簡単には許容できなかったのだろう。
そもそも相手はあのである。

シャリオンがそう尋ねるのと同時に、厳しい声色のゾルが引き留めた。
口調にどうやら許容できないことを言ったのだと理解するシャリオン。
それは差別ではなく区別の様だ。

貴族ではないセレスが同じ居住区での生活は許されないかと理解する。
教師とは言え距離は大切である。ゾルも乳母兄弟として育ったが距離と節度を保たれていた。
今でこそこの口調だが、今だってその距離は保たれている。
他のウルフ家の者達よりも、ほんの少し近いだけである。
すると、止めたゾルを肯定する様にこくこくとセレスが頷く。

「そーです。側近の方の言う通りです。
えーっと。ハイシア様はとても心優しいことは良く知ってるよ?
盗賊団の為に一肌脱いじゃうような、他の貴族には無いようなことも出来てしまう人だって。
でも・・・えーっと、皆にこういう感じは良くないんじゃないかな・・・?」

とても言葉を選んでいるセレスにシャリオンはクスリと笑った。

「いや。この城の中に住めば近いし楽かなと思ってしまったんだ。
それと誰でもってわけじゃないよ?
良く距離感を間違えてしまう事があるみたいだけど、僕にはゾルが居てくれるからその辺は大丈夫」

そういうと、セレスが一瞬ゾルを気の毒そうに見ただが、すぐに視線をこちらに向けた。

「そーいうことじゃなくてね・・・?」
「今から空き部屋探すのも面倒だろうし、転移装置があったとしても寝泊まりしている家に戻るよりも効率が良いんじゃないのかな」
「あー・・・はい」
「じゃ。良いよね。まぁもう準備してるみたいだから一日でも泊って行って、居心地が悪ければ明日以降にでも部屋を変えて良いから」
「、・・・わかりました」

何か言いたげだったが、セレスは苦笑を浮かべた後最終的にはコクリと頷いた。

「ところで・・・。大分早いけれど疲れていない?」
「いえ。大丈夫だよ」
「無理させたんじゃないかな。いや。僕としては嬉しいんだけど・・・。
あ。そうだ、ゾル。魔法紙を準備して」
「はい」

持ってこさせた紙に契約事項をすらすらと書いていく。
そして、セレスの前に差し出したのだが、驚いたように目を見開いた。

「あぁ・・・。セレスがハイシア家に抗えないことは知っているけれど・・・。
これは必要なことだと思うんだ」
「・・・、」
「僕だけの意見ではなく、ガリウスや他の者にも聞いているけれど、ここに書いている規則に疑問はあるかな」

こちらが望んだのは子供達に正しく魔術を教える事が要望で、そのほかに給金や休暇のことまでが記述されている。
転移装置を設置してもらったことも、これからこの領地の収益見込みとなる廉価版の魔法石製作もセレスに掛かっているのだ。

「不満があれば何でも言って欲しい」
「この内容に不満なんて無いよ・・・」

驚いたように魔法紙を見つめるセレス。
この容姿で忘れがちだが、彼は自分より一回りは離れている。
その彼がOKを出したのだから常識範囲内だったのだろうか。
シャリオンは当然ならが自身が給金をもらう立場になったこともないし、相場というものがわからない。
だから金額を提示してそれが少ないかどうかを判断するしかなかったのだ。

「ハイシア様。やっぱり訂正したい」
「なにかな」
「ボクをこの城の使用人の部屋の一室において欲しい」
「使用人部屋?・・・空いてる?」

シャリオンとしては人としての尊厳が保たれる部屋があるならどこでも構わない。
ちらりと執事を見ればコクリと頷いた。

「あいてございます」
「そう。・・・ならそっちに変えてもらえるかな」
「かしこまりました」
「お願いね。・・・あとは何かあるかな」

後半はセレスに尋ねた質問だ。

「食事を付けてもらえないかな。勿論使用人達の食堂が良い。
ボク堅苦しいの苦手なんだよね~。
あと、ここのルールとかも教えてもらいたいし」
「あぁなるほど。そういうのもあるね。失念してたよ。食事は勿論構わないよ。それで話を通しておく」
「と、なると給金はいらないや」
「え?」
「ボク。欲しいものは特にないというか。
いや、あるんだけどお金で買えるものじゃないんだよね」
「でも働いた対価は必要だよ。
転移装置の設置で休暇や給金の支払いはあったの?」
「休暇はあったよ。給金は任せてるから分からない」
「任せている・・・?」
「ハイシア様と同じだよ。自分の財産を把握していないでしょう?」

そう言われてみればそうだ。
聞けば食事は毎日出ていたし制服も支給されていたので、自分で現金を使っていなかったそうなのだ。

「でも欲しいものが出来るかもしれないじゃない」
「出来ないよ」
「・・・僕は君を奴隷にしたいわけじゃないんだよ」

そう言うとセレスは暫くこちらを見た後、小さくため息をついた。

「ハイシア様は見た目と反して頑固だよねー」
「僕は当然なことを言っていると思うけど」
「いんや。ボクはいわばハイシア様のことを監禁した加害者だよ?
それが大した刑罰もなくこうして仕事をこなしていればいいだけで殆ど自由にしてもらえているのに、
衣食住や給金まで与えるのー?
普通なら処刑になっているような人間を生かしてるのも可笑しいのに、『普通の平民』のような・・・。
いや。それ以上の権利を与えている」
「それは」
「ボクが色んな不幸な人間をつくりだしたことも忘れないで」

贖罪の意識なのだろう。
まっすぐな視線に、シャリオンは反省をする。

「・・・すまない」
「偉そうなことを言ってごめんね。
でもその代わりお子様たちにもちゃんと魔術を教えるし、この領地の収入源の魔法石も頑張って作るから期待しててね!」

そう言ってセレスは微笑んだ。
それから少し話をして、転移装置の設置の際に衣服が支給されていたのは『国の使者』と言う立場であるためであり、教師としての制服はないことを説明する。
そうなると、衣服は自分でそろえる金が必要になるので、給金は提示金額の半分を用意することで漸く納得してくれた。

☆☆☆

その日の夜。
返ってきたガリウスにそのことを話すとクスリと微笑んだ。

「それはセレスは戸惑ったでしょうねぇ」
「えぇ・・・?やっぱり僕が可笑しいの?」
「条件が良いのは確かですよ。しかし、彼には自身は罪人だという意識がありますからね」

実際のところはほぼ『奴隷』であるというのは変わらない。
彼を生かして欲しいと願ったが、その条件はハイシア家に歯向かわない事。
後から聞いてもセレドニオの魔術どころか黒魔術師としての力量も最高クラスで、裏切りも懸念してそう言った誓約を交わしたのだと理解できる。
けれど、先も言ったようにシャリオンは人を奴隷として扱うには抵抗がある。
それが偽善だともわかっているのだが。

「贖罪・・・だって分かってたんだけどね。
そんなに甘いこと言っている様には感じなかったんだけれど」
「平民にしたら楽な仕事ですから。
それに、・・・つまり彼はこれまでもっと劣悪な環境に居たという事でしょう」
「・・・そうだよね」

自然と声が暗くなったシャリオンにガリウスが頬を撫でる。
そして自然と少しだけ話題を逸らした。

「私から一つアドバイスがあります」
「ん?」
「今回はセレスだったので良いですが。
交渉としては60点ですよ」
「そう・・・かな」
「周りに提示金額が低くないか尋ねることは良かったですが、適正価格かどうか確かめる必要があります。
例えば交渉相手がどんなに欲しい相手でも、いきなり100を提示するのではなく、適正価格よりも少々低めを提示するのです」
「え?・・・でも相手を安く欲しい訳じゃ」
「そう言った考えをシャリオンが持っているなら、それは締結後に引き上げればいい。
交渉の場で最初から適正価格よりもはるかに上の金額を出してしまったら相手は、こちらの足元を見てあれもこれもと要求してくる可能性があります。
そうなっては取引も出来なくなってしまう可能性があります」
「なるほど」

シャリオンは領地の為にあれこれ考えたり物事を勧めたりはするが、交渉はあまり得意ではない。
指定されたらそのまま飲んでしまう所がある。
しょぼんとしているとガリウスに額にちゅっと口づけられる。
慰めてくれている様だ。
見上げれば美しいアメジストがこちらを見下ろしてきている。

「大丈夫。よっぽどのことがあったらゾルが止めてくれます。
だから貴方はしたいようにしたらいいのですよ。
それに貴方はそれを吸収する力がありますから、次は間違いません」
「・・・うん」

不思議にガリウスにそう言われるとそんな気持ちになってくる。
シャリオンはコクリと頷いた。


「それでセレスは何時から子供達を見てくれるのですか?
・・・とは言っても、会話が出来る訳じゃないですし、暴発しそうなときなどに教えるなどくらいしかまだ出来そうにありませんが」
「うん。もう明日からしてくれるって」
「そうですか。早めに魔力コントロールを覚えてもらわないとですね。
これからたくさんの人に会うことになるので」
「うん、そうだね」


人を傷つけるために魔術を使うのではなく、正しい魔術を使えるように覚えて行って欲しい。
そう思うシャリオンなのだった。
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