上 下
45 / 56
本文

ここで会うとは思ってなかった。

しおりを挟む
獰猛な獣の咆哮に一斉に臨戦態勢に入る。
自分達を守る様に護衛達の陣形が変わり、武器を構える。
如月も冷静に拳銃手に構えるのが見え緊張してきた。

薄暗い部屋の中を見回してみても、姿は見えない。
先ほどの部屋とは違い、大きな水槽もないのだが、音が反響しどこにいるのか分からなかった。
唸る声だけでも皮膚がびりびりとして体がすくみ動けなくなりそうだ。
この床が揺れているのも、この鳴き声の主がしているのだろうか。
思わずルボミールに掴まっていた指先に力がこもると、京の不安に気づいたのかこちらに心強く微笑んだ。

「大丈夫だ、キョウ」
「っ・・・、あぁ」

姿を現さず獣はこちらを捕捉しようとしているのだろうか。
周りを見渡すが京の視力に追い付くものではなかった。
せめて冷静になろうと心を落ち着けようとする。怯えているだけでは何も解決にならないからだ。

「安心しろ。お前は守る」
「・・・、ルルも一緒だ。自己犠牲なんて絶対だめだ」

『運命』補正で京を何が何でも守ろうとする。・・・そんな気がしたのだ。
ルボミールを見上げると、視線が交わりフッと微笑みを浮かべた。

「勿論だ」
「心配かけてごめん。・・・俺がハカセを」
「駄目だ」
「俺は戦うことも出来ないから」

守ってもらっていて自分でも勝手なことを言っているのは分かっている。
自分が出来ることは少なくて、京が出来るのは逃げることくらいしかできない。
ルボミールは帯剣をしていて、戦う事が出来るならそれに専念してもらいたかった。

「この男くらい軽いものだ」
「私がハカセをかs」
「殿下。この者については我らにお任せください。・・・誰かあの男を担げ」

如月が手を差し伸べようとしたところダンが手で止めると、護衛を1人よんだ。
京はその人間と目があい、思わず会釈をすると驚いたように固まったがハカセを担ぎあげる。
 
「・・・ありがとう」

この場で謝るのは違うと思った京は、言葉を飲み謝礼だけ口にした。

「殿下。キョウ様はお任せしますよ」
「勿論だ」
「キサラギ。あまり無茶はしないで下さいね」
「・・・。わかってます」

皆で無事に戻らなければ。
恐怖で震えそうになる体を抑えながら、先ほどの部屋に向かった。



☆☆☆



ピシリッ


そんな音が響くと次々に似た音を立てた。
逃げながら壁に目をやれ大小さまざまな亀裂が走る。

その尋常じゃない数の多さに息を飲む。



「ッ・・・キョウ!!!」



次の瞬間。
壁がバキバキと音を立てて崩れ落ちた。




☆☆☆




目の前に出来た瓦礫の壁を呆然と見上げる京。
信じたくなくて手を伸ばそうとした手を取られる。

「っ・・・」
「あの男達なら大丈夫だよ」

白銀の髪の男がニコリとほほ笑んだ。
京はそのオッドアイを見上げながら、首を小刻みに横に振った。

「でもっ・・・こんな・・・!」

再び瓦礫を見ると今度はその視界をふさがれる。

「落ち着いて?」
「っ落ち着けるわけないだろっ」

その手を振り払おうとしたががっしりと抑えつけられた体は動きそうもなかった。
ルボミールよりも小さい男だが、京よりも断然大きい。

「っ・・・ルル!」
「・・・」
「ルル・・・!返事をしてくれっ」


どうしてこんなことになってしまったのだろうか。
猛獣の気配に図書館に戻ることにした一行は、先ほどの道を戻っている最中だった。
咆哮が間近で聞こえたかと思った時だった。
急に壁が吹っ飛び京はこの男に引き寄せられてしまった。

「あっちの向こうは図書館なんだから、どちらかと言えばこっちの方が危険だよ?」
「っ・・・そう、か」

この男の言う通りだった。
ルボミールが安心だと聞いて安心したように息を吐いた。

「よかった・・・」

正直離れるのは不安だが、あちらの方が安全なのはホッとする。
京は額に手を当てて目を閉じた。
ピアスに呼び掛けても全く反応しないのは、この建物の影響の所為なのだろうか。

「・・・そう言えば、貴方怪我は?」
「ボクの心配?あはは。大丈夫だよ~。ボクこう見えて強いんだから」
「そうなのか・・・?」

そんな風には見えなくて思わず見返せばニコリとほほ笑む。

「うん。さっきの位だったら朝飯前だよ~」
「え?・・・ならなんで」
「だって言わなかったでしょう?」

言わなかったら手を出さなかったということなのだろうか。
先ほどは黙っていたのは恐怖に慄いてたのかと思っていた。

「でも、魔法・・・」
「その封印式はボクが作ったからね」
「!?」

その言葉に京は思わず体を引くががっちりと腕を掴まれてしまう。

「っ・・・離してくれないか」
「えー?」
「逃げても無駄なのはわかった」
「ふふふ♪・・・そうだよ。察しが良いね」

そういうと手を離した男に京はため息をついた。

「俺は東雲 京。・・・貴方は?」
「ボク?・・・あ。そうかこの姿で名乗ってなかったね。モイスだよ」
「・・・。・・・。・・・え?」
「モイスだよ。三賢者の1人として有名人なんだけど、知らない?」

同じ名前にもしかして?と、疑いの眼差しを送ると、あっさりとネタ晴らしをしてくれる男を凝視する。


「青の大魔法使い・・・」

しかし、そういうと男の笑みがピシリと固まる。
そして、完全にその笑みは消える。

「その呼び名は好きじゃないな」
「え・・・?」
「ボクはどこかの国に所属しない。ボクを動かせる王はこの世界には誰もいないよ」

なぜそんなことを言いだしたのか分からなかったが、少し考えてわかった。
青の大魔法使いの恋人は、アステリア帝国の皇帝と『運命の番』だった。
愛しい恋人を奪う切っ掛けになった国を名乗りたくないだろう。

「・・・。・・・その、モイス様は何故こんなことをしたのですか」
「ボクがこんな事をしたわけじゃないよ??あくまでも手伝ってって言われなかったから手を貸さなかっただけ」
「・・・。ならこの瓦礫をどけて合流したいのですが」
「『様』もいらないし敬語もやめてよ~。この瓦礫をどけるのは簡単だけどねぇ。
少しお話しようか?」
「合流してからでは」
「2人きりで話したいんだ」
「・・・、」
「君、あの男と『運命の番』なんだって?」


そう言う彼の笑みは目が笑っていなかった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

【完結】かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜

倉橋 玲
BL
**完結!** スパダリ国王陛下×訳あり不幸体質少年。剣と魔法の世界で繰り広げられる、一風変わった厨二全開王道ファンタジーBL。 金の国の若き刺青師、天ヶ谷鏡哉は、ある事件をきっかけに、グランデル王国の国王陛下に見初められてしまう。愛情に臆病な少年が国王陛下に溺愛される様子と、様々な国家を巻き込んだ世界の存亡に関わる陰謀とをミックスした、本格ファンタジー×BL。 従来のBL小説の枠を越え、ストーリーに重きを置いた新しいBLです。がっつりとしたBLが読みたい方には不向きですが、緻密に練られた(※当社比)ストーリーの中に垣間見えるBL要素がお好きな方には、自信を持ってオススメできます。 宣伝動画を制作いたしました。なかなかの出来ですので、よろしければご覧ください! https://www.youtube.com/watch?v=IYNZQmQJ0bE&feature=youtu.be ※この作品は他サイトでも公開されています。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...