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婚約編
そうか。その手があったか!
しおりを挟む婚約破棄の本当の理由はなんとなく察している。
それは、ライガー殿下が第一王子にも関わらず、王位継承がないことにも関係する。
ライガーは本来第二王子として産まれる予定だった。
それが第一王子となったのは、側室の子供であるルークよりも先に、無理やりライガーを出産したからである。
ライガーの母親である王妃が、何故そんな事をしたかと言うと、ただのつまらないプライドである。
ライガーの母親は伯爵家の令嬢で王妃。
ルークの産みの親は男爵家の令息で側室。
おまけにルークの親と陛下は恋仲でもあったことがつまらなかったらしい。
王妃はなんとしても自分の子供を、王にさせたいがために、胎児が大きくなる非合法の薬を服用し、そして出産日よりも3ヶ月も早く子供を産み出すという、そんな危険な行動に出たのである。
しかし、それを激怒したのが陛下である。
ルークを王太子にしたかったと言うわけではなく、自分の子供であるライガーに生死をさまような、そんな仕打ちをした王妃を許さなかったのだ。
王族の殺人未遂として、裏で動いていたはずの伯爵家の取り潰しまでしようとしていた。
だが、伯爵家側は王妃が勝手にした行動であり、事実無根だと訴えた。
それどころか、王妃が離宮から出られないほどの病になったとしても、王家を責めたりなどはしないなど、暗に殺しても構わないと、そう言ってきたそうだ。
自分の娘をいとも簡単に切り捨てられるその行動。その娘も我が子を死の瀬戸際にまで追いやれる性根に、陛下は酷く嫌悪をした。
王妃が第一王子を出産したことは広く渡り知られたが、同時に通常よりも小さく弱いため王位が無いことは瞬く間に知れ渡った。
それから、何度も生死を彷徨いながらも無事に5歳を迎えた年に、
王妃は産後の肥立ちが悪く、実は出産後亡くなっていたことをそれとなく国民に知らされた。
この真実はライガーにもルークにも知らされている。
こんな王家の秘密事項をシャリオンが知っているのは、宰相をしている父からライガーと婚約を期に教えられたのである。
その話を聞いた時、王妃に怒りと無事に成長してくれたライガーに感謝した。
シャリオンはライガーに王位継承権があろうともなくともどちらでも良かった。
貴族とはいえ、ライガー自身を好いていたからである。
同様にライガーもシャリオンを好ましいと思ってくれているように感じていたのだが。
可笑しくなったのは王妃の生家であるファングス伯爵家の者から接触があった頃だ。
婚約者であるシャリオンは隣にいて、それは直ぐにわかった。
ライガーの低く冷たい声も初めてだった。
ちょっと癖の強い貴族にはあっても見事にあしらうのに、一見普通の上位貴族にあんな態度をとったのは驚いた。
話をきいていたから、距離を取るのはわかるにしても、それ以上のものが見えた気がした。
おそらく、シャリオンがまだ知らない何かがあるのだろう。
でも、ライガー殿下は口を閉ざし、シャリオンに打ち明けてくれることはなかった。
⬛︎
今思い返してもライガー殿下のことを考えると胸が痛い。
シャリオンが目を伏せていると、ゾルは直ぐに話をかえた。
「昔のことはもう仕方ないな。
そんなことより今はシャリオンが宰相になりたいかどうかだ」
そんなこと気軽に言えるはずもなく眉を潜める。
しかし、乳母兄は続ける。
「ここにはお前と俺しかいないんだ。
それに旦那様に告げ口なんてしない。
というか、そういう思いがあるなら自分で言えるだろ?子供じゃないんから」
「・・・」
「まぁ、手助けはしてやるけどな」
そう言いながらまたわしゃわしゃと撫でられた。
「っ・・・もうすぐ休むからいいけどさぁ。髪ぐしゃくじゃになる!・・・もう。僕は子供じゃないんだよ?」
「わかってる」
優しげな懐かしいその笑みにホッとする。だから、弱音もするりと出てきた。
「・・・。・・・なりたくなんかないよ、宰相なんて」
「うん」
「・・・僕には向かないなんて、昔からわかってた」
自分が宰相候補になるまえか、
ガリウスは父の元にいた。
そして、それも見ていたのだ。
父上が時折出す国のための冷酷な判断も、彼はできていたが、シャリオンにはそれが思いつかない。
父上が言うから出来るが、それで宰相は務まらない。
「お前は優しいからなぁ」
「ぅっ・・・それは、ガリウスにも言われた・・・。
彼は『向かない』とは最後まで言わなかったけど」
そう言いながら苦笑を浮かべた。
自分の方が秀でているのにそれをおごらない。出来た人物だ。
・・・ちょっと視線は苦手だけども、それでもいい人だ。
「そう。そのガリウスだ」
「ん?」
「ちょうど良いじゃないか」
「なにが?」
「宰相に」
「え?」
ゾルにピッと指を指して言われ、何を言ってるんだ?と、首を傾げてしまったのだが、すぐに思い返すことになる。
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