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婚約編

もう、これで今度こそさようならだ。(恋心)

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ふと見上げ空はどんよりしていた。
今の心情には丁度いい。
早く雨が降らないかと思っていると、足音が近寄ってきた。

「リオ」

声だけで姿をみなくともライガー殿下だとわかる。
振り返ればその幼馴染の顔は怒りを纏っている。
何故そんなに不機嫌なのだろうか。

「どうかされましたか」

一貴族としての態度で返せばピクリと眉を上げた。ここは廊下だ。
小さくため息をつく。
どうせ、先ほどのことが聞きたいのだ。



☆☆




今日は登城していた。
父上に昨日の返事をするためにだ。
城に与えられた宰相の執務室に、レオンとガリウスと顔を合わせる。

そこに、ライガーも居合わせた。特に呼んだわけでもなく、いつもの『リオは幸せにならなければ駄目だ』ということを言いに来ていた所だ。

レオンは丁度良いと、ライガーに報告する。

シャリオンが領主として戻ること、そしてガリウスとの話をした。
ライガー殿下は反対もしなかった。

本当に何故ここに残っているのかよく分からないが、王族として見届けるつもりなのだろうか?それならそれでもいいと思った。
ガリウスと婚約するにあたり、誓約書をつくるように話をはこんだ。

・ガリウスが望むなら領主としての権限譲渡する

昨日、初めてガリウスの裏の顔を見た気がした。
何を考えているか分からず、領地を悪用されるかと思ったが、これまでの事を考えれば、そんなに悪いことはされないはず。ガリウスが何か思っているのはハイシア家というより、シャリオン自身に思えた。

夜通し考えたすえ、敵意がないと示す為に、領主権限譲渡をする事にしたのだ。

・子は1人のみであること

家の存続のため、子供はつくる。
けれど、何を考えてるか分からない男とそんなに何回も寝たくない。

・世継ぎが出来たら性行為はしない

これは、念のためだった。
自分に体の関係に興味があるかわからないが、少なくとも昨日はあんな事をしてきたのだ。「してこないだろう」なんて呑気には思えなかった。

・必要以上の接触をしないこと
・干渉を拒否すること

貴族として子を成し家を存続させることを誓う。領主として、繁栄に全力を注ぐが、最高権力者はあくまでガリウスであること。
その代わり、子供は1人であり、必要以上の接触を拒否した。

本当は交わり(セックス)をなくし、魔法具の核に互いの体組織と魔力を与え続け、人体組織生成の方も考えた。

しかし、それは失敗するリスクが上がることや、魔力を与え続けるのは不安定になりやすく、弱い子になってしまう事がある。それは避けたかったのだ。

貴族として家を存続させると伝えると、レオンは複雑そうに眉を潜めた。

根底に嫉妬心があるのに、ガリウスと上手くやっていくなんて正直無理だと思っている。
ならば、必要以上の接触はしないのが最善だろう。
そうすることで、シャリオンの心の衛生面も保たれる訳だ。

部屋を出る間際、ガリウスは読めない表情を浮かべながら、こちらをみていたが、言葉を交わことはなかった。
だが、これであの男の思う通りになったわけだ。こちらに牙を剥いてくることもない。




☆☆




先ほどの出来事を思い出し、ため息をついた。
ライガー殿下も先程のことことを言いにきたに決まっている。

「今日は夜空いているか」

廊下であるから一応だが声を抑えてくれた。目に見える範囲には人がいない。

どうやら場所を変えて話をしたいらしい。
ここで話を聞かれるのも億劫な事だが、面倒くさいことになったな。と、思うのだった。


⬛︎


夜。
シャリオンは指定された場所にきていた。
レストランと言うより屋敷だった。
だが、ここは食事を楽しむところらしい。
広い屋敷は1組しか入れず、食事を給仕した後は彼等は呼ばれるまで退室をする。

今更になって完全密室に、未婚でもう間も無く婚約するという人間が、軽率な行動であったと気付く。
ライガー殿下が幼馴染である事が判断を鈍らせたのもあるが、自棄になっていた。
なんでも、ガリウスの思い通りにさせるのは面白くなかった。

というか、ライガー殿下が自分を襲うとは到底思えなかった。
・・・まぁ、それで、カリウスにあのようなことをされたわけだが。

出された食事を頂きながら、取り留めない話をしていた。
そうこうしていると、ここに来るまでの荒んだ心が軽くなっていく。
酒の力もあるだろうが、ライガー殿下の影響が強いと思う。

「それでルークのやつがあんな事をいうから酷い目にあった」
「あはは。流石ルーだね」
「笑い事じゃないぞ?本当に大変だったんだ」

ルークはライガーに対して兄と慕っているが、その分遠慮もない。
いや、ライガーの能力を知っているから難題をよくふっかける。
ルークとしては出来ないなら出来ないで、譲歩もするだろうが、ライガーもまたそれを叶えてしまうから、ルークの遠慮はますますなくなるのだ。
ちなみに今話しているのは領土開発の話だ。
南にちょうどいい土地があるからそこを開発してきて欲しいという内容で、『兄上なら出来るから大丈夫だよ』と、送り出されたそうだ。
簡単にはなしてはくれるが、南は隣国に接しており、まったくの荒野を開発をするのとは話が違う。
まず、砦を強化したりするわけで、それを隣国として良しとしないだろう。
それをライガーは戦争を起こさないようにしつつも話を進めてきたわけだ。・・・まぁ主な策を練ったのは言わずもがな、ガリウスなのだが。

「凄いな。ライは・・・」

久しぶりに愛称が出るとライガーは嬉しそうに微笑んだ。たったそれだけで嬉しそうにするなんて。
ライガーに友達と呼べる相手がいないわけじゃないのだから、その間でも呼び合えばいいのに。

「もう、呼ぶことはないだろうから今日が聞き納めだ」
「友達甲斐のないやつだ。・・・もう王都にはこないつもりか?」

王都にはあの男がいるわけで、出来れば来たくないのが本音だ。
それにしてもこの少しの間に本当に嫌いになってしまったものだ。
この状態で初夜なんて迎えられるのだろうか?なんて、苦笑を浮かべた。
後から冷静になれば、そんなふうにする必要などなかったと思うのに、どうしてもあの男の前に立つと意固地になってしまう。

「王都への道が開発されたでしょ?あれがうちの財政を狂わせてきてるんだ」

数年前にシャリオンの提案で、領内の病院利用代の値下げをした。
しかし、それだけでは駄目なのだ。

「なるほど。確かにあちらは少し遠回りにはなるが、税が掛からないからな」
「それにそろそろもっと別なことでも収入源を考えないと行けない時期に来たのも事実だから」
「そうか。それは忙しそうだな。
なら、俺が行くしかないな」
「今でも充分忙しいのにそんな暇ないだろう?」
「暇は作るものだ。・・・だが、ガリウス殿に悪いか」

その言葉に楽しかった気分が少し低下する。

「そんなことはないと思うけど。
・・・まぁ周りは邪推を勘繰る奴が多いのは確かだから、子供が産まれるまではやめた方が・・・て。だから来るな。忙しいのに身体壊すよ?」

すっかりくる体裁で話を進められてハッとして、キッと睨むと拗ねたようにこちらをみてくる。

「それに、言ってることとやってることが伴ってない。あの男を気にしてるなら今日のコレだってアウトだと思う」
「今日は送別だし、陛下の進言もあるから大丈夫だ」
「陛下の・・・?」
「というか、ルークの。領地の為に戻るのだから激励を送りにな?陛下が直接くるわけにはいかないし、ルークも王太子。で、俺が来たわけだ。筋が通ってるだろう?」
「いや、限りなくグレーだだと思うが。どこの世界に婚約破棄した同士がこんなに仲良くあったりするの」
「ここに?」

あっけらかんと言い放つライガー殿下に、シャリオンはおかしくて笑った。

「まったく。・・・ライは」

酷いと思う。
シャリオンの心は未だに魅かれているのに、こんなことを言ってくるのだ。
本当に酷い。

自嘲げに笑いつつグラスに入った酒を呑み切る。

・・・こないだのワイン美味しかったな

ふと、いけすかないが自分より好みがよくわかってる男を思い出して、眉を潜めた。

今日は少し呑みすぎたと思う。

「・・・僕はなんで貴族なんだ。平民ならよかったのに」
「リオ?」
「そしたら、家のこととか考えなくてよかった」
「・・・リオ」
「領地の運営が嫌いなわけじゃないよ?」

むしろ好きな方かもしれない。
けど貴族でなかったら、いや・・・せめて公爵家の人間じゃなかったなら殿下との婚約だころか、あまり繋がりすらなかったはずだ。

「ライにも会うことなかったし」
「俺はリオにあえてよかったと思ってるよ」

たいしてそんな風に思ってないくせに

と、いう言葉を飲み込んだ。
けど、酒が入ってしまているから、素直に感情が出てしまう。
ムッとしたように眉を潜めた。

「それは光栄です」
「リオ・・・。表情が凄いことになってる。後口調も」
「顔は生まれつきです。これが普通です」

敬語であるだけのそれなのだが、元に戻せという言葉に素直に従うわけない。

「いや、もっと可愛い顔している。
まぁリオはどんな顔でも可愛いが」
「そういうことは、真実の愛で結ばれた方に仰って下さい」

よく、次から次へとと出てくるものだ。
そう、ツンと返せば『困ったなぁ』と苦笑が聞こえてきた。

「・・・」
「・・・」

沈黙に後悔する。
もしかしたら、もう会えなくなってしまうかもしれないのだ。

チラリと殿下を見れば苦笑を浮かべている。

「ごめん、シャリオン」
「・・・なにが」
「今までのこと。・・・それと、これからする事」

今の話だとは思わず「何をする気?」と、訪ねようとした時だった。
隣に掛けていたライガーに抱き竦められ、懐かしい香りに包まれた。

「・・・本当にライは酷い」
「あぁ」

そう言いながら腕を背中に回し、頭を押し付けた。そうしないと本当に言っては行けない言葉が口から出そうだったから。

「悪い男だ」
「そうだな」
「人のこと気を引くようなことばっかり言って、僕のこと困らせて」
「ごめん」
「・・・許すわけない」
「うん。許さなくて良い。・・・でも、幸せになって」
「っ」


ライと一緒じゃないのになれると思ってるの?


そんな事は言えない。
抱きしめられた腕の中でガリウスの顔が浮かんだ。
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