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本当に気が早い。
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多忙極めるところを、ルボミールは1週間後に時間を取ってくれた。
かなり無理をしてくれたのだろうと思う。
普通に考えてもそうなのだが、それを知らせてくれたのは大臣達だ。
忙しいなら京のところに来なくていいと思うのだが、『殿下は今まで私情で休むようなことはなかった』だそうで。
この事について、良いことだと考える人間と、悪いことだと考える人間と様々なのだが・・・。
それはまぁ良いとして、そんなことを言うために多くの人間がたくさん訪れていた。
京としてもトシマ区の代表としても、ルボミールの伴侶になるのであれば、毅然とした態度で対応していた。
最初は明らかないびりに来ていた輩も、次第に表情は柔らかくなり使いの者が呼びに来るまで京の部屋に居座った。
京は真面目に話を聞いている体裁で、タブレットだけで仕事をしていたのだが、そんな風に忙しかったのも1日だけだった。
次には来訪はパタリとやみ、昨日の忙しさは何だったのかと思いつつも、やはり延期にした方が良いような気がしてきた。
それをクルトに尋ねると、3人そろって反対された。
特にダミアンから止めた方が良いとアドバイスを受ける。
もともと2人はルボミールが手配してくれた文官であるから、言っていることは間違っていないのだろうが、あんなに臣下に反応されるのであれば、残念だが延期したほうが良いのでは?と気を遣うのは無理もなかった。
けれど、毎晩の様に京の顔を見るなり破顔させ、楽しみだと言ってくれるルボミールに「延期しよう」と、言える空気ではなかった。
喜んでくれるルボミールに京も嬉しかったからである。
本当に楽しみにしていた。
だからまさかあんなことになるとは思わなかった・・・。
☆☆☆
当日の朝。
スマートフォンからアラームが鳴っている。
これはコール音だ。
大抵オンラインになるまでかけられることがすくないなか、かけてくるであろう人物は2人だが、1人は旅に出ていてもう1人はトシマ区に残っている。
どっちからの呼び出しなのだろうかと思いつつ、マイクを耳にセットしつつ応答する。
『きょーちゃんっ大変っ』
「!?・・・みー?」
声の主は妹の雅だった。
ひっ迫した声に眠気も一気に覚めた。
「どうした。緊急事態か?」
SP達からではなく雅から連絡されるということは、それだけ緊急度が高いということだ。
まだ知らない国に襲撃でもされたのだろうか。
如月がいないだけで、こんなにも簡単に連絡が通らなくなるなんて。
起き上がると寝間着に手を掛けた。
ふと見ればルボミールも起きていて険しい表情をしている。
『っ・・・すぐにきて・・・!』
「っわかった。なるべく安全なところに。部屋についたらまた連絡する」
そう言ってコールを切ると、2人で急いでトシマ区に向かった。
☆☆☆
部屋につくなり、すぐにコールをするが全くつながらない。
妹の部屋に向かう。
「キョウ!待て。俺が開ける」
扉に手を伸ばすが先にルボミールに止められ、ルボミールが扉を開けた。
「!」
京はハカセの作った防御の指輪を付けているから、例え衝撃がこようとも平気だが、
ルボミールは護衛も防御もつけていないのに、なんて無防備なことをするのだろうか。
しかし、ルボミールが部屋の中をみて固まっていて、京もその視線を追った。
そこには対に置かれたタキシードがおかれていたのだ。
「「・・・」」
「きょーちゃん!まってたわっ
見て!
これは仮の作品なんだけどねっ
是非2人の結婚式のお色直しの一部で良いから来てほしいのっ
レイヤーさんにお願いしてね作ってもらったのぉぉ~っ
私やっぱり結婚イベントは受けにはドレスよりもタキシードきててもらいたくてね、それでねっ
きょーちゃんに合う色とか王子の髪の色と目の色と合う感じの色を探してねっ
やっと仮製法が昨日の夜に出来てねっ
流石に夜だと仲良くしてると悪いからって思ってさっきあんな電話しちゃったんだけどねっあはは♪
ねぇ着てみて!・・・、・・・て、・・・どうしたの?」
感極まっている妹に二人で呆気に取られていると、きょとんとした視線をこちらに投げてきた。
「っ・・・」
「・・・キョウ、落ち着いて」
怒っている様子はないが、苦笑を浮かべるルボミール。
雅とハカセは甘やかしては駄目なのだ。
ルボミールをみるとなだめるように背中を撫でられ、一つ呼吸を置くとキラキラと尊いものを見るようなまなざしの妹に視線を向けた。
「さっき緊急事態か聞いたときにちゃんと言ってよ」
「え。緊急事態じゃない。
きょーちゃんの結婚式よ?晴れ舞台よ?人生に一回しかない。そうよね?王子」
「あぁ」
「その大事な催しものの衣装の仮製法が数日でほぼ寝ないで仕上げたのよ!?緊急事態じゃない!」
「・・・、」
雅の指さす方には目の下にくまを作り顔色の悪い人間がたくさんいた。
なかにはラージャの人間もいるようだった。
みんな頑張ってくれたのが分かって京もそれ以上は言えなくなってしまう。
「・・・悪かった、雅。みんなも俺のためにありがとうな?」
「俺達だろう?」
「!・・・あぁ」
そういうと、『きゃー♪』と黄色い声が上がる。
徹夜で辛いんじゃないんでしょうか・・・。
「キョウ。・・・見てみろ。ここにラージャの伝統的な刺繍がされている」
「本当だ・・・」
「本当は王家の紋章を入れようかとも思ったけれど、そう言うのって許可とか指定の製法所でしか許可していないかと思ったからやめておいたの」
「そうだな。だが正式に許可の書状を出すからデザイン案を送ってくれないか」
「わかったわ」
ルボミールの言葉に雅はフフフっと笑みを浮かべた。
「ところで、これは?」
「これはうちの家紋と、トシマ区のシンボルのソメイヨシノという桜を・・・いえ。花を刺繍してあるの。エリ元の装飾は桜の花びらよ」
ネクタイの刺繍は、京にとっては見慣れたものだ。
対のタキシードはカジュアルな色の布で、刺し色に深みの色を使うことでしまった感じのものだった。
ルボミールの色を身に着けると思うと嬉しく思う。
「きょーちゃんはなんか気になるところある?」
「・・・。いや。素晴らしい出来でとても嬉しい。
ありがとう、雅。みんなも。ありがとう。
でも、何時着れるか・・・」
ルボミールがピクリと反応したがそれよりも、早く反応したのは雅だ。
「あら。今日のデートで来てもらうのよ?」
「え。・・・、でもさっき仮製法って」
「だから、これは仮だってば。結婚式の衣装を一週間という短い期間で仕上げるわけないでしょう。
これは仮だけど仕上げるのは一時間もかからない。2人が準備している間には仕上がってるわよ♪」
「・・・準備・・・?」
「そうよ!さーみんな!これの仕上げと、ちゃんとした採寸をするわよ!」
そういうと、疲労が見えていた人たちはしゃきんと動き出す。
言われて渋々と言った感じに見えないのは、自分達がしたことだからなのだろうか。
「これがちゃんと着れる日。いつかそう言う日を作ってくださると思っていていいのよね?王子」
「あぁ」
「み、・・・雅」
「きょーちゃんの不安もわからないでもないんだけどね。
だったら番わなくたって結婚しとけばいいのよ。
2人で居ると安心できるんでしょう?」
「ぁ・・・あぁ」
「それとも王子が結婚したくないとかあるの?」
「キョウが良ければ、今すぐにでも」
「っ」
「きまりね♪ふふ~後で先生にラージャの様式を教えてもらわないと。
そうだ。
きょーちゃんの方は大丈夫だけど、王子の採寸させてもらえるかしら」
「喜んで。キョウ。頼めるか?」
「え?」
「・・・俺が女性に触られても平気なのか?」
「っ・・・」
そんなことを改めて聞かれると面白くなくて、思わず雅に手を伸ばすとくすくすと笑いながらメジャーを渡される。
その後もしばらくは妹に言いように扱われた。
その目は趣味方面で絶対に楽しんでいるが、根底は応援したいというのが分かっているから何も言えなかった。
「じゃ。次はエステね!王子、ここにはΩの男しかいないけど、貴方の事を異性だと思っている人はいないから平気よ!こっちへついて着て頂戴。きょーちゃんはそっちね」
「え、別々?」
「あらあら。そんなに一緒にいたいのぉ~?」
「っくっ・・・ルル、大丈夫か・・・?」
「あぁ。こちらは大丈夫だ」
押しの強い雅に引かれないか心底心配になったが、その表情からは特に嫌悪感は見られなかった。
それにほっとしたのもつかの間。
京は泣くことになる。
全身つるつるぴかぴかにされた。
雅の要望だったと後日知った京は、数日間話をしなかった。
☆☆☆
【別視点:ルボミール:雅】
別室に連れて来られ、入った部屋には誰もいなかった。
これは予想通りの展開だった。
雅の方をみれば先ほど浮かべていた笑みは抑えられていたが、瞳は笑っていなかった。
「王子にお伺いしたいことがあります」
「先ほどの口調で構わない」
「あら、そう?」
双子で京と似た顔なのに、全く違うと思った。
同じ血が流れているはずなのに、ここまで違うのも興味がわく。
「貴方はちゃんと京が『運命の番』だと認識しているの?」
「あぁ」
「・・・間違いないのね?」
「もちろんだ」
「・・・。京はね。私のたった一人の家族なの。それは故郷に居た時からも変わらないわ」
「・・・、」
「そのたった一人の家族を貴方は奪うのよ」
そういう視線は冷たく恨みを感じた。
でも、それだけではないようですぐに眉を下げた。
「だから、絶対に幸せにしなきゃ駄目よ」
「約束しよう」
「その言葉は取り消せないわよ?
・・・それに、京が言う通り、私たちはイレギュラーな存在で、
・・・いつか『運命』でなくなってしまうかもしれない。
ハカセや・・・誰かが作った『運命の番』を壊すものを作ったとしても、それは絶対よ」
まっすぐこちらを見てくる雅が少し震えている。
「誓おう」
「・・・。絶対、・・・絶対泣かしたら許さない。
番って強制解除しようものなら呪うから!
日本の呪い祟ってやるからっ」
そのやけになった言葉を聞きながら、小さく震える雅にそっとハンカチを差し出す。
それを受け取り目元を抑え俯きながらつぶやかれる。
「早く「『運命』が壊れるのが怖い」なんて言わせてないで、めろめろで幸せでぐちゃぐちゃになるほど愛しなさいよ」
呪詛の様に吐き出された内容は真逆なものでルボミールは苦笑を浮かべるのだった。
┬┬┬
雅はブラコンです。
恋人になりたいわけじゃないけど、京が大好きです。
また、そこまでネグレではないですが、京の両親や祖父母は余り雅に興味をしめしません。
それを察知し、京は家の中に居る間は常に雅を気に掛けます。
だから、雅は京が大切なのです。
だけど、力がなくてふがいなくて悔しくて泣いてしまったのです。
かなり無理をしてくれたのだろうと思う。
普通に考えてもそうなのだが、それを知らせてくれたのは大臣達だ。
忙しいなら京のところに来なくていいと思うのだが、『殿下は今まで私情で休むようなことはなかった』だそうで。
この事について、良いことだと考える人間と、悪いことだと考える人間と様々なのだが・・・。
それはまぁ良いとして、そんなことを言うために多くの人間がたくさん訪れていた。
京としてもトシマ区の代表としても、ルボミールの伴侶になるのであれば、毅然とした態度で対応していた。
最初は明らかないびりに来ていた輩も、次第に表情は柔らかくなり使いの者が呼びに来るまで京の部屋に居座った。
京は真面目に話を聞いている体裁で、タブレットだけで仕事をしていたのだが、そんな風に忙しかったのも1日だけだった。
次には来訪はパタリとやみ、昨日の忙しさは何だったのかと思いつつも、やはり延期にした方が良いような気がしてきた。
それをクルトに尋ねると、3人そろって反対された。
特にダミアンから止めた方が良いとアドバイスを受ける。
もともと2人はルボミールが手配してくれた文官であるから、言っていることは間違っていないのだろうが、あんなに臣下に反応されるのであれば、残念だが延期したほうが良いのでは?と気を遣うのは無理もなかった。
けれど、毎晩の様に京の顔を見るなり破顔させ、楽しみだと言ってくれるルボミールに「延期しよう」と、言える空気ではなかった。
喜んでくれるルボミールに京も嬉しかったからである。
本当に楽しみにしていた。
だからまさかあんなことになるとは思わなかった・・・。
☆☆☆
当日の朝。
スマートフォンからアラームが鳴っている。
これはコール音だ。
大抵オンラインになるまでかけられることがすくないなか、かけてくるであろう人物は2人だが、1人は旅に出ていてもう1人はトシマ区に残っている。
どっちからの呼び出しなのだろうかと思いつつ、マイクを耳にセットしつつ応答する。
『きょーちゃんっ大変っ』
「!?・・・みー?」
声の主は妹の雅だった。
ひっ迫した声に眠気も一気に覚めた。
「どうした。緊急事態か?」
SP達からではなく雅から連絡されるということは、それだけ緊急度が高いということだ。
まだ知らない国に襲撃でもされたのだろうか。
如月がいないだけで、こんなにも簡単に連絡が通らなくなるなんて。
起き上がると寝間着に手を掛けた。
ふと見ればルボミールも起きていて険しい表情をしている。
『っ・・・すぐにきて・・・!』
「っわかった。なるべく安全なところに。部屋についたらまた連絡する」
そう言ってコールを切ると、2人で急いでトシマ区に向かった。
☆☆☆
部屋につくなり、すぐにコールをするが全くつながらない。
妹の部屋に向かう。
「キョウ!待て。俺が開ける」
扉に手を伸ばすが先にルボミールに止められ、ルボミールが扉を開けた。
「!」
京はハカセの作った防御の指輪を付けているから、例え衝撃がこようとも平気だが、
ルボミールは護衛も防御もつけていないのに、なんて無防備なことをするのだろうか。
しかし、ルボミールが部屋の中をみて固まっていて、京もその視線を追った。
そこには対に置かれたタキシードがおかれていたのだ。
「「・・・」」
「きょーちゃん!まってたわっ
見て!
これは仮の作品なんだけどねっ
是非2人の結婚式のお色直しの一部で良いから来てほしいのっ
レイヤーさんにお願いしてね作ってもらったのぉぉ~っ
私やっぱり結婚イベントは受けにはドレスよりもタキシードきててもらいたくてね、それでねっ
きょーちゃんに合う色とか王子の髪の色と目の色と合う感じの色を探してねっ
やっと仮製法が昨日の夜に出来てねっ
流石に夜だと仲良くしてると悪いからって思ってさっきあんな電話しちゃったんだけどねっあはは♪
ねぇ着てみて!・・・、・・・て、・・・どうしたの?」
感極まっている妹に二人で呆気に取られていると、きょとんとした視線をこちらに投げてきた。
「っ・・・」
「・・・キョウ、落ち着いて」
怒っている様子はないが、苦笑を浮かべるルボミール。
雅とハカセは甘やかしては駄目なのだ。
ルボミールをみるとなだめるように背中を撫でられ、一つ呼吸を置くとキラキラと尊いものを見るようなまなざしの妹に視線を向けた。
「さっき緊急事態か聞いたときにちゃんと言ってよ」
「え。緊急事態じゃない。
きょーちゃんの結婚式よ?晴れ舞台よ?人生に一回しかない。そうよね?王子」
「あぁ」
「その大事な催しものの衣装の仮製法が数日でほぼ寝ないで仕上げたのよ!?緊急事態じゃない!」
「・・・、」
雅の指さす方には目の下にくまを作り顔色の悪い人間がたくさんいた。
なかにはラージャの人間もいるようだった。
みんな頑張ってくれたのが分かって京もそれ以上は言えなくなってしまう。
「・・・悪かった、雅。みんなも俺のためにありがとうな?」
「俺達だろう?」
「!・・・あぁ」
そういうと、『きゃー♪』と黄色い声が上がる。
徹夜で辛いんじゃないんでしょうか・・・。
「キョウ。・・・見てみろ。ここにラージャの伝統的な刺繍がされている」
「本当だ・・・」
「本当は王家の紋章を入れようかとも思ったけれど、そう言うのって許可とか指定の製法所でしか許可していないかと思ったからやめておいたの」
「そうだな。だが正式に許可の書状を出すからデザイン案を送ってくれないか」
「わかったわ」
ルボミールの言葉に雅はフフフっと笑みを浮かべた。
「ところで、これは?」
「これはうちの家紋と、トシマ区のシンボルのソメイヨシノという桜を・・・いえ。花を刺繍してあるの。エリ元の装飾は桜の花びらよ」
ネクタイの刺繍は、京にとっては見慣れたものだ。
対のタキシードはカジュアルな色の布で、刺し色に深みの色を使うことでしまった感じのものだった。
ルボミールの色を身に着けると思うと嬉しく思う。
「きょーちゃんはなんか気になるところある?」
「・・・。いや。素晴らしい出来でとても嬉しい。
ありがとう、雅。みんなも。ありがとう。
でも、何時着れるか・・・」
ルボミールがピクリと反応したがそれよりも、早く反応したのは雅だ。
「あら。今日のデートで来てもらうのよ?」
「え。・・・、でもさっき仮製法って」
「だから、これは仮だってば。結婚式の衣装を一週間という短い期間で仕上げるわけないでしょう。
これは仮だけど仕上げるのは一時間もかからない。2人が準備している間には仕上がってるわよ♪」
「・・・準備・・・?」
「そうよ!さーみんな!これの仕上げと、ちゃんとした採寸をするわよ!」
そういうと、疲労が見えていた人たちはしゃきんと動き出す。
言われて渋々と言った感じに見えないのは、自分達がしたことだからなのだろうか。
「これがちゃんと着れる日。いつかそう言う日を作ってくださると思っていていいのよね?王子」
「あぁ」
「み、・・・雅」
「きょーちゃんの不安もわからないでもないんだけどね。
だったら番わなくたって結婚しとけばいいのよ。
2人で居ると安心できるんでしょう?」
「ぁ・・・あぁ」
「それとも王子が結婚したくないとかあるの?」
「キョウが良ければ、今すぐにでも」
「っ」
「きまりね♪ふふ~後で先生にラージャの様式を教えてもらわないと。
そうだ。
きょーちゃんの方は大丈夫だけど、王子の採寸させてもらえるかしら」
「喜んで。キョウ。頼めるか?」
「え?」
「・・・俺が女性に触られても平気なのか?」
「っ・・・」
そんなことを改めて聞かれると面白くなくて、思わず雅に手を伸ばすとくすくすと笑いながらメジャーを渡される。
その後もしばらくは妹に言いように扱われた。
その目は趣味方面で絶対に楽しんでいるが、根底は応援したいというのが分かっているから何も言えなかった。
「じゃ。次はエステね!王子、ここにはΩの男しかいないけど、貴方の事を異性だと思っている人はいないから平気よ!こっちへついて着て頂戴。きょーちゃんはそっちね」
「え、別々?」
「あらあら。そんなに一緒にいたいのぉ~?」
「っくっ・・・ルル、大丈夫か・・・?」
「あぁ。こちらは大丈夫だ」
押しの強い雅に引かれないか心底心配になったが、その表情からは特に嫌悪感は見られなかった。
それにほっとしたのもつかの間。
京は泣くことになる。
全身つるつるぴかぴかにされた。
雅の要望だったと後日知った京は、数日間話をしなかった。
☆☆☆
【別視点:ルボミール:雅】
別室に連れて来られ、入った部屋には誰もいなかった。
これは予想通りの展開だった。
雅の方をみれば先ほど浮かべていた笑みは抑えられていたが、瞳は笑っていなかった。
「王子にお伺いしたいことがあります」
「先ほどの口調で構わない」
「あら、そう?」
双子で京と似た顔なのに、全く違うと思った。
同じ血が流れているはずなのに、ここまで違うのも興味がわく。
「貴方はちゃんと京が『運命の番』だと認識しているの?」
「あぁ」
「・・・間違いないのね?」
「もちろんだ」
「・・・。京はね。私のたった一人の家族なの。それは故郷に居た時からも変わらないわ」
「・・・、」
「そのたった一人の家族を貴方は奪うのよ」
そういう視線は冷たく恨みを感じた。
でも、それだけではないようですぐに眉を下げた。
「だから、絶対に幸せにしなきゃ駄目よ」
「約束しよう」
「その言葉は取り消せないわよ?
・・・それに、京が言う通り、私たちはイレギュラーな存在で、
・・・いつか『運命』でなくなってしまうかもしれない。
ハカセや・・・誰かが作った『運命の番』を壊すものを作ったとしても、それは絶対よ」
まっすぐこちらを見てくる雅が少し震えている。
「誓おう」
「・・・。絶対、・・・絶対泣かしたら許さない。
番って強制解除しようものなら呪うから!
日本の呪い祟ってやるからっ」
そのやけになった言葉を聞きながら、小さく震える雅にそっとハンカチを差し出す。
それを受け取り目元を抑え俯きながらつぶやかれる。
「早く「『運命』が壊れるのが怖い」なんて言わせてないで、めろめろで幸せでぐちゃぐちゃになるほど愛しなさいよ」
呪詛の様に吐き出された内容は真逆なものでルボミールは苦笑を浮かべるのだった。
┬┬┬
雅はブラコンです。
恋人になりたいわけじゃないけど、京が大好きです。
また、そこまでネグレではないですが、京の両親や祖父母は余り雅に興味をしめしません。
それを察知し、京は家の中に居る間は常に雅を気に掛けます。
だから、雅は京が大切なのです。
だけど、力がなくてふがいなくて悔しくて泣いてしまったのです。
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