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唐突にキメラと言われても。
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図書館の最深部に現れた謎の男は怪しいこと極まりなく気になるところだが、今はハカセの捜索が先だ。
ここに来て『ハカセなら大丈夫』という楽観的な考えはなくなっていた。
ルボミールには肩を抱かれたままで連れていかれる。
言える空気ではないが、女性の様に扱われるのはまだ恥ずかしさは消えない。
そんな中、ルボミールが司書に命じて図書館から研究所に通じる道を案内させようとした。
謎の男を置いていこうとしたのだが・・・。
「ん?何。研究所に行くの?」
そう言いながら首を傾げた。
美しい容貌からなのか彼がそんなことをしても嫌味な感じではない。
ルボミールが答えないでいるから、京が変わりに答える。
「そうだ。・・・呼びかけて悪かった。もう行って構わない」
それだけ答えたのだが、スキップをするように足を踏み出すと京達の前に立ちはだかった。
ルボミールの殺気にひやりとする。
他国の人間に怪我を負わすのはどう考えても良くない。
「なんのつもりだ」
「ねぇ。ボクもついて行って良い?」
男はルボミールの問いには答えずに京を見てくる。
「なぜ?」
「だめ?」
「京様。おさがり下さい。相手にする必要はありません」
そう言いながら京の前に滑り込み立ちはだかる如月。
「京様。殿下も先に行ってください。私は衛兵と共に。・・・・あなたも殿下について行ってください」
その言葉にダンは苦い顔をしたが、ダンはルボミールの側近だ。
それにコクリと頷く。
「そんな足止めをさせてもその様子じゃ付いてくるだろう。如月が分断して残る必要はない。
・・・ルル。・・・いいかな」
「・・・。わかった。しかし、キョウはキサラギとニコと共に少し後からついてこい。リコ。それと数名はキョウ達に当たれ」
「「「ハッ!」」」
衛兵は王太子を守護する者達だというのに、そんな風に外してしまうルボミールを見上げるが譲ってくれる気はなさそうだ。
「わかった」
「王子は本当に心が狭いねぇ」
「・・・。ついて来たいなら余計な無駄口は叩くな。・・・それと、お前はこの先の道を知っているのか」
「知ってるよ?ボクはそこから来たのもあるし」
「ならば先頭をあるけ」
「どーしてボクがお前の言う事をきかなきゃいけないのかな?」
そう言って互いににらみ合っている。
譲るつもりはないらしい2人。
京が待てるの30秒程度だった。
「それはあと何分くらいかかるんだ?」
呆れたように言う京に2人の視線がこちらに向けられる。
「先に行っていい?」
「「駄目だ(よ)」」
「?・・・仲良いな。・・・まぁ話がまとまったってことでいいか?」
まさか男までそんな反応をするとは思わなかったが、丸く収まったならいい。
「わかったよ。・・・このむさくるしい面子で先に歩けばいいんでしょう?」
「そんなに嫌なら残っていればいい」
「ボクに話しかけないでくれる?」
そんないがみ合う必要もないだろうに。
まぁそう言っていても仕方がないので、京は言われた通り後ろに下がり、ニコとリコのところまで下がった。
☆☆☆
図書館の最深部から研究所への入口は、男が部屋の中央の水晶に手をかざし呪文を唱えると扉が開いた。
なんでも聞けばここに来た時は扉が開いていたらしく、そこからハカセは不思議な部屋に興味を示したのだろうか。
・・・、・・・裸で????
あのハカセだっていくら何でも裸でそんな奇行はしない。・・・と、思いたい。
だが、出場記録はなく建物の中のどこにもいないなら、この先に居る可能性もある。
もしかしたら、服でも落ちていて着てしまったのだろうか。
そんな馬鹿な想像が一瞬浮かんだが考えるのをやめた。
今は捜索せねば。
少し前を歩くルボミールに目をやる。
その隣にはダンがいて、彼等の前には男が歩いていた。
出会って間もない人間の馴れ馴れしい態度には既視感を覚えつつも、
ルボミートとダン。そして謎の男が前を歩く。
そこまで離れていないのに、話し声は内容まで聞こえない距離である。
「ルボミール様は何故あんなに警戒されているのでしょうか・・・?」
「番であるキョウ様に得体のしれない者が近づくには嫌なものだ」
「それはそうですが。・・・にぃ様・・・そもそもあの男は着いてきたいなんて言ったのでしょう」
まだ京達は番ってはいないが、ルボミールは運命で独占欲は誰から見てもある。
男についてはニコが不思議そうにリコに尋ねるがリコもわからないようだ。
「それが分からないから殿下はあの男を避けたのもあるだろうが。
・・・あの男はかなり魔力が高い」
「にぃ様よりも・・・?」
「俺はダン殿よりも魔力はない。・・・そのダン殿よりも魔力がある。つまり、この中で一番魔力を持っている」
「そうなんですか・・・」
「ニコ。お前もあの男には近づいては駄目だ。・・・そのネックガードも外されるかもしれない」
そう言われて京もハッとした。
このネックガードはつけた本人か、それよりも魔力のある人間に外せるのだった。
「わかりました。・・・あの男はαなのでしょうか」
「その可能性はある。魔力を持つΩやβはいるがあそこまで高いものなど聞いたことがない。
・・・鑑定系の魔法は使えないからな」
もし使えるなら元々鑑定施設にやってきたりなんてしなかっただろう。
「・・・どうせなら鑑定機持ってくるんだった」
余り荷物を持ちたくなかったのもあるが、そもそも相手のバースを見ようなんてここ最近思ってなかったから思いつきもしなかった。
「あの男はどこまでついてくるつもりなんでしょうか。・・・あなたはここで彼を見たことはありますか?」
「そうですね。たまにあります。・・・私も毎時出場を記録している水晶を見ているわけではないので、この道を使っているとは思いませんでしたが、何回か館内でお会いしたことがあります。
しかしこの道を使っているとなると、研究員なのかもしれません」
「研究員・・・なるほど。そうなのかもしれません」
「・・・それにしても随分長い道だな」
「そうですね。この建物も、研究所もとても広い建物なので」
司書の言葉に頷きながら、その薄暗い道を進んだ。
☆☆☆
それからしばらく歩くとようやく開けた場所に出た。
周りを見れば図書館よりも数倍薄暗く、周りには筒状のガラスのような素材でできたものがたくさん並んでいた。
それは、水槽の様で中にはよくわからないものが入っていた。
「・・・なんだ、これは」
「私もここに来たのは初めてですので・・・」
京のつぶやきに答えたのは司書だ。
この面子の中で、一番詳しそうな男が知らないとなると・・・もうあの男しか知らないだろう。
だが、京はこれが何かあまり良くない物に見えた。
「・・・、」
「キョウ」
ルボミールが名前を呼ぶのでそちらに視線を向けると、いつの間にか傍に来ていたのか。
真剣な眼差しが京の嫌な予感を肯定するような気がして胸騒ぎがしてくる。
「戻るか?」
「っ・・・ううん」
ここには居たくない。
しかし、そうも言っていられない。
それにここは何度も来たいと思うような場所ではないから、早く捜索して地上に出たい。
「ならば今はハカセを探すのが先だ。・・・そうだろう?」
「・・・、・・・うん」
それは周りのものを気にするなと言っているのだろう。
左右にならぶ水槽。
その入れ物にはすべて同じ模様が描かれている。
それも意味あるものなのだろうか・・・。
京はすいっと視線を逸らした。
ルボミールの言う通り今はハカセを探さなければ。
そう思うのに男があっさりと答えを暴露する。
「気持ちがわるいよねぇ~。
この辺りはキメラを造ってたやつらのラボだからね」
「っ・・・」
その言葉の意味は京にも分かった。
地球には存在が稀であったことも見たこともない。
キメラとは一個体の中に複数の遺伝子を保有したものを言う。
これらはキメラなのだろうか・・・。
しかし動物の形をしてないこれは・・・造っている?
「・・・」
「顔色が真っ青だ。早く行こうか」
そういうと男は歩き出した。
「でもこの世界にはキメラが溢れてるから慣れないといけないね」
「そう・・・なのか?」
「そうだよ~。魔力の高いものから奪って体に埋め込むことはないこともない。
だから魔力の高い人間はまずは自分を守るための魔法を覚えたりする。
・・・けど、他人の魔力を奪って体に埋め込むのって、倫理的にアウトだからあんまり表では言う人間はいないけど。
その代わりに君がつけているようなピアスとかみたいな形にすることは多いね」
これは、ルボミールの魔力が埋め込まれていると言った。
ハカセの指輪と同じようなものだ。
「君のピアスは」
「余計なことはしゃべるな。・・・(京の体調が悪いのが)見てわからないのか?先を急げ」
ルボミールは京を気遣い先を促すと、男はケラケラと『本当に小さい男だな~』と笑ったが、進み始めた。
見ないようにしていても周りが気になってしまう。
この部屋の中は空気が籠っていて少し埃のあるこの空間は、しばらく人がいなかった様に感じる。
だが、この水槽は稼働しているようで混乱してくる。
そんなことを思っていると少し明る場所に出ると、今度は違うタイプの筒状の物が横に置かれていた。
先ほどの水槽よりも個数は少ないがそれでも複数並んでいる。
表面はガラス状の様にも見えるが中はコーティングなのか真っ黒で見えない。
そんな中一つだけ形が違うものがあり、・・・まるで蓋が開いているかのような状態になっていた。
人が入りそうな大きさに念の為に中を確認しようとするが、それはルボミールによってとめられ、指示されたダンが確認しに行ったがそこには誰もいなかった。
その言葉に京はホッとしたのだが、視線を下した瞬間ハッとする。
「・・・、・・・、・・・・っ」
視界に移ったのは
人の手だった。
「・・・!」
ぞわりと背筋に寒気が走った。
震え重くなった足に、確かめなければと足を動かすが早く歩けない。
そんな様子にルボミールが気づき腕を引いたが、京の視線の先に気付いたようだ。
「ダン。・・・その入れ物の外側の奥を確かめろ」
「?はい。・・・、・・・!」
ルボミールに指示されたダンがカプセルから体を離すと、言われたままに奥に目をやると理由が分かったらしい。
ハッと息を飲みすぐに駆け寄った。
影になったところから引きずり出され見えた黒髪に息を飲んだ。
この世界には黒髪はトシマ区の人間しかいない。
「見つかりました」
「・・・っ・・・息は!」
咄嗟に走りだしダンの元に向かう。今度はルボミールは止めなかった。
やはり真っ青になったハカセは目をあいていない。
手首を取り脈を確認すると・・・かろうじて動いていた。
「生きてる・・・!っ・・・ルルっ」
「すぐに戻るぞ」
ルボミールがハカセを抱きかかえ、京に腕を伸ばした。
その腕に包まれながらはやる気持ちでいるが、いつもの様にテレポート前の霧が出てこない。
不審に思い上を見るとルボミールの眉間には皺が寄っていた。
「ルル・・・?」
「・・・気づきませんでした。ここは魔法を封印されています」
「えっ」
「ダンは使えないのですか!」
如月の言葉にダンは首を横に振った。
『ダン殿よりも魔力がある。つまり、この中で一番魔力を持っている』
その言葉を思い出し、・・・ここまでついてきた男を思わず見る。
だがこの男は本当に信用が出来る男なのだろうか。
もしハカセがこの男から逃げてここに隠れたのだとしたら・・・。
そう思うと何が最善なのかわからない。
この男を信用するだけの材料がない。
「っ」
「この建物は魔法が使えないからね~。そこの人が言ったようにね」
白銀の髪をさらりと揺らしながら、ルボミールの腕の中のハカセを見る。
「ここは魔法研究所なのになぜ魔法が使えないんだ」
「んー使えるものを決めてるんだよね。だって外からも中からも使えたら、技術盗み放題じゃない?
そのエリアの中もテレポート系は禁止されているよ」
そう聞くと最もだ。
だが、今はそれが疎ましい。
すると、男がハカセに手を伸ばした。
「!・・・何をっ」
「怪我や悪いところを回復しただけだよ。この魔法ならここでも使えるからね」
そういうと心なしか青白かった表情が心なしか良くなった様に見える。
だが、ハカセが目を覚ます気配はない。
「ハカセ・・・ハカセッ」
「京様。落ち着いてください」
「でも、」
「さっきのは外的要因は回復出来るんだけど、内的要因は治らないんだよねぇ。精神コントロールしたら目が覚めるかもだけど」
「そんなの駄目だっ・・・っ・・・いや、すまない。
彼は大切な人なんだ。・・・だから、つい」
「いいよ。気にしてない。・・・それにしても最悪なタイミングだね」
その言葉に京は分かっていなかった。
しかし、ルボミールの表情を見ると固いままだ。
それは、この謎の男がいるからなのだと思ったのだが・・・。
「この入れ物から逃げ出したのか出たのか分からないけど、キメラがどこかにいるんじゃないかな」
「・・・、」
男の言葉に息を飲んだ。
その直後だった。
部屋に獣の唸り声と地震が起きた。
ここに来て『ハカセなら大丈夫』という楽観的な考えはなくなっていた。
ルボミールには肩を抱かれたままで連れていかれる。
言える空気ではないが、女性の様に扱われるのはまだ恥ずかしさは消えない。
そんな中、ルボミールが司書に命じて図書館から研究所に通じる道を案内させようとした。
謎の男を置いていこうとしたのだが・・・。
「ん?何。研究所に行くの?」
そう言いながら首を傾げた。
美しい容貌からなのか彼がそんなことをしても嫌味な感じではない。
ルボミールが答えないでいるから、京が変わりに答える。
「そうだ。・・・呼びかけて悪かった。もう行って構わない」
それだけ答えたのだが、スキップをするように足を踏み出すと京達の前に立ちはだかった。
ルボミールの殺気にひやりとする。
他国の人間に怪我を負わすのはどう考えても良くない。
「なんのつもりだ」
「ねぇ。ボクもついて行って良い?」
男はルボミールの問いには答えずに京を見てくる。
「なぜ?」
「だめ?」
「京様。おさがり下さい。相手にする必要はありません」
そう言いながら京の前に滑り込み立ちはだかる如月。
「京様。殿下も先に行ってください。私は衛兵と共に。・・・・あなたも殿下について行ってください」
その言葉にダンは苦い顔をしたが、ダンはルボミールの側近だ。
それにコクリと頷く。
「そんな足止めをさせてもその様子じゃ付いてくるだろう。如月が分断して残る必要はない。
・・・ルル。・・・いいかな」
「・・・。わかった。しかし、キョウはキサラギとニコと共に少し後からついてこい。リコ。それと数名はキョウ達に当たれ」
「「「ハッ!」」」
衛兵は王太子を守護する者達だというのに、そんな風に外してしまうルボミールを見上げるが譲ってくれる気はなさそうだ。
「わかった」
「王子は本当に心が狭いねぇ」
「・・・。ついて来たいなら余計な無駄口は叩くな。・・・それと、お前はこの先の道を知っているのか」
「知ってるよ?ボクはそこから来たのもあるし」
「ならば先頭をあるけ」
「どーしてボクがお前の言う事をきかなきゃいけないのかな?」
そう言って互いににらみ合っている。
譲るつもりはないらしい2人。
京が待てるの30秒程度だった。
「それはあと何分くらいかかるんだ?」
呆れたように言う京に2人の視線がこちらに向けられる。
「先に行っていい?」
「「駄目だ(よ)」」
「?・・・仲良いな。・・・まぁ話がまとまったってことでいいか?」
まさか男までそんな反応をするとは思わなかったが、丸く収まったならいい。
「わかったよ。・・・このむさくるしい面子で先に歩けばいいんでしょう?」
「そんなに嫌なら残っていればいい」
「ボクに話しかけないでくれる?」
そんないがみ合う必要もないだろうに。
まぁそう言っていても仕方がないので、京は言われた通り後ろに下がり、ニコとリコのところまで下がった。
☆☆☆
図書館の最深部から研究所への入口は、男が部屋の中央の水晶に手をかざし呪文を唱えると扉が開いた。
なんでも聞けばここに来た時は扉が開いていたらしく、そこからハカセは不思議な部屋に興味を示したのだろうか。
・・・、・・・裸で????
あのハカセだっていくら何でも裸でそんな奇行はしない。・・・と、思いたい。
だが、出場記録はなく建物の中のどこにもいないなら、この先に居る可能性もある。
もしかしたら、服でも落ちていて着てしまったのだろうか。
そんな馬鹿な想像が一瞬浮かんだが考えるのをやめた。
今は捜索せねば。
少し前を歩くルボミールに目をやる。
その隣にはダンがいて、彼等の前には男が歩いていた。
出会って間もない人間の馴れ馴れしい態度には既視感を覚えつつも、
ルボミートとダン。そして謎の男が前を歩く。
そこまで離れていないのに、話し声は内容まで聞こえない距離である。
「ルボミール様は何故あんなに警戒されているのでしょうか・・・?」
「番であるキョウ様に得体のしれない者が近づくには嫌なものだ」
「それはそうですが。・・・にぃ様・・・そもそもあの男は着いてきたいなんて言ったのでしょう」
まだ京達は番ってはいないが、ルボミールは運命で独占欲は誰から見てもある。
男についてはニコが不思議そうにリコに尋ねるがリコもわからないようだ。
「それが分からないから殿下はあの男を避けたのもあるだろうが。
・・・あの男はかなり魔力が高い」
「にぃ様よりも・・・?」
「俺はダン殿よりも魔力はない。・・・そのダン殿よりも魔力がある。つまり、この中で一番魔力を持っている」
「そうなんですか・・・」
「ニコ。お前もあの男には近づいては駄目だ。・・・そのネックガードも外されるかもしれない」
そう言われて京もハッとした。
このネックガードはつけた本人か、それよりも魔力のある人間に外せるのだった。
「わかりました。・・・あの男はαなのでしょうか」
「その可能性はある。魔力を持つΩやβはいるがあそこまで高いものなど聞いたことがない。
・・・鑑定系の魔法は使えないからな」
もし使えるなら元々鑑定施設にやってきたりなんてしなかっただろう。
「・・・どうせなら鑑定機持ってくるんだった」
余り荷物を持ちたくなかったのもあるが、そもそも相手のバースを見ようなんてここ最近思ってなかったから思いつきもしなかった。
「あの男はどこまでついてくるつもりなんでしょうか。・・・あなたはここで彼を見たことはありますか?」
「そうですね。たまにあります。・・・私も毎時出場を記録している水晶を見ているわけではないので、この道を使っているとは思いませんでしたが、何回か館内でお会いしたことがあります。
しかしこの道を使っているとなると、研究員なのかもしれません」
「研究員・・・なるほど。そうなのかもしれません」
「・・・それにしても随分長い道だな」
「そうですね。この建物も、研究所もとても広い建物なので」
司書の言葉に頷きながら、その薄暗い道を進んだ。
☆☆☆
それからしばらく歩くとようやく開けた場所に出た。
周りを見れば図書館よりも数倍薄暗く、周りには筒状のガラスのような素材でできたものがたくさん並んでいた。
それは、水槽の様で中にはよくわからないものが入っていた。
「・・・なんだ、これは」
「私もここに来たのは初めてですので・・・」
京のつぶやきに答えたのは司書だ。
この面子の中で、一番詳しそうな男が知らないとなると・・・もうあの男しか知らないだろう。
だが、京はこれが何かあまり良くない物に見えた。
「・・・、」
「キョウ」
ルボミールが名前を呼ぶのでそちらに視線を向けると、いつの間にか傍に来ていたのか。
真剣な眼差しが京の嫌な予感を肯定するような気がして胸騒ぎがしてくる。
「戻るか?」
「っ・・・ううん」
ここには居たくない。
しかし、そうも言っていられない。
それにここは何度も来たいと思うような場所ではないから、早く捜索して地上に出たい。
「ならば今はハカセを探すのが先だ。・・・そうだろう?」
「・・・、・・・うん」
それは周りのものを気にするなと言っているのだろう。
左右にならぶ水槽。
その入れ物にはすべて同じ模様が描かれている。
それも意味あるものなのだろうか・・・。
京はすいっと視線を逸らした。
ルボミールの言う通り今はハカセを探さなければ。
そう思うのに男があっさりと答えを暴露する。
「気持ちがわるいよねぇ~。
この辺りはキメラを造ってたやつらのラボだからね」
「っ・・・」
その言葉の意味は京にも分かった。
地球には存在が稀であったことも見たこともない。
キメラとは一個体の中に複数の遺伝子を保有したものを言う。
これらはキメラなのだろうか・・・。
しかし動物の形をしてないこれは・・・造っている?
「・・・」
「顔色が真っ青だ。早く行こうか」
そういうと男は歩き出した。
「でもこの世界にはキメラが溢れてるから慣れないといけないね」
「そう・・・なのか?」
「そうだよ~。魔力の高いものから奪って体に埋め込むことはないこともない。
だから魔力の高い人間はまずは自分を守るための魔法を覚えたりする。
・・・けど、他人の魔力を奪って体に埋め込むのって、倫理的にアウトだからあんまり表では言う人間はいないけど。
その代わりに君がつけているようなピアスとかみたいな形にすることは多いね」
これは、ルボミールの魔力が埋め込まれていると言った。
ハカセの指輪と同じようなものだ。
「君のピアスは」
「余計なことはしゃべるな。・・・(京の体調が悪いのが)見てわからないのか?先を急げ」
ルボミールは京を気遣い先を促すと、男はケラケラと『本当に小さい男だな~』と笑ったが、進み始めた。
見ないようにしていても周りが気になってしまう。
この部屋の中は空気が籠っていて少し埃のあるこの空間は、しばらく人がいなかった様に感じる。
だが、この水槽は稼働しているようで混乱してくる。
そんなことを思っていると少し明る場所に出ると、今度は違うタイプの筒状の物が横に置かれていた。
先ほどの水槽よりも個数は少ないがそれでも複数並んでいる。
表面はガラス状の様にも見えるが中はコーティングなのか真っ黒で見えない。
そんな中一つだけ形が違うものがあり、・・・まるで蓋が開いているかのような状態になっていた。
人が入りそうな大きさに念の為に中を確認しようとするが、それはルボミールによってとめられ、指示されたダンが確認しに行ったがそこには誰もいなかった。
その言葉に京はホッとしたのだが、視線を下した瞬間ハッとする。
「・・・、・・・、・・・・っ」
視界に移ったのは
人の手だった。
「・・・!」
ぞわりと背筋に寒気が走った。
震え重くなった足に、確かめなければと足を動かすが早く歩けない。
そんな様子にルボミールが気づき腕を引いたが、京の視線の先に気付いたようだ。
「ダン。・・・その入れ物の外側の奥を確かめろ」
「?はい。・・・、・・・!」
ルボミールに指示されたダンがカプセルから体を離すと、言われたままに奥に目をやると理由が分かったらしい。
ハッと息を飲みすぐに駆け寄った。
影になったところから引きずり出され見えた黒髪に息を飲んだ。
この世界には黒髪はトシマ区の人間しかいない。
「見つかりました」
「・・・っ・・・息は!」
咄嗟に走りだしダンの元に向かう。今度はルボミールは止めなかった。
やはり真っ青になったハカセは目をあいていない。
手首を取り脈を確認すると・・・かろうじて動いていた。
「生きてる・・・!っ・・・ルルっ」
「すぐに戻るぞ」
ルボミールがハカセを抱きかかえ、京に腕を伸ばした。
その腕に包まれながらはやる気持ちでいるが、いつもの様にテレポート前の霧が出てこない。
不審に思い上を見るとルボミールの眉間には皺が寄っていた。
「ルル・・・?」
「・・・気づきませんでした。ここは魔法を封印されています」
「えっ」
「ダンは使えないのですか!」
如月の言葉にダンは首を横に振った。
『ダン殿よりも魔力がある。つまり、この中で一番魔力を持っている』
その言葉を思い出し、・・・ここまでついてきた男を思わず見る。
だがこの男は本当に信用が出来る男なのだろうか。
もしハカセがこの男から逃げてここに隠れたのだとしたら・・・。
そう思うと何が最善なのかわからない。
この男を信用するだけの材料がない。
「っ」
「この建物は魔法が使えないからね~。そこの人が言ったようにね」
白銀の髪をさらりと揺らしながら、ルボミールの腕の中のハカセを見る。
「ここは魔法研究所なのになぜ魔法が使えないんだ」
「んー使えるものを決めてるんだよね。だって外からも中からも使えたら、技術盗み放題じゃない?
そのエリアの中もテレポート系は禁止されているよ」
そう聞くと最もだ。
だが、今はそれが疎ましい。
すると、男がハカセに手を伸ばした。
「!・・・何をっ」
「怪我や悪いところを回復しただけだよ。この魔法ならここでも使えるからね」
そういうと心なしか青白かった表情が心なしか良くなった様に見える。
だが、ハカセが目を覚ます気配はない。
「ハカセ・・・ハカセッ」
「京様。落ち着いてください」
「でも、」
「さっきのは外的要因は回復出来るんだけど、内的要因は治らないんだよねぇ。精神コントロールしたら目が覚めるかもだけど」
「そんなの駄目だっ・・・っ・・・いや、すまない。
彼は大切な人なんだ。・・・だから、つい」
「いいよ。気にしてない。・・・それにしても最悪なタイミングだね」
その言葉に京は分かっていなかった。
しかし、ルボミールの表情を見ると固いままだ。
それは、この謎の男がいるからなのだと思ったのだが・・・。
「この入れ物から逃げ出したのか出たのか分からないけど、キメラがどこかにいるんじゃないかな」
「・・・、」
男の言葉に息を飲んだ。
その直後だった。
部屋に獣の唸り声と地震が起きた。
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伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。
記憶喪失の僕は、初めて会ったはずの大学の先輩が気になってたまりません!
沈丁花
BL
__ 白い世界と鼻を掠める消毒液の匂い。礼人の記憶はそこから始まる。
小学5年生までの記憶を無くした礼人(あやと)は、あるトラウマを抱えながらも平凡な大学生活を送っていた。
しかし、ある日“氷王子”と呼ばれる学年の先輩、北瀬(きたせ)莉杜(りと)と出会ったことで、少しずつ礼人に不思議なことが起こり始めて…?
過去と今で揺れる2人の、すれ違い恋物語。
※エブリスタで“明日の君が笑顔なら”という題名で公開している作品を、内容がわかりやすいタイトルに改題してそのまま掲載しています。
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