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執着旦那と愛の子作り&子育て編

え・・・叱られたい人?(困惑)②

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シディアリアの2人が宿泊施設に帰っていくのを窓から見届けながら、無事に帰ってこれたのだと実感する。
彼等は違うと否定をしたが、やはりハイシア家が巻き込んでしまったことは事実だ。
他人を巻き込んでしまったことに、罪悪感が消えない。
後ろ姿が消えたことも気づかずに、見ていると声を掛けられた。

「どうかしましたか?」

顔に出てしまっていただろうか。
いや、出ていなかったとしても考えている仕草はガリウスに悟られてしまうだろう。
シャリオンは首を横に振って笑みを浮かべた。

「ううん。なんでもないよ」

ガリウスにこれ以上、余計な気を使わせてしまうのは気が引けた。
それに、もう答えは分かっているのだ。
他家から完全に恨みを買わないようにするなんて実際には無理だ。
公爵家で『宰相』という立場はその采配をふるたびに誰かの恨みを買う。
勿論、レオンやガリウスの権限が直接それを出来るわけではないのだが、王の近くにいて補佐をする立場は他の大臣達よりも王に口に出せるのは確かだ。
シャリオンは気づかれまいと話を逸らす。

「それで次は誰が来るの?」
「もう見えてると思いますよ」
「そうなの?じゃぁその部屋に向かおうか」

随分ゆっくりとしているから、これからなのだと思ったのだが。
シャリオンは立ちあがるが、ガリウスは掛けたままだ。

「?・・・!・・・もしかして、体調が悪いの?」

ハッとしてガリウスを覗き込むが、ジッとこちらをアメジストが見つめていた。
顔色が悪いようには見えないが、そっと額に手を当て熱を確かめてみるがこちらも平気そうだ。
それならそれでよいのだが、念のために休ませた方が良いだろうか。
額から頬に手を滑らせて、その瞳を見つめる。

「大丈夫・・・?・・・部屋で休む?」
「・・・」

そう言うがガリウスはシャリオンを引き寄せると、腹に顔を埋めた。
こんな様子のガリウスは初めてだ。
だが、子がいる時に触れて居たくなるのは分かるから、ガリウスの頭を優しく撫でる。

「どなたが着ているかわからないけれど。・・・今日は体調悪いならおかえり頂こうか」

シャリオン1人でも、来客の対応は出来る。
しかし、こういう時、ガリウスならシャリオンに寄り添ってくれているはずだ。
黙ったままのガリウスを撫で続けていると、しばらくしてその顔が上げられた。

「シャリオンの口付けが欲しいです」
「え?」
「・・・シャリオンが離れて行きそうで怖いのです。私も。・・・子達も」

だから安心したい。・・・と、言う事なのだろうか。

「特に、子達は貴方から離れることに敏感なようです」
「離れようとなんてしてないよ?」

ジジに転移してもらったことに不安を抱かせているのだろう。
安心させるようにガリウスを撫でる。

「貴方が何か隠し事をすると、ざわつきます」

その言葉にシャリオンが息を飲むと、ガリウスはそれに気づかれてしまう。
瞬きもせずにじっと見てくるそれに苦笑を浮かべた。

「困ったな・・・。今まで以上に勘が良くなってしまったということ?」
「貴方に関してだけです」
「・・・別に隠し事と言うわけじゃない」
「なら教えてください」
「でも、本当に大したことでは」
「シャリオン」

どうやら引いてくれる気はないようで苦笑を浮かべた。

「・・・あの2人を巻き込んでしまったことをね。
あぁいう人間をもう作りたくないなって思っただけ」
「・・・シャリオン」
「難しいのは分かってるんだ」
「・・・すみません」
「何故ガリウスが謝るの?・・・父上が宰相である以上、人から恨みを買うのは当然だ。
あの男は、ハイシア家に恨みと言うよりも利用しようとしていたようだけど」
「・・・、」

何か考えているガリウスの頬を両手で包み上げると、その唇にチュっと口づけた。

「僕は色々悩むけれど。・・・でもガリウスの傍から離れることは無いのだから、心配しないで」
「・・・」

そう言った後で、今回の様に攫われるのが多いのを思い出して苦笑した。

「あぁ。今後もまた今回みたいになったら迎えに来てね?」
「、・・・、勿論です。貴方がどこに居ようとも。地獄に連れ去られたとしても連れ戻します」
「地獄??それはいかにせないよ」

そう言いながら可笑しそうに笑いながら、ガリウスにもう一度キスを落とした。


☆☆☆


もう来ているという客人の元に向かう。
執事に聞けばもう1時間は前に着ているそうだ。
そんなに待たせてしまったかと急ぎ部屋に入ると、そこにいたのはサーベル国の王子ポンツィオと護衛のカイザーだった。
一瞬、カイザーを見て身構えたが、隣にガリウスが居るからなのか以前のような恐怖心は無かった。
ポンツィオと挨拶を交わし席に掛ける。
すると、やはりカイザーの態度が可笑しい。
何故なら礼をした後は、以前の様にポンツィオの隣にどかりと座ることもなく、入口付近でまるでのような佇まいで居るからだ。
その表情は特に感情に揺られている様子はなく、怒りや拗ねている様子もない。

「すっかり変わったでしょう?・・・たった2週間で」
「!・・・えぇ」
「ライガ殿下に礼儀を見ていただきましたが、・・・まさかこんなに変わるとは思ってもみませんでした」
「・・・はい」

王子であるから礼儀関連は完ぺきだろうが、そうではなくあのカイザーがここまで変わるとは思わなかったのだ。
思わずガリウスを見上げると彼は苦笑を浮かべた。

「ライガー様は特に何もしてないと仰ってますがね」
「彼の覚悟の話を聞いた後少しずつ変わり始めたんだ。
『守りたい者は。力だけでは守れない。
馬鹿にされたからと逃げるのでは、いつまでたっても変わらない。であれば覚えるしかない。
人に教わりたくないなら、人を見て覚えろ』ってね」
「ライガー殿下がそんなことを・・・」
「あぁ。おかげで見違えるようだ。・・・今回は急遽このまま帰ることになったが、次回お会いするときアレがまともになっていたら、茶会でもいかがかな?」

それはシャリオンも提案していた件で、コクリと頷いた。

「ガリウスと一緒でよければ是非。・・・どうかな?」

チラリとカイザーの方を見ればコクリと頷く。
気のせいか口元には笑みがあるような気もする。

「勿論だ。ガリウス殿無しで誘うなどと恐ろしいことはしないさ」

そう言いながらクスクスと笑うポンツィオ。

「それはともかくとして。・・・今回のことをお詫びさせてほしい」

ひと笑いした後、真面目な面持ちになるとポンツィオはそう言いながら頭を下げる。
確かにあの男はサーベル国の男だが、それを言ったらアボッドは国に問わず美しい男女・・・特に女性を攫い鬼畜の所業を繰り返していた。
その中には当然、サーベル国の人間もいたと聞いている。
シャリオンは頭を下げるポンツィオを止める。

「待ってください。私は無事に帰れましたから」
「いや。あの男は貴族でありながら賊のようなふるまいをし、シャリオン殿やジジ殿達に暴行を加えた」
「!・・・、あの男は・・・貴族だったのですか?」

薄暗い部屋の中でも褐色の肌だった。
後ろに控えているカイザーもそうだが、サーベル国で褐色の肌は平民と聞いていたから、少々驚いてしまった。
両親のどちらかが、平民だったのだろうか?と考えていたのだがそれは違った。

「はい。・・・あの男は変身を得意としており、平民に変装していた」
「!」

肌の色も変えられる変身が出来る魔法があると言う事にシャリオンは驚いてしまう。

「・・・。あの男の変身技術は優れています。
実はライガー様がサーベル国に行く途中、リュシと言う男と接触しました。
その男と、あの男が同一人物であることは、ゾルが証明しています」
「ライガー殿下・・・て、お迎えに上がったときの事?
そんな前から、あの男・・・リュシ?はこちらに接触してきたというの?」
「リュシは偽名です。正しくは、ルシエル・コンドル。サーベル国の貴族です」

一気に情報が出てきて良く分からなくなってきた。
あの男がルシエルと言う男で、平民に装いライガーに接触した。
では何故だろうか。

「当時リュシと名乗っていたルシエルは、遭難しているところをライガー様に助けられサーベル国に帰りましたが、ライガー様達が再びアルアディアに帰ると知り、『他にも遭難した仲間を探したい』と言う理由で、シディアリアまで同乗したようですが、もう間もなくでシディアリアと言う所で一見船から姿を消しました」
「・・・連れ去られた?」
「人ひとり入りそうな麻袋を持った覆面の賊に襲われたと聞いています。
その後にルシエルも姿を消しました。」
「・・・。・・・何故そんな回りくどいことを・・・?」
「これはあくまで仮定ですが。・・・ゾルの力量を見たかったのでしょう」
「・・・!」
「ゾルや同乗した魔術師も違和感に気付いておりました。
しかしながらそれが勘違いであれば、良しとしてシディアリアまでは同乗を許可したのです」

確かに、遭難した船の一員と言う事なら、通常であれば同情してしまう話だ。
一国の王が乗っている船に同時に乗せたのは、敢えてなのかもしれないが。
ガリウスの言葉にふと、あの男・・・ルシエルの言葉やディディの言葉を思い出した。

『珍しい狼と宝石』
『狼を連れて来いと命じました』

「ゾル・・・というか、ウルフ家を狙っている様だからね」
「・・・相手にそう言われたのですか?」
「うん。・・・可笑しなことも言っていた。『一匹捕まえれば全部捕まえられる』とか」

すると、今度はポンツィオが答えた。

「コンドル家は暗殺を得意としている」
「・・・どういう、意味ですか?」
「そのままの意味だそうです。
勿論表立っては貿易商ですが、建国当時から暗殺家業を代々行っていたそうです」
「・・・、そう」

長い歴史の中、家の存続の為後ろ暗いことをすることもあると聞く。
貿易商という仕事はそれなりに儲かると聞くのだが、それでも暗殺家業を捨てないのは不思議だった。
しかし、それに対してシャリオンが口を出すことではない。
教えられた事実に返事を返した。

「その暗殺家業が何故ウルフ家に?」
「・・・ウルフ家との関係については、レオン様が説明してくださります」

そう言ったガリウスに、シャリオンは視線を向けた後、コクリと頷いた。

「わかった」
「暗殺者の得意とする魔法に変身以外にマインドコントロールや、思考共有などがあります」
「・・・、」

何か気付いたシャリオンにガリウスはコクリと頷いた。
詳しく聞きたくはあったが、ガリウスは先ほどレオンが話すと言っていた。
だからそれを信じて今はポンツィオの話を聞いた。

すべてを聞き終わるころには、シャリオンも流石に一気に話を聞いて疲れてしまっていた。

「申し訳なかった」
「・・・。今回のことは、誰が悪いだとかそう言う簡単なことではないと思います」

この国でさえ、全貴族の動向を見れているわけではない。

「・・・聞いている話だけでは判断できません。
ただ、・・・」

そう言って視線を下すシャリオン。
なんていえば正しいのか、よくわからない。

「・・・、・・・。・・・同じことをもう二度と起こしたくはありません」

それは、ジジやディディと同じことも、我が子達にもだ。
詳しくは聞いていないが、この屋敷は悪意を持った人間ははじかれる言う。
そんな厳重に守られた屋敷にシャリオンはいたはずなのに攫われてしまった。
ディディのケースの様に、ジジを助けるためにシャリオンを攫いに来た場合は、除外されることが今回分かった。
魔法だけでなく、どんなに完ぺきに作ろうとしてもほころびが出来てしまうものだ。

「コンドル家には今後、我がハイシア家に仕えるウルフ家への接触を禁止していただきたい」
「・・・それだけで良いのですか?」

ポンツィオが驚きを含んだ声色でこちらを見てくる。

「・・・。勿論現当主との話し合った上で決まると思います」
「公爵はシャリオン様にお任せする。と」

思わず散々秘密裏にしていたのに、何故こんなところだけ取っておくのかと、レオンに対してムッとしてしまいそうになるが、シャリオンは頷いた。

「ガリウス。・・・そう言った魔法はあるのかな。
接近禁止にするようなもの」
「現段階では聞いたことがありませんが。
作ることは可能かもしれません。
作らせますか?」
「・・・ウルフ家のみんなもそれでいいと言ったらね。
それで、・・・そのルシエルは今どこにいるのですか」
「シディアリアに。・・・ハイシア家の魔術師に結晶化されました」
「・・・結晶化?」

ポンツィオからあまり聞きなれないことを聞き反芻するシャリオン。
しかし、それを答えたのはガリウスだ。

「古くからある魔法では解析される可能性があります。
その為、聞いたことのない人体の結晶化でルシエルの動きを封じています」
「そんなこと出来るんだ・・・?」
「えぇ。あの魔術師はこの国一の技術を持っています」
「そんなすごい人がいるんだ。・・・あったことないな・・・。父上のお抱えかな」
「とにかく、その結晶化されている間は、ルシエルは動けませんので安心してください」
「うん。分かった。
・・・では、ポンツィオ様。
公爵がそのように言ったのであれば、ハイシア家は『コンドル家のウルフ家への接触を禁止』を一番強い効力のものでお願いします」
「誓約書の写しをこちらに送っていただけますか」

抜け目なくガリウスがそう言うと、ポンツィオはコクリと頷いた。

「しかし・・・甘くはないか?財産没収も出来るぞ」
「お金はいくらあっても困るものではありませんが、・・・それだからと言って財産を頂かなくともハイシア家は安泰ですので」

なんて、言いつつも心情的にはコンドル家と関係した金銭を受け取ることが嫌だっただけなのだが。
しかし言ったように『お金はいくらあっても困るものではない』。

「我が家には結構です。しかし、差し出がましく申し訳ないですが、シディアリアには何かしらのことを望みます」

ディディ達はあの青い石のことで、何時かは目を付けられると言っていたが、それとこれとは別の話だ。

「勿論。申し出たのですが。・・・ディディ殿にも断られまして」
「そうですか・・・では再発防止の費用にでも当てるためになさったらいかがでしょうか」
「フ・・・っ確かに。金があるから可笑しなことを考えるのもあり得るかもしれない。
分かりました。今回確実に取れる手札をガリウス殿に準備頂きましたので、それで確実に搾取します」
「ガリウス・・・?」

ポンツィオの言葉に、見上げればニコリと微笑んだ。

「ちゃんとお仕事をしただけですよ?」
「・・・そうなの?」
「えぇ。今回。こちらの要望をいくつか対応いただけました。
取り逃がしていた案件も確実にかたずけられたのもポンツィオ王子のお陰ですから。
・・・それに見合うだけのお返しを準備しただけです」
「確かに動いたが。あれだけで私の王位を準備してくれたのなら、・・・おつりが足らないのだが」

そう言ってポンツィオは苦笑した。
ポンツィオは第4王子だ。
残りの王子を一体どうしたのだろうか。
一掃出来てしまう策を講じたガリウスには流石だと思ってしまった。

「シャリオン殿。今言ったように私は次期サーベル国の王となる。
それ故に約束しよう。
コンドル家は取り潰す」
「!」
「その上で、シャリオン殿の願いだけでなく、海外出国の禁止を言い渡すが、その誓約書も最高レベルの物を結ばせる」

最高レベル誓約書と言う事は、反故があれば罰をつくものだ。

「そして、隷属の輪を付ける」

そう言う目は本気で、シャリオンは息を飲んだ。

「・・・そうですか」

あの男がしたことは、とても許せることではない。
なのに矛盾した自分の思考に嫌になる。
すると、ガリウスが咎めるように止めた。

「ポンツィオ王子」
「・・・そう知った方が安心できると思ったが、・・・違ったか?」
「シャリオンは敵に情けを掛けられる心が美しく優しい人間なんです」

そう言い切ってくれるが、それはなんだか甘いと言われているわけで。

「・・・どうせ。私は甘い人間だ」
「拗ねないでください。シャリオン。・・・私はそこも魅力に感じているのですから」
「っ!?・・・っ・・・なに、いって」

途端にそんなことを言いながら手を取るガリウスに、シャリオンはハッとしてポンツィオを見ればクスクスと笑っているだけだ。
呆れられていないなら良いのだが、特に親しい友人と言う中でもないのに、そんなことを言うガリウスに照れるシャリオンなのだった。

☆☆☆


王子たちはそれからシディアリアに行くために、早々に転移の石を使いハドリー領に向かった。
静かになった部屋で休みながらちょっとした疑問を尋ねるシャリオン。

「あの・・・ガリウス?」
「なんですか?シャリオン」
「叱ってほしい人と言っていたけれど、・・・なんかそういうわけじゃないんじゃないかな。
あ。別に叱りたいわけじゃないからね?」
「フフ。分かってます。
ですけど、・・・次と次は確実に叱っていただきたいですね」
「ん?」

そのニュアンスは可笑しくて首を傾げた。

「・・・もしかして、叱ってほしい人って・・・ガリウスが叱ってほしい人?」
「まぁそれも一理ありますが。
・・・ですが彼等はシャリオンが怒る・・・もしくは嫌がることが分かっているのにするのですから、そう言っても過言ではないと思いませんか?」
「どう・・・なんだろう?」

そう答えつつも、次に誰が来るのか何となくわかるシャリオンなのだった。

┬┬
あと2個くらい説明回。

過去の誤字で、
「ファルコン家」と言ってましたが、正しくは「コンドル家」。
ハゲタカです。
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