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執着旦那と愛の子作り&子育て編

【別視点:ライガー:セレドニオ:ゾル】試練②

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ハドリー領にある城の一室。
ライガーのために用意された部屋は豪華絢爛だが、上品にまとまっているそんな部屋だった。
以前来た時も確かに金を掛けられたと分かる部屋ではあったが、下品にも感じる調度品に囲まれた部屋とは大違いである。
客室は城の主の好みによってつくられる。
つまりこれはハドリー侯爵の趣味で客人をもてなそうという心配りが出来た、とても過ごしやすい部屋だった。

普段ならリラックスできただろうが、今はそれを打ち消すように緊張している。
ゾルが言っていたように暫くするとセレドニオが現れたのだ。
相変わらず目元を布で隠した男は入口近くに立っていた。

「・・・、」

従者としては問題のない行動と言えるのだが、意識をしないというのは難しかった。
しかし、唐突に気配が消える。

「・・・?」

書類を見ていた視線をあげ、入口付近に視線を向けるがセレドニオはちゃんとそこにいる。
どうやらライガーの緊張をくみ取り、気配を消してくれたようだ。
馬車の中でもそうだが、この男は気を使えるようだ。

この男の父親ファングスは気を遣うということが出来る男ではなかった。
その息子だというセレドニオにも、そんなところがあるのではないかと思ったのだが。
それを言ったら、自分もあの男の血を引いている。

色眼鏡で見るのは良くないか

苦笑を浮かべながら偏見で見てしまった自分に反省する。
ライガーはそちらを見ると、セレドニオに声をかける。

「ここは王都ではない。
もし何かすべきことがあるなら、そこのあいているところでしてもかまわないが」

従者として配置されたから、この部屋から出すのは無理だ。
しかし立っているのは暇を持て余すだろう。
そもそも護衛としているわけじゃない。
セレドニオは相変わらず目元を隠しているが、原理は分からないがしっかりと見えているのは、この馬車旅でよくわかった。
しかし驚いたように体を揺らしたが首を横に振る。

「大丈夫です。・・・お気遣いありがとうございます」
「・・・いや、気になる」
「気配を消していますが」

確かに気配は感じないが目に見えているのに、無理な話だと思うのだが。

「ファングス、・・・あぁ、ちch」

ライガーにとっては不快極まりない人間だが、セレドニオにとっては一応父親である。
言い直そうとしてライガーの言葉を遮る。

「あの男は生物上、血のつながりはありますが他人です。
殿下もあの女を、母親と言われるのは不愉快なのでは?」
「!」

その言葉に少し驚きはしたが、もしファングスやエルビナ王妃に敬意など持っていたら、レオン達が生かさない。
しかし、余計にこの男が気になってしまう。
セレドニオをそれほど説明をされておらず、その上でシャリオンを絶対に裏切らないというのは何故なのだろうか。

「そうだな。私は出来ることならあの家とのつながりを、事実上ではなく完全に断ち切れるならしたいくらいだ」

ブルーノはライガーをファングス家とは無関係だと言ってくれているが、血は流れている。
それはファングス家が消滅しても変わらない事実だ。

「・・・」
「セレドニオはハイシア家に出入りをしていた行商人だと聞いたが」
「はい」
「あの男にシャリオンの情報を流していたのか」
「はい」

よどみなく言い切る言葉はいい訳など一切なかった。

「だが、助ける切っ掛けにもなった、タリスマンをガリウスに授けたと聞いたが」

そう言うと、男は黙った。しかし、考える時間は短かった。

「私の考えが誤っていたら申し訳ありません。
殿下は私をあの男ファングスの支配から逃れられず、仕方なく犯行を行ったとおっしゃりたいのでしょうか」
「・・・違うのか?」
「いいえ。違いはしません。しかし、私を善人だと定義付けたいなら間違いです」
「・・・、」
「私はあの男を凌駕する力を持っていました。
他の兄弟姉妹より自由も与えられていました。
それなのに、なんの罪も関係もないシャリオン様を、くだらない・・・道理が全く成り立たないことを並べ、巻き込み、・・・そして心に見えない傷をいくつも作った」
「・・・」
「力も魔力も圧倒的な私は、彼に一切の手を抜かず、言葉の刃を振りかざし傷をつけたのですよ」

それが事実なのだろう。
シャリオンが何よりも大切で、そんな彼に暴力を振ったことは許しがたい。
だが、それ以上に彼の言葉に裏を感じた。

「私は悪人です。ですからどうか私を」
「シャリオンは」
「・・・、」
「シャリオンはどうしたんだ」


そう言うとセレドニオは黙った。
そして首を下げ、口元をゆがめた。
暫くして開かれた唇からは、か細い声が聞こえる。

「・・・お許しに、なりました」
「ずいぶんと納得いかなそうに言うんだな」
「・・・。・・・わからないのです」
「何がだ」
「私はあの方の尊厳を踏みにじり、心に深い傷を負わせました。
・・・なのに、あの方は助け出されてすぐに、私の情状酌量を・・・願ったのです」

セレドニオの言葉で漸く分かった。
処刑すら覚悟していたと聞い男は、シャリオンの行動が信じられなかったのだろう。

「宰相閣下は・・・私を視線で殺せるほどの睨視をこちらに向け、私がしたことを知り怒り狂いましたが、
それでも・・・宰相閣下もシャリオン様の願いをかなえるために。
私が手を掛けたのはシャリオン様だけではありません。
・・・けして許されるべき人間ではない。なのに」
「困惑は分からないでもない。だが、それがシャリオンなんだ」

シャリオンがこの男に攫われ、そんな目にあったのはライガーの所為だ。
だが、その引け目もシャリオンは受け付けなかった。
むしろ気を使わせて、元気づけられた。
ふと、眩しい笑顔をが脳裏に浮かぶ。

「それにセレドニオ。
それを言うなら、そなたをそんな状況にさせたのは私の所為だ」
「・・・、」
「不運にも王族で長子で・・・悪評もなかったが故に、あの男に目を付けられた。
そして、あの男はそなたに余計な圧力をかけ、したくもないことをさせ、シャリオンを傷つけた。
・・・私を恨むといい」

セレドニオは自分よりも一回り以上も年上だ。
姉に当たる人間の子供だからだ。
だが、ライガーが生まれてしまったために、余計利用価値が出来てしまったのだろうと、安易に想像できる。
しかし、セレドニオは今までも声を張って否定する。

「子は親を選べません」

その言葉はライガーだからこそよくわかる言葉った。
そして、この男もやはり・・・。

「そうだ。それが答えだ」
「殿下も・・・私を許すのですか。私は貴方を暗示をかけて王にしようとしていたのですよ」
「一番の被害者であるシャリオンが許しているのに、何故私が責めることが出来るんだ。
そなたが責められる理由があるならレオン殿や伴侶であるガリウスがとっくにしている」
「・・・ッ」

セレドニオはあの男の血が流れているかもしれない。
しかし、ファングス家とは違う。

「・・・。・・・その目元を隠しているのはシャリオンの為か?」

パッと出会ってしまった時のために。・・・そのために目元を隠しているのだろうか。
そう言うと男は黙りこんでしまい、本当のところは分からない。
だが否定をしないと言う事は、それもあるのかもしれないと思った。

話す前は『ファングス』の血が流れているというだけで、警戒をしていたのだが。
ライガーは少しだが話せてよかったと思った。

実際はあの男の気配など一切感じない。

ガリウスはこれも見込んでいたのだろうか。

そんなことを思いながら紙に暗号で書かれた作戦を読むのだった。

☆☆☆

その日の夜。
部屋に戻ってきたゾルにガリウスに伝達を頼もうとすると、手を差し出せと言われる。
何事かと思いつつも差し出すと、握られた。

「・・・、ゾル?」
「あの男とつながっているので語りかけてください」
「・・・?」

言っている意味が分からずに眉を顰めていると、すぐに理由が分かる。

『こんばんは。どうかされましたか』
『!・・・これは』
『禁術です』

そうしれっというガリウスは「内密でお願いします」と言ってきて、苦笑を浮かべた。
大方、ゾルを通して会話をするのが面倒だったのだろう。
実は三つ子だったというゾルでも、こんなに離れていて何故ゾルがガリウスと連絡取れるのか不思議だったが、
理由が漸く分かった。

『そうか。・・・ガリウス。何故私にあの男を付けたんだ』
『あの男は使えますので。・・・そればかりに目が行っていまして産まれをすっかり忘れていたのです。
申し訳ありません』

その淡々という軽さは本当なのか疑いたくなってしまう。
だが、使と、思っているのは事実だろう。

『ですが、言ってくるのが大分遅かったですね』

王都を出発して一週間は経った。
その口調からしてもっと早く言われると思っていたらしい。

『ガリウスの事だから、何か考えてのことだと思ったから確認しようと思ってだな』

そういうとガリウスはクスリと笑った。

『とてもいい傾向です。気になることがあれば、すぐにゾルを使って聞いてください』

言われたゾルの眉がピクりと動く。
どうやらこの会話はゾルにも聞かれているらしい。
だが、否定をしないところを見るとあきらめているようだ。

『殿下はあの国に行かれたことがあるのでご存じだとは思いますが、サーベル国は少々我らの国より気性が荒いと言いますか、攻撃的と言いますか・・・。
ゾルとは真逆な人間が多いと思ってください。
・・・流石に王家の人間や貴族はそうではないかと思いますが、・・・』
『あぁ分かっている。
今回窓口になってくれる予定の王子は王位継承権はないが兄弟の中では、温厚でまともだと聞いているから大丈夫だとは思うが』
『・・・そうだと良いのですが。
サーベル国にはアボットの所有する財産があるかもしれません』

アボットは王都によくいた事が報告されているが、領から出てサーベル国やほかの国に出ていたということも聞いている。
それを現すようにアボットの奴隷の中には多種多様な種族がいた。
その中にはサーベル国の被害者もいた。

『サーベル国にはそう言った理由からアボット名義の土地を王家に返還する交渉する予定だっただろう?』
『そうですが、・・・別名義やほかに仲介人がいないとも限らない』
『!・・・確かに』

それでも少なくとも国内にいた時は不便であるのは間違いない。
おまけにあの男は足の腱を切られ、満足に歩けない。
例え義足を手に入れられたとしても、一年で歩けるようになっているくらいだろう。
裕福に暮らし好き放題人間をもてあそんでいた奴が、そこまでの根性があるか疑問があるが。
だが、きっとそんな男を手助けてしている人間がいるはずなのだ。

『凶悪犯と言う事でサーベル国から引き渡し、もしくは死刑にしてもらいたいところではありますが・・・きっと何かを望んでくるはず』
『・・・あぁ』
『逃がす前に絶対に取り押さえないといけません。
シャリオンのためにも』
『!・・・そうだな』
『・・・殿下には期待・・・いえ。殿下に掛かっています』
『フッ・・・あぁ。任せてくれ』

ガリウスが他人に期待しているということを、口に出すことは珍しい。
それがたとえライガーを乗せるためだと分かっていても嬉しくはあった。

『ガリウス』
『何でしょうか』
『どうせなら、殿下は止めてくれないか。はもう「アルアディア」から出ているのだから』
『・・・。では閣下と』
『この国の貴族すべてにそう呼ぶのか?』

そういうと面倒そうにため息をついた。
なんだかそれも新鮮である。

『俺が唯一信頼して相談出来る人間はガリウスなんだろう?』
『唯一ではないでしょう。貴方は皇太子殿下もシャリオンも』

そこまで言ったところだった。

「申し訳ないのですが、そう言った会話は王都に戻られた後で宜しいのではないでしょうか」
「っ・・・すまない」
『気にしなくても良いですよ。
どうせゾルは男と手をつなぐというその状況に不満を感じてそう言っているにすぎません』

改めて口にすると酷い状況である。
ライガーはガリウスのその言葉を無視すると、パッと手を離しゾルを見る。

「すまない。配慮不足だった」
「いいえ。初めてできた友人なのでしょう?」
「・・・友人」
「違うのですか?・・・あの男にしては砕けた話し方だったように思いますが」

ゾルはそう言いながらガリウスの友人のアルベルトを思い出しながら答える。

「しかし、期待しない方が良いかもしれません。
単にシャリオンの幼馴染の為、優先順位が高いだけで、そう思わせるのがあの男の手管かもしれません」

その遠慮のない言葉に苦笑するライガー。

「いや・・・」

お前も大概だという言葉を飲み込むのだった。
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