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執着旦那と愛の子作り&子育て編

【別視点:ライガー:セレドニオ:ゾル】試練①

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サーベル国へ出発する前夜。
自身の屋敷で準備をしている最中に、部屋にノックが響く。

「はい」
「ハイシア様がお見えになりましたが、お通しして宜しいでしょうか」

約束はしていなかったはずだが。
まぁ来たのはガリウスだと思われた。

「通してくれ」

開いていた本を閉じると、カバンに詰めそちらに向かうと、しばらくして使用人と現れたのはやはりガリウスだった。
使用人に茶の用意をさせようとしたが、つれないことに用が終わったら帰るという。
まぁ屋敷に最愛がいるのだから当然だ。

「殿下。夜分に申し訳ありません」
「そんな遅い時間ではない。だが先ほどでも良かったのではないか?」

ついさっきまで城に居たというのに、その時に言えばわざわざここに来なくても良かっただろうに。

「伝達漏れか?」
「いえ。あの場ではおそらく陛下がうる・・・ご心配されるかと思いましたので」

最近本当に容赦が無くなっていて思わず苦笑した。

「一体なんだ?」
「えぇ。同行する者ですが、お伝えするのを失念しておりました」
「?」
「私はきっと殿下なら乗り越えられると思って特に気にしていなかったのですが、ゾルが話しを通しておけと言うので」

確か、最後にゾルへ『あの男を連れて行け』と、そう言っていたのを思い出した。
その時は、同行する隊の中にいるのだろうと思っていたのだが。

「その男とはセレドニオ・メサです」
「・・・、」

そう言ったガリウスを穴が開くほど見るライガーだった。


☆☆☆


ガタゴトと緩れる馬車の中にはライガーとゾル、そしてセレドニオがいた。
ガリウスが言うには、このセレドニオはシャリオンの前に一生姿を現すことはないが、絶対に裏切ることは無いそうだ。
それは口頭は勿論最高レベルの誓約書で契約し、自らハイシア家の駒になることを選んだそうだ。
まぁ実際は選ばなければ死だから、答は決まっているのだろうが。
しかし、男は死刑を受け入れている様だったそうで、それは詳しくはガリウスは教えてくれなかった。
教えてくれたのはライガーと血縁者であると言う事だけ。
あの男ファングスは、自分の血が混じったことを好んでしていたらしく、魔力が高い人間を全国から攫ってきては子をつくっていたらしい。
それも、道具として使うために孕ませていたそうで、セレドニオはそのうちの1人だそうだ。

それには気の毒に思うが、産みの親である王妃の弟と思うと、ガリウスがもう大丈夫だと言っても信用できないのは言うまでもない。

「・・・、・・・はぁ」

気が重くて思わずライガーはため息をつく。
すると、セレドニオがため息が気になってしまったらしく、言葉を発した。

「・・・。やはり、私は後続部隊から」

目を伏せて・・・とは言っても彼は目元を布で巻いており、本当に伏せているのかはわからないが、頭の角度が下を向いている。
それでも特殊な術を使っているらしく、物理的に視界を奪っても前が見えるのだそうだ。
しかし、ゾルがそれを止める。

あの男ガリウスから許可されていない」
「しかし、」
「いや・・・ゾルの言う通りだ。すまない。私の切り替えが出来ない所為で」
「!?・・・、・・・いえ」
「?」

何故かセレドニオは驚いたようにしたが、すぐに背筋を伸ばすとただ前を見た。

「もし、気が休まられるなら布をかぶります」
「・・・いや。良いそんなこと」
「では、姿を消しましょうか」
「そんなことが・・・?・・・あぁそうか。ガリウスがセレドニオは高位魔術師と言っていたな」
「・・・ガリウス様が?」
「あぁ。違うのか?」
「いえ。ガリウス様がそうおっしゃられるならそうなのでしょう」
「・・・?」

その言い回しにいぶかし気に眉を顰めたが、例え聞いたとしても答えないだろう。
彼は自分に敬意をもって接してくれているように見えるが、それは王族であってそれ以上ではない。
恐らく彼の言う主人が何かを言ったらそれが第一優先だ。

・・・なんかシャリオンの周りには癖の強い人間ばかりが集まるな・・・

そんなことを思い浮かべると苦笑を浮かべる。

・・・
・・


王都からハドリーまでは馬車でも一週間弱かかった。
漸くハドリー領についたそこは、以前とは見違えるほど活気がある。
アボット領だったころにも、大陸外の海外に行くときは唯一大陸内で海に面しているこの土地を通らなければならなず、それはアルアディアだけでなく、同じ大陸内にあるカルガリアも同様だ。
国土としてはアルアディアにあるが、カルガリアが出国するときもここの港を使う。
過去に協議をしており、この港の一部はカルガリアの領地をつくりそこに船が停泊できるようになっており、
つまり、このハドリー領は常に人で溢れている。

なので、正確には以前も活気はあったが、質が違うのだ。
今では和気あいあいとし皆が笑っているように思う。
降りて民に評判を聞いてみたくもあったが、彼等の表情を見るだけで分かる。

正しく領主が変わったことで、この街は正常に稼働し始めたのだ。

「・・・、」

あの件で、シャリオンに酷い思いをさせてしまった。
しかし、こんな風に良くなったのを見ると何もいえなくなった。
そんなことをぼんやり思っていると、馬車の扉が開く。
そこにはどこかで見覚えがある女性が立っていた。
物覚えは良い方で、一度会ったら忘れない方なのだが。
使用人だから覚えていないのだろうか。

「失礼いたします。長旅お疲れ様でございます。
お部屋へご案内いたしますので、まずはそちらにてお休みください」

そう言ってお辞儀をする女性。
ライガーはそれに伴いながら案内されるまま部屋についた。
今日はゾルが従者という立ち位置ではあるが、明日からさらに海への旅へと出るため、この城にいる時は自由で構わないと言った。
すると、どうやら彼はこの城に知り合いがいるらしいことを聞いて、漸く先ほどの女性が誰かわかった。
シャリオンのところにいたアリアだ。
そのアリアと、このハドリーの次期当主として現在勤勉中と言うカインは元々ゾルの教え子だった。
なおの事外に出そうとしたところだった。

「では、セレドニオを置いていきます」
「えっと・・・いや」
「申し訳ありません。あの男ガリウスから許可がありませんので。
それに貴方にもしものことがあったら、シャリオン様が悲しむので」
「・・・」

だからと言って、よりによってセレドニオを置いて行かなくてもよいのではなかろうか。
ガリウスもゾルも、シャリオンにはあれほど気を使っているというのに、自分にはその心遣いは雑ではなかろうか。
使ってもらっているのは分かるのだが。・・・しかし、そうも言っては仕方がない。
それに、慣れなければいけないというのは分かっているのだ。
ガリウスもゾルもセレドニオを残そうというのは、別にライガーに嫌がらせをしたいわけではない。
この男が優れた男だから。
出なかったら、事件に関係のあったというこの男を、レオンもそしてガリウスも生かしておかないだろう。
半ば渋々だ。
ライガーはコクリと頷く。

「・・・。わかった」
「大丈夫です」

ライガーの気が進まないのが伝わったのか、言葉を続けるゾル。
しかし、それは思っても見ない言葉だった。

「あの男は貴方に怯えてますので」
「?・・・どういう意味だ」
「一回りも離れた貴方に怯えるなんて可笑しい話ですが。
なのであまり刺激しないほうがいいと思います」

普段執事や側近に呈した彼が笑う所は見た事がないが、今はオフだからなのかクスリと口元に笑みを浮かべている。
そんな刺激を与えると何をしでかすかわからない男を置いていくなと、言ってしまいたくなった。

ガリウス・・・どういうつもりなんだ

思わず小さくため息をついた。
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