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ネックガード?

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青の大陸に向かう前日。
また雅に呼び出された。
少しでいいから来てほしいと。
忙しいからと断ったのだが、『アメリカに行くとかと規模が違うんだからね』と不吉なことを言われたが、要は心配だと言う事だ。
その為、トシマ区に一旦帰ることをルボミールに言うと一緒に行くと言ったら、急に執務室とつながっている方の扉が開く。
その扉はルボミールしか通ることが出来ない扉なのだが、来るときはダンも一緒なので滅多に開けられることはない。
まさか駄目だと言われるのかと思ったが・・・。
唐突に如月の方を見る。

「キョウは1時間後までに帰ってくればいいか」
「はい」
「わかった」

そう言ってこちらまでくると手を引き寄せられる。


・・・
・・



ルボミールの香りに包まれて、瞬きをするとそこは慣れ親しんだトシマ区の執務室だった。
京としては『行ってくる』と言ったつもりあったのだが。

「ルル・・・」
「ん?」

見上げればにこやかにほほ笑んでいて、苦言も言えない。
そもそもありがたいのは当然だからだ。

「・・・ありがとう」
「気にするな。これくらい容易い」

そう言ってこめかみに口づけられる。
本当に自然と出てくるから、いつも照れてしまう。

「でも忙しいのだから無理しないでくれ」
「忙しくとも俺にだって5分くらい席を外すことは出来る」
「そっか。じゃぁ、また一時間後に」

そんなときだった。
バタンとものすごい音を立てて扉を開けた。
そこにはお嬢様の姿は地球に置いてきたという雅が息を切らして立っていた。

「駄目!ここにいて頂戴!」
「み、雅っ」
「忙しいならどれも後回し!
王子、ここに魔力を送って頂戴!」

そう言って差し出したものは帯状のものだった。
何をしたいのか分からず、いぶかし気にするがぐいぐいとルボミールに渡す。

「雅」
「急いでいるんじゃないの?」
「はぁ・・・」

時間を貰えないだろうかと視線を送ると、苦笑を浮かべながらルボミールを見ればこくりと頷いた。

「それくらいは時間があるみたいだ」
「そう。これはね。Ωの項を守るためのネックガードと言うものよ。
この島に居るβの魔法の先生と考案したものなんだけど、魔力を流したこの布地は刃物やαの牙では破くことが出来ないの。
唯一ほどけるのはこれに魔力を流したらほどけるの。
島の魔力を持ったΩやβにもやってもらってけど、ちゃんと効果を見せたわ」
「それは・・・本当か?」

ルボミールは驚いたように尋ねると雅がコクリと頷く。

「なんかハカセみたいなことをしてるんだな・・・」
「『みたい』というか、彼が考えたんだもの。
・・・いえ。ハカセは誰かにインスパイアー受けた見たいと言った方が正しいかも。
設計状態のものだけが残されていたわ」
「やはり、あの男は何かを参考にしたのか」
「えぇ」
「それにしても御伽噺のような道具を良く作ったものだ」
「まぁ私は指示しただけで作らせただけなんだけど」
「・・・2人で分かっているところ申し訳ないんだが、もう少し詳しく言ってくれないか」

察することは出来るのだが、良くわからない。
するとルボミールが応えてくる。

「青の大魔法使いの恋人がつけていたとされているもので、Ωの突然の発情で影響されたαに噛まれても番にならないようにと作られたものだ」

また『青の大魔法使い』か。と、京は思う。
とはいっても生きてたようで、他の賢者仲間(?)に姿を現したことで話題になっていたから、旬な話なのかもしれない。

「オメガバースと言ったら抑制剤とネックガードみたいのがセットであると思ったから、先生(トシマ区で講師をしている教師)に聞いてみたら伝説の魔法使いの恋人はつけていたっていうじゃない。
実在するなら取り寄せようと思ったのだけど、それは今は実在しないものだっていうじゃない。
だから、ハカセの作ったAMの技術を参考にしようと思って部屋を漁ってたら出てきたの」
「・・・漁ったて。。。」
「だって本人がいないんだもの。仕方ないじゃない。
それよりも、αって他人の魔力を流されたものを身に着けさせるの嫌なんでしょ?」
「あぁ」
「やってもらえないかしら」

後半はルボミールに充てた言葉だった。
そう言って雅はルボミールの手のひらにそのネックガードを置いた。

「貴方がついていくなら安全だとは思うのだけど。心配なの」

雅がみ上げている間、ルボミールはそれを見返していた。
他の人間をそんな風にみられるのは、例え妹でも嫌だなと微かに感じながらもルボミールの反応を待つ。
すると、コクリと頷くと京の後ろに立った。
そして首に巻き付けると、そっと項に手を当てられほんのりと温かいのが流れてくる。
ルボミールの魔力を感じていると、名残惜しさを感じながらも手が離れた。
名残惜しく思いながら見上げると、腕をぎゅっと雅に引っ張られる。

「はい!無事についたみたいだからもう結構よ」
「み、・・・みやび・・・」
「わかった。・・・キョウ。一時間後に迎えに来る」
「あぁ」

雅の反応になれたのか。・・・と思ったのが。
京の手を取ると甲に口づけると、霧が濃くなるとすぅっと消えていった。
京がもの悲しさを感じている横で雅はぷはっと吹き出した。

「気障~!」
「・・・。お前なぁ・・・」
「あら。私が止めなかったらずっといちゃいちゃして、きっと王子は臣下達に悪く言われていたかもしれないわよ?」
「それは・・・そうかもしれないが。そもそも腐女子だったんじゃないのか」
「BLはファンタジーよ?・・・なんてね。
・・・今度会った時に謝っておくわ」
「約束だぞ?」
「えぇ。
・・・ラージャならまだいいのだけど。・・・アストリア帝国に行くのはちょっと心配なの。
それで八つ当たりしてしまったわ」
「ルルもいるのだから」
「王太子である王子がいるのは心強いかもしれないけれど、何があるかわからないわ」
「フラグ立てないでくれ」
「なにか問題があると恋を盛り上がるもなんだけどねっ!」

そういう雅は腐女子らしく、見慣れた姿で笑ってしまった。
言っていることが真逆なのだが、心配と期待が織り交ざっているのだろう。

それから久しぶりに2人で話をした。
ここに来てそれほど不自由を感じていないことや、むしろ楽しいということ。
でも、やはり買えなくなった本やCDにゲームは悔やまれるそうで・・・。
それを思うと買いに戻りたいという雅。
欲望にまみれた言葉に苦笑した。

「雅は戻れるかもしれないんだ。それも青の大陸で調べてくる」

しかし、その言葉に雅は不満げに眉を顰める。

「どういうこと?」

詳しく聞かれても、京にも仮定での話でしかなかった。
リコの話では自分は何者かによって召喚されたかのように聞こえた。
でもそれが事実なのか、そして誰がやったのかもまだわからないからだ。

「もしかしたら俺の所為で、この世界に転移したのかもしれない。
・・・そして、それを戻せる人物がいるようなんだ。
だから、俺はその人物なのか方法なのかを探そうかと思っている」
「・・・きょーちゃん」
「それで雅ににお願いしたいんだ」
「きょーちゃん」
「雅には帰ったら東雲家を」
「京っ!」
「まって、雅」
「っ」
「最後まで聞くんだ」

そういうとキっと睨んでくる雅。
それでもうわかってしまったから、聞く意味はないのだが京は言葉をつづけた。

「雅は地球に戻りたいか」
「・・・京と一緒なら嫌よ」
「ここには雅の好きなBLを作る人はいないぞ?」
「地球には京がいないわ!・・・それに、私が家に戻ったってどうやって東雲家をまとめていけというの!」
「・・・うーん。気合で?」
「馬鹿なこと言わないで。
そんなの以前の婚約者より有力な家の子息を送り込まれて結婚させられて人形になるだけだわ。
・・・勘違いしないで欲しいのだけど、マリオネットになるのが嫌なのは2番目の理由だから」

じっと見てくる視線が『京がいないところになんか行かない』と書いてある。
雅は両親の前では自分は出さない。
一歩引いて自ら話すこともしない。
あまり好きではないのだろうなという印象はあったが、帰りたくないというほど苦手に思っているとは思わなかった。

「私達を還すことよりも、京がちゃんとあの王子と幸せになる方法を見つけなさい。
それで私に萌えを提供するのよ」

最後の一言は要らなかったなぁと苦笑を浮かべる。

「だったら、雅もルルに辛く当たらないで欲しい」
「・・・。それは好きな人が家族に悪く言われるのは辛いからと受け取っていいかしら」
「そうだよ」

京が肯定すると、雅は嬉しそうにほほ笑んだ。

「なんだ・・・ちゃんと、2人は進んでいるのね。なら、さっきは悪いことしちゃったわね」
「どういうことだ・・・?」
「ここに来た時、やたら帰そうとしていたから、まだ『運命』で好かれることに抵抗があってあんなふるまいをしているのかと思ったのよ」
「いや・・・普通に考えて執務中の人間の作業を止めてここに運んでもらったんだから、帰そうともするだろう」
「あら、仕事中だったの??」

そういう雅は本当にそう思っていたようだ。

「じゃぁ次からは自分の楽しみに忠実にいきるね♪」

それはそれで嫌なのだが、京は苦笑を浮かべながらも頷いた。


「アストリアには気を付けていくのよ。
テレポストーンを使うと言っていたから、行くのは問題ないでしょうけど。
男は・・・いえ。αは全員狼だと思うのよ?」
「わかってるよ」

しかし、京のその言葉を胡乱な眼で見られるのだった。


まさか、婚約者の紹介としていくことと、ハカセの消息を探しに行ったのにあんなことになるとは思わなかった。
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