婚約破棄され売れ残りなのに、粘着質次期宰相につかまりました。

みゆきんぐぅ

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婚約編

たまには里帰り。-

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もう1人の父、産みのやであるシャーリーが治める領地は、王都から馬で半日の距離だ。
そんな領地にシャーリーのお願いで戻ってきていた。
彼は領主として領地運営を対応しているがおっとりした性格で、あまり領主業は向いていない。
要領良く領地を見るような性質ではなく、時折シャリオンがこうして手伝っている。
次期宰相とはいわれているが、こんな風に時折抜けて領地で仕事が出来るのはらガリウスを含め側近が複数人いるから。そんな彼等は父の手となり足となり城だけでなく時に外に出たりもする。

「・・・はぁ」

ふと浮かんだ考えたくもないマイナス思考。
比べても仕方がないことだが、見せつけられる才能の差は頑張りだけでは埋められない。
そうは思うと、ため息が溢れる。

「ごめん、シャリオン」
「!」
「・・・私がもっとこう言った事が得意であれば良いのだけど」

しょぼんとさせるシャーリーにシャリオンはハッとしたように顔をあげた。

「違います。今のは・・・。父様のせいではありませんよ」

元より、シャーリーは侯爵家の次男として大切に育てられてきたいわば箱入りである。
本来は父上であるレオンがなすべきところを、宰相というポジションのため、家のことはシャーリーが執り行っているのだ。
勿論シャーリーだけでは回らず、執事にも手伝って貰っているのだが。
気にさせてしまったことに後悔し、フォローをしようと思っていると余計なことを言ってしまった。

「それに、僕にも存在意味ができる」

そう言いながら、ハッとした。
なんて弱気で逃げ腰なのだろう。
自分で自分が嫌になる。

「忘れてください」
「シャリオン・・・」

シャーリーの翡翠の瞳が揺れると、シャリオン慰めるようにふわりと頭を撫でた。
もう大人になっているのだから、恥ずかしいことではあるのだが、シャーリーの撫でる手は幼い頃から大好きだ。

「・・・父様。僕はもう子供ではないのですよ」
「シャリオンは永遠に私の可愛い子供だよ」

そう言って優し気に微笑むシャーリー。
何があったと聞かれなくてもそれだけでも心が解かされるようだ。
きっとレオンはこういう所も好きなのだろうなと、ふと思った。


婚約破棄をされ次期宰相のポストを与えられて父上の期待に我武者羅に頑張ってきた。

自分の才能のなさが時折ひどく嫌になる。
自分が宰相になれるのは父のおかげだから。
自分自身の能力じゃない。

そんな風にネガティブな思考に陥るシャリオンを、シャーリーはずっと撫でてくれていた。


⬛︎


その夜。
領地の城にある執務室にノックが響いた。
返事をして入ってきたのは執事だった。
内容は最近王都への道が新たに開発されたため、税収が下がり始めており、その対策を色々模索しているようなのだが上手く進んでいないらしく、シャーリーに相談に来るように言われたらしかった。

父様の気遣いだな

昼間、あんなところを見せたからだ。
シャリオンは自分を叱咤しつつ書類に目を通す。

「シャリオン様」

この執事は、シャリオンの乳母兄弟で「ゾルにぃ」と幼い頃から慕っている男だ。
流石に最近はそんな風には呼ばせてくれないが。

この兄は怪我を治すのも早くて、血を流すような怪我しても次の日に治っていることが多いすごい兄である。
そんな出来事とともに、ライガーとルークを思い出してしまった。

「ゾルには迷惑をかけるな」
「そのようなことはございません」
「いや。こんなこと、執事がする仕事ではないだろう。・・・父上レオン父様シャーリーもいつもこのようなことを?
それとも、・・・今日は特別、か?」

そう言って執事の目を見れば読めない表情だった。執事として完璧だがわかりにくい。
すると、途端に口調が変わる。

「ふっ。・・・本当に落ち込んでるらしいな」

そう言ってわしゃわしゃと頭を撫でられる。
態度を崩してくるなんて本当に珍しくて、驚いてそちらを見ると苦笑した。

「変な事を気にするな。
もともとシャーリー様がお一人でこなせないのがわかっていて、旦那様は俺をサポートとしてここに置いているんだ。
だが、そんな俺にだって分からないことはある。・・・そんな俺が質問したら職務怠慢か?」

ゾルの言葉にふるふると首を振った。
彼は本当に良くやってくれている。
そんな彼にそんなこと思うわけがない。

「僕は・・・僕にはきっとできない」

そんな事ないよ

なんて、言って欲しいわけじゃなくて、口早に続けた。

「・・・はぁ。ダメだな。こんなこと考えるようじゃ。ゾルは・・・仕事で失敗してもうこの仕事向いてないって思ったことはあるか?」
「そんなの。1ヶ月に1回は思ってる」
「え。・・・そんなに?」
「あぁ」

そう言いながらニヤリと笑う執事に、・・・ゾルにつられて噴き出した。

「けど、ここはお前が帰ってくる場所だからな。だから、逃げないだけだ」
「・・・ゾル」

昔から、ゾルはこうしてシャリオンを守ってくれる。
大きくなるにつれて線を引かれたが、それは今でも変わらない。

「・・・。婚約破棄がされて、次期宰相へと教育が決まった。・・・だが、お前は宰相になりたかったのか?」

その決断はレオンの独断だった。
だが、それはシャリオンを思ってのことだとわかっている。
そもそも、シャリオンはライガーの大公家に入るつもりだった。
言わば、シャーリーと同じような立場になる予定だったのだ。

「・・・そんなこと言ってられない」
「はぁ・・・殿下にも困ったものだ」
「アレ(婚約破棄)以外はちゃんとしたお人だよ」
「そんな人間がことごとくお前の婚約をぶち壊すか?その割に、社交界ではお前が心配だと言い回ってるそうじゃないか。本当にあの人は何をしたいんだか」
「僕にも殿下の思惑はわからないけど。
でも、本当に心配してくれてるみたい。
今回は隣国と違法のクスリを輸入しようとしている疑惑があるらしいよ」
「?!・・・王家の情報じゃほぼ確定か・・・?」
「・・・うん。でも、父上でも調べられなかったのに、良く見つけてくるよ」
「・・・」

そういうとゾルは黙り込んだ。
何かを考えているらしい。

「どうかした?」
「いや・・・なんでもない。
だが、それなら婚約破棄なんてしてくれなければ良かったのにな」
「・・・」

今度はシャリオンが黙る番だった。
いい加減、シャリオンもライガー殿下の婚約破棄の理由が真実の愛とやらじゃないのはわかっていた。
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