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執着旦那と愛の子作り&子育て編
【別視点:ヘルッコ・ゾイドス:ガイア・アボッド】
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薄暗い路地裏。
建物と建物の間にあるその道は、人通りはなく埃臭い。
時折ネズミが走り回るようなそんな通路に、2人の男・・・ヘルッコ・ゾイドスとガイア・アボッドは人影から隠れるように潜んでいた。
侯爵としての煌びやかさはなく、以前の面影をなくしたアボッドはしゃがみビクビクと怯える様は尋常ではない。
最初は変装でこの服を着たつもりだったが、今ではこの所々破れた服一着しかない。
髪は絡まりぐしゃぐしゃ。体臭も酷く、肌は薄汚れていた。
年の割にふくよかな体質の所為で若く見えていたが、逃亡生活でガリガリに痩せた体は骨と皮だけで目玉だけが浮き出て、かつてより10歳は年上に見える。
そんな風になってしまった男は、通りの方と奥に続く道を交互に見ている。
しかし、もう一方の男・・・ゾイドスはそれを見下ろしただ見ているだけだ。
ヘルッコの方はむしろ堂々としていた。
格好は汚れているが、アボッドよりは堂々として、ただの労働者の様にしか見えない。
「落ちついたらどうだ」
ゾイドスはこの国の言葉ではない言語で話しかけるとアボッドを見る。
以前では考えられない口調なのは、平民に変装をしているからだ。
アボッド領、現在のハドリー領は大陸で唯一の港を所持している。
その為、外国との交流もあるのだが、その時にサーベル国の言葉も覚えたのだ。
ただ話せると言えるほどではなく、片言でも通訳がいたからそれでもよかったが、これからは本気で覚えなくてはならい。
それと、他の人間に会話内容を聞かれ足取りを拾われるの防ぐために、アルアディアの言葉を使っていない。
「ウルサイ!」
アボッドのその声の方が大きく、反響した声の音量に慌てて口をとじた。
そして、ガクガクと震え出す。
「っ・・・スマナイ」
アボッドはそう言うと共に、謝罪をするとうなだれた。
自分がこの男に謝罪をする日が来るとは思わなかった。
だが、今アボッドは一人では満足に動けず、ゾイドスが居なければ生きてはいけない。
「気にするな。貴方には助けられた。今度は俺の番だ」
そんなことを言うゾイドスを見上げた。
アボッドはハイシア家の者たちに追われていた。
追われると言っても追い付かれても捕縛することはない。
ただ、見られているだけだ。
最初は彼等の存在に気付いた時、国外追放と言いながら殺しに来たのかと思った。
しかし、彼等は何もせず、拍子抜けをした。
何日も何日もただついてくるだけで、存在を無視していたがその目的がなんだかわかった。
体が不自由になり、力になってくれるような知人は誰一人いないアボッドは何日も食べられない日が続いた。
今まで「食べれるけど食べない」事はあっても、食事がとれないことはなかった。
生きてきた中で感じたことのないほどの、空腹はいずれ痛みに代わる。
助けを求めるものかと思った思考はあっという間に崩れた。
プライドも何も捨てて、ハイシア家の追手に助けを求めた。
しかし、・・・彼らはただ陰でこちらをみているだけ。
すべての負の感情に苦しみ助けを求めるが一切助けてはくれない。
それなのに、もう駄目だと死にそうになると寸前のところで引き留められた。
それにアボッドは許されたのだと錯覚した。
・・・だが、それは大きな間違いだった。
その後も死にそうになり彼等に助けを求めるがすぐには助けてくれない。
本当に駄目になりそうになると、漸く助けられることを数回繰り返し、漸く分かった。
自分は助けられているのではない。と。
彼等は死神・・・いや。悪魔だ。
もう、助けてくれなくていいと請い、あまりの辛さに何度も死のうとしているのに、その度にその者達は苦しみを長引かせた。
狂いそうになったときだった。
そんな悪魔から逃がしてくれたのは、・・・このゾイドスだった。
久しぶりの知人にアボッドは期待と絶望を瞬時に覚える。
何故ならアボッドはその男に何度も助けを求められたが、純粋に助けたことなどなかった。
むしろ不利になる様に仕向け、影で嘲笑い捨て置いた。
だが、・・・ゾイドスは自身も追ってから逃げているというのに、荷物どころかゴミにしかならない自分を助けた。
何度も何度もだ。
かつて親身にしていたはずの者達は一斉に手のひらを返し、誰も自分を助けようとしてくれなかったというのに、
本当の意味でゾイドスを助けたことなどないにも関わらず、アボッドをすくってくれる。
「辛いのは後少しです。
ここから出られればすべてうまくいく。
あの国に逃げられれば元の生活に戻れる」
「ッ・・・アリガトウッ」
もう、何度こんなやり取りをしたのだろうか。
その度に涙があふれて止まらない。
この土地にはもう自分の物は何もない。
サーベル国には狭いながらに別荘を保持している。
そこに、逃げたいが・・・ゾイドスを頼るしかない。
しわしわになった手で、その男の手を握り何度も感謝を述べた。
「クニニモドッタラ、カネハラウ!」
そう、何度も言いながら頭を下げ続けた。
建物と建物の間にあるその道は、人通りはなく埃臭い。
時折ネズミが走り回るようなそんな通路に、2人の男・・・ヘルッコ・ゾイドスとガイア・アボッドは人影から隠れるように潜んでいた。
侯爵としての煌びやかさはなく、以前の面影をなくしたアボッドはしゃがみビクビクと怯える様は尋常ではない。
最初は変装でこの服を着たつもりだったが、今ではこの所々破れた服一着しかない。
髪は絡まりぐしゃぐしゃ。体臭も酷く、肌は薄汚れていた。
年の割にふくよかな体質の所為で若く見えていたが、逃亡生活でガリガリに痩せた体は骨と皮だけで目玉だけが浮き出て、かつてより10歳は年上に見える。
そんな風になってしまった男は、通りの方と奥に続く道を交互に見ている。
しかし、もう一方の男・・・ゾイドスはそれを見下ろしただ見ているだけだ。
ヘルッコの方はむしろ堂々としていた。
格好は汚れているが、アボッドよりは堂々として、ただの労働者の様にしか見えない。
「落ちついたらどうだ」
ゾイドスはこの国の言葉ではない言語で話しかけるとアボッドを見る。
以前では考えられない口調なのは、平民に変装をしているからだ。
アボッド領、現在のハドリー領は大陸で唯一の港を所持している。
その為、外国との交流もあるのだが、その時にサーベル国の言葉も覚えたのだ。
ただ話せると言えるほどではなく、片言でも通訳がいたからそれでもよかったが、これからは本気で覚えなくてはならい。
それと、他の人間に会話内容を聞かれ足取りを拾われるの防ぐために、アルアディアの言葉を使っていない。
「ウルサイ!」
アボッドのその声の方が大きく、反響した声の音量に慌てて口をとじた。
そして、ガクガクと震え出す。
「っ・・・スマナイ」
アボッドはそう言うと共に、謝罪をするとうなだれた。
自分がこの男に謝罪をする日が来るとは思わなかった。
だが、今アボッドは一人では満足に動けず、ゾイドスが居なければ生きてはいけない。
「気にするな。貴方には助けられた。今度は俺の番だ」
そんなことを言うゾイドスを見上げた。
アボッドはハイシア家の者たちに追われていた。
追われると言っても追い付かれても捕縛することはない。
ただ、見られているだけだ。
最初は彼等の存在に気付いた時、国外追放と言いながら殺しに来たのかと思った。
しかし、彼等は何もせず、拍子抜けをした。
何日も何日もただついてくるだけで、存在を無視していたがその目的がなんだかわかった。
体が不自由になり、力になってくれるような知人は誰一人いないアボッドは何日も食べられない日が続いた。
今まで「食べれるけど食べない」事はあっても、食事がとれないことはなかった。
生きてきた中で感じたことのないほどの、空腹はいずれ痛みに代わる。
助けを求めるものかと思った思考はあっという間に崩れた。
プライドも何も捨てて、ハイシア家の追手に助けを求めた。
しかし、・・・彼らはただ陰でこちらをみているだけ。
すべての負の感情に苦しみ助けを求めるが一切助けてはくれない。
それなのに、もう駄目だと死にそうになると寸前のところで引き留められた。
それにアボッドは許されたのだと錯覚した。
・・・だが、それは大きな間違いだった。
その後も死にそうになり彼等に助けを求めるがすぐには助けてくれない。
本当に駄目になりそうになると、漸く助けられることを数回繰り返し、漸く分かった。
自分は助けられているのではない。と。
彼等は死神・・・いや。悪魔だ。
もう、助けてくれなくていいと請い、あまりの辛さに何度も死のうとしているのに、その度にその者達は苦しみを長引かせた。
狂いそうになったときだった。
そんな悪魔から逃がしてくれたのは、・・・このゾイドスだった。
久しぶりの知人にアボッドは期待と絶望を瞬時に覚える。
何故ならアボッドはその男に何度も助けを求められたが、純粋に助けたことなどなかった。
むしろ不利になる様に仕向け、影で嘲笑い捨て置いた。
だが、・・・ゾイドスは自身も追ってから逃げているというのに、荷物どころかゴミにしかならない自分を助けた。
何度も何度もだ。
かつて親身にしていたはずの者達は一斉に手のひらを返し、誰も自分を助けようとしてくれなかったというのに、
本当の意味でゾイドスを助けたことなどないにも関わらず、アボッドをすくってくれる。
「辛いのは後少しです。
ここから出られればすべてうまくいく。
あの国に逃げられれば元の生活に戻れる」
「ッ・・・アリガトウッ」
もう、何度こんなやり取りをしたのだろうか。
その度に涙があふれて止まらない。
この土地にはもう自分の物は何もない。
サーベル国には狭いながらに別荘を保持している。
そこに、逃げたいが・・・ゾイドスを頼るしかない。
しわしわになった手で、その男の手を握り何度も感謝を述べた。
「クニニモドッタラ、カネハラウ!」
そう、何度も言いながら頭を下げ続けた。
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