オメガバースの世界にトシマ区ごと異世界転生したけど、みんなオメガなのになかなかオメガバースしない話。

みゆきんぐぅ

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怪談話を聞かされるとは思わなかった。

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この世界には番同士が身につけると、離れていても互いの座標をしることができる『ピアス』がある。
元々、テリトリーを荒らされることが嫌いなαの為に作られた魔法道具で、番ったΩを管理するためのものだ。
利用者の魔力を使えばピアスをかいし座標にテレパシーを送ることも出来る。

京が持っているものは少し特殊だ。
京は魔法を使うことができないため、ルボミールの組織を組み込み使うことで使用が出来る。
また、京達は番っていないからそういった意味でも仕様が違う。

京も少しながらもその恩恵を感じていた。
忙しいルボミールを頼りすぎるのは良くないことだが、ピアスを通して気配を感じることが出来るのは安心できたから。

しかし、それが出来なくなりルボミールは京以上に荒れた。
暴走し京の周りに居る人間をバースに関係なくオーラでねじ伏せた。

そんな風に荒れた為に、京はラージャで暮らすようになったのだが。

「・・・ごめん。・・・その、テレパシーが使えなかったのは・・・俺の所為だったみたいだ」

解析したのもそこから新たに指輪状にしたのも凄い。・・・だがこんな副作用があるとは思わなかった。
京にだけなにならさほど気にしないが、それでルボミールを不安にさせてしまったわけなのだから申し訳なく感じる。
ちなみに、京は抑制剤の影響なのか、それともこの世界のΩじゃないからなのからなのか、それほど不安には感じなかった。
詫びをする京にルボミールは首を振った。

「いや。そのお陰でキョウと暮らすようになった。結果はいい働きをしたようだ。・・・だが」
「あぁ、うん。つけない。この部屋には置いといて良いか?」

ルボミールの気持ちもわかるし、だがハカセの気持ちもわかった。
幼いころから自分を守ってくれたうちの一人であるハカセの気持ちを、捨てることは出来なかった。

「物事はトライ&エラーだ。・・・今回のことは改善して住民に持たせたい」

これは観光地化に向けて、考えていたことだった。
入ってくる人間にはGPSを付ける予定だが、住民を守る術が欲しかった。
すでに警備ロボを配置し始めているが、ハカセの作った指輪は丁度よかった。

「その為にもこの指輪を再解析して何がいけないか調べないといけない」
「そうだな。ただ、今は不在だから、スミオラ家に聞くのもいいだろう。彼等は魔法道具の知識が豊富だ」

確かにそれも言えている。
京がニコから渡されたタリスマンを所持している間は、リコは普通に話してくれるはずだ。


☆☆☆

次の日。
休みを開けて城に戻った2人。
寂しくはあるが今は気配だけでなく、テレパシーも使え正確な位置が分かるからなのか、ルボミールが嬉しそうにしつつ執務に向かうのを見送る。
京は与えられた隣室にいつもの様に籠ると、ニコにお願いをしてリコに城に来てもらっていた。
そしてっ問題の指輪を見てもらうが、彼は厳しい顔をしている。

「・・・。これは・・・本当に何も知らないΩが・・・、いや。何も知らない人間が作ったのですか」
「あぁ」

ハカセはここに来る前も、あっと驚くものを作っていた。
人を完全に把握出来たり、追尾に特定する技術は特にすごい。
京は説明を聞いてみたがどうしても理解が出来ず、その道の人間を部下としてつけているが、どんなに素晴らしい研究員をつけても語彙力が途端に壊滅し『すごい』『真似できない』と言う。

具体性がなく意味が分からないと思うのだが、彼等は本当にそう感じているようでそれ以上は応えてくれない。
もし、部下の手柄を奪うようなことがあれば、そうはならないだろう。
だから、京は防御壁の解析もこの指輪もハカセが作ったと信じて疑わなかった。

「これはどういう経緯で作られたかご存じですか」
「防御壁の解析から得た知識で作ったとは、・・・思っているが」

曖昧になるのは本人に明確な確認しておらず、状況的な判断によるものだからだ。

「妙なことを伺っても」
「?・・・構わない」
「失礼ながらニコからあなたがどういう人がらなのかは聞いています。
あなた方はとても情味のある方々で、集団行動をしながらも他Ω・・・自分達ラージャから来たΩを虐げることがないとも」
「そうか。・・・まぁすべての人間を把握できているわけじゃないから、信用しすぎないで欲しいんだが」
「そうですね。ですが、それはどの人類に当てはまること。
私が言いたいのは、あなた方の傾向の話。
・・・ところでですが、防御壁は術者が常駐しているわけではありません。
にも拘わらず、防御システムを発動できる理由をご存じですか」
「・・・、・・・波?・・・光??」
「・・・。どういうことでしょうか」

京はいたってまじめだった。
防御壁が何らかのエネルギーで動いているとは思っていたのだが、そこはハカセの管轄だと思い詳しくは聞いてなかったのだ。
改めて聞かれると分からないもので、今までの知識から波発電や光発電だと思ったのだが、魔法も同じようにそれでエネルギーになるとは限らないだろう。

「いや。今のは忘れてくれ。
すまない。俺は防御壁の解析が終わったとは聞いているが、エネルギーの源がなんなのか聞けていないんだ」

その様な間もなくハカセは研究のためにこの地を去ったからである。
まぁ聞いても例によって理解が出来ないとは思うが・・・。

「そうですか。ところで、このことは魔法研究施設にしらせても良いでしょうか」
「どういうことだ?」
「悪い意味ではありません。・・・なにも知識のなかった人間がこれを作れることは驚異であり、その知識はより深めていくべきだと思います」
「ハカセは・・・変態だからな」

嫌そうに言うとリコには伝わらなかったようで、苦笑した。

「いや。あいつには誉め言葉なんだ。・・・困ったところもあるが、着眼点やそれに勝る実績はとても助かっている。けど、理屈が通用しないから良くそういう風に言い表すんだ」
「なるほど。・・・確かにこの世界の研究馬鹿と変わらないところはあるかもしれませんね」
「研究馬鹿!・・・確かにそうだ。・・・で、あまり聞きたくはないんだが、このエネルギーの源、・・・魔力はなんで稼働しているんだ」

最悪、魔法防御壁の一部を採取くらいですんでほしいと思っていたのだが。

「魔力の高いαの細胞です」
「・・・、・・・、・・・、あいつはなんてことしてるんだ」

リコが誘導してくれている間に良くないものが当てられているんだろうなとは思っていた。

「大丈夫ですよ。人体細胞だと分からない状態です。
人の瞳や髪、骨などは良い素材なんですが、数百年前にとある魔力の高い民族が瞳目当てで狩られ、人権保護団体の訴えから人体細胞を採取することは禁止されています」
「全っ然安心できないが?」
「人体細胞を売る人間もいるのですよ。まぁ、自分の魔力を知らせるようなものなので、日々の生活費に困った人間がやる行為ですが」
「・・・他人の細胞を身に着けることをあまり、良いこととは感じていない」

例えそれで守られているとしてもだ。
だが、ふと思った。

「・・・人体細胞だと分からない状態ってどういうことだ」
「あまりお聞きにならない方が良いことかもしれません」
「今更遅い」
「そうですか。・・・であれば申し上げますが・・・。これは」

そう言ったところだった。
勢いよく扉を開けて入ってきた人物に驚いた。

「・・・如月?」

その後ろにはルボミールとダンもいる。
どういう状況なのか困惑する。


まさか、如月は知っていた・・・?


2人は仲が悪いと言う事は無い。
ただ、良くもない。
それは、ハカセに協調性が無いことや、他人に興味を示さないためだ。
しかし、それよりもここに居ることが可笑しいことに、漸く思い至った。

「申し訳ございません・・・っ」
「おかえり、如月。丁度良かった。ハカセに聞きたいことがあるんだけど、あいつはどこに?
・・・まさか研究施設が良いとかいいだしたか?」
「それの方が良かったかもしれません」

そう答えたのはダンだ。
意味が分からずに首をかしげる。

「・・・ハカセが・・・消えました」
「え」

如月に悦明を求めるように視線を向けるが、沈痛な面持ちでこちらを見てきている。
続いてダンを見れば小さくため息をついた。

「魔法研究所に隣接している魔法中央図書館で資料を調べている間に姿を消したんです」
「魔法中央図書館・・・」
「あの中は迷宮の様になっているので、ずっと勝手に離れるなと言っていたのですが、最初頃はしたがっていたのですが。・・・今思えばあれは撒くための行動だったと思いますね」
「・・・」

如月がその言葉に反応しないと言う事は、如月もそう思っているのだろう。
聞けば最初はおとなしく本を読んでいたらしい。
本を読むのも脅威の速さで二人は驚きつつも、実際に読み頭に入れ込んでいることを知りハカセの願いをかなえるべく、欲しがる本を探しに行っていたそうだ。
それは次第に巻数が増えていき、ダン1人では持ちきれなくなったため、如月も同行したそうなのだが戻った先にハカセの姿が無くなっていたそうだ。

「・・・、撒いた、・・・なら良いんだけどな」

良くはない。だがそれならまだ敵意が無いと分かるからだ。
しかし、攫われたとなると話は別だ。身の安全がそこから割合が大きく下がる。
京はタブレットのアプリを起動する。

「GPSを起動しよう」
「・・・もう探索済みです」

そう言った如月の手にはハカセが来ていた服と、GPSが搭載されたスマートフォンがあった。


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