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執着旦那と愛の子作り&子育て編
【別視点:ガリウス】言えないことが増えていく。
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早朝。
普段より少し早い時間。
隣ですやすやと眠るシャリオンを撫でると無意識にすり寄らせた。
そんなシャリオンの額に口づけるとクスクスと笑う声。
「シャリオン・・・?」
声を掛けたがシャリオンは目を開けない。
笑ったのは夢の中で楽しいことでもあったのだろう。いまだすやすやと寝息を立てている。
そんなシャリオンに軽めの睡眠の魔術をかけた。
振動で起こさないためだ。
寝具から降りると唇に口づけたが、反応しないことに寂しく思いながらも、ふと隣の部屋から気配を感じる。
部屋の中を寝室から透視と盗聴の魔術で隣を伺えば、どうやらゾルの様だ。
まぁ調べなくとも分かっていたが。
小さくため息をつきながら寝室を出た。
☆☆☆
仕事に向かう準備を整えてから、ゾルのいるだろう部屋に向かった。
人の顔を見るなり後ろを一瞬見たがすぐにこちらに視線を戻した。
「直前に?」
「えぇ」
ゾルが聞いたのはシャリオンを起こすタイミングだ。
理解が早いのはすぐにシャリオンが入ってこなかったからだろう。
優秀なシャリオンの側室であるゾルは、ガリウスがたった5mの距離だったとしても、シャリオンと共に行ける場所なら待つ性格だというのが分かっている。
だからついてこないという事は、起きていないという結果になったのだろう。
秘術である伝心で相変わらず繋がってはいるが、2人の時間の時は結界を張っている為、話しかけようとしても繋がらない。
「わかった」
「そんなことを確かめに?」
「シャリオン以外には相変わらずせっかちな奴だ」
「貴方に言われたくありません」
しかめ面をしてこちらを見てくるゾルにため息をつく。
「シャリオンに用事ですか?」
「いや」
軽口はそれくらいにして、そう尋ねればゾルの返答にガリウスはリビングのソファーに掛けた。
間髪置かずに茶を準備をされ、目の前に置かれた。
こんな口調をしていても、以前はこの領でシャーリーのサポート件、執事をしていたわけで、何も言わずともガリウスの好む茶葉のお茶を用意してくれる。
ハイシア家の血を引いていなくとも、シャリオンの伴侶と言う事で多少は気を使われているようだ。
それに口づけると、そちらに視線を向ける。
「城で会うというのに朝からと言う事は緊急事態と言う事ですか」
であれば、ソファーに掛ける猶予もくれなかっただろうが、ゾルは意外にもコクリとうなづいた。
ガリウスにゾルを使い緊急な用事を寄こす人物は1人しかいない。
「あぁ。すぐにでも知らせるようにとのことだったが、昨晩は緊急でも入れなかったからな」
「それはすみません」
「俺より出勤後にレオン様に何か言われるだろうな」
「(何をしていたか)言ったのですか?」
「結界の中で話せないことは伝えた。
急ぎの用件を伝えられなかったことを報告しないわけないだろう?」
確かにそうだ。
だが、適当に就寝しただとか言ってくれればよかったものを。
・・・いや。レオン様は起こさせますね
一応。
家族だと大切には思ってくれているようなのは、レオンの態度で分かる。
まぁ・・・認めてくれはいるが相変わらず、シャーリーとシャリオン、それに孫に冷たいのは変わらない。
「結婚してもう一年以上経過し、子供も出来ているのに・・・困ったお義父様だ」
そういうとゾルはクスっと噴出した。
「仕方ないから諦めろ。
・・・で、問題のその用件だが・・・王子の婚約者候補のうちの1人がおかしな動きをしている」
王子とはルークの事だ。
結婚をすると言って指名をしようとしていたところに、別の家から婚約の申込があった。
それも夜会の時に、大勢の人がいる中の出来事だったらしい。
ルークに『婚約してください』と言ったそうだ。
既に、婚約の打診を済ませていたのだが、何を思ったのかルークはその人物も『候補者』にすると言い出した。
「あの兄弟は執務には問題無いのに、何故自分の事になると碌でも無いことをするのか」
何度思い出しても頭が言いたい。
こめかみに手を当てながらため息をついた。
まさかこの事態をシャリオンに気付かせたいのだろうか。
そんなことが一瞬浮かぶ。どうか勘違いであってほしい。
「兄の方はまともになっただろう」
「独身を貫くと言ってるのが何処がまともなんです」
「仕方がないんじゃないか?
お前だってシャリオン以外との婚約なんて見向きもしなかっただろう」
「子爵の次男を、王族の第一子や次期国王と同じにしないでください。・・・はぁ」
「シャリオンにも困ったものだな。色んな男を引き寄せる。・・・いや。男だけじゃないか」
可笑しそうに笑うゾルをジロリと睨む。
「事実だろう。
弟だってあれは自棄だな」
「それ。シャリオンにもルーク様本人にも言わないでくださいね」
「言うわけがないだろう。
何故俺がわざわざシャリオンの悩みの種を増やさなければならない。
今シャリオンが優先すべきは、子供のことと領地のことで十分だ。
耳に入れればきっと力になろうと動くに決まってる。
むしろ、俺はお前に耳に入れるなと言いたいくらいだ」
「聞かれたら言いますよ。嘘をつかない約束なので」
「得意の舌先で誤魔化せ」
「完全に言わないなんて無理です。
シャリオンは可笑しいと思ったら自ら行動する性質なのは知っているでしょう?
1/10くらいで伝えますよ。
で、困った事というのは何です」
「伯爵家の婚約者の方がシャリオンを敵視している」
「詳しく」
「アシュリーの髪と目の色をどこかで嗅ぎつけたようで、それが騒いでいる。
王子との子供なんじゃないかとな」
「面白くない冗談ですね」
顔から表情が一気に抜けてく。
視線のあったゾルが小さくため息をついた。
「俺に八つ当たりをするな」
「してませんが?」
「その表情をどうにかしろ。
アシュリーとガリオンは間違いなくお前達の子供だとわかっているのは、ハイシア家の者と挨拶に行った家のみだ」
城で見られたのか、それともどこかの家から漏れたのか。余計な事をしてくれる。
ただでさえアシュリーの容姿についてシャリオンは敏感になっているようなのに、
その話はシャリオンの耳に入れたくはない。
「それで正式にハイシア家に事実確認の書状がきた。
それをご覧になったレオン様がお怒りになられてた状態だ」
「なるほど」
だったらなおの事、城で話して欲しかった。
幸いなことにシャリオンは今ガリウスの魔術でしばらくは起きないが、耳に入ったらどうするつもりなのだろうか。
それを聞かせないようにすると分かっているから、ゾルに指示をしたのだろうが。
だが、その状況で急ぎ知らせるようになったのに、部屋から出てこないことを知られたのは、間違いなく面倒だ。
レオンのシャリオンに関しての絡みは酷くめんどくさい。
「困りましたねぇ・・・」
何か話をそらせる材料がないか探しつつ、その婚約者の行動のおかしさに目が付いた。
結婚申し込みをした癖に、そんな事を暴いてどうしたいのか。
これで、子供がルークの子供という結果ならどうするつもりなのだろう。
王家に?いやそれともハイシア家に抗議したいのだろうか。
「サーベル国の戴冠式に、シャリオンが指名で招待されてるのも問題視しているようだ」
「どこから漏れたんでしょうねぇ」
「それについては調査中だ。
だが・・・知っている情報に偏りがあるのも可笑しい。
招待のことを知っているのに理由は知らないようで、王族を差し置いて他国の王族と親密になるのは転覆をはかっているんじゃないかと、他の貴族に言いふらしている」
「シャリオンのお陰で兄弟争いの終止符が打たれ国王になれたこと特に口外していませんからね」
「公にしたところでどうだろうな。
宰相として王家を掌握するつもりなんじゃないかとも言ってもいる」
「言動が可笑しいですね。
シャリオン個人と言うより、ハイシア家を疎ましく思っているのでしょうか」
その路線も十分に考えられる。
上流階級の貴族たちは特に裏では良く思っていないはずだ。
「次期宰相も辞退したいくらいですがねぇ」
『夢物語』の話をした後では特にそう思ってしまう。
もともと、レオンにスカウトされて側近の1人となったが、なりたくてなったわけじゃない。
シャリオンが次期候補になった時は全力でサポートしようと思ったし、指名されたならその期待を裏切るつもりはないと思っているが。
「シャリオンに次期宰相にお前が丁度いいと薦めたのは俺だ。悪かったな」
「結果的に『領民』と結婚すると言い始めなければ、レオン様はもう少々手強かったとおもいますので構いませんよ」
レオンはシャリオンが相手を連れてきたら、最終的には了承していただろうが、それと比べたら自分の評価は高いのは理解している。
「それにしても、相手・・・は、なりふり構わずだな」
「あの方は、ずっとルーク様を慕ってましたからね」
「その様だな」
ルークの婚約候補者は一人は公爵家、もう1人は伯爵家の人間だ。
アルカス公爵家の末息子で表の評価は高いアンジェリーン。
王家の血を引いているのを証明するかの様に、金髪碧眼で小柄の体躯を持ったアンジェリーンはシャリオンには劣るが、美しいと評判である。
以前の婚約者選抜の時は、断っていたにも関わらず、今回は応諾を示した。
そして、夜会にてルークに婚約を申し込んだのは、フィラーコヴァー伯爵家のミクラーシュだ。
彼は長男であるが、早々に弟に家督を譲っている。
ルークを慕っているのは見ればわかるし、本人も気付いている。
浪費癖の伯爵家の娘と破談になった時も、何度も申し込みがあったというのに、何故今更『候補者』だとしても認めたのか。
「本当に余計な仕事を増やしてくれますね」
「なんだ。同じく片思いをしていた相手に同情はしてやらないのか?」
チラリと見れば揶揄っているような視線に眉を顰めた。
「どこにそんな要素があると言いうのですか。
そもそも、シャリオンに害になりそうな相手に何故そんなことを」
「そうだな」
「・・・。ですが。
そうですね。良い子にしているなら手を貸しても良いですが」
「・・・王配候補に随分と上から目線なことだ」
ゾルの言葉に口角を上げてフっと笑った。
こんな立場であると、2人の話はよく聞く。
上っ面は良いアンジェリーンと、
実直ではあるが少々思慮に欠けるミクラーシュ。
扱いやすいのは一目瞭然だ。
「むしろ思い通りに話が進むのなら感謝してもらいたいくらいです。
が。・・・相手の動向がわかりません。
お世辞にも頭の回転は言い方ではなかったので、裏があるとは思いにくいですが。
少々様子を見ましょうか」
「レオン様がそれを待ってくれれば良いがな」
「一晩おいて怒りは収まったでしょう」
それに今は隣にシャーリーがいるのだ。
きっとレオンの怒りに勘づき慰めてくれているだろう。
シャーリーが王都に来てくれたおかげで、レオンは仕事で嫌なことがあってもすぐにリセットされるようになったのは本当に喜ばしいことである。
「ゾル。3人のうち1人をフィラーコヴァーに付けて下さい」
「俺が付こう」
そう言ってどこからともなく現れたのは、少し肌が焼けたゾルだ。
サーベル国でカイザーの元で修業をしに行って返ってくると、こんな風に少々変わっていた。
どうやら完全に裏方に徹することに決めたらしい彼は、他の2人とよく見ると違いが分かる。
「公爵の方は良いのか?」
「ここはウルフ家の守るハイシア家の領主城ですが、守りが手薄になるのは困ります。
常時2人でシャリオンを守って下さい」
「「「わかった」」」
声が三つ重なり、振り返ればどうやら最初から3人いたらしい。
相変わらず隠密スキルが高いことに関心する。
「公爵の方は別の駒を使います」
「・・・赤蜘蛛か」
「えぇ」
「大丈夫なのか」
彼女達・・・特にクロエはゾルに取り押さえられている。
実力を気にしているのだろうが、彼女達に依頼をするのは諜報だ。
「戦闘にならなければ、彼女たちは問題はありません。
むしろ、貴方がたより目立たないでしょう」
「そうだな。・・・そうだ。セレスに変身の魔法石を造ってもらえないか」
確かに。今後それは必要になりそうだ。
ガリウスは頷くと時計を見た。
「えぇ。聞いておきましょう。
さて。・・・そろそろ城に向かいます」
「「「あぁ」」」
そう返事をすると、2人のゾルは瞬きをしたらそこから消え、最初の通り1人になっていた。
ガリウスは最後に茶を飲み干すと小さく息をつく。
子供の達の強すぎる魔力の事でも頭が一杯なのに、余計なことが増えてしまった。
シャリオンには勘付かせたくない。
思考を巡らせて、良い材料を見つけた。
「セレスを早急に呼び戻しましょう」
シャリオンの気を引くにはちょうどいい人材だ。
そう呟くと、ガリウスは最後に寝室を覗いた。
自分が掛けた魔術はしっかりと効いているようで、シャリオンの起きる様子はない。
「・・・」
頬を撫でると愛しさが止まらない。
身をかがめると、『最後』と自分に言い聞かせながら名残惜しそうにシャリオンに口づけると、ガリウスは後ろ髪を引かれながらも、王城に向かったのだった。
普段より少し早い時間。
隣ですやすやと眠るシャリオンを撫でると無意識にすり寄らせた。
そんなシャリオンの額に口づけるとクスクスと笑う声。
「シャリオン・・・?」
声を掛けたがシャリオンは目を開けない。
笑ったのは夢の中で楽しいことでもあったのだろう。いまだすやすやと寝息を立てている。
そんなシャリオンに軽めの睡眠の魔術をかけた。
振動で起こさないためだ。
寝具から降りると唇に口づけたが、反応しないことに寂しく思いながらも、ふと隣の部屋から気配を感じる。
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まぁ調べなくとも分かっていたが。
小さくため息をつきながら寝室を出た。
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「直前に?」
「えぇ」
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理解が早いのはすぐにシャリオンが入ってこなかったからだろう。
優秀なシャリオンの側室であるゾルは、ガリウスがたった5mの距離だったとしても、シャリオンと共に行ける場所なら待つ性格だというのが分かっている。
だからついてこないという事は、起きていないという結果になったのだろう。
秘術である伝心で相変わらず繋がってはいるが、2人の時間の時は結界を張っている為、話しかけようとしても繋がらない。
「わかった」
「そんなことを確かめに?」
「シャリオン以外には相変わらずせっかちな奴だ」
「貴方に言われたくありません」
しかめ面をしてこちらを見てくるゾルにため息をつく。
「シャリオンに用事ですか?」
「いや」
軽口はそれくらいにして、そう尋ねればゾルの返答にガリウスはリビングのソファーに掛けた。
間髪置かずに茶を準備をされ、目の前に置かれた。
こんな口調をしていても、以前はこの領でシャーリーのサポート件、執事をしていたわけで、何も言わずともガリウスの好む茶葉のお茶を用意してくれる。
ハイシア家の血を引いていなくとも、シャリオンの伴侶と言う事で多少は気を使われているようだ。
それに口づけると、そちらに視線を向ける。
「城で会うというのに朝からと言う事は緊急事態と言う事ですか」
であれば、ソファーに掛ける猶予もくれなかっただろうが、ゾルは意外にもコクリとうなづいた。
ガリウスにゾルを使い緊急な用事を寄こす人物は1人しかいない。
「あぁ。すぐにでも知らせるようにとのことだったが、昨晩は緊急でも入れなかったからな」
「それはすみません」
「俺より出勤後にレオン様に何か言われるだろうな」
「(何をしていたか)言ったのですか?」
「結界の中で話せないことは伝えた。
急ぎの用件を伝えられなかったことを報告しないわけないだろう?」
確かにそうだ。
だが、適当に就寝しただとか言ってくれればよかったものを。
・・・いや。レオン様は起こさせますね
一応。
家族だと大切には思ってくれているようなのは、レオンの態度で分かる。
まぁ・・・認めてくれはいるが相変わらず、シャーリーとシャリオン、それに孫に冷たいのは変わらない。
「結婚してもう一年以上経過し、子供も出来ているのに・・・困ったお義父様だ」
そういうとゾルはクスっと噴出した。
「仕方ないから諦めろ。
・・・で、問題のその用件だが・・・王子の婚約者候補のうちの1人がおかしな動きをしている」
王子とはルークの事だ。
結婚をすると言って指名をしようとしていたところに、別の家から婚約の申込があった。
それも夜会の時に、大勢の人がいる中の出来事だったらしい。
ルークに『婚約してください』と言ったそうだ。
既に、婚約の打診を済ませていたのだが、何を思ったのかルークはその人物も『候補者』にすると言い出した。
「あの兄弟は執務には問題無いのに、何故自分の事になると碌でも無いことをするのか」
何度思い出しても頭が言いたい。
こめかみに手を当てながらため息をついた。
まさかこの事態をシャリオンに気付かせたいのだろうか。
そんなことが一瞬浮かぶ。どうか勘違いであってほしい。
「兄の方はまともになっただろう」
「独身を貫くと言ってるのが何処がまともなんです」
「仕方がないんじゃないか?
お前だってシャリオン以外との婚約なんて見向きもしなかっただろう」
「子爵の次男を、王族の第一子や次期国王と同じにしないでください。・・・はぁ」
「シャリオンにも困ったものだな。色んな男を引き寄せる。・・・いや。男だけじゃないか」
可笑しそうに笑うゾルをジロリと睨む。
「事実だろう。
弟だってあれは自棄だな」
「それ。シャリオンにもルーク様本人にも言わないでくださいね」
「言うわけがないだろう。
何故俺がわざわざシャリオンの悩みの種を増やさなければならない。
今シャリオンが優先すべきは、子供のことと領地のことで十分だ。
耳に入れればきっと力になろうと動くに決まってる。
むしろ、俺はお前に耳に入れるなと言いたいくらいだ」
「聞かれたら言いますよ。嘘をつかない約束なので」
「得意の舌先で誤魔化せ」
「完全に言わないなんて無理です。
シャリオンは可笑しいと思ったら自ら行動する性質なのは知っているでしょう?
1/10くらいで伝えますよ。
で、困った事というのは何です」
「伯爵家の婚約者の方がシャリオンを敵視している」
「詳しく」
「アシュリーの髪と目の色をどこかで嗅ぎつけたようで、それが騒いでいる。
王子との子供なんじゃないかとな」
「面白くない冗談ですね」
顔から表情が一気に抜けてく。
視線のあったゾルが小さくため息をついた。
「俺に八つ当たりをするな」
「してませんが?」
「その表情をどうにかしろ。
アシュリーとガリオンは間違いなくお前達の子供だとわかっているのは、ハイシア家の者と挨拶に行った家のみだ」
城で見られたのか、それともどこかの家から漏れたのか。余計な事をしてくれる。
ただでさえアシュリーの容姿についてシャリオンは敏感になっているようなのに、
その話はシャリオンの耳に入れたくはない。
「それで正式にハイシア家に事実確認の書状がきた。
それをご覧になったレオン様がお怒りになられてた状態だ」
「なるほど」
だったらなおの事、城で話して欲しかった。
幸いなことにシャリオンは今ガリウスの魔術でしばらくは起きないが、耳に入ったらどうするつもりなのだろうか。
それを聞かせないようにすると分かっているから、ゾルに指示をしたのだろうが。
だが、その状況で急ぎ知らせるようになったのに、部屋から出てこないことを知られたのは、間違いなく面倒だ。
レオンのシャリオンに関しての絡みは酷くめんどくさい。
「困りましたねぇ・・・」
何か話をそらせる材料がないか探しつつ、その婚約者の行動のおかしさに目が付いた。
結婚申し込みをした癖に、そんな事を暴いてどうしたいのか。
これで、子供がルークの子供という結果ならどうするつもりなのだろう。
王家に?いやそれともハイシア家に抗議したいのだろうか。
「サーベル国の戴冠式に、シャリオンが指名で招待されてるのも問題視しているようだ」
「どこから漏れたんでしょうねぇ」
「それについては調査中だ。
だが・・・知っている情報に偏りがあるのも可笑しい。
招待のことを知っているのに理由は知らないようで、王族を差し置いて他国の王族と親密になるのは転覆をはかっているんじゃないかと、他の貴族に言いふらしている」
「シャリオンのお陰で兄弟争いの終止符が打たれ国王になれたこと特に口外していませんからね」
「公にしたところでどうだろうな。
宰相として王家を掌握するつもりなんじゃないかとも言ってもいる」
「言動が可笑しいですね。
シャリオン個人と言うより、ハイシア家を疎ましく思っているのでしょうか」
その路線も十分に考えられる。
上流階級の貴族たちは特に裏では良く思っていないはずだ。
「次期宰相も辞退したいくらいですがねぇ」
『夢物語』の話をした後では特にそう思ってしまう。
もともと、レオンにスカウトされて側近の1人となったが、なりたくてなったわけじゃない。
シャリオンが次期候補になった時は全力でサポートしようと思ったし、指名されたならその期待を裏切るつもりはないと思っているが。
「シャリオンに次期宰相にお前が丁度いいと薦めたのは俺だ。悪かったな」
「結果的に『領民』と結婚すると言い始めなければ、レオン様はもう少々手強かったとおもいますので構いませんよ」
レオンはシャリオンが相手を連れてきたら、最終的には了承していただろうが、それと比べたら自分の評価は高いのは理解している。
「それにしても、相手・・・は、なりふり構わずだな」
「あの方は、ずっとルーク様を慕ってましたからね」
「その様だな」
ルークの婚約候補者は一人は公爵家、もう1人は伯爵家の人間だ。
アルカス公爵家の末息子で表の評価は高いアンジェリーン。
王家の血を引いているのを証明するかの様に、金髪碧眼で小柄の体躯を持ったアンジェリーンはシャリオンには劣るが、美しいと評判である。
以前の婚約者選抜の時は、断っていたにも関わらず、今回は応諾を示した。
そして、夜会にてルークに婚約を申し込んだのは、フィラーコヴァー伯爵家のミクラーシュだ。
彼は長男であるが、早々に弟に家督を譲っている。
ルークを慕っているのは見ればわかるし、本人も気付いている。
浪費癖の伯爵家の娘と破談になった時も、何度も申し込みがあったというのに、何故今更『候補者』だとしても認めたのか。
「本当に余計な仕事を増やしてくれますね」
「なんだ。同じく片思いをしていた相手に同情はしてやらないのか?」
チラリと見れば揶揄っているような視線に眉を顰めた。
「どこにそんな要素があると言いうのですか。
そもそも、シャリオンに害になりそうな相手に何故そんなことを」
「そうだな」
「・・・。ですが。
そうですね。良い子にしているなら手を貸しても良いですが」
「・・・王配候補に随分と上から目線なことだ」
ゾルの言葉に口角を上げてフっと笑った。
こんな立場であると、2人の話はよく聞く。
上っ面は良いアンジェリーンと、
実直ではあるが少々思慮に欠けるミクラーシュ。
扱いやすいのは一目瞭然だ。
「むしろ思い通りに話が進むのなら感謝してもらいたいくらいです。
が。・・・相手の動向がわかりません。
お世辞にも頭の回転は言い方ではなかったので、裏があるとは思いにくいですが。
少々様子を見ましょうか」
「レオン様がそれを待ってくれれば良いがな」
「一晩おいて怒りは収まったでしょう」
それに今は隣にシャーリーがいるのだ。
きっとレオンの怒りに勘づき慰めてくれているだろう。
シャーリーが王都に来てくれたおかげで、レオンは仕事で嫌なことがあってもすぐにリセットされるようになったのは本当に喜ばしいことである。
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「俺が付こう」
そう言ってどこからともなく現れたのは、少し肌が焼けたゾルだ。
サーベル国でカイザーの元で修業をしに行って返ってくると、こんな風に少々変わっていた。
どうやら完全に裏方に徹することに決めたらしい彼は、他の2人とよく見ると違いが分かる。
「公爵の方は良いのか?」
「ここはウルフ家の守るハイシア家の領主城ですが、守りが手薄になるのは困ります。
常時2人でシャリオンを守って下さい」
「「「わかった」」」
声が三つ重なり、振り返ればどうやら最初から3人いたらしい。
相変わらず隠密スキルが高いことに関心する。
「公爵の方は別の駒を使います」
「・・・赤蜘蛛か」
「えぇ」
「大丈夫なのか」
彼女達・・・特にクロエはゾルに取り押さえられている。
実力を気にしているのだろうが、彼女達に依頼をするのは諜報だ。
「戦闘にならなければ、彼女たちは問題はありません。
むしろ、貴方がたより目立たないでしょう」
「そうだな。・・・そうだ。セレスに変身の魔法石を造ってもらえないか」
確かに。今後それは必要になりそうだ。
ガリウスは頷くと時計を見た。
「えぇ。聞いておきましょう。
さて。・・・そろそろ城に向かいます」
「「「あぁ」」」
そう返事をすると、2人のゾルは瞬きをしたらそこから消え、最初の通り1人になっていた。
ガリウスは最後に茶を飲み干すと小さく息をつく。
子供の達の強すぎる魔力の事でも頭が一杯なのに、余計なことが増えてしまった。
シャリオンには勘付かせたくない。
思考を巡らせて、良い材料を見つけた。
「セレスを早急に呼び戻しましょう」
シャリオンの気を引くにはちょうどいい人材だ。
そう呟くと、ガリウスは最後に寝室を覗いた。
自分が掛けた魔術はしっかりと効いているようで、シャリオンの起きる様子はない。
「・・・」
頬を撫でると愛しさが止まらない。
身をかがめると、『最後』と自分に言い聞かせながら名残惜しそうにシャリオンに口づけると、ガリウスは後ろ髪を引かれながらも、王城に向かったのだった。
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