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しつこいって・・・。
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ハカセの捜索の為に訪れた図書館は首都よりも本に溢れていた。
その高さはイケブクロにある名物商業施設と同じくらいだが、それはいずれ抜かれるだろう。
この本棚は一番上に本を置くと自動で棚に置き換わるからだ。
そして天井も同じ様に成長する。つまり今でも成長している図書館なのだ。
司書と紹介された男に案内されながら図書館をまわる。
想像した以上に広く国立国会図書館よりも広かった。
この建物は、地上同様に地価も無限に広がっていて、どちらかというと地下の方が広いようだ。
体感温度も肌寒いは少し通り過ぎ寒くなっていくが、リコの気転により温かい状態にしてもらい、ハカセが消えたというあたりを探す。・・・が当然誰もいない。
如月達が探していた順路を追いながら歩くがとくに怪しいことはなかった。
ここに来るまで、『自ら消えたのではないか?』という可能性は自ら消せないように努めていた。
けれどこの場所に連れて来させられるとやはりそうではないんじゃないかと思ってしまう。
そのことに考えを聞きたくとも、ここにはルボミールは居ない。
「・・・」
アストリア帝国皇帝陛下に国の図書館だけでなく全国土への自由な訪問を許された。
青の大陸は赤の大陸のラージャよりもΩの差別は少ないそうで、Ωが1人で歩いても問題からと言う理由で京は1人で来ている。
ここにルボミールが居ないのは京自身が不要だと断ったからだ。
京は会話の中で、陛下が聞かなけばラージャへ圧力を与える節を感じたからだ。
そんな風に過激に言うのはこの世界では普通だったらしいが、京には気が気じゃなかった。
ハカセは探しに行きたいが、戦争なんて起こしてほしくない。
だから、陛下の案を飲むことにしルボミールを説得した。
中々イエスとは言ってくれなくて、京の体は跡だらけになった。
・・・もちろんキスマークである。
快楽と苦悶でせめられたが京は固くなに首をたてに振らず、折れたのはルボミールだった。
辛そうな表情をさせたのはとてもつらかったが仕方がない。
・・・とは思っているのだが、時間が募るにつれて不安になっていく。
「妃」にと紹介されたのは同席した姫だった。
『覚えているか?』なんて狸なのだろうかと思ったが、ラージャから来訪の理由を言われた時から思っていたことなのだろう。
そんな姫とルボミールは今日は夜会に参加しているのだろう。
「俺だったら絶対に手元にお前を置いておくが」
そう言ったのはルーカスだった。
ここに来るまで京と直接話すこともなかったのに。
訝し気にいつのまにか隣に来ていた男を見上げる。
「俺にしとけばそんな不安にもならなかったはずだ」
「・・・。顔にでていますか」
「いや?」
「それならよかったです。私は不安など感じてしませんが」
しかし、男はおかしそうに笑った。
京には知らないこの世界の何かがあるのだろうか。
ルボミールが良く察してくれるのは『運命』だからだと思っていたが、それは間違っていたのだろうか?
そんな気持ちで見上げると伸ばす手来た手のひらを、京は叩き落とす。
「兄上はあの姫をどうするのだろうな」
「どうとは。妃に迎えるか?ということですか」
「あぁ」
「それだたら可能性はありますね」
そう淡々に答える京にルーカスは驚いたように見てきた。
「私には『運命の番』と紹介された私にちょっかいを出しにくるほうが不思議ですが」
絶対数は少ないが子供への語り話である青の涙はよく聞かされていて、この世界でその話を知らないのはいないとまでされているほどだ。
「それ以上近づかないで頂けますか」
そう言って京の前に立ったのは如月だ。
精神を揺さぶるような発言をしたことだけでなく、先日の大臣達への顔見世の時に立ち合った際のルーカスの態度に如月は苛立ちを感じている。
「殿下。宿泊所にいらっしゃっても大丈夫ですよ」
ダンにすら警戒をされているルーカス。
しかし、ルーカスは戻らなかった。
その後も京の傍からしつこく離れない。
「俺がこんなにΩに媚びへつらうのは始めてだ」
「え。いつ媚へつらいだんだ」
「今」
「すまない、言葉の良意味がこちらとは違うようだ。
貴方の行動に一ミリとも媚びられたことも、へつらわれたことも感じたことがない。
どうだ、如月とニコには感じたか?」
「「いいえ、全く」」
「如月は当然として、ニコもそうなるとなると、Ωとαとでは大きく違いがあるようだな」
そういうと、ダンやリコまでも感じないといってきた。
どうやこの男はそういう男らしい。
だが逆に首をかしげてしまう。
「同じ王族なのにこうも違うとは・・・それは個性か?」
「不快に感じさせたか。・・・他のΩと違うその態度もやはりそそるな」
「俺はドMは専門外だ」
「・・・どえむ?よくわからないが。お前の発情期はいつなんだ」
その言葉に思い切り眉を顰めた。
そして、不快な視線を送った。
「俺はΩの出来損ないだからな」
『発情期など来ない』と言おうとしたのだが、司書のαが驚いたようにこちらを見てきた。
その反応があまりに大きかったので、意識がそちらへと移る。
「うるさかったな。申し訳ない」
「いえ。この辺りは一般の人間が専門書すぎ来たりはしません。
それにこの床と本棚たちが音を吸い込んでくれるのでそれほど響きません。
それは叫び声をあげたとしてもです」
それはつまり、ここでハカセがここで叫んだとしても、如月やダンに届かなかったとしても当然だったという事だろう。
「自らいう『Ωの出来損ない』はこの国ではいい意味にとらわれるのですよ」
「え?」
「この国、・・・いやこの世界の人類すべてにの偉人と言える方の伴侶は、常に自分のことをそう称しておりました。伴侶は・・・Ωのはずなのに発情期がなかったのです」
それはこの世界のほとんどのΩがうらやむ内容無いのではないだろうか。
そう思っていたが、司書が両手で口元をふさいだ。
「申し訳けありません。余計なことを」
「いいや。・・・ちょうどいい。今から休憩にしようと思うのだが、どこか休めるところはないか」
「えぇありますよ。これほど大きな施設ですから。1フロアーに1つは必ずあります」
そう言って司書の男がそのフロアーへと案内してくれる。
☆☆☆
司書の男のしてくれた話はとても興味深かく・・・少し気がまぎれた。
かなり昔の話ではあるが実話で、貴族のΩが赤字の商店を復活させこのアストリア帝国を潤わせたという話だった。
その商店の名前はケーシー・スミオリル。そのΩの名前だそうだ。
・・・リコやニコの遠い親戚だそうだ。
今よりもΩに厳しい時代ではあったが、その親・・・ケーシーの親はΩであっても自分の子供を愛していた。
ケーシーは発情期がなく、美しい見た目ではあったが貴族の貰い手が見つからなかったが、一つの商店をまかせそれを成功させたそうだ。
商店を引き受けた当時、赤字ですぐに親に泣きつくと思われていた。
しかし、売り上げを出し最終リミットを一ヵ月、また一ヵ月と伸ばしていき、気づけば赤字はなくなっていた。
今となっては分かるが、その商品開発に携わっていた中に、2人の偉人達がいたからだそうだ。
その偉人達は貴族でそれもΩのケーシーをそれほど信頼も期待もしていなかったが、ケーシーに時には叱られ褒められるうちに、一方の偉人とケーシーは恋仲になった。
「その偉人とはもしかして賢者か?」
そう割ったのルーカスで、司書はそれに頷く。
ずっと『偉人』と話していたから全く別の話だと思っていたが、まさか肯定されるとは思わなかった。
「・・・もしかして、青の大魔法使いもいたりするのか?」
3賢者の1人に、青の大魔法使いもいて、京は思わず尋ねると司書はそれにもコクリと頷いた。
「はい。ケーシー様の恋人は青の大魔法使いです」
とてもにこやかにそう答えられるが、京はその時点で複雑な気分になる。
それまでは、Ωの奮闘記の様に聞いていたのだが・・・。
何故なら青の大魔法使いとケーシーはこの後、悲しい運命に流されていくからだ。
「・・・青の涙の話はご存じでしたか」
「あぁ・・・。あの話は事実なのだろうか」
実話に脚色されることは普通である。
だとしても、後世に語られる物語が悲しいもののわけがないのだが、聞きたくなってしまった。
「ケーシー様に『運命の番』が現れ、その後記憶を消してもずっと『運命』を探し求めたということであれば事実です」
「・・・、・・・、・・・」
その言葉に息を飲んだ。
なんて言っていいかわからず、言葉が出てこない。
司書の瞳を見返すが、その瞳は真っ黒で闇の様にとても深いことに気付く。
笑みを浮かべているのに、酷く冷たい。
・・・ハカセの笑い方みたいだ
その笑みを京が向けられることはないが、そんな笑みを他人にはよくしていたのを思い出す。
「そうか。・・・勉強になる」
「そう言えば、キョウ様は『運命の番』がいらっしゃるのでしたね」
「あぁ」
「こんなに離れていて不安にはならないのですか?『運命の番』なら離れている距離が遠くなればなるほど不安になるとありますが」
思わずいぶかし気に眉を顰めると、司書が応えてくれる。
青の大魔法使いの恋人であるケーシーは、この国の皇帝陛下と『運命の番』であった。
だからその記録がこの魔法図書館にも残されているそうなのだ。
「・・・そんなものが残っているのか」
第一声がそれだった。
しかし、それは司書には不愉快だったのか、初めて眉を顰める。
だが、そう感じてしまったのも言ってしまったのも仕方がない。
「いや。その話を聞いて感情移入をしすぎてしまったようだ。
もし、自分にそんなことが起きたなら辛いだろうなと。
・・・むしろ書き残すことで精神を保っていたのだろうか・・・。
その時代には抑制剤やΩのための精神安定剤もないだろうからな」
「精神安定剤?」
「・・・。司書殿は私達のことはどこまで聞いているんだ?」
「ラージャの王太子である、ルボミール殿下の『運命』と言う事は聞いております」
どうやらトシマ区の話は聞いていないようだ。
それなら京がこれ以上は話せない。
「なるほど。・・・先ほどの件は忘れてもらえないか」
「なぜでしょうか」
「殿下が話されていないことを、私が話すわけにはいかないでしょう」
苦笑を浮かべながら答えれば、司書の男は一応それで納得してくれたようだ。
「でも、ケーシー様が手記を残してくれたのは、私にも参考になります。
・・・それを考えると私の手記も残しておいた方が良いですね」
後世の参考になるのであれば、それは嫌がってもいられないだろう。
今のところタブレットで日記を残しているが、この世界の様式に移した方が良いのかもしれない。
「そばにいないことは確かに不安です。ですが薬を飲んでいるせいかそれほど不安ではないのです」
「薬ですか・・・気になりますね」
「まぁそれはいずれ。・・・皇帝陛下次第でしょうか。
・・・それともう一つの理由ですが、これです」
そう言って京はピアスを見せる。
「それは?・・・番のピアス?」
「はい」
「お二人は番われているのですか??」
「いえ」
そう言うとピタリと止まる。
瞬きもせずにこちらを見てくるその姿は少し怖いと思ってしまうほどだったが、表面上に出さないようにする。
「通常は番っているものなのですか?」
「えぇ。・・・もしかしたら牽制もあるのかもしれませんね」
「え?」
「貴方にはすでに番がいるというのを、周りのαに知らしめているのです。
出なければ貴方はあっという間に捕捉されます」
「え??」
「・・・貴方の香りはとてもいい匂いがします」
「パルファムはつけていないのだが・・・、?」
そう言ったところで、如月が京の腕を引き一歩前にかばうように立つと、ダンが遮った。
「ははは!何をおっしゃっているのですか?Ωのフェロモンですよ。
抑えられてはいますがとてもいい香りです。・・・安心してください。
私は貴方には手を出しません。そんなことをしたら彼等に殺されますから」
そう言ってにへらと笑う司書。
『彼等』というのであればルボミールではないのだろう。
「誰にだ?」
「それは、私もお答えするわけには・・・」
「・・・そうか」
こちらも言えないことがあるのだ。
それを責めるわけにはいかない。
苦笑を浮かべると男を見た。
「まぁでも大丈夫です。貴方を惑わしてしまったとしても、私にはこれがありますから」
そういって首元を指さすと男はそのネックガードをまじまじと見る。
「・・・。それは本物なのですか?」
「うちのハカセ・・・まぁ今行方不明になっているが・・・。その男がこの世界の何かにインスパイアされて作ったものだ。この魔力を流してくれた人間以上に強い魔力を持つ者でないとこれは外れない」
「なるほど。それなら私は止めておきましょう。
それにしても、『運命の番』がいる貴方がそれを付けているのはまた感慨深いですね」
「え?」
「その影響されたというのは、かつて青の大魔法使いが恋人につけていたものだからです」
「・・・。・・・そうか・・・」
それはそれで複雑だ。
復活したという青の大魔法使いと会うことはないだろうが、もし会うとしたときにこれを見られるのは良い印象を与えないのであろうか。
そもそも『運命の番』を持つ。
その上でそれを壊したいと思っていると知ったら、・・・なんだかあまりいい展開を想像が出来ない。
だが、まぁこの国の偉人である彼にどこにも所属していない京が会うことはないだろう。
そう思うようにした。
☆☆☆
それから、再びハカセの調査をする。
それとなく、異世界転生の内容の本を探したりするが、異世界から人が来ることは書いてあるが、還す内容は早々なかった。
すると、本棚に影が落ちて見上げると、ローズクォーツがこちらを見下ろしていた。
「なにか?」
「帰りたいのか」
「?・・・いや。これは戻す方法があれば探しているだけだ。
あの島には帰りたい人間もいるだろうからな」
「それは見つかってもお前は帰らないということか」
「あぁ」
「それは良かった」
何が良いのか全く分からない。
そんなにもフェロモンと言うものがでて、αを誘い惑わせているのだろうか。
「私の体臭はそんなにするのか?」
「あぁ」
「次は香水でも作らせてみるか」
「そういうんじゃない。・・・ここを噛みたい衝動がふつふつと」
そう言った瞬間、京とルーカスの間にガラスの膜が張られた。
数日前に体験したそれが何かすぐに分かる。
しかし、今日は音は通過してくる。
「おやめください。殿下。
ルボミール王太子殿下と約束されていたでしょう。
必要以上の接触は許可しないと」
「そうはいうけどなぁ。ダン。お前は衝動はないのか」
その言葉にダンはあきれ顔で応えなかった。
ルボミールの話によると、ダンは魔力が高くフェロモンも避けられるほどの防御を張れるらしい。
それにしてもダンが結界が張れる人物でよかったと思う。
「兄上がこの国の姫と結婚するとなったら、俺が貰ってやる」
「お断りだ」
先日の様に言ったのだが、男は懲りずに結界前までやってくると、その結界に腕をついた。
そして、近づいてきて何をするのかと思ったら、・・・結界に口づけた。
思わず呆気に取られてそちらを見ていると、ローズクォーツが妖しく光る。
「俺は本気だぞ?」
・・・いや、それはまずいだろう
思わず心の中で突っ込む京だった。
その高さはイケブクロにある名物商業施設と同じくらいだが、それはいずれ抜かれるだろう。
この本棚は一番上に本を置くと自動で棚に置き換わるからだ。
そして天井も同じ様に成長する。つまり今でも成長している図書館なのだ。
司書と紹介された男に案内されながら図書館をまわる。
想像した以上に広く国立国会図書館よりも広かった。
この建物は、地上同様に地価も無限に広がっていて、どちらかというと地下の方が広いようだ。
体感温度も肌寒いは少し通り過ぎ寒くなっていくが、リコの気転により温かい状態にしてもらい、ハカセが消えたというあたりを探す。・・・が当然誰もいない。
如月達が探していた順路を追いながら歩くがとくに怪しいことはなかった。
ここに来るまで、『自ら消えたのではないか?』という可能性は自ら消せないように努めていた。
けれどこの場所に連れて来させられるとやはりそうではないんじゃないかと思ってしまう。
そのことに考えを聞きたくとも、ここにはルボミールは居ない。
「・・・」
アストリア帝国皇帝陛下に国の図書館だけでなく全国土への自由な訪問を許された。
青の大陸は赤の大陸のラージャよりもΩの差別は少ないそうで、Ωが1人で歩いても問題からと言う理由で京は1人で来ている。
ここにルボミールが居ないのは京自身が不要だと断ったからだ。
京は会話の中で、陛下が聞かなけばラージャへ圧力を与える節を感じたからだ。
そんな風に過激に言うのはこの世界では普通だったらしいが、京には気が気じゃなかった。
ハカセは探しに行きたいが、戦争なんて起こしてほしくない。
だから、陛下の案を飲むことにしルボミールを説得した。
中々イエスとは言ってくれなくて、京の体は跡だらけになった。
・・・もちろんキスマークである。
快楽と苦悶でせめられたが京は固くなに首をたてに振らず、折れたのはルボミールだった。
辛そうな表情をさせたのはとてもつらかったが仕方がない。
・・・とは思っているのだが、時間が募るにつれて不安になっていく。
「妃」にと紹介されたのは同席した姫だった。
『覚えているか?』なんて狸なのだろうかと思ったが、ラージャから来訪の理由を言われた時から思っていたことなのだろう。
そんな姫とルボミールは今日は夜会に参加しているのだろう。
「俺だったら絶対に手元にお前を置いておくが」
そう言ったのはルーカスだった。
ここに来るまで京と直接話すこともなかったのに。
訝し気にいつのまにか隣に来ていた男を見上げる。
「俺にしとけばそんな不安にもならなかったはずだ」
「・・・。顔にでていますか」
「いや?」
「それならよかったです。私は不安など感じてしませんが」
しかし、男はおかしそうに笑った。
京には知らないこの世界の何かがあるのだろうか。
ルボミールが良く察してくれるのは『運命』だからだと思っていたが、それは間違っていたのだろうか?
そんな気持ちで見上げると伸ばす手来た手のひらを、京は叩き落とす。
「兄上はあの姫をどうするのだろうな」
「どうとは。妃に迎えるか?ということですか」
「あぁ」
「それだたら可能性はありますね」
そう淡々に答える京にルーカスは驚いたように見てきた。
「私には『運命の番』と紹介された私にちょっかいを出しにくるほうが不思議ですが」
絶対数は少ないが子供への語り話である青の涙はよく聞かされていて、この世界でその話を知らないのはいないとまでされているほどだ。
「それ以上近づかないで頂けますか」
そう言って京の前に立ったのは如月だ。
精神を揺さぶるような発言をしたことだけでなく、先日の大臣達への顔見世の時に立ち合った際のルーカスの態度に如月は苛立ちを感じている。
「殿下。宿泊所にいらっしゃっても大丈夫ですよ」
ダンにすら警戒をされているルーカス。
しかし、ルーカスは戻らなかった。
その後も京の傍からしつこく離れない。
「俺がこんなにΩに媚びへつらうのは始めてだ」
「え。いつ媚へつらいだんだ」
「今」
「すまない、言葉の良意味がこちらとは違うようだ。
貴方の行動に一ミリとも媚びられたことも、へつらわれたことも感じたことがない。
どうだ、如月とニコには感じたか?」
「「いいえ、全く」」
「如月は当然として、ニコもそうなるとなると、Ωとαとでは大きく違いがあるようだな」
そういうと、ダンやリコまでも感じないといってきた。
どうやこの男はそういう男らしい。
だが逆に首をかしげてしまう。
「同じ王族なのにこうも違うとは・・・それは個性か?」
「不快に感じさせたか。・・・他のΩと違うその態度もやはりそそるな」
「俺はドMは専門外だ」
「・・・どえむ?よくわからないが。お前の発情期はいつなんだ」
その言葉に思い切り眉を顰めた。
そして、不快な視線を送った。
「俺はΩの出来損ないだからな」
『発情期など来ない』と言おうとしたのだが、司書のαが驚いたようにこちらを見てきた。
その反応があまりに大きかったので、意識がそちらへと移る。
「うるさかったな。申し訳ない」
「いえ。この辺りは一般の人間が専門書すぎ来たりはしません。
それにこの床と本棚たちが音を吸い込んでくれるのでそれほど響きません。
それは叫び声をあげたとしてもです」
それはつまり、ここでハカセがここで叫んだとしても、如月やダンに届かなかったとしても当然だったという事だろう。
「自らいう『Ωの出来損ない』はこの国ではいい意味にとらわれるのですよ」
「え?」
「この国、・・・いやこの世界の人類すべてにの偉人と言える方の伴侶は、常に自分のことをそう称しておりました。伴侶は・・・Ωのはずなのに発情期がなかったのです」
それはこの世界のほとんどのΩがうらやむ内容無いのではないだろうか。
そう思っていたが、司書が両手で口元をふさいだ。
「申し訳けありません。余計なことを」
「いいや。・・・ちょうどいい。今から休憩にしようと思うのだが、どこか休めるところはないか」
「えぇありますよ。これほど大きな施設ですから。1フロアーに1つは必ずあります」
そう言って司書の男がそのフロアーへと案内してくれる。
☆☆☆
司書の男のしてくれた話はとても興味深かく・・・少し気がまぎれた。
かなり昔の話ではあるが実話で、貴族のΩが赤字の商店を復活させこのアストリア帝国を潤わせたという話だった。
その商店の名前はケーシー・スミオリル。そのΩの名前だそうだ。
・・・リコやニコの遠い親戚だそうだ。
今よりもΩに厳しい時代ではあったが、その親・・・ケーシーの親はΩであっても自分の子供を愛していた。
ケーシーは発情期がなく、美しい見た目ではあったが貴族の貰い手が見つからなかったが、一つの商店をまかせそれを成功させたそうだ。
商店を引き受けた当時、赤字ですぐに親に泣きつくと思われていた。
しかし、売り上げを出し最終リミットを一ヵ月、また一ヵ月と伸ばしていき、気づけば赤字はなくなっていた。
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「その偉人とはもしかして賢者か?」
そう割ったのルーカスで、司書はそれに頷く。
ずっと『偉人』と話していたから全く別の話だと思っていたが、まさか肯定されるとは思わなかった。
「・・・もしかして、青の大魔法使いもいたりするのか?」
3賢者の1人に、青の大魔法使いもいて、京は思わず尋ねると司書はそれにもコクリと頷いた。
「はい。ケーシー様の恋人は青の大魔法使いです」
とてもにこやかにそう答えられるが、京はその時点で複雑な気分になる。
それまでは、Ωの奮闘記の様に聞いていたのだが・・・。
何故なら青の大魔法使いとケーシーはこの後、悲しい運命に流されていくからだ。
「・・・青の涙の話はご存じでしたか」
「あぁ・・・。あの話は事実なのだろうか」
実話に脚色されることは普通である。
だとしても、後世に語られる物語が悲しいもののわけがないのだが、聞きたくなってしまった。
「ケーシー様に『運命の番』が現れ、その後記憶を消してもずっと『運命』を探し求めたということであれば事実です」
「・・・、・・・、・・・」
その言葉に息を飲んだ。
なんて言っていいかわからず、言葉が出てこない。
司書の瞳を見返すが、その瞳は真っ黒で闇の様にとても深いことに気付く。
笑みを浮かべているのに、酷く冷たい。
・・・ハカセの笑い方みたいだ
その笑みを京が向けられることはないが、そんな笑みを他人にはよくしていたのを思い出す。
「そうか。・・・勉強になる」
「そう言えば、キョウ様は『運命の番』がいらっしゃるのでしたね」
「あぁ」
「こんなに離れていて不安にはならないのですか?『運命の番』なら離れている距離が遠くなればなるほど不安になるとありますが」
思わずいぶかし気に眉を顰めると、司書が応えてくれる。
青の大魔法使いの恋人であるケーシーは、この国の皇帝陛下と『運命の番』であった。
だからその記録がこの魔法図書館にも残されているそうなのだ。
「・・・そんなものが残っているのか」
第一声がそれだった。
しかし、それは司書には不愉快だったのか、初めて眉を顰める。
だが、そう感じてしまったのも言ってしまったのも仕方がない。
「いや。その話を聞いて感情移入をしすぎてしまったようだ。
もし、自分にそんなことが起きたなら辛いだろうなと。
・・・むしろ書き残すことで精神を保っていたのだろうか・・・。
その時代には抑制剤やΩのための精神安定剤もないだろうからな」
「精神安定剤?」
「・・・。司書殿は私達のことはどこまで聞いているんだ?」
「ラージャの王太子である、ルボミール殿下の『運命』と言う事は聞いております」
どうやらトシマ区の話は聞いていないようだ。
それなら京がこれ以上は話せない。
「なるほど。・・・先ほどの件は忘れてもらえないか」
「なぜでしょうか」
「殿下が話されていないことを、私が話すわけにはいかないでしょう」
苦笑を浮かべながら答えれば、司書の男は一応それで納得してくれたようだ。
「でも、ケーシー様が手記を残してくれたのは、私にも参考になります。
・・・それを考えると私の手記も残しておいた方が良いですね」
後世の参考になるのであれば、それは嫌がってもいられないだろう。
今のところタブレットで日記を残しているが、この世界の様式に移した方が良いのかもしれない。
「そばにいないことは確かに不安です。ですが薬を飲んでいるせいかそれほど不安ではないのです」
「薬ですか・・・気になりますね」
「まぁそれはいずれ。・・・皇帝陛下次第でしょうか。
・・・それともう一つの理由ですが、これです」
そう言って京はピアスを見せる。
「それは?・・・番のピアス?」
「はい」
「お二人は番われているのですか??」
「いえ」
そう言うとピタリと止まる。
瞬きもせずにこちらを見てくるその姿は少し怖いと思ってしまうほどだったが、表面上に出さないようにする。
「通常は番っているものなのですか?」
「えぇ。・・・もしかしたら牽制もあるのかもしれませんね」
「え?」
「貴方にはすでに番がいるというのを、周りのαに知らしめているのです。
出なければ貴方はあっという間に捕捉されます」
「え??」
「・・・貴方の香りはとてもいい匂いがします」
「パルファムはつけていないのだが・・・、?」
そう言ったところで、如月が京の腕を引き一歩前にかばうように立つと、ダンが遮った。
「ははは!何をおっしゃっているのですか?Ωのフェロモンですよ。
抑えられてはいますがとてもいい香りです。・・・安心してください。
私は貴方には手を出しません。そんなことをしたら彼等に殺されますから」
そう言ってにへらと笑う司書。
『彼等』というのであればルボミールではないのだろう。
「誰にだ?」
「それは、私もお答えするわけには・・・」
「・・・そうか」
こちらも言えないことがあるのだ。
それを責めるわけにはいかない。
苦笑を浮かべると男を見た。
「まぁでも大丈夫です。貴方を惑わしてしまったとしても、私にはこれがありますから」
そういって首元を指さすと男はそのネックガードをまじまじと見る。
「・・・。それは本物なのですか?」
「うちのハカセ・・・まぁ今行方不明になっているが・・・。その男がこの世界の何かにインスパイアされて作ったものだ。この魔力を流してくれた人間以上に強い魔力を持つ者でないとこれは外れない」
「なるほど。それなら私は止めておきましょう。
それにしても、『運命の番』がいる貴方がそれを付けているのはまた感慨深いですね」
「え?」
「その影響されたというのは、かつて青の大魔法使いが恋人につけていたものだからです」
「・・・。・・・そうか・・・」
それはそれで複雑だ。
復活したという青の大魔法使いと会うことはないだろうが、もし会うとしたときにこれを見られるのは良い印象を与えないのであろうか。
そもそも『運命の番』を持つ。
その上でそれを壊したいと思っていると知ったら、・・・なんだかあまりいい展開を想像が出来ない。
だが、まぁこの国の偉人である彼にどこにも所属していない京が会うことはないだろう。
そう思うようにした。
☆☆☆
それから、再びハカセの調査をする。
それとなく、異世界転生の内容の本を探したりするが、異世界から人が来ることは書いてあるが、還す内容は早々なかった。
すると、本棚に影が落ちて見上げると、ローズクォーツがこちらを見下ろしていた。
「なにか?」
「帰りたいのか」
「?・・・いや。これは戻す方法があれば探しているだけだ。
あの島には帰りたい人間もいるだろうからな」
「それは見つかってもお前は帰らないということか」
「あぁ」
「それは良かった」
何が良いのか全く分からない。
そんなにもフェロモンと言うものがでて、αを誘い惑わせているのだろうか。
「私の体臭はそんなにするのか?」
「あぁ」
「次は香水でも作らせてみるか」
「そういうんじゃない。・・・ここを噛みたい衝動がふつふつと」
そう言った瞬間、京とルーカスの間にガラスの膜が張られた。
数日前に体験したそれが何かすぐに分かる。
しかし、今日は音は通過してくる。
「おやめください。殿下。
ルボミール王太子殿下と約束されていたでしょう。
必要以上の接触は許可しないと」
「そうはいうけどなぁ。ダン。お前は衝動はないのか」
その言葉にダンはあきれ顔で応えなかった。
ルボミールの話によると、ダンは魔力が高くフェロモンも避けられるほどの防御を張れるらしい。
それにしてもダンが結界が張れる人物でよかったと思う。
「兄上がこの国の姫と結婚するとなったら、俺が貰ってやる」
「お断りだ」
先日の様に言ったのだが、男は懲りずに結界前までやってくると、その結界に腕をついた。
そして、近づいてきて何をするのかと思ったら、・・・結界に口づけた。
思わず呆気に取られてそちらを見ていると、ローズクォーツが妖しく光る。
「俺は本気だぞ?」
・・・いや、それはまずいだろう
思わず心の中で突っ込む京だった。
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