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婚約編

怒らせると凄く面倒くさい。

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ライガーとの食事のあと王都の屋敷に戻ったシャリオン。
やましい気持ちはなかったはずなのに、時間が経つにつれてなんだか罪悪感が沸いてくる。

別に何も悪いことはしてない

そう思うのに、最後に抱きしめられたことが脳裏にちらつく。
あれは予想外だった。小さくため息をつきつつ屋敷に入る。

迎えた執事と少し会話し、休むように言った。
レオンはまだ戻っておらず、ガリウスは自室に居るそうだ。

レオンと別行動とは珍しい。
というか、それなら自分の屋敷に戻れば良いものをと思ってしまう。

何度目かのため息をつきつつ、自分の部屋に入ろうとしたところだった。
開けようとしたドアが後ろから押さえられ、伸びてきた腕に、心臓が止まると思った。

「・・・っ・・・ガリウスっ・・・」
「・・・」
「びっくりするから、音を潜めて近寄ってくるのはやめてくれ」

心臓がバクバクと音を刻んでいる。
恨みがましく振り向けば冷たい視線だった。
向けられたことのない冷たさに息をのんだ。

「婚前に男と逢引ですか」

視線だけでなく、声まで冷たい。

「男限定か」
「貴方のように綺麗な人にあう、貴族の女など居ない」

綺麗といわれるのあまり好きではないが、周りの評価は知っているつもりだ。
けども、男限定というのも面白くてムッとするが、ガリウスが続けた。

「そんなことよりも、浮気のことを説明して下さい」

今まで視線が嫌だと思っていた。
けど、これは比にはならない。
思わず逃げたくなるが前はガリウス、後ろは扉しかなくそしてまた下がることができない。

「っ・・・、ここじゃ声が響く。中に入らないか」

そういうと、ガリウスは体をどかせた。
シャリオンは自室の扉を開けると、仕方なしに部屋の中に迎え入れた。
すぐさま距離を取ろうとするが、ガシリと腕を掴まれる。

「っ」
「説明を」
「っ・・・王命だって聞いてないのか?」

聞いていないのかもしれない。
だが、明日になれば知らされるかもしれないと思ったが、それでは遅いようだ。

「元婚約者との逢引だったのでは?」
「だから、王命だってば!それに、僕と彼が旧友なのは知っているだろ?」
「王命を賜るのに、相手の香りを纏わせるほど近くに寄る必要がありますか?」
「!なんで、・・・ぁ」

墓穴を掘ったのはすぐにわかった。
みるみるまに、男の怒気が濃くなる。
これは不味い。
「必要以上の接触はしない約束だ!」とか、まだ「婚約は通ってない!」とか言いたいところだった。
けど、それを許さない空気を纏っていた。

「・・・っ」
「・・・誓約に事項を良いですか?」
「・・・・・なに」
「浮気禁止」
「っしてない!」

しかし、目を細めるだけで、納得はしてないのが見て取れた。

「違反したら貴方を監禁します」
「は?なに、言って・・・(領地の)運営はどうする・・・!」
「貴方が言ったのでしょう?私が望むなら全権譲渡すると」
「!」

自棄になって言った言葉がまさかこんな形で、窮地に追い立たされるとは思わなかった。
あの時は、この男が父上の息子になりたいからあんな事を言い出したのかと思い、変に命を狙われることも考え、差し出したものだったのだが。
そうなったとしても、追い出されるくらいかと思ったのに、こんな事になるなんて想定できなかった。
監禁は死の次にさけたいことである。
だが、そもそも「浮気」などしない。
シャリオンの今日の出来事は幼馴染そしてとしての最後の話であり、もういちどあのような場を持たされても断る。
だから、誓約書に追加されても痛くもない。

「っ・・・あぁ。わかった」
「他の男の子供を孕ったら子供は処分します」
「?!」

いとも簡単にそんな事を言う男に驚き目を見開いた。批難しようと思ったが、それを寸前で堪えた。
何故なら、先に言ったようにガリウス意外とそういうことをするつもりがないからだ。
だが同時に、読み取れないこの男にも、こういう一面があるのだと知った。
王命とはいえど、やはり婚前であり元婚約者に会うと言うのは、この男としても面白くなかったのだろう。

「王族の血をひいていようと関係ありません」
「・・・だから、今日の浮気じゃない。これからもしない」
「あの方の子供を授かることは?」
「しない。・・・そもそもだったら、貴方と婚約する必要がない」

その言葉に不愉快そうに眉を潜めたが、それでも納得はしたようだ。
しかし、話はこれで終わらなかった。

「誓いを見せてください」
「誓い・・・?」
「貴方から私に誓いのキスを」
「?!何故、キ、キスなんだ」

誓いを見せろと言われるのはわかるが、キスである理由が分からない。

「誓約書にしないか?」
「嫌いな男にキスをする苦痛を考えたら、もうしないでしょうからね」

自分はまともな事を言っていると思うのだが。「でも、記録を残すのは良い事です。魔法紙での誓約しましょうね?」と、腕は掴まれたまま。
なんだか。怒らせると凄く面倒くさいというのは良くわかった。

シャリオンは自分の気持ちは理解している。
だが、家が大事なのも本当だ。
相手になってくれるガリウスがそう望むなら反抗する気はない。世継ぎがの件がなければ、誰構わずなんてこと、シャリオンもしないからだ。

「・・・はぁ」

随分とひねくれた考えにシャリオンは呆れたようにため息をついた。
だが、そんな風にさせたのは自分であることはわかっている。

「・・・届かない」

ぶっきらぼうに言い放ち、しゃがむように促したのだが、シャリオンの体がフワリと浮いた。ガリウスが抱き上げたのである。

「わぁっ」

咄嗟にしがみ付くと、ガリウスはそのまま歩き出した。そして、寝室に向かうと横たわせられた。

「ぇっ・・・あ、の、」

怯えたような声になるのは仕方がないだろう。
先日とは違い、男はしかめっ面のままだからだ。

「貴方の言い分では、子供ができるまではして良いわけですよね」
「!」

またもや自分で言った言葉だ。
だけどそれを素直にはうなづけなかった。
視線を逸らしたのだが直ぐに顎を掴まれた。

「っ・・・婚前にするのはよくない!婚約者でもだっ!それにっまだ婚約が認められなかったら、今度こそ本当に道がなくなる!」
「私が落ちるわけないでしょう?・・・ですが、婚前前に営むのは確かにマナーに反してますね」

その言葉にホッとして息をつく。

「初夜が楽しみですね」
「なっ」

羞恥に頬が染まる。
嫌だけど、早く子をなさねば!けど、嫌だ!!
と、心から思った。

「今日は誓いのキスだけです。簡単でしょ?」
「簡単と言えるお前と違う」

殿下ともした事がないのだから当然である。
しかし、それは男を喜ばせてしまったようで、少し気配が柔らかくなった。

ガリウスはベッドに腰かけると膝の上にシャリオンを乗せた。
向かい合うようになると、なんだな恥ずかしい。
体をそらせ唇を目指すが、体格差を改めて知った。それではあと少しが届かない。

「っと、どかないっ」

そう言うと、目を細めた後『・・・危険だな』と、ボソリと呟いたが、それはなんのことだかわからなかった。
そんなことよりも早く終わらせたくて、必死に伸びをするシャリオンだったが、ようやくガリウスが近寄ってきた。

「ちゃんと何を誓うのか口にしてください」
「っ・・・、ライガー殿下と二人きりで会うことはしない」
「殿下だけではありません。あなたの両親以外の人間とです」
「!」

思わず息をのむが、ガリウスの眼は本気だった。

「・・・父上と父様以外とは」
「私も入れてもらわないと困ります。子作りのときに立ち会いをさせたいのですか?」
「!!?っ・・・・ガリウスも!!っと二人きりと会うことはしないっ
これでいいか!?」

キッと睨むとこんな事をしろと言ったのガリウスの癖に、ため息つきだ。
文句の一つでも言いたいところだが、早く終わらせてしまいたくて、チュッと口付けた。

これで良いだろう?と、言うようにそろりと視線で伺ったが、瞳孔が開いた男と視線が絡む。

「ぁ、あの?」
「・・・。ふぅ」
「?っ・・・じゃ、これで、うぁっ」

ため息をつく男の膝から逃げようとしたら、腰を引き寄せられ声を上げる。

「さっきのがキスだと言うのですか?」
「え?」
「アレはキスではありませんよ」
「そ、そんなわけないだろ!僕がそう言うの不慣れだからってそんなことっ」
「なら、私と練習しましょうか?」

首に手を添えられたと思ったら引き寄せられ、距離がますます狭まる。

「え?えっぁ!ちょっ」

唇を食まれた。
口腔に侵入してきた舌は絡められるが、それに答えることも抵抗することもできず、気付けばすがる様にガリウスにしがみ付いていた。
された事に驚きと困惑と、そして快感を感じていた。頭はぼんやりして、もっとしてほしいとそんな風に思ってしまう。

「んぁっ」

永遠に続くかと思ったキスは、ガリウスが離れて終わってしまった。
ふわふわとする思考の中で『もう終わりなのか』などと、思ってしまった事に気付いていない。
ガリウスに下唇を撫でられ見つめられる視線は、初めて嫌じゃないと感じた。

「これがキスだと言うのはわかるが、・・・ああ言う場面では違うと思う」


婚約破棄する前は勿論、されてからもそういうことはしていない。
婚前にそういう事をしてはいけないとはされているが、大っぴらには言わないがみんな核を使用せずにやっているらしい。
シャリオンのしっている閨のことは教えられたことくらいで、キスには儀式などで行うような触れるようなキスと、情事のときには今のようなことする場合があると図柄で説明された。
そしてふと思いだした。

「・・・初めてが浮気しない誓いなんてな」

苦笑を漏らすとガリウスが驚いた様にこちらを見てきた。

「・・・そんなに・・・僕は遊んでる様にみえる?」

追加したいという事項の内容こともあるし、ムッとした様にいえばご機嫌をとる様に頬を撫でられる。

「思いませんが、まさか初めてだとも思いませんでした。すみません」

そういいながらおでこに口付けられた。

「!」
「でも、慣れておかないとですね」

そう言って、もう一度唇を重ねられた。
ただ今度は触れる様なキスだ。

「っ・・・ガリウス!」
「これは必要な接触ですよ。
感じていた方が出来やすいのは存じてるでしょう?子を成したいなら受け入れてください」
「!」
「それに子を成したら出来なくなるのですから良いじゃないですか」

思い切り眉を潜め、ガリウスの胸板を押し返す。

「・・・。本当になんで僕は貴族なんだ」
「嫌いな男に抱かれるなんて可愛そうですね」

そんな事、思ってない声色でクスクスと笑う声に心底腹が立った。


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