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運命の番の話を聞かされました。③
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荒い呼吸が落ち着くまでルボミールに優しく撫でられた。
それに安心していたのだが、次第に理性が戻ってくると恥ずかしくてたまらなくなる。
その視線から逃げるよう立ち上がると、スラックスと下着を拾い上げるそれを着る。
濡れた感触が気持ち悪いが見せたままなのは恥ずかしかったのである。
京は少し離れてソファーに座って視線を逸らす。
そして恨みがましく呟いた。
「・・・Ωの発情を疎んでるんじゃないのか」
きっと、ルボミールに帰せと言った時に帰してくれたなら、こんなことにはならなかった。
苛立った声で言うと苦笑が漏れた。
「一般的には。俺もシノノメ殿以外のΩの発情など不快なだけだ」
戻された呼び名に寂しくも思うがそのまま続ける。
先ほどのあれは「知らないこと」にしてくれるらしい。
自制は自分ではできなかった。優れていると言われるαなら抗ってほしい。
抗えないとすでに聞いているが、そんなことを思ってしまう。
ルボミールが抵抗剤を飲んでくれていなかったと思うとぞっとした。
「そこに俺も含めてくれ、お願いだから」
「それは難しいな。・・・今はそばにいるからそうでもないが、離れたらまた発情させることばかり考えるな」
「!?・・・ルルの所為だったのか?」
「恐らくは」
「っ半日に一回は飲むようにする」
なんて恐ろしいことなのだろうか。
「・・・まってくれ。もしかして毎日のように発情していたのはルルの所為・・・?」
しかしその言葉に眉を顰めるルボミール。
「毎日?」
「・・・うん。この世界に来て一回着た後はしばらくなかったけど、ラージャに来てから・・・。
そう言われてみればルルに会った日は大抵そうだったかもしれない」
余りにもくるから怖くなって毎日のように飲んでいたから、正確なことは分からないが前兆はルミボールが来る日が近かったように感じる。
一時は飲みすぎによる抗体?でもできてしまったのかと思ったが、原因が分かったなら余計に飲まなければと思った。
しかし、ルボミールは厳しい表情を浮かべる。
「それは止めた方がいい」
「なぜ?」
「俺に暴走されて閉じ込められたいか?」
「・・・、」
その言葉に唖然としてしまう。
すると、ルボミールは距離を置いて座っていたのを詰めてくると京の手を取る。
「!・・・手が汚れて・・・、え?」
すると、かさついていた手がスッと綺麗になった。
初めて見るものだがルボミールがしたのだと分かる。
そして綺麗な手を握ると指を絡めて握ってきた。
「・・・。まだ運命の番の話をしていなかったな」
『番』ということはバースに関係があるのだろうか。
先ほどの強制力は抗えなかった。
通常時では考えられないほど淫らなこと我慢できなくなってしまっていたのだ。
ルボミールの様子がおかしかったのは、彼にも働いていたのだろうか。
「シノノメ殿の薬はよく効く。我が国の抑制剤よりも遥かにきくようだ。
・・・それは俺にもな」
「え?」
発情期に効くかどうかの観点しか見ていなかったから、αにも風邪薬の抑制剤が効くとは思わなかった。
Ωの発情に効く抑制剤であり、αの抵抗剤にもなるなんて万能薬じゃないか。
思わず販売について考えてしまうが、ルボミールの真剣な表情に思考をもとに戻す。
「だが、その前に基本を説明する必要がありそうだ」
「以前聞いたこと以外にもあるのか?」
正直なところ、トシマ区で製剤する薬剤師や医師、研究者たちは現地のΩやβ達から調べているのだろうが、京はまだそこまで追い付いていないのが実情だ。
先ほども言った通り、トシマ区を潤おわせ安定させることに集中しており、困ったら抑制剤を飲んでる。
「Ωの発情周期は分かるか?」
「・・・えーっと、3か月に1回だったかな」
「そうだ。本来その周期で来てαを誘惑するフェロモンを纏う。
そのフェロモンはΩだけでなくαの正常な思考まで凌駕する。
Ωを抱き、突き上げ啼かせて・・・この項に噛み跡をつけることしか考えなくなる」
「っ」
ルボミールにするりと首筋を撫でられると体が震えた。
「っ・・・そこっ・・・ゃっ」
何度もそこを撫でられると収まったはずの興奮と、なぜか恐怖が沸いた。
「怖いだろう・・・?」
「ど、・・・して?」
「ここはΩにとって大事な場所の一つだからだ」
「項が?」
「あぁ」
そう言うと項から手を離された。
「αにここを噛ませることで番うことは話したな?
番状態になると具体的にどういう事になるかは知っているか?」
「・・・わからない」
「αと番うことでΩは番以外のαを誘わなくなる」
「良いことじゃないか」
そう言うとルボミールは目を細め、少し冷気を纏わせる。
「っ・・・だって実際問題そうだろう?Ωとかαとか関係なく、自分がそういう病気になったと考えたらそう思う」
「・・・。それで俺以外のαと番って後悔するのは貴方だ。・・・簡単には逃がす気はないが」
「ルル以外のαとは考えてなかったな」
京がそう言うと、不機嫌な冷気がシュッと引っ込んだ。
「・・・でも、好意を受け取るつもりがないなら、ルルじゃない方が・・・冗談だ」
そう言いかけた途端再び冷えて思わず苦笑を浮かべた。
怖かったはずのこの冷たさや熱さは、自分に向けられた好意の形の様だ。
でも困ってしまう。ルボミールの気持ちを受け取ることは出来ない。
「そんなに俺が壊れて良いなら試すと良い」
「・・・その、ルルのそれはΩが抱き心地が良いからとか」
「シノノメ殿」
「仕方がないじゃないか。俺は分からないって知っているだろう?」
再び発する冷気に、怒られても京が知るわけもない。
むしろ体だけの関係なら・・・いや、俺もさっきので毒されたのかな
セックス前提なら、むしろセフレではなく受け入れた方が健全ではないか。
男にキスをされたのも後ろを弄られたことも嫌悪どころか気持ちよかったことが、そんな馬鹿な思考に陥らせてしまう。
「説明を続ける。
・・・Ωはαを番ことで安息を得ることが出来るが、番う行為は一度しかできない。
また、番った状態は、Ωから解消することは出来ないが、αから番を強制的に解除できる。
シノノメ殿にはこれがどういう意味なのかピンと来ていないとは思うが。
・・・番を解消されたΩは精神的ストレスに追われる。
解消後も性行為はそのαとしか出来ない上に、発情期は終わるわけではない。
・・・それがどういう事か分かるか?」
そういうルボミールに京は首を横に振った。
「精神崩壊をすると言われている。
そういう事があるせいか、Ωはαをおびき寄せるフェロモンを放つのに、一方で本能的に首を触れることに恐怖を感じるのだ」
「・・・、」
「これが普通のαとΩの番だ。・・・『運命の番』は少し違う。
『運命』の場合、発情期とは関係なく互いのフェロモンに引き寄せられ、必然的に愛し合い番同士は一緒にいることで最上の安息を得る」
「・・・。それなら俺は違うんじゃないか?・・・確かにルルといると安心することはあるけど、・・・その」
「『最上』ではないという事だろう?
・・・それはおそらく、貴方の飲んでいる抑制剤の影響だ」
「え」
「この部屋に訪れた時、俺は抵抗剤を飲んでいたからさほどあてられなかったが、確かにフェロモンに引き寄せられた。貴方を抱きたくて、・・・この項に噛み跡を付けたくてたまらなくなった」
「っ」
「毎日服用しているから効果が強まっているのか分からないが、・・・それとも『運命』だから拒否することに冷静になったのか、あの時は止まれた。
だが、貴方に薬を飲ませる時、俺も口にしたわけだが、その途端ラットが急激に収まった。
・・・ただ貴方に触れたいとそれだけになったのだ」
「・・・それが、抑制剤の影響だと?」
「あぁ。・・・シノノメ殿には難しいかもしれない。・・・しかし、番とは・・・『運命』とはそういうものなのだ」
苦笑を浮かべながら頬を撫でられる。
この安心感や、発情したときに離れたくないと感じたあれは、ルボミールはもっと強く感じていたということなのだろうか。
「さっき、ルルが壊れると言っていたのは・・・?」
「普通の番はαから解消できる。
・・・しかし、運命のαはまず番を解消しようとは思わない。
だが、もしすでに運命のΩが番っている場合、そのΩを連れ去ってでも・・・たとえそのΩが狂うと分かっていても手に入れようとする」
「・・・」
「Ωも運命だと分かれば惹かれあうのは止められない。
・・・しかし、発情期の時に性交渉をすることは出来ず、拒否を示す。
・・・その、心の反応はαにもストレスになると言われており、・・・互いに精神を壊すと言われている。
現に・・・俺はシノノメ殿を誰にも譲る気はない。
だが、シノノメ殿の「抑制剤」はシノノメ殿のフェロモンを著しく抑える。
俺からのフェロモンもわからないだろう?」
「・・・?・・・まずフェロモンと言うのが分からない」
その言葉に苦笑を浮かべるルボミール。
「そうか。この地に来てすぐにその抑制剤を飲んでいたのだったな。・・・試してみるか?」
「・・・俺は・・・初めての発情期の時にあんなに自制が効かなくなったのが怖かった」
ルボミールが怖いのではないと示しながらも、京は首を横に振った。
「そうか。・・・フェロモンに応えれないというのは、αからすると拒否をされているような感覚に陥るのだ」
「・・・それが、暴走につながったと」
コクリと頷くルボミール。
「俺からの・・・想いは期待しないって」
「・・・そうだな。だが諦めたとは言っていない」
「・・・?」
「シノノド殿からの想いは期待しないが愛されたいと思うことはあきらめていない」
「・・・」
困ってしまいながら苦笑を浮かべた。
期待してないなんて嘘ではないか。
「番うならルルが良いと思う」
「・・・」
「ルル以外にαの知り合いは少ないし親しくはないし。男性でも女性でもな。
・・・けど、俺達の世界では体を重ねるのは愛し合っているもの同士がするものなんだ」
「この世界でも同じだ」
「・・・。ルルには惹かれているのが、・・・愛情なのかなんなのかまだわからない」
説明を聞いても正直理解できておらず、『そういうものなんだ』という認識だ。
そう正直に言うと頬を撫でられた。
「・・・本当なら、飲むのをやめた方が良いのかもしれない。けど、・・・
ルル以外のαも引きよせるかもしれないと思ったら、・・・怖いんだ」
「そうだな・・・。シノノメ殿のすることを考えるのであれば、それが最善だ。
だが・・・もっと頻繁に会いたい。ピアスを使えばお前の場所へ飛ぶことはたやすい」
その言葉にハッとした。
「・・・これってもしかして」
「そうだ。番に送るものだ」
「!」
「ハカセのものと違うのはデザインだけではない。
・・・これはシノノメ殿の気持ちや、先ほどの様に座標を記憶させ飛ぶことも出来る」
「・・・音や動画よりもずいぶん立派なものがついているように思えるが」
「アレには移動はついていない。
その上でも、言っていたものを使えるようにするのはとても有効なことだ。
耳につけているだけで録音ができるなどいいことずくめた」
諜報観点なことを言っているらしいことは分かるのだが。
「シノノメ殿。・・・それよりももう一つお願いがある」
「・・・、なに?」
「ピアスを俺に開けさせてくれ」
当初つけてもらう予定だったがガーネットのそれは、なんだかルボミールの所有になったみたいに感じてしまった。
それを瞬時に嬉しく想ってしまった自分に愕然とし、恥ずかしくて『つけなくても話せるし痛いのが嫌だ』と断り続けていたのである。
「・・・。・・・あの、勝手なことなんだけど」
「なんだ?」
「本当に・・・結婚相手はいないのか?」
「いない」
「・・・本当に?・・・ルル。貴方いくつだ?」
ふと違和感を感じて尋ねる京にルボミールは嬉しそうにほほ笑んだ。
京がルボミールに興味を示したからである。
「33だ」
国の・・・それも大陸一大きい国の王太子に、その歳で婚約者がいないわけがない。
むしろ結婚して子供がいてもおかしくない歳だ。
見てもいない誰かに視線を向けていると思ったら、胸が締め付けられそうな痛みが走る。
「ルル。・・・嘘をつかないでくれ。・・・貴方にそうされると痛い」
ルボミールにはすでに相手がいると思うと心に喪失感を感じた。
嘘をつかれているのも辛く感じてしまう。
「嘘?」
「王太子でその歳で結婚相手がいないなんておかしい。
俺の為・・・?
そんなことをして自分の立場が悪くなったらどうするんだ」
相手がいることに辛いと思ったことには蓋をした。
今現時点で破棄に向けて動いているのか、それともこれからなのかどちらなのだろうか。
そういうと、なぜか嬉しそうにほほ笑んだ。
「俺のことを考えてくれているのだな」
「っ・・・そういうことじゃ、なくて」
「ただ、ちょっとまだ方向性を間違えているぞ?」
「・・・?」
「本当に今はもういない」
「・・・それって」
自分の所為で婚約解消したのか?と言う言葉は出せなかった。
ルボミールに惹かれ始めてはいるが『運命』なんて不確かなもので、婚約破棄をされた相手のことを考えてしまうと、相手がいないことにホッとしているのに、破棄させてしまったことは罪悪感にかられる。
「この説明は、シノノメ殿には分からない感覚かもしれないな」
ルボミールは困った様にほほ笑んだ。
「どう説明したものか・・・。
まぁ結果のみ言うと、相手は別に何とも思ってない」
「そんなことあるのか・・・?」
「もちろんこちらから破棄を申し込んだのだ。
それなりの詫びをしたのは事実だ。
だが・・・そうだな。彼女はロマンチストなところがあったからよかったと言えるだろう」
「え?」
「実のところ『運命の番』と言うのはほとんどいない。証明のしようもないし、下手に離すことは出来ないからな。
そして彼女はその『運命の番』と言うのを信じ、あこがれているような節もある。
・・・当初からもし自分に『運命』が現れたら別れるとまで言っていたくらい『運命の番』の話を信じている」
「・・・それで?」
「つまり、俺に『運命の番』が出来たと話したら祝福し進んで婚約破棄を受け入れ、賠償金にしっかり金額を付け、すでにほかの貴族と婚約を結んでいる」
「・・・・」
そんなことってあるのだろうか。京は困惑してしまう。
だが、ルボミールも苦笑を浮かべていて、その少しあきれて困っているような反応は嘘には見えなかった。
・・・本当なんだ・・・
王族との婚約を簡単に破棄するなんて京の常識から考えた想像も出来ない。
だがこの世界の常識は未だに理解しきれていないのだから、疑ってかかるのは良くないだろう。
そう思うなんだか心が軽くなる。
この地に来て本当に情緒が不安定な気がする。
小さくため息をついた。
「シノノメ殿。俺は無駄なことはしない主義だ。だから『運命』には抗わない」
「・・・、」
「だが、性分として『運命』だけで貴方と番のではなくちゃんと愛したい」
「・・・!」
「だから私を存分に愛してくれて構わないからな?」
そう言われて京は何も言えなかった。
「・・・。ピアスはやっぱりしっかり気持ちがわかってからでいいよね」
「ん?」
ルボミールはにっこりとほほ笑むだけで何も答えなかった。
┬┬┬
意外と長くて昨日上げられませんでした。。。
見に来てくださった方すみません。。。
それに安心していたのだが、次第に理性が戻ってくると恥ずかしくてたまらなくなる。
その視線から逃げるよう立ち上がると、スラックスと下着を拾い上げるそれを着る。
濡れた感触が気持ち悪いが見せたままなのは恥ずかしかったのである。
京は少し離れてソファーに座って視線を逸らす。
そして恨みがましく呟いた。
「・・・Ωの発情を疎んでるんじゃないのか」
きっと、ルボミールに帰せと言った時に帰してくれたなら、こんなことにはならなかった。
苛立った声で言うと苦笑が漏れた。
「一般的には。俺もシノノメ殿以外のΩの発情など不快なだけだ」
戻された呼び名に寂しくも思うがそのまま続ける。
先ほどのあれは「知らないこと」にしてくれるらしい。
自制は自分ではできなかった。優れていると言われるαなら抗ってほしい。
抗えないとすでに聞いているが、そんなことを思ってしまう。
ルボミールが抵抗剤を飲んでくれていなかったと思うとぞっとした。
「そこに俺も含めてくれ、お願いだから」
「それは難しいな。・・・今はそばにいるからそうでもないが、離れたらまた発情させることばかり考えるな」
「!?・・・ルルの所為だったのか?」
「恐らくは」
「っ半日に一回は飲むようにする」
なんて恐ろしいことなのだろうか。
「・・・まってくれ。もしかして毎日のように発情していたのはルルの所為・・・?」
しかしその言葉に眉を顰めるルボミール。
「毎日?」
「・・・うん。この世界に来て一回着た後はしばらくなかったけど、ラージャに来てから・・・。
そう言われてみればルルに会った日は大抵そうだったかもしれない」
余りにもくるから怖くなって毎日のように飲んでいたから、正確なことは分からないが前兆はルミボールが来る日が近かったように感じる。
一時は飲みすぎによる抗体?でもできてしまったのかと思ったが、原因が分かったなら余計に飲まなければと思った。
しかし、ルボミールは厳しい表情を浮かべる。
「それは止めた方がいい」
「なぜ?」
「俺に暴走されて閉じ込められたいか?」
「・・・、」
その言葉に唖然としてしまう。
すると、ルボミールは距離を置いて座っていたのを詰めてくると京の手を取る。
「!・・・手が汚れて・・・、え?」
すると、かさついていた手がスッと綺麗になった。
初めて見るものだがルボミールがしたのだと分かる。
そして綺麗な手を握ると指を絡めて握ってきた。
「・・・。まだ運命の番の話をしていなかったな」
『番』ということはバースに関係があるのだろうか。
先ほどの強制力は抗えなかった。
通常時では考えられないほど淫らなこと我慢できなくなってしまっていたのだ。
ルボミールの様子がおかしかったのは、彼にも働いていたのだろうか。
「シノノメ殿の薬はよく効く。我が国の抑制剤よりも遥かにきくようだ。
・・・それは俺にもな」
「え?」
発情期に効くかどうかの観点しか見ていなかったから、αにも風邪薬の抑制剤が効くとは思わなかった。
Ωの発情に効く抑制剤であり、αの抵抗剤にもなるなんて万能薬じゃないか。
思わず販売について考えてしまうが、ルボミールの真剣な表情に思考をもとに戻す。
「だが、その前に基本を説明する必要がありそうだ」
「以前聞いたこと以外にもあるのか?」
正直なところ、トシマ区で製剤する薬剤師や医師、研究者たちは現地のΩやβ達から調べているのだろうが、京はまだそこまで追い付いていないのが実情だ。
先ほども言った通り、トシマ区を潤おわせ安定させることに集中しており、困ったら抑制剤を飲んでる。
「Ωの発情周期は分かるか?」
「・・・えーっと、3か月に1回だったかな」
「そうだ。本来その周期で来てαを誘惑するフェロモンを纏う。
そのフェロモンはΩだけでなくαの正常な思考まで凌駕する。
Ωを抱き、突き上げ啼かせて・・・この項に噛み跡をつけることしか考えなくなる」
「っ」
ルボミールにするりと首筋を撫でられると体が震えた。
「っ・・・そこっ・・・ゃっ」
何度もそこを撫でられると収まったはずの興奮と、なぜか恐怖が沸いた。
「怖いだろう・・・?」
「ど、・・・して?」
「ここはΩにとって大事な場所の一つだからだ」
「項が?」
「あぁ」
そう言うと項から手を離された。
「αにここを噛ませることで番うことは話したな?
番状態になると具体的にどういう事になるかは知っているか?」
「・・・わからない」
「αと番うことでΩは番以外のαを誘わなくなる」
「良いことじゃないか」
そう言うとルボミールは目を細め、少し冷気を纏わせる。
「っ・・・だって実際問題そうだろう?Ωとかαとか関係なく、自分がそういう病気になったと考えたらそう思う」
「・・・。それで俺以外のαと番って後悔するのは貴方だ。・・・簡単には逃がす気はないが」
「ルル以外のαとは考えてなかったな」
京がそう言うと、不機嫌な冷気がシュッと引っ込んだ。
「・・・でも、好意を受け取るつもりがないなら、ルルじゃない方が・・・冗談だ」
そう言いかけた途端再び冷えて思わず苦笑を浮かべた。
怖かったはずのこの冷たさや熱さは、自分に向けられた好意の形の様だ。
でも困ってしまう。ルボミールの気持ちを受け取ることは出来ない。
「そんなに俺が壊れて良いなら試すと良い」
「・・・その、ルルのそれはΩが抱き心地が良いからとか」
「シノノメ殿」
「仕方がないじゃないか。俺は分からないって知っているだろう?」
再び発する冷気に、怒られても京が知るわけもない。
むしろ体だけの関係なら・・・いや、俺もさっきので毒されたのかな
セックス前提なら、むしろセフレではなく受け入れた方が健全ではないか。
男にキスをされたのも後ろを弄られたことも嫌悪どころか気持ちよかったことが、そんな馬鹿な思考に陥らせてしまう。
「説明を続ける。
・・・Ωはαを番ことで安息を得ることが出来るが、番う行為は一度しかできない。
また、番った状態は、Ωから解消することは出来ないが、αから番を強制的に解除できる。
シノノメ殿にはこれがどういう意味なのかピンと来ていないとは思うが。
・・・番を解消されたΩは精神的ストレスに追われる。
解消後も性行為はそのαとしか出来ない上に、発情期は終わるわけではない。
・・・それがどういう事か分かるか?」
そういうルボミールに京は首を横に振った。
「精神崩壊をすると言われている。
そういう事があるせいか、Ωはαをおびき寄せるフェロモンを放つのに、一方で本能的に首を触れることに恐怖を感じるのだ」
「・・・、」
「これが普通のαとΩの番だ。・・・『運命の番』は少し違う。
『運命』の場合、発情期とは関係なく互いのフェロモンに引き寄せられ、必然的に愛し合い番同士は一緒にいることで最上の安息を得る」
「・・・。それなら俺は違うんじゃないか?・・・確かにルルといると安心することはあるけど、・・・その」
「『最上』ではないという事だろう?
・・・それはおそらく、貴方の飲んでいる抑制剤の影響だ」
「え」
「この部屋に訪れた時、俺は抵抗剤を飲んでいたからさほどあてられなかったが、確かにフェロモンに引き寄せられた。貴方を抱きたくて、・・・この項に噛み跡を付けたくてたまらなくなった」
「っ」
「毎日服用しているから効果が強まっているのか分からないが、・・・それとも『運命』だから拒否することに冷静になったのか、あの時は止まれた。
だが、貴方に薬を飲ませる時、俺も口にしたわけだが、その途端ラットが急激に収まった。
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「あぁ。・・・シノノメ殿には難しいかもしれない。・・・しかし、番とは・・・『運命』とはそういうものなのだ」
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・・・しかし、運命のαはまず番を解消しようとは思わない。
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「・・・」
「Ωも運命だと分かれば惹かれあうのは止められない。
・・・しかし、発情期の時に性交渉をすることは出来ず、拒否を示す。
・・・その、心の反応はαにもストレスになると言われており、・・・互いに精神を壊すと言われている。
現に・・・俺はシノノメ殿を誰にも譲る気はない。
だが、シノノメ殿の「抑制剤」はシノノメ殿のフェロモンを著しく抑える。
俺からのフェロモンもわからないだろう?」
「・・・?・・・まずフェロモンと言うのが分からない」
その言葉に苦笑を浮かべるルボミール。
「そうか。この地に来てすぐにその抑制剤を飲んでいたのだったな。・・・試してみるか?」
「・・・俺は・・・初めての発情期の時にあんなに自制が効かなくなったのが怖かった」
ルボミールが怖いのではないと示しながらも、京は首を横に振った。
「そうか。・・・フェロモンに応えれないというのは、αからすると拒否をされているような感覚に陥るのだ」
「・・・それが、暴走につながったと」
コクリと頷くルボミール。
「俺からの・・・想いは期待しないって」
「・・・そうだな。だが諦めたとは言っていない」
「・・・?」
「シノノド殿からの想いは期待しないが愛されたいと思うことはあきらめていない」
「・・・」
困ってしまいながら苦笑を浮かべた。
期待してないなんて嘘ではないか。
「番うならルルが良いと思う」
「・・・」
「ルル以外にαの知り合いは少ないし親しくはないし。男性でも女性でもな。
・・・けど、俺達の世界では体を重ねるのは愛し合っているもの同士がするものなんだ」
「この世界でも同じだ」
「・・・。ルルには惹かれているのが、・・・愛情なのかなんなのかまだわからない」
説明を聞いても正直理解できておらず、『そういうものなんだ』という認識だ。
そう正直に言うと頬を撫でられた。
「・・・本当なら、飲むのをやめた方が良いのかもしれない。けど、・・・
ルル以外のαも引きよせるかもしれないと思ったら、・・・怖いんだ」
「そうだな・・・。シノノメ殿のすることを考えるのであれば、それが最善だ。
だが・・・もっと頻繁に会いたい。ピアスを使えばお前の場所へ飛ぶことはたやすい」
その言葉にハッとした。
「・・・これってもしかして」
「そうだ。番に送るものだ」
「!」
「ハカセのものと違うのはデザインだけではない。
・・・これはシノノメ殿の気持ちや、先ほどの様に座標を記憶させ飛ぶことも出来る」
「・・・音や動画よりもずいぶん立派なものがついているように思えるが」
「アレには移動はついていない。
その上でも、言っていたものを使えるようにするのはとても有効なことだ。
耳につけているだけで録音ができるなどいいことずくめた」
諜報観点なことを言っているらしいことは分かるのだが。
「シノノメ殿。・・・それよりももう一つお願いがある」
「・・・、なに?」
「ピアスを俺に開けさせてくれ」
当初つけてもらう予定だったがガーネットのそれは、なんだかルボミールの所有になったみたいに感じてしまった。
それを瞬時に嬉しく想ってしまった自分に愕然とし、恥ずかしくて『つけなくても話せるし痛いのが嫌だ』と断り続けていたのである。
「・・・。・・・あの、勝手なことなんだけど」
「なんだ?」
「本当に・・・結婚相手はいないのか?」
「いない」
「・・・本当に?・・・ルル。貴方いくつだ?」
ふと違和感を感じて尋ねる京にルボミールは嬉しそうにほほ笑んだ。
京がルボミールに興味を示したからである。
「33だ」
国の・・・それも大陸一大きい国の王太子に、その歳で婚約者がいないわけがない。
むしろ結婚して子供がいてもおかしくない歳だ。
見てもいない誰かに視線を向けていると思ったら、胸が締め付けられそうな痛みが走る。
「ルル。・・・嘘をつかないでくれ。・・・貴方にそうされると痛い」
ルボミールにはすでに相手がいると思うと心に喪失感を感じた。
嘘をつかれているのも辛く感じてしまう。
「嘘?」
「王太子でその歳で結婚相手がいないなんておかしい。
俺の為・・・?
そんなことをして自分の立場が悪くなったらどうするんだ」
相手がいることに辛いと思ったことには蓋をした。
今現時点で破棄に向けて動いているのか、それともこれからなのかどちらなのだろうか。
そういうと、なぜか嬉しそうにほほ笑んだ。
「俺のことを考えてくれているのだな」
「っ・・・そういうことじゃ、なくて」
「ただ、ちょっとまだ方向性を間違えているぞ?」
「・・・?」
「本当に今はもういない」
「・・・それって」
自分の所為で婚約解消したのか?と言う言葉は出せなかった。
ルボミールに惹かれ始めてはいるが『運命』なんて不確かなもので、婚約破棄をされた相手のことを考えてしまうと、相手がいないことにホッとしているのに、破棄させてしまったことは罪悪感にかられる。
「この説明は、シノノメ殿には分からない感覚かもしれないな」
ルボミールは困った様にほほ笑んだ。
「どう説明したものか・・・。
まぁ結果のみ言うと、相手は別に何とも思ってない」
「そんなことあるのか・・・?」
「もちろんこちらから破棄を申し込んだのだ。
それなりの詫びをしたのは事実だ。
だが・・・そうだな。彼女はロマンチストなところがあったからよかったと言えるだろう」
「え?」
「実のところ『運命の番』と言うのはほとんどいない。証明のしようもないし、下手に離すことは出来ないからな。
そして彼女はその『運命の番』と言うのを信じ、あこがれているような節もある。
・・・当初からもし自分に『運命』が現れたら別れるとまで言っていたくらい『運命の番』の話を信じている」
「・・・それで?」
「つまり、俺に『運命の番』が出来たと話したら祝福し進んで婚約破棄を受け入れ、賠償金にしっかり金額を付け、すでにほかの貴族と婚約を結んでいる」
「・・・・」
そんなことってあるのだろうか。京は困惑してしまう。
だが、ルボミールも苦笑を浮かべていて、その少しあきれて困っているような反応は嘘には見えなかった。
・・・本当なんだ・・・
王族との婚約を簡単に破棄するなんて京の常識から考えた想像も出来ない。
だがこの世界の常識は未だに理解しきれていないのだから、疑ってかかるのは良くないだろう。
そう思うなんだか心が軽くなる。
この地に来て本当に情緒が不安定な気がする。
小さくため息をついた。
「シノノメ殿。俺は無駄なことはしない主義だ。だから『運命』には抗わない」
「・・・、」
「だが、性分として『運命』だけで貴方と番のではなくちゃんと愛したい」
「・・・!」
「だから私を存分に愛してくれて構わないからな?」
そう言われて京は何も言えなかった。
「・・・。ピアスはやっぱりしっかり気持ちがわかってからでいいよね」
「ん?」
ルボミールはにっこりとほほ笑むだけで何も答えなかった。
┬┬┬
意外と長くて昨日上げられませんでした。。。
見に来てくださった方すみません。。。
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SNSを開設すれば即10万人フォロワー。
町を歩けばスカウトの嵐。
超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。
そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。
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一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
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