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婚約編

前夜。

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とうとう明日は結婚式。

招待した客は続々にこの領地に集まってきている。
参加したいという貴族が思いの他多く、人数を絞ったのだがそれでも多かった。
城に招待しけれなかった人たちは、城下の上流階級層の宿泊する施設に招待する運びとなった。


無事に客が到着したこと、準備に問題がないことをゾルからの報告で受け取る。
ゾルは相変わらず優秀でそれを聞いているシャリオンの機微をいち早く察知する。
いつものふるまいを取ると、ため息をついた。

「何をしょぼくれている」
「別にそういうわけじゃないけど」
「あの男もこの城にもう来ていると言っただろう?」
「そうだけど・・・」

だが、式の前までは会えないのがしきたりである。
つまり、もう一週間も会えていないのだ。
この一週間、寂しくなると情緒不安ではないがゾルにお願いして繋いでもらってはいるけれど、寂しいものは寂しい。

「もう明日にはお前たちは一緒のベッドだ」
「んなっ」
「なんだ。別がいいのか」
「そんなこと言ってない!」

露骨なことをいうゾルをキっと睨む。
本当になんてことを言うのだろうか。頬が熱くなってしまう。

「っ・・・。・・・、・・・はぁ」
「欲求不満か?(ガリウスと意識を)繋げるか?」
「っゾル!僕を揶揄ってるでしょっ」
「そう怒るな。この一週間でお前を磨き上げた者達にストレスを与えたとしられたら、俺が殺される」

げっそりと言ったゾルに今度はシャリオンが笑った。

領地についた日、シャリオンの予定にヘアケアとエステでが急遽組み込まれた。
それを予定建てたのがジャスミンと名乗るなのだが、
当日のシャリオンの衣装やヘアメイクなどを担当しているチームのリーダーだ。

彼は今回の式に、半年前に抜擢されてから並々ならぬ情熱を注いでいたのだが、ここ2カ月ほどシャリオンは領地には帰れなかっため、衣装の採寸やフィッティングも出来ていなかったこともあり、こんなギリギリに帰ってきたシャリオンに鬱憤が爆発してしまっていた。

そんなわけで、式までの4日間領地の城から出されることはなく、頭の先から足の先まで磨かれることになった。

それは食事から入浴に睡眠に至るまでである。
入浴はガリウスが断固として認めなかったため、補助されることはなかったのだがボディエステはシャーリーもしてたという話を、ジャスミンがガリウスに説得し続けゾル監視のもと行うことを許可してくれた。
ジャスミンは『なんて束縛の強い男なのかしら!本当に貴族同士の結婚なの!?』と、言うほどだ。

で、そんな彼はシャリオンの周りに絶対ストレスを与えるなと、散々言いつけてきた。
ストレスは美の最大の敵らしく、絶対に与えてはいけないと。
それを、ゾルに会うたびに言ってくるのでうんざりしているのだ。

「あはは。明日までだから。ごめんね」
「俺達にはストレスを散々植え付けていくあいつはなんなんだ」
「でも、彼等のおかげで髪も確かに綺麗になったし、肌の艶もでたんじゃないかな」

さほど体毛がないと思っていたシャリオンも全身の産毛を剃られ、美容だというオイルを塗りこまれている。
肌を見せるような衣装ではないが、ここまでする必要があったのだろうかと悩みたくなるところだが。
そもそも、何故ガリウスの方はしないのかと思うのだが。

「はぁ・・・そうなってもらわなきゃ困る。・・・なんの成果もなかったらお前を他の男に触れさせただけで苛立っているのに、あの男から嫌味を言われるのは俺だ」
「あの男・・・て、ガリウス・・・?」
「それ以外に誰がいるというんだ」

忌々しそうにつぶやくゾルに苦笑を浮かべた。
見えている以上に大変だったようだ。

「ごめんね・・・?」
「・・・。いい方が悪かった。お前の結婚式は俺も楽しみにしているんだ」
「・・・ゾル」
「さあ、早く休め。明日は朝から入浴をし、エステだそうだ」
「僕本当に必要なのかな、それ」
「今更悩んでも仕方がないだろう。そもそもシャリオンが引き受けてしまったからそうなったのを忘れたのか?」
「・・・だって、ジャスミンの圧がすごくて」

どれだけ式に力を注いでいるかと言うのを散々語られ、どれだけ事前準備が必要なのかを鬼気迫る勢いで訴えられシャリオンは断り切れなかった。
だが、まぁ寝不足なままで式に挑むのも良くないだろう。

休むように促されたシャリオンは寝室へと向かう。
ここ最近規則正しい生活をしていた所為か、少し眠くなってきた。
小さくあくびを掻きつつベッドへと入る。


明日は・・・ついにか


そう思うと嬉しいはずなのに、隣にいないのは寂しく思ってしまうシャリオンだった。





☆☆☆






【別視点:ガリウス】


仕事で忙しかったことやしきたりもあるとはいえ、こんなに会えないことも離れることも婚約後初めての事だった。
同じ敷地内にいるのに歯がゆい。

残り一ヵ月を過ぎたあたりで欲望が破裂しそうで、シャリオンに触れることを控えめにしたというのに、傍に居れないことはあの時よりも不満だった。

とくにこの一週間は傍に居られなかったのだ。
領地に一足先に旅立つシャリオンを見送る時は、心配でままならなかった。
思わずレオンに指示を仰がずにパイプ役のゾルも警備に当ててしまったくらいだ。

どんなに離れていてもゾルの術はシャリオンに意思をつなげられる。
ならば、シャリオンの警護は最も優先すべき事項。

「・・・」

明日はついに結婚式。
10年前の初恋した次の瞬間に失恋した時、何度も破局してしまえばいいのにと願っていた。
でも、2人の仲睦まじさを見たらそれは到底あり得なくて、ならばシャリオンが住みよい国にしようと思っていた。
それなのに、結婚などできると夢にも思わなかった。

忌々しい事件から救出したとき、シャリオンの切羽詰まった告白は今も耳にこびりついて離れない。

そこからより一層愛しさが募っていく。
今は会えない欲求が溜まっているから、余計に感じてしまうのだろうか?
そうだったとしても、一日増すごとにシャリオンを愛してしまっている。

一目、・・・いや声だけでも直に聴きたい。

だが、今の時間にゾルを使い意思をつなげてこないということは、シャリオンも我慢をしているのだ。
そんな時に、2人きりであってしまったら自分が抑えられないのは分かっていた。

それほどにもシャリオンが魅惑的な表情をするからだ。
今のガリウスの精神は、ガラスどころか薄氷のようなもろさである。
こんな状態では会えないのは当然だ。

輝くシャリオンを瞼に描きながら、自分を落ちつかせるのだった。
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