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ストーリーに関係無い閑話
君の笑顔を守りたかった。
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※ ライガー視点のみで、シャリオンが誘拐され救い出された後からの話です。
【ライガー視点】
勝手だと分かっていても、シャリオンがずっと心残りだった。
・・・俺が幸せにしたかったが・・・。
そんな彼も無事に結婚へと話が進んでいることは、ライガーも嬉しく思っていた。
城の中で時折見かける2人は仲睦まじくて、シャリオンの笑顔を見ると自分の判断は間違いでなかったと思える。
公爵家次期当主である彼は後継ぎが必要で、ライガーとの婚約が破棄になったため、新たに婚約者を探すことになるのだが・・・。
自分は王位継承権はないが腐っても王族であるため、普段会う貴族たちは猫をかぶっていて怪しいところはない。
しかし、念のため調査をするととても婚約を許可できないことがごろごろ出てくる。
多少私情は少し入っていた。
普段なら相手の家の質なんて見たりしない。
不正や犯罪が潜んでいないか見るくらいだ。
ただ、シャリオンの相手にはふさわしくない。
だから、ガリウスも何かあるのではないかと勘繰ってしまい、正式じゃないにしても婚約が決まったシャリオンに2人きりで会うなんて言う、愚かなことをしてしまった。
今考えると何故あんなことをしてしまったのかと後悔している。
蓋をあけて見ればガリウスは、ライガーが知っている通り信頼が出来る男だった。
ホッとするのと同時に、「もう出来ることは何もない」と、思うと寂しい気もした。
自嘲気に口元に笑みを浮かべつつ、そんな馬鹿げた考えを振り払う。
けれど、式が近づくにつれて喜ばしい気持ちと、未練がましい感情が醜くく散り積もっていく。
ライガーはそれを見て見ぬふりをつづけながら、喜ばしい気持ちを増長させるように、外に出ては結婚祝いを買い集めていた。大公を賜ってから建てた屋敷に置いていたのだが、ついにそれをルークに見つかってしまった。
あまりの多さに『初孫を喜ぶ祖父か』と、呆れられてしまった。
だがそれを聞いて、子供が出来たら贈れることが出来ると思った自分に苦笑した。
そんなことを思っていると、これ以上の結婚祝いの品を購入禁止令が出てしまう。
・・・まぁ禁止令と言っても兄弟の言い合いで王太子としての命令ではない。
自身の金だが流石に部屋に入りきれないほどの贈り物はアウトだったようだ。
だが、どれだけ買っても気持ちが足りないと感じてしまう。
ライガーでは絶対に幸せに出来ないのだから、せめてシャリオンが笑顔になるのであれば祝いたかった。
直接渡すことは到底無理だと分かっている。
ならば、ガリウスに渡すかとも思ったが、それもルークから止められた。
ならばこれはどうしたら良いものかと悩んでしまうが。
だが、画策するくらいならガリウスに託したほうがいいような気がする。
勿論それは廃棄される可能性があるが、自分で捨てることは出来なかった。
せめて、孤児院にでも下賜でもしてくれないだろうか。
そんなことを思うライガー。
本当なら自分で廃棄できればよかったのだが、シャリオンへの気持ちを捨てるようなことライガーは出来なかったのである。
☆☆☆
それからとある昼下がりの午後。
大公となり王太子の代わりとして海外との外交役にメインで立つライガーの元には、現金なことに昔よりも多くの貴族が集まるようになった。
ライガーはそんな貴族にも真摯に向き合っていた。
勿論無理なことは無理とちゃんと言うが、それでもダメ元で現れる貴族が多い。
今日は噂好きの貴族が現れ、延々と税収アップを提案してほしいという話をされた。
何やら大規模な福祉施設をつくりたいだとかで、その建てたいものがどれだけ大切で素晴らしいのかと、説明をしてくる。
自分がしている仕事とは別なのだが、兄弟仲が良好だからなのかこういう者は後を絶たない。
判断をするのはルークだ。
だが、提案してきた施設を税収を上げてまで作る理由が分からず、わざわざ多忙極めるルークの手を止める必要はない。
どう帰すか考え始めているところだった。
相手が何か思いだしたようにこちらを見てきた。
「そういえば。無事に救出されて良かったですな。
閣下はその後も気にされていたのでご心配だったでしょう」
「なんのことだ?」
税収の話を聞く気がないことを察知したのか、話題を展開してきたが何のことかわからない。
何処かの国に捕虜でもいただろうか。
しかし、ルークからは外交の話は来ていない。
ライガーは眉を顰めると、その貴族は神妙な面持ちでつづけた。
「レオン様のご子息のことですよ」
寝耳に水だった。
まじまじと見るが相手もそんな反応をされるとは思わなかったらしい。
あえて隠されてると今更気づいても遅い。
ライガーの視線が『言え』と訴えている。
すると諦めたように答えた。
「その・・・拐われていたのです」
「!」
「ですが!すでに無事に救出されて、犯人はもうおりません!」
焦りながらヘラヘラと笑みを浮かべながら、額に流れた汗を拭いた。
シャリオンのことだからルークが言わなかったというのもあるかもしれないが、攫われるといいう大事をルークが言わないとは思わえない。
ライガーは男の言った言葉聞き逃さないように、反芻しながら息をのんだ。
犯人はもういない・・・?
あのレオンが簡単に逃すとは思えない。
いない。と言うのが物理的にだというのが分かったが、一貴族の誘拐に国外追放とは考えにくい。
あっても罰金や爵位降格が適度だと思われた。
もちろん、ライガーの心情的には終身刑が最適だとは思うが、それは私的感情である。
シャリオンは大丈夫であろうか
身体的だけでなく、精神面の方だ。
すぐさま駆けつけたくなるが、シャリオンを支えられるのは自分ではない。
動きたくなる気持ちを精一杯堪える。
シャリオンにはガリウスがいるのだ。
自分は行くべきではない。
そう、自分に言い聞かせている時だった。
「これでライガー殿下も安心ですな」
一体何が『安心』なんだと、言いたくなったがこの流れで自分に言った言葉に嫌な予感がした。
「・・・これで、とは?」
「実行犯はアボット伯爵で、首謀者はファングス家当主だったのですよ。
彼の家と殿下は無関係ですが、・・・気にされておりましたでしょう?」
そう言う男に頭が真っ白になった。
無関係を強調した相手の気遣いなど気づかないほどに。
☆☆☆
様子の可笑しくなったライガーにいつの間にか貴族は退室していた。
挨拶があったのかさえ分からない。
だが、1人になれたのは丁度よかった。
席を立ちあがるとふらつきながら、結婚祝いを置いてある部屋へと向かう。
温かい気持ちを込めて買った品々を見ると、苛立ちが募っていく。
ライガーはただ祝いの品を買いたかったわけじゃない。
すべてはシャリオンに幸せになってもらいたい。
今の自分にはこんなことをするくらいしか思いつかたなかった。
だが。こんな贈り物は気休めにしかならない。
「・・・」
シャリオンの誘拐犯が、ファングスが実行犯というのなら、間違いなく自分が関わっている。
間違いなく、自分の所為だ。
「・・・なぜ」
そんな言葉が喉から出てくる。
シャリオンに近寄らなければ、・・・王になど興味がないと毅然と示せば・・・・。
「どうして・・・っ」
シ ャ リ オ ン を 傷 つ け な い と 思 っ て い た の に・・・!
「っどうしてだっ!!」
ライガーは叫び共に、近くにあった結婚祝いを壁に物を投げつけた。
可愛らしいその装飾達は呆気なく壊れ飛び散んだ破片が、刃の様になりライガーの胸に突き刺さってくるようだ。
「っ」
溢れる激情が止まらない。
怒りと憎しみと嫌悪が渦巻く。
「ッアァァァァァァァァァッッーーー!!!!」
☆☆☆
物音と叫び声を聞いて駆けつけた使用人を一瞥し、有無を言わさず部屋から追い出すと、部屋に鍵をかけ籠った。
怒りが暴走し感情が抑えられなかった。
産まれてからこんなに怒りが止まらないのは初めてだ。
こんな癇癪・・・やはりあの女の子供か
そう思うと余計に怒りが沸き立つ。
絶対になりたくないと思っていた女の行動の様で、苛立ちを加速させる。
くしゃりと前髪を握った。
落ち着けようとする感情はまったく言う事聞かない。
無意味に手当たりしだい、愛しい思いで買ったものを壁に投げつけ粉砕する。
力一杯投げると普段自制している枷が取り去られ、心がスッとすると思ったのに破壊した残骸を見るとシャリオンを思い出して余計に痛い。
そして直ぐに憎悪が湧いてくる。
夜になると騒ぎを聞きつけたルーク達が屋敷にやってきたのか、扉の外から声がするが一切開けなかった。
何時間経ったかわからない。
部屋は荒れ果てライガーも疲れ果て床に座り込んでいた。
こんなに感情が制御できない自分なんて誰にも見せたくないのに。
ふと見えた鏡に映った自分の表情は見たこともなく狂人めいていて、鏡を叩き割った。
何故・・・俺にじゃないんだ・・・
・・・何故・・・っ
目を閉じると何より大切なあの笑みが恐怖に染まったのかと思うと、辛くて痛かった。
もう何もしたくないのに、目からは勝手に熱いものが流れる。
元凶はもういないというのに、血が残っている限り果てしなくこれは続くのではないかと思うと、怖くてたまらなくなった。
「・・・、」
脳裏にはいつだって自分に微笑みかけてくれた優しい笑みが浮かぶ。
それが自分の所為で傷つけられ続けるのかと思うと、すべてを終わらせたくなった。
☆☆☆
ライガーとシャリオンが初めて出会ったのは、ルークと共に公爵家の令息・令嬢との顔合わせの一つだった。
顔合わせをするといったその中に、もれなくハイシア家もあったのだが、ライガーはもううんざりしていた。
こんな時間よりも、ルークを支えるために剣術や学問を習いに行きたかったが、父上の指示では言うことを聞かざる終えない。
みなルークに群がり、ライガーを見もしない。見たとしても明らかに見下した視線に、自分を王族の者として、利用しようとする親の気配。
数回繰り返すうち、何故自分がここに立ち合わなければならないのか、苦痛になり始めていた。
だが、自分の産まれを理解していたライガーはそれを飲み込むしか道はない。
そんな時にハイシア家とのお茶会が予定された。
その日もルークが気にいる様に話を盛り上げることに徹するつもりだった。
今日はどんな世辞を言うかな
そんな事を思っていると、現れたシャリオンの姿にまずみとれた。
産みの親に似ていると言う話どおり、本当に可愛らしい見た目だった。
妖精・・・いや、天使かと思うほど可憐で無意識に抱きしめたくなるような、そんな感情にかられた。
絹の様に細くしなやかな髪は風がそよぐたびに、美しくたなびく。
黒い髪は深い闇の様だが、彼が動くたびにきらきらと光りをまるで星空の輝きのようだ。
両親から受け継いだ証のような瞳は灰緑色は落ち着く深みを持っている。
そして、シャリオンは見た目だけではなかった。
「こんにちは。シャリオン・ハイシアです。今日はお招きいただきありがとうございます」
練習をたくさんしたのか、すこし拙さが残るが可愛らしく足を引かせ、ボウ・アンド・スクレープを見せてくれた。
どの家の令息令嬢も緊張しながら同じように見せてくれたが、シャリオンのそれには心がこもっているように見えたのだ。
それに、ライガーだけでなくルークも惹かれながら、2人そろって挨拶を返した。
そんなシャリオンと話せた時間は一時間というほんの少しだったが、顔合わせで初めて楽しく感じた。
最初から最後まで、他の貴族のような見下しが、一切なかったのだ。
ルークと同じ様に自分に視線を合わせ、同じように話してくれる。
そして、花がほころぶような笑顔からは一切の邪推が感じられない。
すべての貴族がライガーを王妃の残像で悪意の眼でみてくるわけではない。
それまでに会った貴族の中にも好意を見せる者はいた。
しかしそれはライガーの王族としての立場に有用性を感じている者達だ。
所詮貴族なので家を一番に考えることが当然とは言え、幼いから故なのか彼等のそれはあからさますぎた。
その当時は貴族のそれらが汚く見えてしまっていたのだ。
だからそれを感じさせないシャリオンにすぐに心を魅了される。
ライガーの背景を見ず王族であることも気にせずに接してくれるシャリオンは、とても貴重な存在だった。
心のどこかでシャリオンもそうなのでは?という恐怖を捨てきれなかったのに、次第にシャリオンの純真さに気付く。人を信じやすいのか、すぐに気を許してしまう。
きな臭い噂を持つ貴族のうさんくさい嘘も信じてしまい、見ているこちらが冷や冷やした。
そんなシャリオンに気付いたら自然と守るように動いてしまっていた。
人を疑ってしまう自分にはシャリオンがまぶしく映った。
でも・・・そんな彼をきっとルークも気に入るはず。
公爵家で父王の右腕であるレオンの息子は、きっと貴族的思考でルークに引き合わせようとするだろうと、幼い自分にもわかった。
そう思ったのに、ルークは他の令嬢への婚約を打診した。
今思えばアレはルークが譲ったのだと分かるが、当時は心底嬉しかった。
ルークではなく自分の婚約候補に挙がっていることを知っても態度を変えず、嬉しそうにしたシャリオン。
キラキラと笑顔を向けるシャリオンに、ライガーは大切にしようと心に決めた。
それから、しばらくはとても幸せだった。
シャリオンを知れば知るほど大切に思った。
ライガーはそんなシャリオンの隣に立つのに恥ずかしい人間にならないように、剣術も学問も手を抜かない。
ゆくゆくはルークのサポートをすることを望んでいるから、自ら指揮官の元で勉強を志願したりもした。
進んで国民の前に出て式典や祭りごと、それに各種の視察などを行った。
恐れていた王妃と比べられることはなく、おおむね国民からの好感は上がり認められているように感じていた。
すべてはシャリオンの為に。
その永遠に続くと思っていた幸せが覆されたのは、ファングス家当主が接触をしてきたことにより陰りが出てきた。
「ご結婚、めでたいですのぅ」
婚約であって結婚ではないのにそんな事を言う男。
その男は本当に愛でたいと思っているのか不思議なくらい邪悪と言っていい笑みを浮かべていた。
最初のころは父がいるときに来てくれればいいのにと、思っていたが数度重ねるうちに彼等があえてその瞬間に来ていることが分かった。
ただの貴族であればここまで気にしなかったと思う。
だが、ファングス家は市井には告げられていないが、とても悪評高い亡くなった王妃の生家である。
ライガーの産みの母親の父、つまり祖父である人物だ。
挨拶だけだったやり取りが次第に増えていくことを苦痛に思っていたころ。
男がとんでもないことを口にした。
「王妃の愚かな行いがなければ、お主は『王位継承権だけ』でも残っていたのにのぅ」
自分の娘に対してとは思えない言葉だった。
王妃が亡くなりライガーはルークの産みの親のルーティに育てられた。
血の繋がりが無いにも関わらず彼は自分の子供の様に育ててくれた。
王妃を恨んでいた使用人に知らされるまで、ずっとルーティの子供だと思っていたくらいだ。
血が繋がってなくても愛情を感じられたルーティが傍に居たから、血のつながるのある王妃にそんなことをいうファングスが信じられなかった。
その声は、娘を惜しむというよりライガーに王位継承権が無いことを、哀れんでいた言葉だった。
聞いていた通りの人物で嫌悪するとともに、「『王位継承権だけ』は残っていた」と言うのが怖かった。
それが、自分に王位を継がせたいという思いがあるように聞こえてしまったのだ。
「たしかに元王妃の愚行は話にならないが。王の座なら心配する必要はない」
「わしは味方じゃ。・・・お主も王になりたいよのぅ?」
「・・・。どこをどうとったらそういう結果になるのか分からないが、王太子にはルークがいる。
だから王族でもない貴方が余計な心配は不要だ」
ファングスは父上よりも年上であるが毅然と答えると、ファングスはあからさまに眉をひそめた。
そうしたいのはこちらだ。と、思ったのだが他の貴族の目もある。
ライガーは常に王族らしく貴族らしく品行方正に正しいふるまいをしている。
それは、自分の所為で王家にこれ以上醜聞を作りたくないからだ。
「そうは言ってものう。
・・・可哀そうに、親の罪は子には関係なく、お主には資格があるというのに。
・・・城の者たちには虐められてはないかのう?」
自分の娘にはあのようなことを言ったのに、ライガーにはそんな心配気な対応で少し分からなくなった。
ファングス家の話は父から聞いた話で、自分が見たことではない。そこに何かあるというのだろうか?
ファングスの言う通り城の中にはいまだに王妃が嫌いな人間がおり、嫌がらせを受けることがあった。
父がライガーの周りの使用人は厳選しているのだが、元王妃についていた使用人からの憎悪は今も根強い。
何か言うことはないが、視線はとても冷たく睨まれている。
「用がないなら失礼する」
「まてまて。・・・陛下はお主の母親のことはなんて話しておるのだ」
わざわざ引き留めて話す内容なのだろうか。
去ろうとしているのに引き留めてくることに忌々しく感じてしまう。
シャリオンにこんな醜悪な人間を見せたくなかった。
すると。
「・・・お前の母親は病死でのう?」
実際は離宮に幽閉され服毒死させられているが、それは王家極秘事項である。
この男はその事実が知りたいのだろうか。
相手の意図が分からずに訝し気に眉を顰める。
「城には不思議な病が流行ることがあるのがな。
・・・それが、他の誰かにかからぬといいのう?
今度は複数人まとめてかかるかもしれぬ」
その言葉に、この男は王妃がただの病死でない事を知っていると悟った。
それどころか、父やルークを狙っているのかもしれない事に気付く。
しかし、それを確証づける判断材料はなくて、ライガーは男を睨みつけることしか出来ない。
父に相談しなくては!と、思ったときである。
「それと。婚約者どのを大事にするのだぞ?・・・見目も良く国民受けする」
「・・・!」
この男からシャリオンのことを話されるだけで怒りと恐怖が溢れた。
「シャリオンは関係ないっ!」
そう聞いたときに突発的に叫んでいた。
そんな行動を社交の場どころか、初めてしてしまった。
自分のことなのに、驚き茫然としていると男の笑顔がみるみるといびつに弧を描く。
「そうかのう?・・・ならば、ワシも余計な事をしないように気をつけねばなるまいなぁ?」
「っ」
「だがしかし、しかしのう?
おぬしは私の孫だ。その結婚相手となるならば親交を深めるの良いかもしれぬ。
挨拶しておくかのう」
「っ・・・!」
幼いライガーはこの時の失態を心の底から後悔した。
ファングスにシャリオンをただの婚約者以上の感情がある事を知られてしまったのだから。
その日からファングスの接触が多くなり、ライガーの口数が少なくなっていく。
ライガーの親しい人物に近づき、そこから弱みを握られ彼等に危害を加えられるのを恐れたのだ。
特に、なんの関係もないシャリオンに近づきそんなことをされるのは何が何でも避けたい。
幼いライガーには家族もシャリオンもこの男の毒牙に触れさせたくなくても、離れるということくらいしかできなかった。
相談をしたい。助けを求めたい。
しかし・・・、父上が気にかけても蛇みたいみたいに音を立てずに忍び寄ってくるファングスは、下手なことをしたらルークが本当に殺されるんじゃないかという恐怖で動けなくなった。
どれも・・・失いたくなかった。
☆☆☆
すでに日を越したのは、太陽の動きで分かった。
しかし、今日が何日なのかも、動く気力もわかない。
不思議と空腹も感じなかった。
カチャリと扉が開く音に、自分が目を開けたまま寝ていたのだと気づく。
ついにルークが来たのかと思ったそこには思っても見ない男がいた。
「・・・、・・・え」
「おはようございます。・・・酷い有様ですねぇ」
そう言いながらライガーを上から下までみて、部屋を見回すと眉を顰めた。
「こちらはシャリオンに贈るものだったものではないのですか?」
「そう、だが・・・・じゃなくて、鍵は」
「そんなものが無くても私にあけて欲しくないのなら、落ち込んでいるという所をシャリオンに勘づかせないでください」
「え?」
どういう意味か分からなかったが、しばらく考えて魔法で開けたのだと気づいた。
「・・・、その・・・シャリオン、は」
「今の殿下より元気ですよ?」
ガリウスはしれっと答える。
だが「今の殿下」とつくと言う事は何かしらあるのだろう。
「っ・・・すまない」
「私に謝られましても。
殿下には立派な足がおありなのですからご自身で様子をみて、謝られたらどうです」
「っ・・・」
行きたい気持ちに駆られたが、傷を想像しただけで感情が粗ぶりそうな気がした。
するとガリウスは眉を顰めた、
「・・・殿下がトラウマ背負っているのですか」
「っ・・・」
そういうとガリウスは小さくため息をつくと、ライガーの手を取ると肩にかけて持ち上げた。
数日籠っていたいたライガーの体は軽く衰弱していた。
どちらかと言うと心の問題が大きい。
ガリウスの本音としては、「シャリオンの気を引かないでください」と、言いたいところだったがライガーは王族であることもあるが、本当に傷ついているこの男酷く当たれなかったのだ。
部屋から出るとそこには右往左往しているルークが立っていた。
まずがガリウスが話すからと待ってもらっていたのだが、ライガーはルークの顔を見るなり声を詰まらせた。
「・・・すまない」
「俺にいってもしょうがないでしょう~」
「すっかり弱ってますよ。・・・殿下には早く元気になってもらわないと結婚式に出てもらわないとなんですから」
「・・・。なんか、ガリウス・・・こないだから遠慮なくなってない・・・?」
「こちらが遠慮しててこのざまなら使う必要ないでしょう??」
そうあからさまに眉を顰めるガリウスにルークが訝し気にした。
「え。何時遠慮してたの??」
「シャリオンへの態度を改めるようにお願いしてから、何もしかなったでしょう?」
「「・・・」」
つまり、遠慮してなかったら正式に抗議していたというのだろうか。
いや、自分が蒔いた種なのだが、しれっというガリウスにライガーはなんだか可笑しくなって笑ってしまった。
自分の周りにはこんな人間いなかった。
ルークは弟だし、シャリオンは元婚約者であるが、そもそも優しくてこんなことは言わない。
連れられて来たソファーに腰かけると、ふっと息を吐いた。
「で、貴方はシャリオンがファングスのクズ野郎に捕らえられたことで何をトラウマになってたんです」
「・・・いや、そうなんだけどさ・・・」
ルークは兄であるライガーを大切にしている。
そんな兄の傷を気にせず言うガリウスにもう少し言葉を選べよと思いながら、引きつった笑みを浮かべた。
しかし、ガリウスは気にしたようではなく続ける。
・・・、以前より言いたいことは言う人間だったが増しているような気がするのは気の所為ではないはずだ。
「殿下方。申し訳ないですが、私には時間がないのでさっさと答えてもらって、あと手紙の中身を教えてください」
そういうガリウスにルークは何かピンときたようでキっと睨んでいるが、ライガーには何のことかわからなかった。
ルークの方を見ればため息をつくと胸ポケットから手紙を取り出した。
「いや。俺も忙しいからね??・・・はい。兄上」
「手紙・・・?」
「次期宰相様は大変心が狭くあらせられる様で。
・・・愛しい婚約者殿が兄上に慰めの手紙を出した内容が気になるようだよ」
そう言いながらルークが手紙を手渡してくる。
「っ・・・俺が、こんな状態なことを、・・・しられているのか」
少し余裕が戻った状態では余計に情けなく感じてしまう。
落ち込んでいるライガーをいたわるでもなく、ルークはその時のことを思い出しているのか可笑しそうに言った。
「うん。レオン殿がさらっと『引きこもり』になってるって言ってた」
「引きこもりにしては元気が有り余られているようですが」
先ほどの部屋のことを思い浮かべているのガリウスがそう言うと、ルークも頷く。
「本当だよね~。
せっかく買ったのにこんなに壊しちゃって。
これ見たらシャリオンが気にしちゃ・・・うわぁ・・・」
ルークの視線の先に目をやると、ガリウスの目が据わっている事に気が付いて、思わず同じように引きそうになった。
想定の話だけで、嫉妬するなんて心が狭すぎはしないだろうか。
「ガリウス。本当に俺はもう。今はただの幼馴染なだけでなにもない」
そう弁明したが疑わしい目で見てくるガリウス。
愛しいという気持ちはそう簡単には消えない。
しかし、シャリオンが選んだならそれをどうしようもない。
そもそも、婚約破棄をした日からもうライガーにはもうそんなチャンスはないのだ。
「どうでしょうか。貴方は秘密主義なので秘めたる何かをまだ持っていると思いますが」
「それはない。シャリオンは君と一緒になるべきだ」
いつか見た2人で話している時に浮かべた笑みは心の底からの自然な笑みに見えた。
「えぇ」
「・・・すごい自身だね、お前・・・」
肯定したガリウスにルークが呆れている。
しかし、真実だと思う。
「・・・俺にも力があったなら」
一緒になれないにしても、守れたのだろうか・・・。
ガリウスはそのつぶやきに頭ごなしに否定した。
「違いますね。貴方は根本的に間違っています。
何故自分に出来ないことを抱えるんですか。
出来ないなら出来ないと言わないと出来ないままですよ。
貴方も陛下もちゃんとしかるべき人に相談しないからこういう結果になったんです。
・・・まぁそれだけ私達が信用されてないと言う事ですよ。ルーク様」
「そうなるよね」
「そ、それは違うぞ!?」
何故、父のブルーノを出されたのか分からなかったが、2人があてつけるように言ってきたことに首を振った。
ライガーとしては信用していないからではなく大切だったから言えなかったのだ。
しかし、2人にはそのニュアンスが通じなかった。
「違わないよねぇ。
そもそも今回の事は父上が兄上可愛さあまりに、シャリオンを餌にファングスをつろうとしたんだよ」
「え!!?」
ファングスから仕掛けてきたのかと思ったが、そんな話だとは思っても見なかった。
「ち、父上が・・・?」
「そう。あのね、兄上うまくごまかせてると思ってるみたいだけど、幼い時から結構バレバレだよ?」
「!?」
「シャリオンもそれに気づいていたけど、・・・家族である俺達が気づかない訳ないでしょう?
父上だって少し考えればわかり切ってるのにさ。
・・・まぁ、今回踏み切ったのは兄上の話だけでなく、きな臭い噂もあったから根絶しようと思っていた見たいだけど。・・・でもさ、そういう動きを取るのに父上、レオン様に相談を一切しなかったの」
「!!?」
レオンのシャリオンの溺愛ぶりを知っている。
大丈夫なのだろうか。逆鱗に触れるのではないかと心配していると、ルークはあきれた表情のまま首をかしげてきた。
「いや、兄上も同じようなところあるからね??」
「す、・・・すまない」
「あと決めこまないことです。
ご自身で考えて答えを出すのは結構ですが、まずは私に相談してください」
「・・・ガリウスに・・・?」
「はい。ルーク殿下は信用に置けないようなので」
「おっ・・・おまえっ!」
「フッ・・・申し訳ありません。今のは冗談ですよ。・・・でも、大切な兄上だから言えないのなら他人である私になら言いやすいのではないですか?私は口は軽くないですよ」
ガリウスが口が軽くないのは知っている。
今こうしていてくれるのはシャリオンの為なのだろうが、ライガーの中のガリウスの評価は高いから、それは信用における。
「・・・わかった。・・・もう、こんなことは嫌だからな」
そう言うと、2人は少しほっとしたように肩の力を抜いたのが見えた。
軽口をたたいているようで、かなり気にしてくれたようだ。
「そうですね」
もし、ファングス家の血族のものがやってきて、再び強請ってきたとしても、今はガリウスやルークがいると思うと心強い。
何処かこの男には安心感がある。
宰相と言う立場であまり戦闘に関係なさそうな人間なのに、手には剣だこがあるのは定期的に訓練をしているからだろう。
殺しても死ななさそうな、そういう所も安心が出来る。
もう、間違ったりしない。
そう思っているガリウスが不思議そうにルークの名前を呼んだ。
そのルークは少し前に立ち上がり何やら後ろで何かやっていたのだが。
「・・・ルーク殿下・・・?」
「どうした?」
ガリウスの視線の先を見れば、ライガーの晩酌用の洋酒の瓶を片手に握っていた。
そして扉を開けると心配そうにしていた使用人に軽くつまめるものを頼んでいた。
そんなルークにガリウスはため息をついた。
「一杯だけですよ」
「ガリウスは断るかと思ったよ」
「遅くまではいれません」
「だね」
「仕事があるなら」
酒を酌み交わすのはライガーの為だと思われた。
だから断ろうとした。
「今日はこのために切り上げたので大丈夫です」
「そうか?」
先ほど忙しいと言ったガリウスはそんなことを言い、ガリウスはボトルを開けている。
ルークはグラスを3つ机の上に置き、ガリウスがボトルを傾けて来る。
それから、結局1・2杯飲むと二人は帰っていた。
酒が入ると余計に遠慮が無くなった2人だったが、それがむしろ嬉しかった。
☆☆☆
月明りの下でシャリオンからの手紙を開く。
それを持つ手は少し震えていた。
恨みがましい言葉並んでいるとは思わないが、どんな酷いことをされてしまったのか。そう思うとそうなってしまったのだ。
そこには久しぶりに見た、懐かしい文字が並んでいた。
中身はシャリオンの方が大変で怖かったはずなのに、端から端まで自分のことを心配している文字が並んでいた。
優しい文字で埋め尽くされたそれを抱きしめる。
「っ・・・はは。・・・これではガリウスに嫉妬されてしまうぞ?」
『あれだけ幸せになれって言ってきたんだから、ライが一番にお祝いしてね』
そんな言葉で締めくくられていた。
【完了】
┬┬┬
最後までご覧いただきありがとうございました!
リクいただいた『ライガーの後悔している話』になります!
後悔しているだけでなく救いも入れたくこういった形になりました。
これから3人は力を合わせて、時には4人でこの国を守っていくように持っていくでしょう。
思入れのあるキャラクターなので、迂闊にも泣いてしまいました。
彼が相談できなかったのは、育った環境です。
王妃を嫌う派閥の人間からの嫌がらせや、王妃はもちろん自分が重荷だと感じているライガーは自分の中に秘めてしまう癖があります。
ルークは昔からそう言っていますが『兄上』と慕ってくれる『王太子』の弟を、可愛がっているライガーはやはり我慢してしまいます。「俺より責任を背負っている弟に迷惑を掛けられない」と。
まぁルークの方が3cm身長大きいですがね!(きゃらページ更新しました)
なので、ライガーに気軽に相談できる人物を当てたかったんです。
あとガリウスが一杯で帰ったのはまだシャリオンが心配だからです。
以上です!
リクありがとうございました!
次は1月2日(プロットが仕上がらなかったら3日)から子作り&子育て編です!
キャラと新マップが増えます。
気付いたんです。。もっと詳しい仕様書ってやっぱり大事って・・・
29日からデータ一覧作成してました(泣笑)
2020年最後の投稿になるかも・・・?
下期からになりますが、たくさんの方に読んでいただけてとても嬉しいです。
来年も頑張りますのでよろしくお願いします!
【ライガー視点】
勝手だと分かっていても、シャリオンがずっと心残りだった。
・・・俺が幸せにしたかったが・・・。
そんな彼も無事に結婚へと話が進んでいることは、ライガーも嬉しく思っていた。
城の中で時折見かける2人は仲睦まじくて、シャリオンの笑顔を見ると自分の判断は間違いでなかったと思える。
公爵家次期当主である彼は後継ぎが必要で、ライガーとの婚約が破棄になったため、新たに婚約者を探すことになるのだが・・・。
自分は王位継承権はないが腐っても王族であるため、普段会う貴族たちは猫をかぶっていて怪しいところはない。
しかし、念のため調査をするととても婚約を許可できないことがごろごろ出てくる。
多少私情は少し入っていた。
普段なら相手の家の質なんて見たりしない。
不正や犯罪が潜んでいないか見るくらいだ。
ただ、シャリオンの相手にはふさわしくない。
だから、ガリウスも何かあるのではないかと勘繰ってしまい、正式じゃないにしても婚約が決まったシャリオンに2人きりで会うなんて言う、愚かなことをしてしまった。
今考えると何故あんなことをしてしまったのかと後悔している。
蓋をあけて見ればガリウスは、ライガーが知っている通り信頼が出来る男だった。
ホッとするのと同時に、「もう出来ることは何もない」と、思うと寂しい気もした。
自嘲気に口元に笑みを浮かべつつ、そんな馬鹿げた考えを振り払う。
けれど、式が近づくにつれて喜ばしい気持ちと、未練がましい感情が醜くく散り積もっていく。
ライガーはそれを見て見ぬふりをつづけながら、喜ばしい気持ちを増長させるように、外に出ては結婚祝いを買い集めていた。大公を賜ってから建てた屋敷に置いていたのだが、ついにそれをルークに見つかってしまった。
あまりの多さに『初孫を喜ぶ祖父か』と、呆れられてしまった。
だがそれを聞いて、子供が出来たら贈れることが出来ると思った自分に苦笑した。
そんなことを思っていると、これ以上の結婚祝いの品を購入禁止令が出てしまう。
・・・まぁ禁止令と言っても兄弟の言い合いで王太子としての命令ではない。
自身の金だが流石に部屋に入りきれないほどの贈り物はアウトだったようだ。
だが、どれだけ買っても気持ちが足りないと感じてしまう。
ライガーでは絶対に幸せに出来ないのだから、せめてシャリオンが笑顔になるのであれば祝いたかった。
直接渡すことは到底無理だと分かっている。
ならば、ガリウスに渡すかとも思ったが、それもルークから止められた。
ならばこれはどうしたら良いものかと悩んでしまうが。
だが、画策するくらいならガリウスに託したほうがいいような気がする。
勿論それは廃棄される可能性があるが、自分で捨てることは出来なかった。
せめて、孤児院にでも下賜でもしてくれないだろうか。
そんなことを思うライガー。
本当なら自分で廃棄できればよかったのだが、シャリオンへの気持ちを捨てるようなことライガーは出来なかったのである。
☆☆☆
それからとある昼下がりの午後。
大公となり王太子の代わりとして海外との外交役にメインで立つライガーの元には、現金なことに昔よりも多くの貴族が集まるようになった。
ライガーはそんな貴族にも真摯に向き合っていた。
勿論無理なことは無理とちゃんと言うが、それでもダメ元で現れる貴族が多い。
今日は噂好きの貴族が現れ、延々と税収アップを提案してほしいという話をされた。
何やら大規模な福祉施設をつくりたいだとかで、その建てたいものがどれだけ大切で素晴らしいのかと、説明をしてくる。
自分がしている仕事とは別なのだが、兄弟仲が良好だからなのかこういう者は後を絶たない。
判断をするのはルークだ。
だが、提案してきた施設を税収を上げてまで作る理由が分からず、わざわざ多忙極めるルークの手を止める必要はない。
どう帰すか考え始めているところだった。
相手が何か思いだしたようにこちらを見てきた。
「そういえば。無事に救出されて良かったですな。
閣下はその後も気にされていたのでご心配だったでしょう」
「なんのことだ?」
税収の話を聞く気がないことを察知したのか、話題を展開してきたが何のことかわからない。
何処かの国に捕虜でもいただろうか。
しかし、ルークからは外交の話は来ていない。
ライガーは眉を顰めると、その貴族は神妙な面持ちでつづけた。
「レオン様のご子息のことですよ」
寝耳に水だった。
まじまじと見るが相手もそんな反応をされるとは思わなかったらしい。
あえて隠されてると今更気づいても遅い。
ライガーの視線が『言え』と訴えている。
すると諦めたように答えた。
「その・・・拐われていたのです」
「!」
「ですが!すでに無事に救出されて、犯人はもうおりません!」
焦りながらヘラヘラと笑みを浮かべながら、額に流れた汗を拭いた。
シャリオンのことだからルークが言わなかったというのもあるかもしれないが、攫われるといいう大事をルークが言わないとは思わえない。
ライガーは男の言った言葉聞き逃さないように、反芻しながら息をのんだ。
犯人はもういない・・・?
あのレオンが簡単に逃すとは思えない。
いない。と言うのが物理的にだというのが分かったが、一貴族の誘拐に国外追放とは考えにくい。
あっても罰金や爵位降格が適度だと思われた。
もちろん、ライガーの心情的には終身刑が最適だとは思うが、それは私的感情である。
シャリオンは大丈夫であろうか
身体的だけでなく、精神面の方だ。
すぐさま駆けつけたくなるが、シャリオンを支えられるのは自分ではない。
動きたくなる気持ちを精一杯堪える。
シャリオンにはガリウスがいるのだ。
自分は行くべきではない。
そう、自分に言い聞かせている時だった。
「これでライガー殿下も安心ですな」
一体何が『安心』なんだと、言いたくなったがこの流れで自分に言った言葉に嫌な予感がした。
「・・・これで、とは?」
「実行犯はアボット伯爵で、首謀者はファングス家当主だったのですよ。
彼の家と殿下は無関係ですが、・・・気にされておりましたでしょう?」
そう言う男に頭が真っ白になった。
無関係を強調した相手の気遣いなど気づかないほどに。
☆☆☆
様子の可笑しくなったライガーにいつの間にか貴族は退室していた。
挨拶があったのかさえ分からない。
だが、1人になれたのは丁度よかった。
席を立ちあがるとふらつきながら、結婚祝いを置いてある部屋へと向かう。
温かい気持ちを込めて買った品々を見ると、苛立ちが募っていく。
ライガーはただ祝いの品を買いたかったわけじゃない。
すべてはシャリオンに幸せになってもらいたい。
今の自分にはこんなことをするくらいしか思いつかたなかった。
だが。こんな贈り物は気休めにしかならない。
「・・・」
シャリオンの誘拐犯が、ファングスが実行犯というのなら、間違いなく自分が関わっている。
間違いなく、自分の所為だ。
「・・・なぜ」
そんな言葉が喉から出てくる。
シャリオンに近寄らなければ、・・・王になど興味がないと毅然と示せば・・・・。
「どうして・・・っ」
シ ャ リ オ ン を 傷 つ け な い と 思 っ て い た の に・・・!
「っどうしてだっ!!」
ライガーは叫び共に、近くにあった結婚祝いを壁に物を投げつけた。
可愛らしいその装飾達は呆気なく壊れ飛び散んだ破片が、刃の様になりライガーの胸に突き刺さってくるようだ。
「っ」
溢れる激情が止まらない。
怒りと憎しみと嫌悪が渦巻く。
「ッアァァァァァァァァァッッーーー!!!!」
☆☆☆
物音と叫び声を聞いて駆けつけた使用人を一瞥し、有無を言わさず部屋から追い出すと、部屋に鍵をかけ籠った。
怒りが暴走し感情が抑えられなかった。
産まれてからこんなに怒りが止まらないのは初めてだ。
こんな癇癪・・・やはりあの女の子供か
そう思うと余計に怒りが沸き立つ。
絶対になりたくないと思っていた女の行動の様で、苛立ちを加速させる。
くしゃりと前髪を握った。
落ち着けようとする感情はまったく言う事聞かない。
無意味に手当たりしだい、愛しい思いで買ったものを壁に投げつけ粉砕する。
力一杯投げると普段自制している枷が取り去られ、心がスッとすると思ったのに破壊した残骸を見るとシャリオンを思い出して余計に痛い。
そして直ぐに憎悪が湧いてくる。
夜になると騒ぎを聞きつけたルーク達が屋敷にやってきたのか、扉の外から声がするが一切開けなかった。
何時間経ったかわからない。
部屋は荒れ果てライガーも疲れ果て床に座り込んでいた。
こんなに感情が制御できない自分なんて誰にも見せたくないのに。
ふと見えた鏡に映った自分の表情は見たこともなく狂人めいていて、鏡を叩き割った。
何故・・・俺にじゃないんだ・・・
・・・何故・・・っ
目を閉じると何より大切なあの笑みが恐怖に染まったのかと思うと、辛くて痛かった。
もう何もしたくないのに、目からは勝手に熱いものが流れる。
元凶はもういないというのに、血が残っている限り果てしなくこれは続くのではないかと思うと、怖くてたまらなくなった。
「・・・、」
脳裏にはいつだって自分に微笑みかけてくれた優しい笑みが浮かぶ。
それが自分の所為で傷つけられ続けるのかと思うと、すべてを終わらせたくなった。
☆☆☆
ライガーとシャリオンが初めて出会ったのは、ルークと共に公爵家の令息・令嬢との顔合わせの一つだった。
顔合わせをするといったその中に、もれなくハイシア家もあったのだが、ライガーはもううんざりしていた。
こんな時間よりも、ルークを支えるために剣術や学問を習いに行きたかったが、父上の指示では言うことを聞かざる終えない。
みなルークに群がり、ライガーを見もしない。見たとしても明らかに見下した視線に、自分を王族の者として、利用しようとする親の気配。
数回繰り返すうち、何故自分がここに立ち合わなければならないのか、苦痛になり始めていた。
だが、自分の産まれを理解していたライガーはそれを飲み込むしか道はない。
そんな時にハイシア家とのお茶会が予定された。
その日もルークが気にいる様に話を盛り上げることに徹するつもりだった。
今日はどんな世辞を言うかな
そんな事を思っていると、現れたシャリオンの姿にまずみとれた。
産みの親に似ていると言う話どおり、本当に可愛らしい見た目だった。
妖精・・・いや、天使かと思うほど可憐で無意識に抱きしめたくなるような、そんな感情にかられた。
絹の様に細くしなやかな髪は風がそよぐたびに、美しくたなびく。
黒い髪は深い闇の様だが、彼が動くたびにきらきらと光りをまるで星空の輝きのようだ。
両親から受け継いだ証のような瞳は灰緑色は落ち着く深みを持っている。
そして、シャリオンは見た目だけではなかった。
「こんにちは。シャリオン・ハイシアです。今日はお招きいただきありがとうございます」
練習をたくさんしたのか、すこし拙さが残るが可愛らしく足を引かせ、ボウ・アンド・スクレープを見せてくれた。
どの家の令息令嬢も緊張しながら同じように見せてくれたが、シャリオンのそれには心がこもっているように見えたのだ。
それに、ライガーだけでなくルークも惹かれながら、2人そろって挨拶を返した。
そんなシャリオンと話せた時間は一時間というほんの少しだったが、顔合わせで初めて楽しく感じた。
最初から最後まで、他の貴族のような見下しが、一切なかったのだ。
ルークと同じ様に自分に視線を合わせ、同じように話してくれる。
そして、花がほころぶような笑顔からは一切の邪推が感じられない。
すべての貴族がライガーを王妃の残像で悪意の眼でみてくるわけではない。
それまでに会った貴族の中にも好意を見せる者はいた。
しかしそれはライガーの王族としての立場に有用性を感じている者達だ。
所詮貴族なので家を一番に考えることが当然とは言え、幼いから故なのか彼等のそれはあからさますぎた。
その当時は貴族のそれらが汚く見えてしまっていたのだ。
だからそれを感じさせないシャリオンにすぐに心を魅了される。
ライガーの背景を見ず王族であることも気にせずに接してくれるシャリオンは、とても貴重な存在だった。
心のどこかでシャリオンもそうなのでは?という恐怖を捨てきれなかったのに、次第にシャリオンの純真さに気付く。人を信じやすいのか、すぐに気を許してしまう。
きな臭い噂を持つ貴族のうさんくさい嘘も信じてしまい、見ているこちらが冷や冷やした。
そんなシャリオンに気付いたら自然と守るように動いてしまっていた。
人を疑ってしまう自分にはシャリオンがまぶしく映った。
でも・・・そんな彼をきっとルークも気に入るはず。
公爵家で父王の右腕であるレオンの息子は、きっと貴族的思考でルークに引き合わせようとするだろうと、幼い自分にもわかった。
そう思ったのに、ルークは他の令嬢への婚約を打診した。
今思えばアレはルークが譲ったのだと分かるが、当時は心底嬉しかった。
ルークではなく自分の婚約候補に挙がっていることを知っても態度を変えず、嬉しそうにしたシャリオン。
キラキラと笑顔を向けるシャリオンに、ライガーは大切にしようと心に決めた。
それから、しばらくはとても幸せだった。
シャリオンを知れば知るほど大切に思った。
ライガーはそんなシャリオンの隣に立つのに恥ずかしい人間にならないように、剣術も学問も手を抜かない。
ゆくゆくはルークのサポートをすることを望んでいるから、自ら指揮官の元で勉強を志願したりもした。
進んで国民の前に出て式典や祭りごと、それに各種の視察などを行った。
恐れていた王妃と比べられることはなく、おおむね国民からの好感は上がり認められているように感じていた。
すべてはシャリオンの為に。
その永遠に続くと思っていた幸せが覆されたのは、ファングス家当主が接触をしてきたことにより陰りが出てきた。
「ご結婚、めでたいですのぅ」
婚約であって結婚ではないのにそんな事を言う男。
その男は本当に愛でたいと思っているのか不思議なくらい邪悪と言っていい笑みを浮かべていた。
最初のころは父がいるときに来てくれればいいのにと、思っていたが数度重ねるうちに彼等があえてその瞬間に来ていることが分かった。
ただの貴族であればここまで気にしなかったと思う。
だが、ファングス家は市井には告げられていないが、とても悪評高い亡くなった王妃の生家である。
ライガーの産みの母親の父、つまり祖父である人物だ。
挨拶だけだったやり取りが次第に増えていくことを苦痛に思っていたころ。
男がとんでもないことを口にした。
「王妃の愚かな行いがなければ、お主は『王位継承権だけ』でも残っていたのにのぅ」
自分の娘に対してとは思えない言葉だった。
王妃が亡くなりライガーはルークの産みの親のルーティに育てられた。
血の繋がりが無いにも関わらず彼は自分の子供の様に育ててくれた。
王妃を恨んでいた使用人に知らされるまで、ずっとルーティの子供だと思っていたくらいだ。
血が繋がってなくても愛情を感じられたルーティが傍に居たから、血のつながるのある王妃にそんなことをいうファングスが信じられなかった。
その声は、娘を惜しむというよりライガーに王位継承権が無いことを、哀れんでいた言葉だった。
聞いていた通りの人物で嫌悪するとともに、「『王位継承権だけ』は残っていた」と言うのが怖かった。
それが、自分に王位を継がせたいという思いがあるように聞こえてしまったのだ。
「たしかに元王妃の愚行は話にならないが。王の座なら心配する必要はない」
「わしは味方じゃ。・・・お主も王になりたいよのぅ?」
「・・・。どこをどうとったらそういう結果になるのか分からないが、王太子にはルークがいる。
だから王族でもない貴方が余計な心配は不要だ」
ファングスは父上よりも年上であるが毅然と答えると、ファングスはあからさまに眉をひそめた。
そうしたいのはこちらだ。と、思ったのだが他の貴族の目もある。
ライガーは常に王族らしく貴族らしく品行方正に正しいふるまいをしている。
それは、自分の所為で王家にこれ以上醜聞を作りたくないからだ。
「そうは言ってものう。
・・・可哀そうに、親の罪は子には関係なく、お主には資格があるというのに。
・・・城の者たちには虐められてはないかのう?」
自分の娘にはあのようなことを言ったのに、ライガーにはそんな心配気な対応で少し分からなくなった。
ファングス家の話は父から聞いた話で、自分が見たことではない。そこに何かあるというのだろうか?
ファングスの言う通り城の中にはいまだに王妃が嫌いな人間がおり、嫌がらせを受けることがあった。
父がライガーの周りの使用人は厳選しているのだが、元王妃についていた使用人からの憎悪は今も根強い。
何か言うことはないが、視線はとても冷たく睨まれている。
「用がないなら失礼する」
「まてまて。・・・陛下はお主の母親のことはなんて話しておるのだ」
わざわざ引き留めて話す内容なのだろうか。
去ろうとしているのに引き留めてくることに忌々しく感じてしまう。
シャリオンにこんな醜悪な人間を見せたくなかった。
すると。
「・・・お前の母親は病死でのう?」
実際は離宮に幽閉され服毒死させられているが、それは王家極秘事項である。
この男はその事実が知りたいのだろうか。
相手の意図が分からずに訝し気に眉を顰める。
「城には不思議な病が流行ることがあるのがな。
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父に相談しなくては!と、思ったときである。
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「・・・!」
この男からシャリオンのことを話されるだけで怒りと恐怖が溢れた。
「シャリオンは関係ないっ!」
そう聞いたときに突発的に叫んでいた。
そんな行動を社交の場どころか、初めてしてしまった。
自分のことなのに、驚き茫然としていると男の笑顔がみるみるといびつに弧を描く。
「そうかのう?・・・ならば、ワシも余計な事をしないように気をつけねばなるまいなぁ?」
「っ」
「だがしかし、しかしのう?
おぬしは私の孫だ。その結婚相手となるならば親交を深めるの良いかもしれぬ。
挨拶しておくかのう」
「っ・・・!」
幼いライガーはこの時の失態を心の底から後悔した。
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その日からファングスの接触が多くなり、ライガーの口数が少なくなっていく。
ライガーの親しい人物に近づき、そこから弱みを握られ彼等に危害を加えられるのを恐れたのだ。
特に、なんの関係もないシャリオンに近づきそんなことをされるのは何が何でも避けたい。
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相談をしたい。助けを求めたい。
しかし・・・、父上が気にかけても蛇みたいみたいに音を立てずに忍び寄ってくるファングスは、下手なことをしたらルークが本当に殺されるんじゃないかという恐怖で動けなくなった。
どれも・・・失いたくなかった。
☆☆☆
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ガリウスはしれっと答える。
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「っ・・・すまない」
「私に謝られましても。
殿下には立派な足がおありなのですからご自身で様子をみて、謝られたらどうです」
「っ・・・」
行きたい気持ちに駆られたが、傷を想像しただけで感情が粗ぶりそうな気がした。
するとガリウスは眉を顰めた、
「・・・殿下がトラウマ背負っているのですか」
「っ・・・」
そういうとガリウスは小さくため息をつくと、ライガーの手を取ると肩にかけて持ち上げた。
数日籠っていたいたライガーの体は軽く衰弱していた。
どちらかと言うと心の問題が大きい。
ガリウスの本音としては、「シャリオンの気を引かないでください」と、言いたいところだったがライガーは王族であることもあるが、本当に傷ついているこの男酷く当たれなかったのだ。
部屋から出るとそこには右往左往しているルークが立っていた。
まずがガリウスが話すからと待ってもらっていたのだが、ライガーはルークの顔を見るなり声を詰まらせた。
「・・・すまない」
「俺にいってもしょうがないでしょう~」
「すっかり弱ってますよ。・・・殿下には早く元気になってもらわないと結婚式に出てもらわないとなんですから」
「・・・。なんか、ガリウス・・・こないだから遠慮なくなってない・・・?」
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「え。何時遠慮してたの??」
「シャリオンへの態度を改めるようにお願いしてから、何もしかなったでしょう?」
「「・・・」」
つまり、遠慮してなかったら正式に抗議していたというのだろうか。
いや、自分が蒔いた種なのだが、しれっというガリウスにライガーはなんだか可笑しくなって笑ってしまった。
自分の周りにはこんな人間いなかった。
ルークは弟だし、シャリオンは元婚約者であるが、そもそも優しくてこんなことは言わない。
連れられて来たソファーに腰かけると、ふっと息を吐いた。
「で、貴方はシャリオンがファングスのクズ野郎に捕らえられたことで何をトラウマになってたんです」
「・・・いや、そうなんだけどさ・・・」
ルークは兄であるライガーを大切にしている。
そんな兄の傷を気にせず言うガリウスにもう少し言葉を選べよと思いながら、引きつった笑みを浮かべた。
しかし、ガリウスは気にしたようではなく続ける。
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「手紙・・・?」
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「どうでしょうか。貴方は秘密主義なので秘めたる何かをまだ持っていると思いますが」
「それはない。シャリオンは君と一緒になるべきだ」
いつか見た2人で話している時に浮かべた笑みは心の底からの自然な笑みに見えた。
「えぇ」
「・・・すごい自身だね、お前・・・」
肯定したガリウスにルークが呆れている。
しかし、真実だと思う。
「・・・俺にも力があったなら」
一緒になれないにしても、守れたのだろうか・・・。
ガリウスはそのつぶやきに頭ごなしに否定した。
「違いますね。貴方は根本的に間違っています。
何故自分に出来ないことを抱えるんですか。
出来ないなら出来ないと言わないと出来ないままですよ。
貴方も陛下もちゃんとしかるべき人に相談しないからこういう結果になったんです。
・・・まぁそれだけ私達が信用されてないと言う事ですよ。ルーク様」
「そうなるよね」
「そ、それは違うぞ!?」
何故、父のブルーノを出されたのか分からなかったが、2人があてつけるように言ってきたことに首を振った。
ライガーとしては信用していないからではなく大切だったから言えなかったのだ。
しかし、2人にはそのニュアンスが通じなかった。
「違わないよねぇ。
そもそも今回の事は父上が兄上可愛さあまりに、シャリオンを餌にファングスをつろうとしたんだよ」
「え!!?」
ファングスから仕掛けてきたのかと思ったが、そんな話だとは思っても見なかった。
「ち、父上が・・・?」
「そう。あのね、兄上うまくごまかせてると思ってるみたいだけど、幼い時から結構バレバレだよ?」
「!?」
「シャリオンもそれに気づいていたけど、・・・家族である俺達が気づかない訳ないでしょう?
父上だって少し考えればわかり切ってるのにさ。
・・・まぁ、今回踏み切ったのは兄上の話だけでなく、きな臭い噂もあったから根絶しようと思っていた見たいだけど。・・・でもさ、そういう動きを取るのに父上、レオン様に相談を一切しなかったの」
「!!?」
レオンのシャリオンの溺愛ぶりを知っている。
大丈夫なのだろうか。逆鱗に触れるのではないかと心配していると、ルークはあきれた表情のまま首をかしげてきた。
「いや、兄上も同じようなところあるからね??」
「す、・・・すまない」
「あと決めこまないことです。
ご自身で考えて答えを出すのは結構ですが、まずは私に相談してください」
「・・・ガリウスに・・・?」
「はい。ルーク殿下は信用に置けないようなので」
「おっ・・・おまえっ!」
「フッ・・・申し訳ありません。今のは冗談ですよ。・・・でも、大切な兄上だから言えないのなら他人である私になら言いやすいのではないですか?私は口は軽くないですよ」
ガリウスが口が軽くないのは知っている。
今こうしていてくれるのはシャリオンの為なのだろうが、ライガーの中のガリウスの評価は高いから、それは信用における。
「・・・わかった。・・・もう、こんなことは嫌だからな」
そう言うと、2人は少しほっとしたように肩の力を抜いたのが見えた。
軽口をたたいているようで、かなり気にしてくれたようだ。
「そうですね」
もし、ファングス家の血族のものがやってきて、再び強請ってきたとしても、今はガリウスやルークがいると思うと心強い。
何処かこの男には安心感がある。
宰相と言う立場であまり戦闘に関係なさそうな人間なのに、手には剣だこがあるのは定期的に訓練をしているからだろう。
殺しても死ななさそうな、そういう所も安心が出来る。
もう、間違ったりしない。
そう思っているガリウスが不思議そうにルークの名前を呼んだ。
そのルークは少し前に立ち上がり何やら後ろで何かやっていたのだが。
「・・・ルーク殿下・・・?」
「どうした?」
ガリウスの視線の先を見れば、ライガーの晩酌用の洋酒の瓶を片手に握っていた。
そして扉を開けると心配そうにしていた使用人に軽くつまめるものを頼んでいた。
そんなルークにガリウスはため息をついた。
「一杯だけですよ」
「ガリウスは断るかと思ったよ」
「遅くまではいれません」
「だね」
「仕事があるなら」
酒を酌み交わすのはライガーの為だと思われた。
だから断ろうとした。
「今日はこのために切り上げたので大丈夫です」
「そうか?」
先ほど忙しいと言ったガリウスはそんなことを言い、ガリウスはボトルを開けている。
ルークはグラスを3つ机の上に置き、ガリウスがボトルを傾けて来る。
それから、結局1・2杯飲むと二人は帰っていた。
酒が入ると余計に遠慮が無くなった2人だったが、それがむしろ嬉しかった。
☆☆☆
月明りの下でシャリオンからの手紙を開く。
それを持つ手は少し震えていた。
恨みがましい言葉並んでいるとは思わないが、どんな酷いことをされてしまったのか。そう思うとそうなってしまったのだ。
そこには久しぶりに見た、懐かしい文字が並んでいた。
中身はシャリオンの方が大変で怖かったはずなのに、端から端まで自分のことを心配している文字が並んでいた。
優しい文字で埋め尽くされたそれを抱きしめる。
「っ・・・はは。・・・これではガリウスに嫉妬されてしまうぞ?」
『あれだけ幸せになれって言ってきたんだから、ライが一番にお祝いしてね』
そんな言葉で締めくくられていた。
【完了】
┬┬┬
最後までご覧いただきありがとうございました!
リクいただいた『ライガーの後悔している話』になります!
後悔しているだけでなく救いも入れたくこういった形になりました。
これから3人は力を合わせて、時には4人でこの国を守っていくように持っていくでしょう。
思入れのあるキャラクターなので、迂闊にも泣いてしまいました。
彼が相談できなかったのは、育った環境です。
王妃を嫌う派閥の人間からの嫌がらせや、王妃はもちろん自分が重荷だと感じているライガーは自分の中に秘めてしまう癖があります。
ルークは昔からそう言っていますが『兄上』と慕ってくれる『王太子』の弟を、可愛がっているライガーはやはり我慢してしまいます。「俺より責任を背負っている弟に迷惑を掛けられない」と。
まぁルークの方が3cm身長大きいですがね!(きゃらページ更新しました)
なので、ライガーに気軽に相談できる人物を当てたかったんです。
あとガリウスが一杯で帰ったのはまだシャリオンが心配だからです。
以上です!
リクありがとうございました!
次は1月2日(プロットが仕上がらなかったら3日)から子作り&子育て編です!
キャラと新マップが増えます。
気付いたんです。。もっと詳しい仕様書ってやっぱり大事って・・・
29日からデータ一覧作成してました(泣笑)
2020年最後の投稿になるかも・・・?
下期からになりますが、たくさんの方に読んでいただけてとても嬉しいです。
来年も頑張りますのでよろしくお願いします!
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出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
使い捨ての元神子ですが、二回目はのんびり暮らしたい
夜乃すてら
BL
一度目、支倉翠は異世界人を使い捨ての電池扱いしていた国に召喚された。双子の妹と信頼していた騎士の死を聞いて激怒した翠は、命と引き換えにその国を水没させたはずだった。
しかし、日本に舞い戻ってしまう。そこでは妹は行方不明になっていた。
病院を退院した帰り、事故で再び異世界へ。
二度目の国では、親切な猫獣人夫婦のエドアとシュシュに助けられ、コフィ屋で雑用をしながら、のんびり暮らし始めるが……どうやらこの国では魔法士狩りをしているようで……?
※なんかよくわからんな…と没にしてた小説なんですが、案外いいかも…?と思って、試しにのせてみますが、続きはちゃんと考えてないので、その時の雰囲気で書く予定。
※主人公が受けです。
元々は騎士ヒーローもので考えてたけど、ちょっと迷ってるから決めないでおきます。
※猫獣人がひどい目にもあいません。
(※R指定、後から付け足すかもしれません。まだわからん。)
※試し置きなので、急に消したらすみません。
公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
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