婚約破棄され売れ残りなのに、粘着質次期宰相につかまりました。

みゆきんぐぅ

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婚約編

【別視線:ガリウス : アルベルト】

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※シャリオンが騎士館に来ていた日の話です。


ガリウスは先ほどまでシャリオンと来ていた騎士館に、再び訪れていた。

勝手知ったるなんとやらで、当然のように団長室のソファーに掛けている。
他の騎士達も先程がおかしかったのだと、安心しつつ見慣れた光景に、何も言わなかった。

むしろこの環境で機嫌が悪いのはガリウスだけだ。
勿論、丁寧な言葉は消えないが、気配から不機嫌なのが分かる。そのため、アルベルト以外の騎士は目を合わせないようにしていた。

「先程のはどういう事ですか」
「先程?シャリオン殿を連れてきた時の話か?」
「それ以外にさす出来事がありましたか?」

丁寧な口調とは裏腹に、とげが含まれている。

「ないが。お前がそんなに、不機嫌になる出来事も解らない」

勝手に入ってきたガリウスにそう答えながらも、アルベルトは手も止めない。
シャリオンの時と違い断りがあった訳じゃないし、そもそもこの2人はいつもこの様なかたちだ。

「そもそも。何故シャリオンに。赤蜘蛛の話を耳に入れたのです」
「随分前の話だな。・・・あの頃は本当にシャリオン殿の領地に関係のある事だから彼に話したまでだ」
「では、先程はわざとシャリオンの耳に『女性保護団体』の話を耳に入れたわけですね」
「・・・そう睨むな。それに彼はもう知っていたじゃないか」
「貴方がそうしたのはなにかしらのためなんでしょうが、何故私に先に教えてくれなかったのですか」
「それはなぁまぁいろいろとな」
「シャリオンを餌にした人物は誰です」

シャリオンと同伴して来た時と同じ人物とは思えないほど、凍りつくほどの視線でアルベルトを見るガリウス。
そんな、ガリウスに苦笑を浮かべるだけで、アルベルトは言い濁す。
2人の関係は学友であり、国を動かし守る立場として同じ立場のはずだ。
今までも腹を割ってさまざまな話をしてきたわけなのだが。
待っても言わないアルベルトに、ガリウスは目を細めた。

「では、貴方に指示主に伝えて下さい。
シャリオンに傷一つつけることは許さないと。
シャリオンやレオン様が許したとしても、私は許さない。
さもなければ、私はシャリオンと領地に引きます」
「?!」

考えたことがないわけではない。
むしろそうした方が、2人の時間は格段に増えるわけだ。
今回のように利用されるくらいなら、そうしてしまった方がいい。

「ハハ。その冗談は笑えないぞ、ガリウス。
・・・冗談だよな・・・?」
「いいえ」
「指示した者が誰か気付いているのだろう?!
それにそんな事、ルーク殿下・・・ひいては、レオン殿が納得するわけないだろう!」
「私が納得されずに困るのはシャリオンにだけです。
それに、レオン様は良いと言うと思います」

しれっと言うとアルベルトは痛烈に舌打ちを打つが、ガリウスはそんなもの気にしない。

「精々、傷付けぬ様に彼を守って下さいね」
「く、国の機関をつかえと言うのか」
「傷つけては駄目なのは心もですよ?
・・・そもそも彼は公爵家次期当主です。
王家の皆様方が全てお亡くなりになったなら、ゆくゆくは彼にも王位継承権が回ってくる可能性のある血筋です」

ハイシア家もそして伯爵家の出身であるシャーリーにも王家の血は流れている。
この国には王位継承権は3位までしか公表していない。
それ以外は伏せてるわけでもないが、公表もしていない。
そして、いくつか公爵家はあるが、それを含めてもシャリオンは7位だ。

「あまり物騒な事を言うな」
「別に良いのですよ。
先程も言った様に領地に引いても」
「っ・・・彼への警備は付けてる」
「当たり前です。そうではなく特殊部隊をつけろと言っているんですよ」
「!?ハイシア家にはお抱えの者達がいるだろう」

特殊部隊とは王族を守る為の組織だ。
表立っては第一騎士団のメンバーの中でもエリートと呼ばれる部隊が守っているが、影から隠密し支えているのが特殊部隊である。
ハイシア家からもウルフ家を当てがうが、それで不安だから言っているのだ。
無言でアルベルトを見れば不承不承自棄になって返事をする。

「わかった!わかった!!」
「ハイシア家の守護者(ウルフ家)達とぶつかって、保護が疎かにならないようにしてくださいね」
「・・・お前は無茶言うな・・・」
「それと情報を」
「え」
「私達にはそれだけのメリットがあると思いますよ。
・・・貴方は私が知らない何かをご存知のようなのでね。
それを有効活用して差し上げます。なに。
貴方に不利に動く様なことは・・・まぁないと思いますよ」
「そこは言い切ってくれ」
「すみません。優先順位により変わります。
貴方だって自分の伴侶の危機に他の男が介入してることを我慢できますか?
貴方は第二(騎士団)ですけど、私から第一に言うよりも、貴方が提案したほうが平和的でしょうし、貴方の手柄にもなりますよ。無事守れたなら私とレオン様からの評価も格段に上がります」
「本当に・・・お前は嫌な奴だな」

ガリウスはアルベルトが誰から指示されてるか見当がついている。
それが分かっていて、何故ガリウスに内密になっているか?と、言ったらシャリオンの伴侶であるからだ。
ガリウスに止められては困るのだ。

それも心外ですがね

シャリオンが1番に大切なのは当然だが、ミッションで私情を挟むわけがない。
まぁミッションになる前に散々文句なり別の手段を考えるだろうから、それを煙たがれたのだろうか。
だが、秘密にされたのははらわた煮えくり返っているいるので、態度では示しておく。
そもそも、次期宰相と言われていて、領地にも引っ込まれても困るガリウスに、内密にすすめようとしている指示者がどうかしている。

「精々敵にならないように頑張ってください」

アルベルトは学友時代からの付き合いなのだから十分に理解していた筈だ。
ガリウスは基本、他人に興味がない。
誰にでも敬語だし、感情の起伏はない。
なのだが、一切踏み込んだりしない。
仕事には必要なところはガツガツ踏み込んでいくが、個人の心には一切興味がないのだ。
手を差し伸べるのは、そこに利がある時のみ。

極端に言えば、目の前で人が転んだとしても、助けることでメリットの有無を考える。
無いと考えた場合、口だけである。
そして、1度敵とみなした人間への仕打ちは、一切の手抜きがない。

「・・・お前はそういう奴だった。昔から」

☆☆☆

【別視点:アルベルト】


数年前。

ガリウスに好意を抱いた子爵の子息がいた。
彼は「エリック・オーグレーン」。その子爵の家の次期当主であった。
おそらく、ガリウスは記憶から意図的に抹消していると思われる。

彼はガリウスに振り向いて欲しいばかりに、気をひこうとあれこれしてきたが漏れなくそれらをかわした。
勿論無視などをするわけじゃなくのらりくらりと言葉で相手の要望通りにさせなかった。

ガリウスは自分が顔が良いのは自覚していて、学生時代からその容姿から慕われることが多い。
その容姿を使い、相手に取り入り情報を聞き出すなど朝飯前だった。

だが、彼に・・・シャリオンに会ってから変わったようだった。

『他からの恋慕など邪魔だけです』

その頃、ガリウスがアルベルトに良く言っていた言葉だ。

当時、ガリウスはエリックに対して鬱陶しいと思っていたが、彼は貴族で同位の子爵であるため、邪険には出来なかった。
あからさまに無視をすれば余計に面倒になるのは見えているし、むしろそのことをきっかけに相手にチャンスを与えてしまう可能性を考えて、ガリウスは放置をしているように見えていた。

大体どんな相手でも、2・3度誘いを断れば察して離れていくのだが、エリックは一向に諦めなかった。

ガッツがあると言えば聞こえが良いが、彼の場合はただのわがままだ。

嫌悪される原因の一つとして、妄想癖が酷く周りにガリウスに迫られていると、周りに言いふらし始めたことだ。

『一切こちらから話しかけたことなどないのですがね』

黒い笑みを浮かべながらそう言い放つ友人に、どうして正式にオーグレーン家に抗議しないか尋ねたが、『時期じゃありませんので』としか言わなかった。
察するに何かを企んでいるようだった。
なにをしでかすのか。
ちょっとした夜会で顔に泥をぬるとかそんな程度だろうか。などと、傍観を決め込み楽しんでいた。

しかし、気づいたら「オーグレーン家」は多額な借金により家が破産し、社交界から消えていることを、風の・・・というか、噂大好きな口の軽い貴族達が教えてくれた。

それまで、オーグレーン家に借金がありそうな雰囲気もなかったのに。

調子が狂い始めたのは、ガディーナ家がエリックを名誉棄損で訴えたあたりだ。
子爵同士の賠償は軽微で、家が傾くことがないが、信用問題と言うか社交界での話のタネ。
ようは恥であることは間違いない。
それでも人の噂でも半年もたてば薄れゆくもの。
それで報復完了だと思われていたのだが。

しかし、オーグレーン家には良くない噂が次々と沸いて出てきた。
それからと言うもの、かの家が坂の上から球が転がり落ち驚異の速さで消えていった。


後の噂も紛れもなくガリウスが何かをしたのだと思った。

しつこい相手にガリウスに同情していたが、オーグレーン家を失墜させるまでしなくてもいいのでは?と少し憐憫を感じてしまう。

いったいどうしたのかと聞いても『邪魔になったので』としか答えてくれない。
この時アルベルトはガリウスにだけは逆らわないでおこうと思うのだった。
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