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【別視点:ルボミール】

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煌びやかな光に包まれているフロアーにはアストリア帝国の有力な貴族で溢れていた。
女のαで溢れたそこは、ルボミールを不機嫌にさせるのは十分だった。
皆こちらを誘うかの様に見てくる。
次々に話しかけてくる令嬢たちに鬱陶しささえ感じていた
無視するわけにもいかず、ルボミールはにこやかに笑みを浮かべながらそれを断る。
もう一体こういう事を何度したのだろうか。
一層の事マウントで抑えつけない気分なのだが・・・。

「殿下。約束を覚えてらっしゃいますか?」

そう言ったのは、婚約者にと勧められた姫、エスメラルダである。

「あぁ」

ここに居る間は、大人しくエスメラルダをエスコートする様にと言われているのだ。
ルボミールはエスメラルダに手を差し伸べると、その手を取られた。
触れるすべてのものを京と比べてしまい、余計にいら立ってしまう。
勿論。それを表に出すことはしないが。


「・・・。はぁ。・・・ちょっと疲れましたわ」
「そうか。なら部屋へ戻るといい。俺も部屋に戻る都合が出来る」
「そうじゃないでしょうっ・・・あなたシノノメ殿にもそうなの?」
「そもそも、キョウが夜会に出たいといわない限り出すわけない。
出たとしても疲れさせるわけがない」

あきれたように言えば、エスメラルダの方も深いため息をついた。

「・・・。・・・はぁ。・・・貴方、変わったわね。・・・もうどうでもいいわ。こちらへ」


そう言うと人気の少ないテラスを指さした。
ルボミールは警備にと連れてきた使用人を連れていくと、エスメラルダは眉を顰めた。
女性1人に男性2人で行くのはマナー違反とされているからだ。


「ちょっと」
「貴女も使用人を付ければいい話だ」
「・・・はぁぁぁ」

苛立ったようにさせながらも彼女も同じように使用人を呼んだ。
そしてテラスへと向かうと向かい合わせに座る。
手を伸ばしても届かない距離で、そしてフロアーからも良く見える位置だった。

「まったく。こんなこと初めてよ」
「そうか。俺も陛下のこんな強引な態度には驚いている」
「・・・。それでも従うのね。もしかして少しは私をそういう目で見てくれているのかしら」
「どこをどうとったらそう感じるのか一から聞いても良いか」
「本当に失礼だ事」
「婚約者を紹介しに行った先で、妃を紹介してくるよりは礼を欠いている様には思えないが」
「まぁそうね。・・・飲み物を持ってきて頂戴」

エスメラルダは深いため息をついた後、つけていた使用人に命令する。
というか、もともとそのつもりで使用人を付けていたようだ。

「男2人と一緒になっても構わないのか?」
「貴方がどんな人かは幼い時から知っているわ」

ラージャとアストリアの関係は良好である。
年に一度はどちらかの国の記念祭に参加したりするのだ。
今まではシルヴィと参加していて、よく話をしていたから友人と言っていいほど仲が良い。
それは皇帝陛下も同様で、今まであんなことを言うような人ではなかった。

「・・・皇帝陛下はΩ迫害主義者か?」
「いいえ。この国ではΩの迫害は禁止されているわ。知っているでしょう?」
「表立ってわな」
「それを言われると痛い所だけど。・・・ただまぁ私達皇族は過去の教訓からΩを虐げることはないわ」
「過去・・・?」
「えぇ」

それだけ言うと、エスメラルダは持ってこさせた飲み物に口を付けた。
それ以上は言わないようだ。
ルボミール自身昔話を聞きたいわけではない。
それにそれは

「ならばなぜキョウにあのような態度を取ったんだ」
「それは陛下にしかわからないわね」
「・・・」
「そのあからさまな『使えない』て表情やめてくださる?」
「だいたい、婚約者がいただろう」
「いいえ。でも時間の問題ね」

その言葉に思い切り眉を顰めた。
その割にはエスメラルダからは以前も感じていた、彼女の婚約者のαの気配を感じるが。

「どうしようと知ったことではないが、俺はお前など要らん」
「失礼ね・・・。私もラージャの王太子でなかったら貴方なんていらないわ」
「いい加減。回りくどい話し方はどうにかならないのか」
「だったらお父様に聞けば良いじゃない」
「しに行ったらこんなことになったんじゃないか」
「それは貴方よりもお父様の方が上手だっただけでしょう?」
「・・・、」

ふつふつとした苛立ちが沸き起こる。
ただでさえ京と離されたことは不愉快だというのに。
『番のピアス』で位置と会話の内容が聞けていなかったら、こんなところに・・・いや。
行かせるはずもなかった。

あの時、京が不穏な空気を感じ取り、『1人で大丈夫だ』と言い張ったからだ。
争いになるのが嫌だと言いかたくなに譲らなかった。
口で言うことを聞かないなら、体に聞かせようとした。
いつもは余り意地の悪いことはしないのだが、『離れない』と言うまで逝かせなかったのに、結局、京は最後まで言わなかった。
達せないように戒め、どこを触っても敏感に感じるようになった京は、最後の方にはポロポロと涙を流してルボミールを見てくる。
それに折れたのはルボミールだ。
本当は行かせたくないし、言うこともきかない京には腹が立った。
しかし、その機嫌をなおしたのも京だ。
ルボミールが折れると、京はルボミールを求めた。
手ではなく自分の熱を欲しいと。
・・・愛しい相手にそんなことを言われて、止まるはずもなく抱いてしまった。
勿論最後まではまだ入れられないが、いつもより深いところを愛し、体中に独占欲のように跡を付けたのはつい昨日の出来事だ。

今すぐにでも京のいる場所に飛んでいきたいが、そういう事は京は嫌う。
だとしたらこれを終わらさなければならないだろう。

ルボミールは周りにオーラを漂よわせる。
それに、エスメラルダはびくついた。
自分が想像している以上に攻撃的なようだ。

まわりに人が集まってくる気配を感じていると元凶から声が掛けられた。


「ルボミールよ。娘に何をする気だ?」
「っ・・・父様!・・・これはただの口喧嘩ですわ。そうよね?ルボミール」
「陛下の返答次第でしょうか」
「ちょっ・・・あなた、火に油を注ぐようなことを・・・。
シノノメ殿に言われたこと覚えているでしょう?」
「キョウには知られなければ良いことだ」
「・・・ッ」
「冗談だ。簡単に出てき頂いてよかったですよ。陛下」
「・・・それはわざとなのか」

『それ』とは纏わせている気配の事だろう。
ルボミールは冷笑を浮かべた。

『運命の番』を離されて不快にならないわけがないと思うが?」
「本当にあのものが『運命の番』なのか?それにしてはあの者は簡単に離れたが」
「勘違いしていただきたくないのだが、俺もキョウも精神が乱れてますよ」
「・・・」
「それでも離れているのは、大切な仲間の為、使命の為、そして争いを望まないというキョウの優しい思いを尊重したからだ。
大体。
信じるも信じないも自由ですが、その気もないのに何故こんなことを」
「・・・・何故分かった、・・・とは無理があるか」

ため息をつきながら娘を見る陛下。
エスメラルダはもう隠しきれないと思ったのか、開き直りあきれたように言う。

「昨日今日で突然彼の気配を消せって言われたって無理よ。
それにαなんだから独占欲があるのは当然だし、理由が理由だけに心配するなんてあたりまえじゃない」
「そうはいってもだな」
「お父様からちゃんと説明してくださるの待ってますから。私も彼(エスメラルダの婚約者)も」

どうやら、彼女は表面上しか話を聞いていないようだ。

「・・・。ルボミール王子。お主が言う通り、昨日のもこれもただの茶番だ。本当に娘を嫁にやる気はない」
「要らない」
「本当にねっ」
「いるといわれても困るだろう?そんなのを纏わせてくるほどの相手がいるんだから」
「そう、だけど」

指摘をすると照れたように頬を染めるエスメラルダ。
それにルボミールはため息をついた。

「なぜこんなことをしようと思ったんですか。Ωだからですか」
「そうではない。・・・」
「ここに来て無言でいることが通ると思いますか?」
「・・・言えないのだ」
「・・・、」

その言葉に意図せず感情が溢れた。
その圧に周りの人間が息を飲んだ。
相手は他国の皇族だと理解をしているが、番のことに感情を抑えるのが難しい。

「ぐっ」

足をつき苦痛に歪む陛下をルボミールは見下ろした。

「・・・申し訳ない。キョウの事には抑えが利かないようだ」
「うぅっ・・・」

エスメラルダが顔面蒼白になり震えだすと、かたくなに言わなかった陛下がハッとした。

「っ・・・言えないものはかわらん!だがもう、試すことはしないっ」
「当然です。俺が聞いているのは『誰が』ということだ」
「っ・・・シノノメ殿の元へ行け!」
「・・・」
「そうすれば、・・・理由もわかる」

答えではないそれに、忌々しくも思いながらルボミールはその圧力を取り去った。
荒んだ感情はルボミールにも止めようがなかった。
だが、ここで確かめておく必要がある。
どうやって聞き出そうかと、思ったところだった。


『・・・ルル?大丈夫?』


優しく響く声に心が落ち着いていく。

『あぁ』
『何か嫌なことを言われたのか?』
『そうだな』
『・・・。他人がどう言おうと気にするな。俺はルルを好きなのは変わらない』

そうだ。他人なんて関係ない。
心が落ち着いていくと、あたりを見回した。
こちらを畏怖の眼差しで見てくるα達。
この辺りには自分以上のαはいないようだ。
そんな様子もルボミールを冷静にさせた。


「お怪我はありませんか、陛下。・・・エスメラルダも大丈夫か?」
「っ・・・えぇ」
「謝りませんよ。今回のことは」
「当然だ。・・・こちらが全面的に悪いのだからな」
「・・・」

そんなことを言うなら、こうするように指示をした人物を明かしてほしい。
だが、アストリア帝国の皇帝陛下に命令できる人物は数少ない。
どんなつもりなのかわからないが、いずれ向こうから姿を現すだろう。



『やることは終わった。・・・慰めてくれないか?』
『慰める?』
『今から行く』
『・・・』
『キョウ?』
『・・・他の人の気配を纏わせてきたら怒るからな』
『!・・・あぁ』

そんな嫉妬めいた言葉に愛しさがこみ上げる。
早く癒して欲しいと思いつつも、ルボミールは挨拶とフォローをすると早々に部屋に向かった。


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