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翻弄される。

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心地よい朝。
そう感じるのは側にルボミールがいるからと言うのは間違い無いだろう。
見上げると目を閉じたままのルボミールは、まだ夢の中の様だ。

触れたいけれど、目を覚ましてしまうかもしれない。
そう思うと温かい気持ちでただ見つめてしまう。

なんだかもうあのガーネットを見たくなってしまった頃に、スッと目が開かれた。
寝起きで少し寝てる声で名前を呼ばれる。

「キョウ・・・起きたのか」
「うん」

まだ眠いようで小さく欠伸をするルボミールは、なんだか幼く見える。

「まだ寝てていいぞ?」

眠そうなルボミールの頭をふわりと撫でると、腕が伸びてきて京の顔を引き寄せられると、ちゅっとリップ音を立てながら額に口づけられる。
こんなことをナチュラルにされるが毎回照れてしまう。
一気に赤く染まる頬に京にクスリと笑みを浮かべた。

「っ」
「いや。時間的にはちょうどいい。・・・なにをしていたんだ?」

すっかり目を覚ましていた京に不思議に思ったらしい。
ずっと寝顔を見ていたというのは恥ずかしくて、視線を逸らした。

「何も、・・・ルルが起きるちょっと前に起きたから・・・」
「本当に?」
「・・・本当だ」
「それはすごいな」
「?・・・どういういみだ・・・?」
「俺なら少しでもキョウに触れないなんて無理だな」
「!」

嘘をつく必要はなかったかもしれない。

「そういう事なら・・・。・・・ルルのこと見てただけだ」
「俺の事・・・?」
「なんだか、寝てるとちょっと幼くなって可愛いいって思って」
 
そう言うとピタリと止まると、驚いたようにこちらを見てきてた後、可笑しそうに喉で笑った。

「俺の事を可愛いなどと言うのはキョウだけだ」
「まぁ確かに普段のルルはそう感じないけど」

それから少し話をして、寝そべって2人でこうしている時間に幸せに感じるが、このままでは寝てしまいそうで起きることにした。


それから、ラージャから同行してきていた使用人が数人入ってくる。
本当なら今日もハカセの調査にい割り当てる予定だったが、なくなったため今日はスーツではなくラージャの衣装を着ることになった。
最初聞いたときはタイミングが合えばと言っていたはずなのに、出発日を含めた7日分と晩餐用の服を2点持ってきていたらしい。
京もスーツを7日分は用意しているが、今回新調した衣服もあると聞いてなんだか悪く思ってしまった。

だから今日はラージャの服を着ることになったのだが、ルボミールの着ている服とも少し違い1人でうまく着こなすのは難しく、まだ手伝いが必要で服を着るのに手伝ってもらう。

家でも服を選ぶ者はいたが、・・・こんな風に一から着せてもらうのは緊張してしまう。
それを気遣ってか、ルボミールは出入り口付近で見てくれている。
忙しいのに申し訳ないと思って、そう言えば部屋のすぐ外で待機していたダンに『それは違いますよ』と言われた。
どういう事か聞こうとしたのだが、それ以上は答えてくれなかった。
訝し気にそちらを見たのと同時に、如月の姿を見て思考が完全にシフトする。

その如月もラージャな服を着ていたからだ。
いつも、不安気なところはないが、驚いた京に少し勘違いしたのか眉を動かしたので、『似合っている』と伝えるとホッとしたようにさせながら、『京様ほどではありません』と返してきた。

朝食を取り終え一休みをしているところに、姫・・・エスメラルダが現れた。
それだけで京の緊張が高まるが、その隣の男も気になってしまう。
すると、エスメラルダが昨日の様に京の元で跪いた。それは彼女だけでなく隣の男も同じようにする。

「!?」

京の元でやるが、もしかしたらルボミールにやっているのかもしれないと思うと、『止めてくれ』とは迂闊には言えなかった。
しかし、彼女たちはこちらに視線を向けて謝罪を口にする。

「「申し訳ございません」」
「どうか頭を上げてください。それに・・・謝罪は昨日受け入れましたが?」
「お詫びさせていたいたのは、先日の失礼な態度にございます。
本日は『運命の番』でいらっしゃる貴方様の前で、不安をあおる様に婚約を申しこんでしまったことを謝罪しにまいりました。
があったとしても、シノノメ様を不安にさせてしまったのは変わりありません。
本当に申し訳ございませんでした」
「そのことも昨日終わったと思っています。
・・・それに、もし貴女が妃になったとしても、私は側室にでもなっていましたよ」

そんなのは嫌だが、あくまでも引かなかったという姿勢を見せると、京の心情を拾ってくれたのか彼女は苦笑を浮かべて『申し訳ありません』と、もう一度謝る。

「失礼ですが、私はラージャの王妃にはなりたくありませんわ。
私にも『運命』には及びませんが大切な者がおりますの」
「・・・その方かな?」

そういって隣を見ると、彼は挨拶をしてくれた。
この国の貴族でエスメラルダとは幼馴染らしい。
ルボミール曰く、エスメラルダからは彼女を包むように彼のフェロモンが漂ってきているらしく、すぐに分かったらしくそれが夜会に出ようと思った理由の一つだったらしい。
何故あんな馬鹿なことを仕掛けたのか調べるのにはちょうど良かったそうだ。
ルボミールは攻撃的なフェロモンを送ってきていた男、・・・それもエスメラルダも含めてαでありかなり警戒していたようだが、京は全く気付いておらず談笑をする。

彼女達は歳が近いこともあり、アステリア帝国に来た時はルボミールと顔を合わせていたそうで、その時の話を教えてくれた。
第一皇太子とはそれなりに話すのだが、いずれ嫁ぐ自分には本当に表面だけの男だったと聞き少し驚いてしまった。
少なくとも京はルボミールは面倒見の強い男だからだ。

「ルルは普通はそうなのか・・・?」
「キョウにはそんなことないぞ?」
「・・・でもそれって『運命の番』だからなような気がするんだけど。・・・解けたらそのギャップが怖すぎる」

京としてはその時が怖いから、少し抑えて欲しいという気持ちで言ったつもりだった。
しかし、ルボミールとエスメラルダは黙りこんだ。
それを打ち破ったのはエスメラルダの婚約者だ。

「『異世界』の方だからそういう発想になるのかもしれませんね」
「どういうことですか?」
「想いが醒めるなら『運命』とはいわないですから」
「・・・、」
「とはいえ、私達もそれほど知識は深くありません。
・・・実は本日、三賢者様方のうちのお1人がお2人に会いたいとおしゃっているのです。
それは殆ど決定事項なことになるのですが・・・」

そういうエスメラルダにコクリと頷いた。
啓示があったと言っていたし、モイス自身も守護すると言っていた。
道中に『運命の番』をあざ笑うような態度に、欲しい答えが聞けるきがしないが、
・・・少しは真意を聞けるだろうか。

ちらりとルボミールの方を見れば、眉を顰めていたが小さくため息をついた。
もしかしたら、ルボミールは少なくともモイスが考えていることが読めることを知らないのかもしれない。 

「勿論だ。・・・良いよな?ルル」
「・・・、・・・、・・・あぁ」

渋々と言った感じで答えるルボミールに苦笑をするのだった。


☆☆☆


賢者を待たせるわけもなく、京達はエスメラルダに連れられて応接の間へ案内される。
そしてしばらくして現れた人物に驚き固まった。
着ている人物が想像とは全く別の人物だったからだ。

「こんにちわ」

金糸を纏い美しいエメレラルドを持つ人が立っていた。
にこやかに、微笑むその人は年齢も性別も・・・バースすらわからない。
ただ、美しい人だった。

「シリル様」
「唐突にお願いしてしまったけれど、・・・あ。その前に結界を張らせてもらいますね」

そう言うと、昨日のあらぶった様子はなく、シリルが結界を張る。
京にはそれがどれほどのものかわからないが、ルボミールはそれを凝視した。

「お2人の都合は大丈夫だった?」
「はい。もともと本日は仲間を探すために充てていたので」
「仲間?」
「ハカセ。・・・・葉加瀬 潤という男です」
「ハカセ・・・、・・・。・・・もしかして研究所の地下に居た人かしら」
「はい」

そう返事をする、合点が言ったのかコクリと言った。

「あの者を探していたのね」
「はい。・・・彼はトシマ区にとっては必要な人間なんです」
「・・・そう」

そういうと彼は視線を伏せてしまう。
それが何かのフラグの様に見えてなんだか怖くなってしまう。

「あの・・・」
「キョウ・・・と、お呼びしても?」
「はい」
「・・・キョウの望みを聞かせてもらえない?」
「私のですか?」

まさか三賢者のうちの一人が来訪して、そんなことを聞かれるとは思っていなかったから、少し驚いたような反応になってしまう。
だが京の願いは心が変わってから変わらない。

「トシマ区の帰りたいと戻りたいというものをで還したいです」

ルボミールを知らなかった頃は、一緒に渡ってきたトシマ区の皆で帰ることを思っていた。
それからしばらくして唯一の方法であるルミールの谷にある鏡だが、可能性の不透明さに試す価値を見出せないでいる。
今ふと思ったがモイスの方法で渡したとして、安否を確認することは出来るのだろうか。

「そう。・・・、・・・『方法』はある。けど、・・・あまりお勧めしない。貴方の為にも」
「・・・え?」
「魔法は等価交換なのです。使えば魔力を失う。
ですが島一つ分を使うとなると、それは・・・モイスの魔力だけでは賄いきれないものです。・・・、」

そう言ってシリルは目を伏せた。
聞きながらそれは納得できた。だが理解できないものもあった。

「物事には魔法を使うには必ず魔力が発生します。
島ごと返したいなら、同じように贄が必要です」
「!」
「贄と言っても様々です。
この世界の物質、すべてに魔力は備わっているので、・・・そう、人の魔力はもちろん命で賄えることもできます」
「っ!」
「人間だけではなく動物もその対象に当たりますが、自然なものにも魔力がありますので、同じサイズの『島』を贄に、あなた方を元の世界に戻すことは出来ます」
「なる、ほど・・・、」
「それは呼び出すのも同様ですが・・・。
送還の問題はそれだけではありません。
異世界と言うと時空のねじれと言うのも生じます」

シリルは聞きやすく説明してくれてるのだと思う。
しかし、京には自身で魔力を扱えないため、それを完全に理解するのは難しかった。

「そのねじれは貴方達がいらした世界に戻すことは可能ですが、年代が別な可能性が高い」
「・・・もとの時間に戻れるわけじゃないのか」
「還すならこの世界の何かを犠牲にしなくてはなりません」

それは考えていなかった。
京の中では『還れる=来る前の時間』だったからだ。
そうなると地球に帰ればいい話ではない。

は、時空までをも指定したわけではなく・・・偶然なものです」
「え?」
「なにも、魔法陣や術式に記したものがすべてではなく、偶然そうなってしまうことがあるのです。
・・・例えば先ほど言ったように魔力が大量に発生すると、それを糧にし実行者の願いとは別に時空が他の世界とつながることがあります」
「・・・」
「また、貴方達の世界には他世界にアクセスする方法が定まっていません。
なので、こちらの世界に貴方がたを島ごと移動させたのは、この世界の人物であるのは間違いないでしょう」

そこまで言われて京は困惑する。
島ごと還るにはその分だけの力が必要であること。
その為に、他生命を脅かすのは気が引けた。

「・・・つまり、・・・還せないのか」

京の落胆が声ににじむと、シリルは首を横に振る。

「人数が少なければ正確にその時間に返すことが出来るでしょう。
この世界の代表とし責任を払い受け持っても100人くらいが限度です。我ら賢者の力をもってすれば」
「!!!」

その言葉で衝動的に依頼をしようと思ったが、その分の犠牲が彼等の魔力だけではないきがして詳しく聞くのが怖くなるのだった。
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