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執着旦那と愛の子作り&子育て編

忘れてた。

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前日の痛みも消え、動けるようになったシャリオンは領地に残っているゾルからの書類に目を通す。
なんだか昨日もだが、体の痛みとは別にすこぶる気分が良い。
仕事ははかどるし気持ち悪くもならない。
ちょっと魔力の枯渇は感じるが、食事と同じペースでガリウスに与えてもらっていればどうにもならなかった。

そんなわけで見張り・・・シャリオンの側近のゾルに見つからないうちに、書類を眺める。
先日のパーティーでハドリー侯爵と話をして面白いことを聞いたのだ。
それのハイシア領にも取り入れたいと思っていた。
流石に先日のパーティーではガリウスもゾルもいたので仕事の話をしたら、『安定期はどうした』と言われてしまうので出来なかったが。
いつでも復帰したときに取り合えるように下調べだけでもしておきたい。
そんなことを思いながら家にある本棚を眺めている時だった。

「お客様がお見えになられたのですが」

そういう使用人の表情は困惑している様にも見えた。

「お返しても宜しいでしょうか」

そこは通すかどうかの確認だと思うのだが。
呆気に取られていると後ろからゾルがため息をついた。

「そこまで確認するならすべて言って下さい」
「不要かと存じます」
「それを決めるのは貴方ではなく、シャリオン様です。
・・・、申し訳ございません。シャリオン様。・・・サーベル国のカイザー様がお見えになりました」
「はぁ・・・。・・・え、何故?理由は?」

咄嗟に苦手意識が沸きながらも、来た理由を思い出す。
幸せに見たらされていた気分に、少し水を差されたような気分だ。

「あぁ。マナー講師の件か。でもそれってガリウスが手配してくれたんじゃないの?」
「えぇ。昨日もポンツィオ様方が宿泊されている屋敷に出向いたと聞いています」
「?・・・それで?」
「シャリオン様が良いと昨日から訪れているのです」
「昨日から・・・、あぁそうか。僕が動けなかったからか」

そう言いながら頬が熱くなった。
それにはあえて何も言わずに本棚に持っていた本をもとに戻すとそちらに向かう。

「わかった。サロンにはお通ししているのかな」
「いえ。エントランスです」

少々驚いたが、どうやらポンツィオはいないからのようだ。

「昨日に引き続き、シャリオン様は体調が悪いとお話しております。
お帰りいただこうと思いましたが、少々ごねましたので」

ゾルも彼を客人として扱う気は無いようだ。
一応体裁として確認程度にシャリオンのところに来た彼等に笑った。
ハイシア家の使用人は大半がウルフ家の使用人だが、全員がそう言うわけではなかった。
特に王都にあるレオンの屋敷には付き合いから、後を継がない貴族が使用人になることもあった。

しかし、結婚してシャリオンが主になったこの屋敷は、ガリウスの采配ですべてがウルフ家の人間で構成されている。
ガリウスの命令は基本聞かないが、ハイシア家の血筋であるシャリオンを守るためなら意と唱えなかった。
主を守るため常に考え動いてくれているが、今回は少々考えてしまう。

・・・バックポンツィオを考えると慎重にした方が良いかもしれないが

友好国であるサーベル国の人間として招かれたポンツィオは、長男でないにも関わらず次期王として有力として見られている人物だ。
その人間についているカイザーを考えると、あまりぞんざいに扱うのも良くない。

「どうせ返しても明日も来るんじゃないのかな」
「そのうちに滞在期間が終えるでしょう」

そう言うゾルに苦笑を浮かべると、唐突に開く扉に息を飲んだ。
それに殺気立つゾル達の後ろで、男はにっこりと笑みを浮かべているのが余計に恐怖に感じる。
それが、わかったのかゾルがシャリオンの視界を遮る様に前に立った。

「カイザー殿。エントランスでお待ちいただくように申し上げたはずですが」
「お前らが待たせるからだろう?『こうしゃく』てのは、そういうの気にしないのか」
「申し訳ございません。
昨日も申し上げた通り、旦那様シャリオンは体調がすぐれないため、本日もお引き取り願います」
「はぁ?全然元気に見えるけど?どうなんだ、シャリオン様」
「下の名前でお呼びになるのはお止め下さい」

後ろで聞いていても冷え冷えと・・・、と言うか先に進む話ではなさそうで、シャリオンは小さくため息をついた。
何故だろうか。
まだカイン達の方が手の付けようがある様に感じてしまう。
そもそもカインは自分勝手にシャリオンを頼ろうとしたが、その根底は当時義妹であったアリアを守るためだ。

「ゾル」
「・・・」

肩越しに向けられた視線がシャリオンを責めているのが分かり苦笑を浮かべた。
つまり、これからすることが分かっているのだ。
シャリオンはもう1人の使用人の方に視線を向ける。
こちらも同様に不満げだが、そのままお茶の準備を頼む。
そして、大変不満そうだったが、『かしこまりました』と下がっていった。
シャリオンはカイザーを応接セットの方に案内をするのだった。

『あの男には連絡するからな』
『うん。ありがとう。ガリウスならたぶん連れてきてくれると思うけど、王子もお願い』
『あぁ』

ゾルからの思念にそう答えるとシャリオンは、カイザーの方に視線を合わせる。
シャリオンの後ろには、いつも以上に近い位置にゾルが控えカイザーに鋭い視線を向けているのだろう。
早く返してしまいたいが、こんな強行する人物は初めてだ。
国内ではレオンとハイシア家の名前にそんな馬鹿なことをする人間はいなかったからだ。

「昨日も来ていただいたようですが、お相手できず申し訳ございません」
「体調が悪かったのだろう?確かにあの男はしつこそうだ」
「・・・?」
「余計なことは気になさらずに。・・・カイザー殿はどういったご用件なのでしょうか」

カイザーの『あの男』と『しつこい』が誰に結びつかず、考えていたのだがそれをゾルが遮る。
よくわからないが、あまりシャリオンには良くないことのようだ。
後で理由は聞くとしてシャリオンも続ける。

「夜会の時に仰っていた講師の件でしたら、ガリウスからご紹介したかと思います。
彼等に何か問題がありましたでしょうか?」

本音で言ったら『何が不満なんだ』と言いたいところだが、友好国の・・・以下略である。

「あったも何も、俺はシャリオン様が良いと言った!」
「カイザー殿」

苛立ったようにいさめようとしたゾルに手で止める。
ため息をつきたいのを飲み込みつつシャリオンはつづけた。

「私でなくとも、私以上にきちんとこなせるものは居ります」

そもそもシャリオンだって人から習っているのだ。

「だけど、貴方は王子の婚約者だったのだろう?それなら十分な箔が付く」
「・・・箔・・・?」

後ろから苛立った気配を感じる。
シャリオン自身も面白いとは思わないが。

「俺はこれ以上馬鹿にされるわけにはいかない」
「・・・?」

そのまっすぐな目に何か事情があるのは分かった。
が。

「それが私に何か関係ありますか?」

そう言うと男は少し驚いたようにしつつ、にっと笑った。

「メリットはいくつかある」
「なんですか?」

そんなものはありやしない。
そう思っていたのだが・・・。

「一つ目は、貴方の旦那の仕事が進む」
「・・・」
「その後ろの男には影武者がいるが他言無用にする」
「「!!?」」
「それと、俺を側室にしないか?」
「は?」
「この国に来た時にだけで構わないぞ」

前半二つがとても気になったのだが、最後の一つに思考が奪われたのだった。


☆☆☆


暫くしてガリウスがポンツィオを引き連れてやってきた。
王子は青筋を立てて、カイザーを叱責するが全く堪えてない様で笑っていた。
シャリオンも何事もなかったから、今回のことを大事にする気は無いがポンツィオが気の毒に思うほどだった。

屋敷に戻ってきたガリウスは珍しいことに不機嫌さをシャリオンにも隠していなかった。

「・・・引き受けないよ?」
「本当に?」
「・・・そろそろ安定する頃だと思うけど、もっと大変になるって聞いているし、そんな暇ないでしょう?」

カイザーにどんな理由があるにせよ、シャリオンは領主で後継ぎが第一だ。
そういうと、ガリウスは少しほっとしたように気配を和らげる。

「でも、僕がやったらガリウスの仕事がはかどるとか言っていたけど」
「必要ありません」
「・・・、国際問題には」
「なりません。それどころか先日の街の出来事を含めて、正式に相手国に抗議することも可能です」
「・・・。それは父上、同じ意見なの?」

そう尋ねるとガリウスはコクリと頷いた。

「当然です」
「けど。・・・抗議をしてポンツィオ王子の足元をすくわれるようなことをしたら、・・・うちとしても厳しいんじゃないのかな」

サーベル国に現在王太子はいない。
それはサーベル国の王が若いからと言うのは表向きの理由で取りざたされているが、本当のところは違う。
彼以外まともな王子が居ないのだ。
特に第一王子はろくでもないと聞いている。
第二王子は比較的にまともだが体が弱い。一時は継承権を破棄しようとしていたぐらいなのだが、第一王子がそんな状態の為は気が出来ない。
第三王子の情報は余り入ってきていないため良くは分からないが、そのなかで断然まともで器があるのが第四王子のポンツィオなのだ。問題があるとすれば、産みの親が平民であることくらい。
第一王子や上流階級の貴族は問題視しているが、それは大した問題ではない。
それをサーベル国の王も理解しており、明言できないでいる。

「えぇ。ですのでそれも合わせて、サーベル国の王にはあの男に首輪を付けさせる必要があります」

果たしてあの男が王子の命令も聞かないのに、王の言う事をおとなしく聞くだろうか。

「・・・。シャリオン」

そんなことを考えていると、ガリウスの視線が鋭くなった。

「いや、うん。けどさ、・・・彼ゾルが1人じゃないことを気づいていたんだよ」
「・・・。・・・その様ですね」

ガリウスの表情をみるに、同様に想定外だったようだ。

「観察眼は優れてるみたい。
その上、・・・なんか僕たちの考え方と根本的に違う見たいで、・・・なんかストレートに行かない気がするな」

領地で平民と話すことはある。
けれどそのどれとも違うように感じたのだ。

「僕は子が授かってるから出来ないことを言えたとしても、全部断るのはまずいんじゃないかな」

そういうと、ガリウスは眉をピクリと動かした。

「側室の件は却下します」
「え。当然だよ。・・・もしかして、機嫌が悪かったのはそれの所為・・・?」

思わずクスクスと笑うシャリオン。
ガリウスはまだ納得がいっていないようだ。

「貴方は優しいので」
「それって甘いって言っているよね?
確かに・・・ガリウス見たいに出来ないこともあるけれど、・・・ガリウスへの気持ちは疑ってほしくないな」
「それは疑っておりませんよ」
「僕は何人も相手が出来るほど器用じゃない。
それに・・・婚約中はあんなに他に男を作るなって言ってくれてたのに、今は違うってこと・・・は、ないよね」

恨みがましい気持ちで尋ねようとしたのだが、ガリウスの表情があまりにも冷酷な表情を浮かべるものだから、シャリオンは自ら訂正をする。

「あり得ません。一兆歩譲ったとして、シャリオンを怖がらせるあんな男あり得ません。そもそも譲るわけもない」
「そ、・・・そうだね」
「あの男に限ったことではありません。もし本当に作るというならば、私は宰相をやめ、貴方を連れて領地に籠り城から貴方を出しません」
「う、うん」
「たとえあの国と戦争に」
「っ大丈夫っ!
僕もこの子がいるんだもの。
無理はしないよ」

怖い言葉が続きそうでシャリオンはついにガリウスを止める。
お腹のあたりを撫でながらそういとガリウスも漸く止まってくれた。
核での組織生成は腹はそれほど大きくならないが、そこにいるのが分かる。
シャリオンは日に増すごとに、魔力の枯渇以外に生命を感じているのだ。
そんな状態で無理をするわけがない。
・・・ただ、ちょっと気にはなるが。

「・・・それなら良いのですが」

全く信用してなさそうにそんなことを言うガリウスに笑った。

「まぁ取り合えず彼の件はガリウスに任せるよ。
・・・それよりもね。ガリウスと決めたいことがあるんだけど、・・・時間ある?」
「?えぇ。大丈夫ですよ」
「あのね」

そう言いながらシャリオンは幸せな気持ちになる。

「子供の名前を決めたいなって」
「子供の?」

先日シャーリーから聞いた話をすると、帰ってからずっと不機嫌そうだったガリウスの表情もすっかり笑顔になっていた。
シャリオンの肩を抱き寄せフッと微笑んだ。

「えぇそれは良いですね。・・・どんな名前にしましょうか」
「僕はね。父上の案も良いなって思っているんだ」
「レオン様に名付けてもらうんですか?」
「ううん。そうじゃなくてねぇ」

そう言いあいながら、2人は遅くまで愛し子の名前をあれこれと考えるのだった。

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