49 / 56
本文
翻弄される。
しおりを挟む
心地よい朝。
そう感じるのは側にルボミールがいるからと言うのは間違い無いだろう。
見上げると目を閉じたままのルボミールは、まだ夢の中の様だ。
触れたいけれど、目を覚ましてしまうかもしれない。
そう思うと温かい気持ちでただ見つめてしまう。
なんだかもうあのガーネットを見たくなってしまった頃に、スッと目が開かれた。
寝起きで少し寝てる声で名前を呼ばれる。
「キョウ・・・起きたのか」
「うん」
まだ眠いようで小さく欠伸をするルボミールは、なんだか幼く見える。
「まだ寝てていいぞ?」
眠そうなルボミールの頭をふわりと撫でると、腕が伸びてきて京の顔を引き寄せられると、ちゅっとリップ音を立てながら額に口づけられる。
こんなことをナチュラルにされるが毎回照れてしまう。
一気に赤く染まる頬に京にクスリと笑みを浮かべた。
「っ」
「いや。時間的にはちょうどいい。・・・なにをしていたんだ?」
すっかり目を覚ましていた京に不思議に思ったらしい。
ずっと寝顔を見ていたというのは恥ずかしくて、視線を逸らした。
「何も、・・・ルルが起きるちょっと前に起きたから・・・」
「本当に?」
「・・・本当だ」
「それはすごいな」
「?・・・どういういみだ・・・?」
「俺なら少しでもキョウに触れないなんて無理だな」
「!」
嘘をつく必要はなかったかもしれない。
「そういう事なら・・・。・・・ルルのこと見てただけだ」
「俺の事・・・?」
「なんだか、寝てるとちょっと幼くなって可愛いいって思って」
そう言うとピタリと止まると、驚いたようにこちらを見てきてた後、可笑しそうに喉で笑った。
「俺の事を可愛いなどと言うのはキョウだけだ」
「まぁ確かに普段のルルはそう感じないけど」
それから少し話をして、寝そべって2人でこうしている時間に幸せに感じるが、このままでは寝てしまいそうで起きることにした。
それから、ラージャから同行してきていた使用人が数人入ってくる。
本当なら今日もハカセの調査にい割り当てる予定だったが、なくなったため今日はスーツではなくラージャの衣装を着ることになった。
最初聞いたときはタイミングが合えばと言っていたはずなのに、出発日を含めた7日分と晩餐用の服を2点持ってきていたらしい。
京もスーツを7日分は用意しているが、今回新調した衣服もあると聞いてなんだか悪く思ってしまった。
だから今日はラージャの服を着ることになったのだが、ルボミールの着ている服とも少し違い1人でうまく着こなすのは難しく、まだ手伝いが必要で服を着るのに手伝ってもらう。
家でも服を選ぶ者はいたが、・・・こんな風に一から着せてもらうのは緊張してしまう。
それを気遣ってか、ルボミールは出入り口付近で見てくれている。
忙しいのに申し訳ないと思って、そう言えば部屋のすぐ外で待機していたダンに『それは違いますよ』と言われた。
どういう事か聞こうとしたのだが、それ以上は答えてくれなかった。
訝し気にそちらを見たのと同時に、如月の姿を見て思考が完全にシフトする。
その如月もラージャな服を着ていたからだ。
いつも、不安気なところはないが、驚いた京に少し勘違いしたのか眉を動かしたので、『似合っている』と伝えるとホッとしたようにさせながら、『京様ほどではありません』と返してきた。
朝食を取り終え一休みをしているところに、姫・・・エスメラルダが現れた。
それだけで京の緊張が高まるが、その隣の男も気になってしまう。
すると、エスメラルダが昨日の様に京の元で跪いた。それは彼女だけでなく隣の男も同じようにする。
「!?」
京の元でやるが、もしかしたらルボミールにやっているのかもしれないと思うと、『止めてくれ』とは迂闊には言えなかった。
しかし、彼女たちはこちらに視線を向けて謝罪を口にする。
「「申し訳ございません」」
「どうか頭を上げてください。それに・・・謝罪は昨日受け入れましたが?」
「お詫びさせていたいたのは、先日の失礼な態度にございます。
本日は『運命の番』でいらっしゃる貴方様の前で、不安をあおる様に婚約を申しこんでしまったことを謝罪しにまいりました。
断れない理由があったとしても、シノノメ様を不安にさせてしまったのは変わりありません。
本当に申し訳ございませんでした」
「そのことも昨日終わったと思っています。
・・・それに、もし貴女が妃になったとしても、私は側室にでもなっていましたよ」
そんなのは嫌だが、あくまでも引かなかったという姿勢を見せると、京の心情を拾ってくれたのか彼女は苦笑を浮かべて『申し訳ありません』と、もう一度謝る。
「失礼ですが、私はラージャの王妃にはなりたくありませんわ。
私にも『運命』には及びませんが大切な者がおりますの」
「・・・その方かな?」
そういって隣を見ると、彼は挨拶をしてくれた。
この国の貴族でエスメラルダとは幼馴染らしい。
ルボミール曰く、エスメラルダからは彼女を包むように彼のフェロモンが漂ってきているらしく、すぐに分かったらしくそれが夜会に出ようと思った理由の一つだったらしい。
何故あんな馬鹿なことを仕掛けたのか調べるのにはちょうど良かったそうだ。
ルボミールは攻撃的なフェロモンを送ってきていた男、・・・それもエスメラルダも含めてαでありかなり警戒していたようだが、京は全く気付いておらず談笑をする。
彼女達は歳が近いこともあり、アステリア帝国に来た時はルボミールと顔を合わせていたそうで、その時の話を教えてくれた。
第一皇太子とはそれなりに話すのだが、いずれ嫁ぐ自分には本当に表面だけの男だったと聞き少し驚いてしまった。
少なくとも京はルボミールは面倒見の強い男だからだ。
「ルルは普通はそうなのか・・・?」
「キョウにはそんなことないぞ?」
「・・・でもそれって『運命の番』だからなような気がするんだけど。・・・解けたらそのギャップが怖すぎる」
京としてはその時が怖いから、少し抑えて欲しいという気持ちで言ったつもりだった。
しかし、ルボミールとエスメラルダは黙りこんだ。
それを打ち破ったのはエスメラルダの婚約者だ。
「『異世界』の方だからそういう発想になるのかもしれませんね」
「どういうことですか?」
「想いが醒めるなら『運命』とはいわないですから」
「・・・、」
「とはいえ、私達もそれほど知識は深くありません。
・・・実は本日、三賢者様方のうちのお1人がお2人に会いたいとおしゃっているのです。
それは殆ど決定事項なことになるのですが・・・」
そういうエスメラルダにコクリと頷いた。
啓示があったと言っていたし、モイス自身も守護すると言っていた。
道中に『運命の番』をあざ笑うような態度に、欲しい答えが聞けるきがしないが、
・・・少しは真意を聞けるだろうか。
ちらりとルボミールの方を見れば、眉を顰めていたが小さくため息をついた。
もしかしたら、ルボミールは少なくともモイスが考えていることが読めることを知らないのかもしれない。
「勿論だ。・・・良いよな?ルル」
「・・・、・・・、・・・あぁ」
渋々と言った感じで答えるルボミールに苦笑をするのだった。
☆☆☆
賢者を待たせるわけもなく、京達はエスメラルダに連れられて応接の間へ案内される。
そしてしばらくして現れた人物に驚き固まった。
着ている人物が想像とは全く別の人物だったからだ。
「こんにちわ」
金糸を纏い美しいエメレラルドを持つ人が立っていた。
にこやかに、微笑むその人は年齢も性別も・・・バースすらわからない。
ただ、美しい人だった。
「シリル様」
「唐突にお願いしてしまったけれど、・・・あ。その前に結界を張らせてもらいますね」
そう言うと、昨日のあらぶった様子はなく、シリルが結界を張る。
京にはそれがどれほどのものかわからないが、ルボミールはそれを凝視した。
「お2人の都合は大丈夫だった?」
「はい。もともと本日は仲間を探すために充てていたので」
「仲間?」
「ハカセ。・・・・葉加瀬 潤という男です」
「ハカセ・・・、・・・。・・・もしかして研究所の地下に居た人かしら」
「はい」
そう返事をする、合点が言ったのかコクリと言った。
「あの者を探していたのね」
「はい。・・・彼はトシマ区にとっては必要な人間なんです」
「・・・そう」
そういうと彼は視線を伏せてしまう。
それが何かのフラグの様に見えてなんだか怖くなってしまう。
「あの・・・」
「キョウ・・・と、お呼びしても?」
「はい」
「・・・キョウの望みを聞かせてもらえない?」
「私のですか?」
まさか三賢者のうちの一人が来訪して、そんなことを聞かれるとは思っていなかったから、少し驚いたような反応になってしまう。
だが京の願いは心が変わってから変わらない。
「トシマ区の帰りたいと戻りたいというものを確実な方法で還したいです」
ルボミールを知らなかった頃は、一緒に渡ってきたトシマ区の皆で帰ることを思っていた。
それからしばらくして唯一の方法であるルミールの谷にある鏡だが、可能性の不透明さに試す価値を見出せないでいる。
今ふと思ったがモイスの方法で渡したとして、安否を確認することは出来るのだろうか。
「そう。・・・、・・・『方法』はある。けど、・・・あまりお勧めしない。貴方の為にも」
「・・・え?」
「魔法は等価交換なのです。使えば魔力を失う。
ですが島一つ分を使うとなると、それは・・・モイスの魔力だけでは賄いきれないものです。・・・、」
そう言ってシリルは目を伏せた。
聞きながらそれは納得できた。だが理解できないものもあった。
「物事には魔法を使うには必ず魔力が発生します。
島ごと返したいなら、同じように贄が必要です」
「!」
「贄と言っても様々です。
この世界の物質、すべてに魔力は備わっているので、・・・そう、人の魔力はもちろん命で賄えることもできます」
「っ!」
「人間だけではなく動物もその対象に当たりますが、自然なものにも魔力がありますので、同じサイズの『島』を贄に、あなた方を元の世界に戻すことは出来ます」
「なる、ほど・・・、」
「それは呼び出すのも同様ですが・・・。
送還の問題はそれだけではありません。
異世界と言うと時空のねじれと言うのも生じます」
シリルは聞きやすく説明してくれてるのだと思う。
しかし、京には自身で魔力を扱えないため、それを完全に理解するのは難しかった。
「そのねじれは貴方達がいらした世界に戻すことは可能ですが、年代が別な可能性が高い」
「・・・もとの時間に戻れるわけじゃないのか」
「還すならこの世界の何かを犠牲にしなくてはなりません」
それは考えていなかった。
京の中では『還れる=来る前の時間』だったからだ。
そうなると地球に帰ればいい話ではない。
「貴方がたが来た理由は、時空までをも指定したわけではなく・・・偶然なものです」
「え?」
「なにも、魔法陣や術式に記したものがすべてではなく、偶然そうなってしまうことがあるのです。
・・・例えば先ほど言ったように魔力が大量に発生すると、それを糧にし実行者の願いとは別に時空が他の世界とつながることがあります」
「・・・」
「また、貴方達の世界には他世界にアクセスする方法が定まっていません。
なので、こちらの世界に貴方がたを島ごと移動させたのは、この世界の人物であるのは間違いないでしょう」
そこまで言われて京は困惑する。
島ごと還るにはその分だけの力が必要であること。
その為に、他生命を脅かすのは気が引けた。
「・・・つまり、・・・還せないのか」
京の落胆が声ににじむと、シリルは首を横に振る。
「人数が少なければ正確にその時間に返すことが出来るでしょう。
この世界の代表とし責任を払い受け持っても100人くらいが限度です。我ら賢者の力をもってすれば」
「!!!」
その言葉で衝動的に依頼をしようと思ったが、その分の犠牲が彼等の魔力だけではないきがして詳しく聞くのが怖くなるのだった。
そう感じるのは側にルボミールがいるからと言うのは間違い無いだろう。
見上げると目を閉じたままのルボミールは、まだ夢の中の様だ。
触れたいけれど、目を覚ましてしまうかもしれない。
そう思うと温かい気持ちでただ見つめてしまう。
なんだかもうあのガーネットを見たくなってしまった頃に、スッと目が開かれた。
寝起きで少し寝てる声で名前を呼ばれる。
「キョウ・・・起きたのか」
「うん」
まだ眠いようで小さく欠伸をするルボミールは、なんだか幼く見える。
「まだ寝てていいぞ?」
眠そうなルボミールの頭をふわりと撫でると、腕が伸びてきて京の顔を引き寄せられると、ちゅっとリップ音を立てながら額に口づけられる。
こんなことをナチュラルにされるが毎回照れてしまう。
一気に赤く染まる頬に京にクスリと笑みを浮かべた。
「っ」
「いや。時間的にはちょうどいい。・・・なにをしていたんだ?」
すっかり目を覚ましていた京に不思議に思ったらしい。
ずっと寝顔を見ていたというのは恥ずかしくて、視線を逸らした。
「何も、・・・ルルが起きるちょっと前に起きたから・・・」
「本当に?」
「・・・本当だ」
「それはすごいな」
「?・・・どういういみだ・・・?」
「俺なら少しでもキョウに触れないなんて無理だな」
「!」
嘘をつく必要はなかったかもしれない。
「そういう事なら・・・。・・・ルルのこと見てただけだ」
「俺の事・・・?」
「なんだか、寝てるとちょっと幼くなって可愛いいって思って」
そう言うとピタリと止まると、驚いたようにこちらを見てきてた後、可笑しそうに喉で笑った。
「俺の事を可愛いなどと言うのはキョウだけだ」
「まぁ確かに普段のルルはそう感じないけど」
それから少し話をして、寝そべって2人でこうしている時間に幸せに感じるが、このままでは寝てしまいそうで起きることにした。
それから、ラージャから同行してきていた使用人が数人入ってくる。
本当なら今日もハカセの調査にい割り当てる予定だったが、なくなったため今日はスーツではなくラージャの衣装を着ることになった。
最初聞いたときはタイミングが合えばと言っていたはずなのに、出発日を含めた7日分と晩餐用の服を2点持ってきていたらしい。
京もスーツを7日分は用意しているが、今回新調した衣服もあると聞いてなんだか悪く思ってしまった。
だから今日はラージャの服を着ることになったのだが、ルボミールの着ている服とも少し違い1人でうまく着こなすのは難しく、まだ手伝いが必要で服を着るのに手伝ってもらう。
家でも服を選ぶ者はいたが、・・・こんな風に一から着せてもらうのは緊張してしまう。
それを気遣ってか、ルボミールは出入り口付近で見てくれている。
忙しいのに申し訳ないと思って、そう言えば部屋のすぐ外で待機していたダンに『それは違いますよ』と言われた。
どういう事か聞こうとしたのだが、それ以上は答えてくれなかった。
訝し気にそちらを見たのと同時に、如月の姿を見て思考が完全にシフトする。
その如月もラージャな服を着ていたからだ。
いつも、不安気なところはないが、驚いた京に少し勘違いしたのか眉を動かしたので、『似合っている』と伝えるとホッとしたようにさせながら、『京様ほどではありません』と返してきた。
朝食を取り終え一休みをしているところに、姫・・・エスメラルダが現れた。
それだけで京の緊張が高まるが、その隣の男も気になってしまう。
すると、エスメラルダが昨日の様に京の元で跪いた。それは彼女だけでなく隣の男も同じようにする。
「!?」
京の元でやるが、もしかしたらルボミールにやっているのかもしれないと思うと、『止めてくれ』とは迂闊には言えなかった。
しかし、彼女たちはこちらに視線を向けて謝罪を口にする。
「「申し訳ございません」」
「どうか頭を上げてください。それに・・・謝罪は昨日受け入れましたが?」
「お詫びさせていたいたのは、先日の失礼な態度にございます。
本日は『運命の番』でいらっしゃる貴方様の前で、不安をあおる様に婚約を申しこんでしまったことを謝罪しにまいりました。
断れない理由があったとしても、シノノメ様を不安にさせてしまったのは変わりありません。
本当に申し訳ございませんでした」
「そのことも昨日終わったと思っています。
・・・それに、もし貴女が妃になったとしても、私は側室にでもなっていましたよ」
そんなのは嫌だが、あくまでも引かなかったという姿勢を見せると、京の心情を拾ってくれたのか彼女は苦笑を浮かべて『申し訳ありません』と、もう一度謝る。
「失礼ですが、私はラージャの王妃にはなりたくありませんわ。
私にも『運命』には及びませんが大切な者がおりますの」
「・・・その方かな?」
そういって隣を見ると、彼は挨拶をしてくれた。
この国の貴族でエスメラルダとは幼馴染らしい。
ルボミール曰く、エスメラルダからは彼女を包むように彼のフェロモンが漂ってきているらしく、すぐに分かったらしくそれが夜会に出ようと思った理由の一つだったらしい。
何故あんな馬鹿なことを仕掛けたのか調べるのにはちょうど良かったそうだ。
ルボミールは攻撃的なフェロモンを送ってきていた男、・・・それもエスメラルダも含めてαでありかなり警戒していたようだが、京は全く気付いておらず談笑をする。
彼女達は歳が近いこともあり、アステリア帝国に来た時はルボミールと顔を合わせていたそうで、その時の話を教えてくれた。
第一皇太子とはそれなりに話すのだが、いずれ嫁ぐ自分には本当に表面だけの男だったと聞き少し驚いてしまった。
少なくとも京はルボミールは面倒見の強い男だからだ。
「ルルは普通はそうなのか・・・?」
「キョウにはそんなことないぞ?」
「・・・でもそれって『運命の番』だからなような気がするんだけど。・・・解けたらそのギャップが怖すぎる」
京としてはその時が怖いから、少し抑えて欲しいという気持ちで言ったつもりだった。
しかし、ルボミールとエスメラルダは黙りこんだ。
それを打ち破ったのはエスメラルダの婚約者だ。
「『異世界』の方だからそういう発想になるのかもしれませんね」
「どういうことですか?」
「想いが醒めるなら『運命』とはいわないですから」
「・・・、」
「とはいえ、私達もそれほど知識は深くありません。
・・・実は本日、三賢者様方のうちのお1人がお2人に会いたいとおしゃっているのです。
それは殆ど決定事項なことになるのですが・・・」
そういうエスメラルダにコクリと頷いた。
啓示があったと言っていたし、モイス自身も守護すると言っていた。
道中に『運命の番』をあざ笑うような態度に、欲しい答えが聞けるきがしないが、
・・・少しは真意を聞けるだろうか。
ちらりとルボミールの方を見れば、眉を顰めていたが小さくため息をついた。
もしかしたら、ルボミールは少なくともモイスが考えていることが読めることを知らないのかもしれない。
「勿論だ。・・・良いよな?ルル」
「・・・、・・・、・・・あぁ」
渋々と言った感じで答えるルボミールに苦笑をするのだった。
☆☆☆
賢者を待たせるわけもなく、京達はエスメラルダに連れられて応接の間へ案内される。
そしてしばらくして現れた人物に驚き固まった。
着ている人物が想像とは全く別の人物だったからだ。
「こんにちわ」
金糸を纏い美しいエメレラルドを持つ人が立っていた。
にこやかに、微笑むその人は年齢も性別も・・・バースすらわからない。
ただ、美しい人だった。
「シリル様」
「唐突にお願いしてしまったけれど、・・・あ。その前に結界を張らせてもらいますね」
そう言うと、昨日のあらぶった様子はなく、シリルが結界を張る。
京にはそれがどれほどのものかわからないが、ルボミールはそれを凝視した。
「お2人の都合は大丈夫だった?」
「はい。もともと本日は仲間を探すために充てていたので」
「仲間?」
「ハカセ。・・・・葉加瀬 潤という男です」
「ハカセ・・・、・・・。・・・もしかして研究所の地下に居た人かしら」
「はい」
そう返事をする、合点が言ったのかコクリと言った。
「あの者を探していたのね」
「はい。・・・彼はトシマ区にとっては必要な人間なんです」
「・・・そう」
そういうと彼は視線を伏せてしまう。
それが何かのフラグの様に見えてなんだか怖くなってしまう。
「あの・・・」
「キョウ・・・と、お呼びしても?」
「はい」
「・・・キョウの望みを聞かせてもらえない?」
「私のですか?」
まさか三賢者のうちの一人が来訪して、そんなことを聞かれるとは思っていなかったから、少し驚いたような反応になってしまう。
だが京の願いは心が変わってから変わらない。
「トシマ区の帰りたいと戻りたいというものを確実な方法で還したいです」
ルボミールを知らなかった頃は、一緒に渡ってきたトシマ区の皆で帰ることを思っていた。
それからしばらくして唯一の方法であるルミールの谷にある鏡だが、可能性の不透明さに試す価値を見出せないでいる。
今ふと思ったがモイスの方法で渡したとして、安否を確認することは出来るのだろうか。
「そう。・・・、・・・『方法』はある。けど、・・・あまりお勧めしない。貴方の為にも」
「・・・え?」
「魔法は等価交換なのです。使えば魔力を失う。
ですが島一つ分を使うとなると、それは・・・モイスの魔力だけでは賄いきれないものです。・・・、」
そう言ってシリルは目を伏せた。
聞きながらそれは納得できた。だが理解できないものもあった。
「物事には魔法を使うには必ず魔力が発生します。
島ごと返したいなら、同じように贄が必要です」
「!」
「贄と言っても様々です。
この世界の物質、すべてに魔力は備わっているので、・・・そう、人の魔力はもちろん命で賄えることもできます」
「っ!」
「人間だけではなく動物もその対象に当たりますが、自然なものにも魔力がありますので、同じサイズの『島』を贄に、あなた方を元の世界に戻すことは出来ます」
「なる、ほど・・・、」
「それは呼び出すのも同様ですが・・・。
送還の問題はそれだけではありません。
異世界と言うと時空のねじれと言うのも生じます」
シリルは聞きやすく説明してくれてるのだと思う。
しかし、京には自身で魔力を扱えないため、それを完全に理解するのは難しかった。
「そのねじれは貴方達がいらした世界に戻すことは可能ですが、年代が別な可能性が高い」
「・・・もとの時間に戻れるわけじゃないのか」
「還すならこの世界の何かを犠牲にしなくてはなりません」
それは考えていなかった。
京の中では『還れる=来る前の時間』だったからだ。
そうなると地球に帰ればいい話ではない。
「貴方がたが来た理由は、時空までをも指定したわけではなく・・・偶然なものです」
「え?」
「なにも、魔法陣や術式に記したものがすべてではなく、偶然そうなってしまうことがあるのです。
・・・例えば先ほど言ったように魔力が大量に発生すると、それを糧にし実行者の願いとは別に時空が他の世界とつながることがあります」
「・・・」
「また、貴方達の世界には他世界にアクセスする方法が定まっていません。
なので、こちらの世界に貴方がたを島ごと移動させたのは、この世界の人物であるのは間違いないでしょう」
そこまで言われて京は困惑する。
島ごと還るにはその分だけの力が必要であること。
その為に、他生命を脅かすのは気が引けた。
「・・・つまり、・・・還せないのか」
京の落胆が声ににじむと、シリルは首を横に振る。
「人数が少なければ正確にその時間に返すことが出来るでしょう。
この世界の代表とし責任を払い受け持っても100人くらいが限度です。我ら賢者の力をもってすれば」
「!!!」
その言葉で衝動的に依頼をしようと思ったが、その分の犠牲が彼等の魔力だけではないきがして詳しく聞くのが怖くなるのだった。
0
お気に入りに追加
188
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
傾国の美青年
春山ひろ
BL
僕は、ガブリエル・ローミオ二世・グランフォルド、グランフォルド公爵の嫡男7歳です。オメガの母(元王子)とアルファで公爵の父との政略結婚で生まれました。周りは「運命の番」ではないからと、美貌の父上に姦しくオメガの令嬢令息がうるさいです。僕は両親が大好きなので守って見せます!なんちゃって中世風の異世界です。設定はゆるふわ、本文中にオメガバースの説明はありません。明るい母と美貌だけど感情表現が劣化した父を持つ息子の健気な奮闘記?です。他のサイトにも掲載しています。
【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】
NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生
SNSを開設すれば即10万人フォロワー。
町を歩けばスカウトの嵐。
超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。
そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。
愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
ヒヨコの刷り込みなんて言わないで。魅了の俺と不器用なおっさん【完結】
tamura-k
BL
気づいたら知らない森の中に居た緑川颯太(みどりかわそうた)は、通りかかった30代前半のイケオジ冒険者のダグラスに運よく拾ってもらった。
何もわからない颯太に、ダグラスは一緒に町に行くことを提案した。
小遣い稼ぎに薬草を摘みながら町を目指して歩いていたが、どうやら颯太にはとんでもないスキルがあるらしいと判明。
ええ?魅了??なにそれ、俺、どうしたらいいんだよ?
一回りも違う気の良いイケオジ・ダグラスと年下・ツンデレなりそこない系のソウタ。
それはヒヨコの刷り込みと同じってバカにすんな!
俺の幸せは俺が決めるもんだろう?
年の差がお好きな方へ。
※はRぽい描写あり
************
本編完結し、番外編も一応完結。
ソウタとダグラスの物語にお付き合いいただきありがとうございました。
好きな話なのでまた何か思いついたら書くかもwww
嫌われ者の僕はひっそりと暮らしたい
りまり
BL
僕のいる世界は男性でも妊娠することのできる世界で、僕の婚約者は公爵家の嫡男です。
この世界は魔法の使えるファンタジーのようなところでもちろん魔物もいれば妖精や精霊もいるんだ。
僕の婚約者はそれはそれは見目麗しい青年、それだけじゃなくすごく頭も良いし剣術に魔法になんでもそつなくこなせる凄い人でだからと言って平民を見下すことなくわからないところは教えてあげられる優しさを持っている。
本当に僕にはもったいない人なんだ。
どんなに努力しても成果が伴わない僕に呆れてしまったのか、最近は平民の中でも特に優秀な人と一緒にいる所を見るようになって、周りからもお似合いの夫婦だと言われるようになっていった。その一方で僕の評価はかなり厳しく彼が可哀そうだと言う声が聞こえてくるようにもなった。
彼から言われたわけでもないが、あの二人を見ていれば恋愛関係にあるのぐらいわかる。彼に迷惑をかけたくないので、卒業したら結婚する予定だったけど両親に今の状況を話て婚約を白紙にしてもらえるように頼んだ。
答えは聞かなくてもわかる婚約が解消され、僕は学校を卒業したら辺境伯にいる叔父の元に旅立つことになっている。
後少しだけあなたを……あなたの姿を目に焼き付けて辺境伯領に行きたい。
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる