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執着旦那と愛の子作り&子育て編
後ろに目がついているんだろうか・・・?①
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朝。
ガリウスが城に登城する直前にシャリオンは思い出したように口にする。
「あ。そうだ、ガリウス」
「どうかしましたか?」
使用人が持ってきた外套 に腕を通していたガリウスがこちらに視線を向けた。
「今日は王都にあるジャスミンの店に顔を出そうと思うんだ」
そう言うとガリウスはほんの少し目元を動かしたが、シャリオンは気づけなかった。
ほんの少しやましい気持ちがあったからである。
「あれから2日経ったし、衣装がどこまでできたか見たくて」
「こちらに来ていただければ良いのでは?」
「いや。変えてもらいたいところがあったら、こっちに来てもらって指示して持って帰って作業するのは効率が悪いでしょう?」
そう口にしながらドキドキと心臓が脈をうつ。
嘘をついているわけじゃない。
本当に衣装を見に行きたいのもあるのだが、隠し事だと思うと酷く緊張する。
しかし、ガリウスはコクリとうなづいた。
「それもそうですね」
「だから、今日はガリウスは城でゆっくり昼食をとっていいよ」
「戻られた時に連絡をくださったら私も戻りますよ。
まさか昼食を取らずにその店に居続ける訳じゃないでしょう?」
「進み具合では見てるかもしれないし、そうしたら食事は外で食べようかな。
もう祭典まで時間無いからね」
例えそうだったとしても、シャリオンが見ていたとしても仕方がない。
こちらをじっと見下ろして来る視線に緊張してしまう。
「・・・。わかりました。たまには気晴らしにもなるでしょう。
ただし、必ずゾルは連れて行って下さいね」
「うん」
「それと、・・・魔力切れを起こしたときのために、私の魔力を込めた魔法石も忘れないように」
「わかった」
「ゾル。頼みましたよ」
「かしこまりました」
「では、・・・シャリオン。行ってきます」
そう言いながら、ガリウスは頬に口づけると、名残惜しそうに頬を撫でると馬車に残りこんだ。
その馬車が見えなくなるまでシャリオンは見続けていた。
☆☆☆
店につくと貴族で溢れていた。
それを見て帰ろうとも思ったのだが、ハイシア家の家紋に気付き従業員が引き留めてきた。
そして、奥にある部屋に案内され、今はジャスミンを待っているが、忙しい様で中々来なかった。
「本当に見に来るとは思わなかった」
「なんで?本当に衣装が気になってたのは本当だよ」
そう言ってゾルを見れば疑っている眼差しで、シャリオンは苦笑した。
「約束は覚えているな」
「約束をした覚えはないけど・・・、・・・わかってるよ。
それにしないって言ったじゃない」
ガリウスが何を隠しているのかはとても気になるところだが、以前言ったようにシャリオンだって子供が大切だ。
核が安定した後も不安だが、今は安定させることなにより大切ある。
ハドリー領のアリアに知らされたライガーの件は気になるが、それ以上動きようがない。
アリアも今はハドリー侯爵家の私用人であって、シャリオンが好きに動かせるわけじゃないのだ。
それなのに、今日ジャスミンの店に来たのは完全なる下心だ。
矛盾しているが無理をせずに分かるなら知りたい。
各領地だけでなく各国に材料を買い付けているジャスミンなら、もしかしたらハドリー領に居たというライガーのことで何か情報を持っているかもしれない。
子供の為にも無理はしないが、それとなく話を聞きたかったのだ。
「(自重した行動を)お願いします」
部屋にノックが響いた。
急にゾルの口調が整ったのは、どうやら人の気配を感じ取ったかららしい。
ゾルに合図を見ると『はい』と返事をすると、部屋に入ってきたのはジャスミンだ。
その姿はいつもの様に煌びやかに衣を着こなしているが、目元には濃いクマが出来ていた。
「来てくれてちょうどいいタイミングよ」
「ジャ、ジャスミンさんっ挨拶忘れてます!」
「あ。・・・申し訳ないですわ。シャリオン様。ようこそおいで下さいました」
「やぁジャスミン。丁寧にありがとう。時間もないのにすまない」
「ありがとうございます。
・・・、・・・、・・・あーーー!話しにくいわっ!!」
そういうと発狂するジャスミン。
暴走するとちょくちょく口調が崩れるのは気づいていた。
シャリオンは苦笑をしながら、他に見ている者がいないしいつもの口調で構わないというと、ホッとしたように『良かった~。大変だったのよ』と、漏らした。
「で。本題よ。
衣装のことだけど後少しなんだけど、フィッティングしてもらえるかしら」
そう言うと、後ろからずらずらと服が並べられた。
それは何着も並んでいて、シャリオンは目が点になる。
依頼していたのは一着だと思っていたからだ。
それは、一年前に結婚式をしたときの衣装の個数よりは少ないが、祭典に出るにしては多い。
「貴方達の素材が良すぎて・・・イメージがとまらなかったの」
「よく・・・これだけ作くる時間があったな」
「おなか以外はサイズ変えてないもの。シャーリー様からお話頂いてからずっと考えていたのよ!」
「あ、・・・ありがとう」
「さぁフィッティングしましょうねー♪・・・て、」
嬉々としてシャリオンに手を伸ばしてきた手をガシリと掴んだのはゾルだ。
そんなゾルに半眼で見るジャスミン。
「だから私はシャリオン様をそんな目で見てないってば!」
「駄目です。・・・この模型に着せてあるように着れればいいんですね」
「そうよ!・・・はーっ・・・伴侶様と同じくらい頭の固い男ねっ」
「シャリオン様。着方は分かりそうですか?」
もう、何も突っ込むまいと、思いつつ服の構造を見た。
確かにアルアディアでは少し珍しいが着れないこともないだろう。
そう返事をすると、用意されたついたての後ろでシャリオンは着替えると、ジャスミンに見せる。
途端にその視線はおちゃらけた雰囲気は消え、何人かの従業員と話し始めた。
「この色は駄目ね。差し替えるわ」
「ですね。・・・これではバランスがあいません」
「服がシャリオン様の良さを殺してます」
「ジャスミンさん!この色はどうですか!」
「そうね。でも、別の素材の同じ色にしましょう」
「わかりました!」
「シャリオン様。サイズはどう?きつくないかしら」
「うん。サイズはゆったりしててとても楽だよ」
「それは良かった。・・・シャリオン様。今日予定はあるかしら」
「え?いやないけど」
「それなら、また午後に来てもらえるかしら。3時間で仕上げるわ」
「えっ一時間?」
驚いてジャスミンを見ればフっと笑みを浮かべる。
「えぇ。だってプロだもの」
そう自信満々に言い切ると彼等は作業に戻っていった。
時間を持て余したシャリオンは思わずゾルを見上げる。
「本当に時間が余った」
「公爵家の次期当主になんてこと」
「まぁ良いじゃない。それでいい物が出来るなら。
・・・じゃぁ僕たちはいったん外に出ようか。
甘くて軽く食べられる物を差し入れてあげよう?」
「・・・。シャリオン様がそうおっしゃるなら」
呆れた様子のゾルは小さくため息をつくが、そう頷くのだった。
☆☆☆
余り王都を散策することもないシャリオンは少しワクワクしていた。
最後に出たのは確かカインとアリアの買い出しをしに行ったときだったと思う。
今回は上流階級の街並みなので少し違うが。
すれ違う貴族たちは、こちらに驚いたようにしながらも挨拶をしてくれる。
そうしているうちに、人気の菓子屋を教えてもらった。
そこで差し入れを買い店を出た時だった。
見知らぬ男に声を掛けられる。
「ねぇ。今暇?」
「?」
「暇ではないです」
ゾルは素早くシャリオンを後ろにやりかばうように立った。
男は褐色肌に金髪で金目で見るからにこの国の男ではない。
そんな男は、ゾルを見ると疎まし気だったが、急に驚いたようだった。
「わぉ。・・・まさか同郷の人間がこの国の貴族の使用人をやってるとは思わなかったな」
「いえ。私は生まれも育ちもこの国の人間です」
「え?それは無いでしょう。その目の色・・・あぁ。そうか。父か祖父がこの国にやってきた口かな」
そういうとクスリと笑みを浮かべた。
シャリオンはこの目の色を見慣れていたから、カインやカインの父親であるヘルッコを見てもなんとも思わなかったが、それほど特徴的なものなのかもしれない。
もともとこの国、・・・いや、この大陸ハリアーでは目の色は多種多様だ。
にもかかわらず金色はないが。
「うちの者が何か」
「・・・っおさがり下さい」
「大丈夫だよ。ここは貴族街だ。
おかしなことをしたら警備兵がやってくるし、ここに貴方がいると言う事はもう間もなくにあるこの国の建国記念にお越しくださったのでしょう?」
最後は男に向けて言えば、クスリと笑みを浮かべた。
男はシャリオンよりもはるかに大きく、筋骨隆々な体は服の上から見ても強そうなのが分かる。
ゾルも側近でありながら鍛えている様なのだが、それよりもはるかにある。
腰からぶら下げた剣は使い込まれていて戦い慣れをしてそうに見えた。
この男がどんな者だったとしても、こんなところで争いごとは良くない。
「その者は本当に貴方の家の者なんですか?・・・あ、ひょっとして貴方がハイシア家の?」
「・・・。そうですが」
「といいうと、シャリオン殿か。これは聞きしに勝るな」
男はそう言いながら自分の顎に手をやりながらシャリオンをじろじろと見てくる。
百歩譲って、異国の使用人を使っているハイシア家を知っていたから分かったのだとして、それでも不躾な視線だった。
相手がどんな身分でもそれで態度を変えたりはしないが不愉快だった。
「私のことをご存じで?」
「あぁ。貴方は私の国でも有名だからな」
「そうなのですか・・・?」
「この国に来た貴族や王子が貴方の美しさに皆虜になって帰ってくるからな」
王族に婚約破棄をされたことが知られていたのかと思ったが、どうでもいい内容だった。
「皆一様にそんなことを言うから馬鹿にしていたが。なるほど。これは美しいな」
「ありがとうございます」
「シャリオン殿。これからお時間はありますか?」
その言葉ににこりと笑みを浮かべつつも苦笑を浮かべた。
「申し訳ありません。この後は予定が」
「それは残念。それなら昼食はいかがですか?」
外に出ないシャリオンだが社交の場で少し強引な貴族もいる。
そう言ったもの達は気づいたらいなくなっていることが多いのだが、それでも当たり障りなく会話をしていたのだが、今日はうまくいなせなかった。
相手が式典に招待されているかもしれない人物かもしれないと思うと余計だった。
「すまないが」
「君はもう王族とは婚約を破棄しているんだろう?」
「・・・、」
「シャリオン様はすでにご結婚されてます」
「え。・・・本当に?」
「はい」
「えーっ」
王族ではないシャリオンは別に結婚したとしても、国外に知らせる必要はない。
それにしても、話し方が以前のカインの様だ。
そんなことを思っていとずいっと近寄ってくる気配に驚くが、ゾルがそれをかばってくれる。
「失礼ですが。この国ではそう言った行動はなさらないでください」
しかし、そんなゾルに不機嫌そうに眉を顰めた。
「はぁ?お前ただの使用人の分際でなに言ってるんだ」
「彼は側近です。・・・申し訳けないのですが、これで失礼します。行こうか」
ゾルもそれにコクリと頷き、2人そろって去ろうとしたところだった。
男はゾルの腕を掴み上げるとニヤリと笑う。
「わぉ。想像以上に弱い。こんなんで大丈夫なのか?」
「!」
「くっ」
「ゾルっ・・・離してもらえないか」
ゾルが一方的にこんなことをされるのは初めてのことで驚き心配のあまり声を上げそうになったが、
シャリオンは努めて冷静に声をかける。
止めに入ろうと足を踏み出したのだが、力づくで抑えつけているその様子に足が動かなくなった。
頭に浮かびそうになった光景に、そんな場合じゃない!と奮起しようとしたするのだが・・・。
「シャリオン」
「ガリウス・・・!ゾ、ゾルが」
シャリオンは気づいていないが、顔面蒼白となったシャリオンにガリウスは一瞬止まったが、
こちらに近づくと抱き寄せられた。
それだけで感じそうになっていた恐怖がすっと消えていくようだ。
騒ぎを聞きつけた衛兵とやってきたのはガリウス達だけでなく、サーベル国の王子であるポンツィオ・サーベルがいた。
金色の目で藍色の腰で結った男は、異国の服だが見るからに上等な布を使った衣に身を包んだ男はサーベル国の王子だ。
そんな、ポンツィオとはライガーの婚約者だった頃にあったことはある。
その頃よりも身長は大きくなり体格も良くなっていた。
そんな彼は呆れた様子でゾルを抑えつけた男を呼んだ。
「カイザーお前は何をしているんだ・・・」
ポンツィオにカイザーと呼ばれた男は、ゾルからパッと手を離し開放する。
「別に?サーベル人にしちゃ細いからちょっと掴んだだけだって」
「・・・。だからと言って掴むな。ここはサーベルではないんだぞ」
「あれ。もしかして気を悪くしたか?」
シャリオンとゾルを交互に見てきて、それは本気で言っているように見えた。
だが、今は気持ちが追い付いて行かず、シャリオンの表情は硬いままだった。
「・・・いや。だが、もうやめていただきたい」
「怖がらせたか?・・・顔色が悪いな。送っていこう」
差し出された手に体を強張らせるシャリオンの肩を強く抱き寄せるガリウス。
「結構です。
ポンツィオ様。
申し訳ありませんが、私は本日これで失礼します」
「あぁ。うちのがすまない」
「いえ。・・・お前達、あとは頼んだ」
「「はい」」
一緒についてきていた宰相の側近たちに任せると、辻馬車を捕まえ屋敷に帰っていった。
☆☆☆
思い返してみても先ほどの怯え方は、過剰すぎたと思うのに思い出すと体が小刻みに震える。
それを気づかれないように腕を強く握り我慢しようとする。
心配をかけないためにも本当なら離れればいいのだが、ガリウスのそばが一番安心する所為かシャリオンはそこから動けないでいた。
屋敷についてそのまま寝室に向かうと、ベッドに押し込まれた。
「すまない、・・・こんな弱くて」
「貴方が謝ることはありません」
あの面子を考えると、おそらくガリウスはサーベル国の人間に街を案内していたのだと思われた。
祭典のために各国の国の代表が到着しているようだ。
カイザーがどういった立ち位置なのかはよくわからないが、王子であるポンツィオに普通に口を聞いている人間ならそれなりの立場なのだろう。
王族の名前と顔は流石に覚えたが、それ以外となるとシャリオンも難しい。
「先ほどのことは、ですが」
「・・・え?」
「今日出掛けたのはあの男に接触するためですか」
「あの男・・・、カイザーと言われた男・・・?」
何が何だかわからなくてガリウスを見上げるが、その目は静かな怒りが見えた。
「なんのことか」
「では、何故今日衣装を見に行くと言ったのです」
「・・・それは、見たかったからだけど」
もともとガリウスが隠し事をしているからだ。
「・・・貴方の嘘を見抜けないとお思いですか?」
「そん、なの・・・僕だって同じだよ」
「・・・シャリオン?」
「ガリウスだって僕に隠し事しているじゃないか」
そう言うと、ガリウスは驚いたように目を見開いた。
ガリウスが城に登城する直前にシャリオンは思い出したように口にする。
「あ。そうだ、ガリウス」
「どうかしましたか?」
使用人が持ってきた外套 に腕を通していたガリウスがこちらに視線を向けた。
「今日は王都にあるジャスミンの店に顔を出そうと思うんだ」
そう言うとガリウスはほんの少し目元を動かしたが、シャリオンは気づけなかった。
ほんの少しやましい気持ちがあったからである。
「あれから2日経ったし、衣装がどこまでできたか見たくて」
「こちらに来ていただければ良いのでは?」
「いや。変えてもらいたいところがあったら、こっちに来てもらって指示して持って帰って作業するのは効率が悪いでしょう?」
そう口にしながらドキドキと心臓が脈をうつ。
嘘をついているわけじゃない。
本当に衣装を見に行きたいのもあるのだが、隠し事だと思うと酷く緊張する。
しかし、ガリウスはコクリとうなづいた。
「それもそうですね」
「だから、今日はガリウスは城でゆっくり昼食をとっていいよ」
「戻られた時に連絡をくださったら私も戻りますよ。
まさか昼食を取らずにその店に居続ける訳じゃないでしょう?」
「進み具合では見てるかもしれないし、そうしたら食事は外で食べようかな。
もう祭典まで時間無いからね」
例えそうだったとしても、シャリオンが見ていたとしても仕方がない。
こちらをじっと見下ろして来る視線に緊張してしまう。
「・・・。わかりました。たまには気晴らしにもなるでしょう。
ただし、必ずゾルは連れて行って下さいね」
「うん」
「それと、・・・魔力切れを起こしたときのために、私の魔力を込めた魔法石も忘れないように」
「わかった」
「ゾル。頼みましたよ」
「かしこまりました」
「では、・・・シャリオン。行ってきます」
そう言いながら、ガリウスは頬に口づけると、名残惜しそうに頬を撫でると馬車に残りこんだ。
その馬車が見えなくなるまでシャリオンは見続けていた。
☆☆☆
店につくと貴族で溢れていた。
それを見て帰ろうとも思ったのだが、ハイシア家の家紋に気付き従業員が引き留めてきた。
そして、奥にある部屋に案内され、今はジャスミンを待っているが、忙しい様で中々来なかった。
「本当に見に来るとは思わなかった」
「なんで?本当に衣装が気になってたのは本当だよ」
そう言ってゾルを見れば疑っている眼差しで、シャリオンは苦笑した。
「約束は覚えているな」
「約束をした覚えはないけど・・・、・・・わかってるよ。
それにしないって言ったじゃない」
ガリウスが何を隠しているのかはとても気になるところだが、以前言ったようにシャリオンだって子供が大切だ。
核が安定した後も不安だが、今は安定させることなにより大切ある。
ハドリー領のアリアに知らされたライガーの件は気になるが、それ以上動きようがない。
アリアも今はハドリー侯爵家の私用人であって、シャリオンが好きに動かせるわけじゃないのだ。
それなのに、今日ジャスミンの店に来たのは完全なる下心だ。
矛盾しているが無理をせずに分かるなら知りたい。
各領地だけでなく各国に材料を買い付けているジャスミンなら、もしかしたらハドリー領に居たというライガーのことで何か情報を持っているかもしれない。
子供の為にも無理はしないが、それとなく話を聞きたかったのだ。
「(自重した行動を)お願いします」
部屋にノックが響いた。
急にゾルの口調が整ったのは、どうやら人の気配を感じ取ったかららしい。
ゾルに合図を見ると『はい』と返事をすると、部屋に入ってきたのはジャスミンだ。
その姿はいつもの様に煌びやかに衣を着こなしているが、目元には濃いクマが出来ていた。
「来てくれてちょうどいいタイミングよ」
「ジャ、ジャスミンさんっ挨拶忘れてます!」
「あ。・・・申し訳ないですわ。シャリオン様。ようこそおいで下さいました」
「やぁジャスミン。丁寧にありがとう。時間もないのにすまない」
「ありがとうございます。
・・・、・・・、・・・あーーー!話しにくいわっ!!」
そういうと発狂するジャスミン。
暴走するとちょくちょく口調が崩れるのは気づいていた。
シャリオンは苦笑をしながら、他に見ている者がいないしいつもの口調で構わないというと、ホッとしたように『良かった~。大変だったのよ』と、漏らした。
「で。本題よ。
衣装のことだけど後少しなんだけど、フィッティングしてもらえるかしら」
そう言うと、後ろからずらずらと服が並べられた。
それは何着も並んでいて、シャリオンは目が点になる。
依頼していたのは一着だと思っていたからだ。
それは、一年前に結婚式をしたときの衣装の個数よりは少ないが、祭典に出るにしては多い。
「貴方達の素材が良すぎて・・・イメージがとまらなかったの」
「よく・・・これだけ作くる時間があったな」
「おなか以外はサイズ変えてないもの。シャーリー様からお話頂いてからずっと考えていたのよ!」
「あ、・・・ありがとう」
「さぁフィッティングしましょうねー♪・・・て、」
嬉々としてシャリオンに手を伸ばしてきた手をガシリと掴んだのはゾルだ。
そんなゾルに半眼で見るジャスミン。
「だから私はシャリオン様をそんな目で見てないってば!」
「駄目です。・・・この模型に着せてあるように着れればいいんですね」
「そうよ!・・・はーっ・・・伴侶様と同じくらい頭の固い男ねっ」
「シャリオン様。着方は分かりそうですか?」
もう、何も突っ込むまいと、思いつつ服の構造を見た。
確かにアルアディアでは少し珍しいが着れないこともないだろう。
そう返事をすると、用意されたついたての後ろでシャリオンは着替えると、ジャスミンに見せる。
途端にその視線はおちゃらけた雰囲気は消え、何人かの従業員と話し始めた。
「この色は駄目ね。差し替えるわ」
「ですね。・・・これではバランスがあいません」
「服がシャリオン様の良さを殺してます」
「ジャスミンさん!この色はどうですか!」
「そうね。でも、別の素材の同じ色にしましょう」
「わかりました!」
「シャリオン様。サイズはどう?きつくないかしら」
「うん。サイズはゆったりしててとても楽だよ」
「それは良かった。・・・シャリオン様。今日予定はあるかしら」
「え?いやないけど」
「それなら、また午後に来てもらえるかしら。3時間で仕上げるわ」
「えっ一時間?」
驚いてジャスミンを見ればフっと笑みを浮かべる。
「えぇ。だってプロだもの」
そう自信満々に言い切ると彼等は作業に戻っていった。
時間を持て余したシャリオンは思わずゾルを見上げる。
「本当に時間が余った」
「公爵家の次期当主になんてこと」
「まぁ良いじゃない。それでいい物が出来るなら。
・・・じゃぁ僕たちはいったん外に出ようか。
甘くて軽く食べられる物を差し入れてあげよう?」
「・・・。シャリオン様がそうおっしゃるなら」
呆れた様子のゾルは小さくため息をつくが、そう頷くのだった。
☆☆☆
余り王都を散策することもないシャリオンは少しワクワクしていた。
最後に出たのは確かカインとアリアの買い出しをしに行ったときだったと思う。
今回は上流階級の街並みなので少し違うが。
すれ違う貴族たちは、こちらに驚いたようにしながらも挨拶をしてくれる。
そうしているうちに、人気の菓子屋を教えてもらった。
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見知らぬ男に声を掛けられる。
「ねぇ。今暇?」
「?」
「暇ではないです」
ゾルは素早くシャリオンを後ろにやりかばうように立った。
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「わぉ。・・・まさか同郷の人間がこの国の貴族の使用人をやってるとは思わなかったな」
「いえ。私は生まれも育ちもこの国の人間です」
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そういうとクスリと笑みを浮かべた。
シャリオンはこの目の色を見慣れていたから、カインやカインの父親であるヘルッコを見てもなんとも思わなかったが、それほど特徴的なものなのかもしれない。
もともとこの国、・・・いや、この大陸ハリアーでは目の色は多種多様だ。
にもかかわらず金色はないが。
「うちの者が何か」
「・・・っおさがり下さい」
「大丈夫だよ。ここは貴族街だ。
おかしなことをしたら警備兵がやってくるし、ここに貴方がいると言う事はもう間もなくにあるこの国の建国記念にお越しくださったのでしょう?」
最後は男に向けて言えば、クスリと笑みを浮かべた。
男はシャリオンよりもはるかに大きく、筋骨隆々な体は服の上から見ても強そうなのが分かる。
ゾルも側近でありながら鍛えている様なのだが、それよりもはるかにある。
腰からぶら下げた剣は使い込まれていて戦い慣れをしてそうに見えた。
この男がどんな者だったとしても、こんなところで争いごとは良くない。
「その者は本当に貴方の家の者なんですか?・・・あ、ひょっとして貴方がハイシア家の?」
「・・・。そうですが」
「といいうと、シャリオン殿か。これは聞きしに勝るな」
男はそう言いながら自分の顎に手をやりながらシャリオンをじろじろと見てくる。
百歩譲って、異国の使用人を使っているハイシア家を知っていたから分かったのだとして、それでも不躾な視線だった。
相手がどんな身分でもそれで態度を変えたりはしないが不愉快だった。
「私のことをご存じで?」
「あぁ。貴方は私の国でも有名だからな」
「そうなのですか・・・?」
「この国に来た貴族や王子が貴方の美しさに皆虜になって帰ってくるからな」
王族に婚約破棄をされたことが知られていたのかと思ったが、どうでもいい内容だった。
「皆一様にそんなことを言うから馬鹿にしていたが。なるほど。これは美しいな」
「ありがとうございます」
「シャリオン殿。これからお時間はありますか?」
その言葉ににこりと笑みを浮かべつつも苦笑を浮かべた。
「申し訳ありません。この後は予定が」
「それは残念。それなら昼食はいかがですか?」
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そう言ったもの達は気づいたらいなくなっていることが多いのだが、それでも当たり障りなく会話をしていたのだが、今日はうまくいなせなかった。
相手が式典に招待されているかもしれない人物かもしれないと思うと余計だった。
「すまないが」
「君はもう王族とは婚約を破棄しているんだろう?」
「・・・、」
「シャリオン様はすでにご結婚されてます」
「え。・・・本当に?」
「はい」
「えーっ」
王族ではないシャリオンは別に結婚したとしても、国外に知らせる必要はない。
それにしても、話し方が以前のカインの様だ。
そんなことを思っていとずいっと近寄ってくる気配に驚くが、ゾルがそれをかばってくれる。
「失礼ですが。この国ではそう言った行動はなさらないでください」
しかし、そんなゾルに不機嫌そうに眉を顰めた。
「はぁ?お前ただの使用人の分際でなに言ってるんだ」
「彼は側近です。・・・申し訳けないのですが、これで失礼します。行こうか」
ゾルもそれにコクリと頷き、2人そろって去ろうとしたところだった。
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「わぉ。想像以上に弱い。こんなんで大丈夫なのか?」
「!」
「くっ」
「ゾルっ・・・離してもらえないか」
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頭に浮かびそうになった光景に、そんな場合じゃない!と奮起しようとしたするのだが・・・。
「シャリオン」
「ガリウス・・・!ゾ、ゾルが」
シャリオンは気づいていないが、顔面蒼白となったシャリオンにガリウスは一瞬止まったが、
こちらに近づくと抱き寄せられた。
それだけで感じそうになっていた恐怖がすっと消えていくようだ。
騒ぎを聞きつけた衛兵とやってきたのはガリウス達だけでなく、サーベル国の王子であるポンツィオ・サーベルがいた。
金色の目で藍色の腰で結った男は、異国の服だが見るからに上等な布を使った衣に身を包んだ男はサーベル国の王子だ。
そんな、ポンツィオとはライガーの婚約者だった頃にあったことはある。
その頃よりも身長は大きくなり体格も良くなっていた。
そんな彼は呆れた様子でゾルを抑えつけた男を呼んだ。
「カイザーお前は何をしているんだ・・・」
ポンツィオにカイザーと呼ばれた男は、ゾルからパッと手を離し開放する。
「別に?サーベル人にしちゃ細いからちょっと掴んだだけだって」
「・・・。だからと言って掴むな。ここはサーベルではないんだぞ」
「あれ。もしかして気を悪くしたか?」
シャリオンとゾルを交互に見てきて、それは本気で言っているように見えた。
だが、今は気持ちが追い付いて行かず、シャリオンの表情は硬いままだった。
「・・・いや。だが、もうやめていただきたい」
「怖がらせたか?・・・顔色が悪いな。送っていこう」
差し出された手に体を強張らせるシャリオンの肩を強く抱き寄せるガリウス。
「結構です。
ポンツィオ様。
申し訳ありませんが、私は本日これで失礼します」
「あぁ。うちのがすまない」
「いえ。・・・お前達、あとは頼んだ」
「「はい」」
一緒についてきていた宰相の側近たちに任せると、辻馬車を捕まえ屋敷に帰っていった。
☆☆☆
思い返してみても先ほどの怯え方は、過剰すぎたと思うのに思い出すと体が小刻みに震える。
それを気づかれないように腕を強く握り我慢しようとする。
心配をかけないためにも本当なら離れればいいのだが、ガリウスのそばが一番安心する所為かシャリオンはそこから動けないでいた。
屋敷についてそのまま寝室に向かうと、ベッドに押し込まれた。
「すまない、・・・こんな弱くて」
「貴方が謝ることはありません」
あの面子を考えると、おそらくガリウスはサーベル国の人間に街を案内していたのだと思われた。
祭典のために各国の国の代表が到着しているようだ。
カイザーがどういった立ち位置なのかはよくわからないが、王子であるポンツィオに普通に口を聞いている人間ならそれなりの立場なのだろう。
王族の名前と顔は流石に覚えたが、それ以外となるとシャリオンも難しい。
「先ほどのことは、ですが」
「・・・え?」
「今日出掛けたのはあの男に接触するためですか」
「あの男・・・、カイザーと言われた男・・・?」
何が何だかわからなくてガリウスを見上げるが、その目は静かな怒りが見えた。
「なんのことか」
「では、何故今日衣装を見に行くと言ったのです」
「・・・それは、見たかったからだけど」
もともとガリウスが隠し事をしているからだ。
「・・・貴方の嘘を見抜けないとお思いですか?」
「そん、なの・・・僕だって同じだよ」
「・・・シャリオン?」
「ガリウスだって僕に隠し事しているじゃないか」
そう言うと、ガリウスは驚いたように目を見開いた。
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体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
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せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
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―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
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