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新企業を思いついた!
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異世界転生をして京の頭にずっとしめているのは資源の枯渇と島への外部からの侵入だった。
島の防御としては幸いにもラージャから魔法防壁の灯台を貸してもらえているので、ひとまず外部からの侵入については問題ない。
事前にルボミールからもしハカセが防衛の機関が気になるなら灯台を解析しても良いと言われていたので、ハカセにそのことを言うと、さっそく食いついてラボを灯台に移し最近ではあまり帰ってこない。
その方面は任せたとしてもう一方の悩みの種の資源だが、こちらは純粋に資源が足りない以外に資金が足りない。
唯一の外貨を手に入れられるラージャでのバース鑑定も、当初は盛況であったが最近では落ち着きつつある。
それもそうだろう。
病院とは違い、次は子供が生まれるまで縁がないことだ。
大陸に鑑定施設を出したかったのは価格が知りたいのもある。
その目的通り市井を見てここ最近では大まか分かった。
施設の場所は中流当たりにおいてもらった。
最初勧められたのはΩに比較的理解がある地域で安全なところと言うことで、伴侶にΩを持つ上流階級の集う街の一角を進められたが、それを説得して安全だが下流も上流も来やすいところに何とかお願いして借りることができた。
安全性を考慮してくれたのだが、そんな所では商売が成り立たない。
金額は低く設定しているのに貴族ばかりのいる場所では、明らかに人口が足りないからだ。
それをルボミールにこんこんと訴えている最中、隣に控えていた側近のダンは驚いている様だったが、京はとまらなかった。
色々助けてもらっているのに厚かましいと思われたのだろう。
だが、これは譲れなかったのである。
で、立ててもらった施設で外の世界を見ているのだが、やはり差別が酷いなと思った。
それも虐げる側は、差別ではなく区別だと思っているようだ。
Ωは虐げられる存在だから迫害ではない。よってこれは区別だ。
だ、そうで。
初めてそれを聞いたときは思わず時が止まったくらいだ。
余りにもひどい迫害を受けているΩは引き取ることもあったが、中には性奴隷にして闇市に売るといって連れて行った人間もいた。心底むかつく話だったが、・・・この世界では当然なのだ。
何よりも、京には守らなければならない人間が5000人以上もいる。
それは増えつつある。
Ωは数が少ないと聞いていたのに、ラージャに思ったよりもいた。
そんな彼等に京がΩを連れ帰っていることが、Ω達の間で噂になり助けを求められることが増えてしまったのだ。
だが、京はルボミールと違いただの善意ではない。
抑制剤の効果を上げるべく、治験に協力をすることを必須にしている。
死ぬ可能性もあることを告げているが、それでも助けを求める者は後を絶たない。
バース鑑定の方は落ち込み気味なのに、これは困ったことだった。
それでも、自分より年上なのにガリガリで貧相な衣服をまとい、不健康そうな顔色で京に悲痛な面持ちで助けを求められて誰が断れるというのか。
ルボミールに許可を取ると、二つ返事でOKをしてくれた。
・・・もともと彼等に戸籍があるものが少ないらしい。
だから、京は連れ帰ってしまうのだ。
幸い、トシマ区にはマンションがたくさんあり、住む場所なら溢れている。
それに、そんな彼等と一緒に住むトシマ区民たちのラージャの語学力・・・会話だけでも上がっているから、悪いことだけではないのだ。
☆☆☆
トシマ区ごと異世界転生してはや半年がすぎた。
教会に睨まれていたバース鑑定も最近では1日10組くればいいほどに安定してきていた。
商売としては困ったものだが、それだけ鑑定が行き届いたということである。
見つけたΩの5倍は多くのαも発見され、ルボミールに感謝された。
まぁベータが圧倒的に多かったが。
ベータが来る理由は、自分が『αか?』というよりも『Ωじゃない』ということが知りたいものが多かった。
どうやら話を聞くと、通常では10代で来る発情期が20代過ぎてくる者もいるらしく、そのためのものだそうだ。
当初、抑制剤を作って稼ごうとしていた。
いや、今も思っているが全体数が少ないことと、稼ぎが少ないどころか無いΩが多いのに売り上げを見込むのは難しかった。
ハカセには甘いと言われたのだが、払えないから売らない。じゃ、作った意味そのものがなくなってしまう。
で、新しい企業探しに乗り出しているのだがどうしたものか・・・。
まだ、観光地化するには防御面が怖く、入れられる人間は限定している状態である。
街中にはロボットが増え、今まで人が働いていた部分を任せ、人は管理する方に回っているのだが、
やはり魔法がネックだった。
どこまで通用するか?が懸念点である。
ハカセが魔法防壁の解読が大方終わったということで、今は試作品を作っているがそれ次第である。
それが吉と出るが凶と出るかは未知数だ。
☆☆☆
京が財源についてどう増やそうか考えていたある日。
2人の兄弟が判定施設に現れた。
自分たちと同じ双子で、一卵性かな?と、思ったがどうやら体格差がある彼等は二卵性なのかもしれない。
診断結果を受け体格の良い方が、怒りに震え小さい方の胸ぐらを掴んだ。
「っ何故お前はΩなんだ!!」
「っにぃ様ごめんなさいっ」
それは見慣れた光景だが、彼は今までで一番激高しているように見えた。
京は合図するとSP達がその男を取り押さえる。
当初護衛は日雇いでαなど雇えないか考えていた時、如月は自らが引き受けると言ってくれた。
彼は常に一緒にいるので、αの危険性が分かったのだろう。
そうは言っても体格差があって最初は心配したのだが、SP達は関節を決めるのが上手く鑑定施設に来るようなαには安心できる戦いで組み伏せていた。
どうやら余計な心配だったようだ。
地面に平伏す男をしゃがみながらみた。
「君はαか。αなのに、店頭や書類に書かれた言葉は理解できなかったの?」
ここ半年で覚えたラージャ語を流ちょうに話す京。
こんなふうに特定後半狂乱するものがいるため、店舗内での乱闘は禁止と記述しているのだが、こうやって暴れる輩は少なくない。本当にΩより優秀とされているαとβなのか?と思ってしまう。
「くっΩ風情がっはなせ!」
「そのΩに組み敷かれるってどんな気分?」
無様に叫ぶαをクスクスと見下しながら、Ωの服の乱れを直してやる。
服は兄と比べ質素ではあるが、街中のΩよりはまともなものを着ている。
その証拠にαに掴まれても服が破れていなかった。
「っ何故これは外れないんだ!!!貴様っ退け!」
抑えつかられたαが懲りずに外しにかかっている。
如月たちは事実を認めこの半年、鍛錬を今まで以上に怠らなかった。
また、防具もハカセの開発したものを纏い、今ではちょっとやそっとの事では負けない。
βにはもちろん、今の様にαにもだ。
特に油断していたαを取り押さえることなど朝飯前なのである。
「さて。君達は兄弟で16歳か。・・・あれ貴族?」
カルテを見つつ首を傾げた。貴族なら教会でするのではないのだろうか。
「っ詐欺だな!貴様ら」
「にぃ様!!」
「うーん」
人の話を聞かない人間の様だ。
α様は違う次元でお話をするのが得意らしい。
それにしても貴族とは面倒くさい。
思わず眉を顰めた。
「教会には行かなかったの?」
弟の方を見ると震えて兄をみる。
「行き、ました。にぃ様を離してくださいっ」
「えー?暴行してきた人間を庇うの??
大体弟を傷つけるって何??
俺なんかみーを妹に手を上げるなんてもってのほかなんだけど」
京にとっては信じられないことだ。
まぁ実際には雅の方が黒帯である上に力も強いのだが。京は護身術程度だ。
「っにぃ様はっスミオラ家の宝なのです!おはなしくださ・・」
ガクガクと震えている少年が気の毒になってくる。
「子は漏れなく宝であるとは思うけどね」
「・・・っ」
お前もそうだと言う言葉も息を飲んだうち下を向いた。
「教会に行ってなんて言われたの。そこでも君達はΩとαて言われなかった?」
「いわれ、ました」
「ニコ!!」
「僕、は。いやしいΩ、なのです」
震えながら涙を流す幼気な子ども。
だが、なんだか聞いていて不愉快になる。
「いやしいΩって誰が言ったの。そこのアレ?」
「Ωごときが調子にのるな!!」
「その見下してるΩに組み敷かれてる、辛うじてαの兄は黙っててくれる?」
「なんっだと?!」
ちょっと煽りすぎただろうか。
取り押さえているSPの体が揺れ焦りが見えた。
チラリと目で合図を送れば3人で取り押さえる。
すると、ニコと呼ばれた弟は真っ青になり、兄をかばうようにSPをはがそうとしている。
「っ僕はっαを惑わす下賤なΩなのです!!だからっ僕がいけないのですっ!」
「っ」
しかし、その言葉に傷ついたようにしたのは兄の方だった。
苦しそうに悔しそうに・・・痛そうに顔を歪ませた。
「??なんで貴方がそんな表情するんだ。
よくわからないけど、αを惑わさなければ良いなら、抑制剤飲めば?ラージャにもあるでしょう?」
「僕は、あまり、効かなくて」
「っく・・・」
それを聞いてなんだか同情してしまう。
京はラージャの抑制剤は飲んだことがないが、日本産の風邪薬というなの抑制剤を毎日飲んでいる。
ホルモンバランス(?)の影響なのか飲んでないと発情期が来てしまうからだ。
「・・・。なるほどね。・・・ねぇ。トシマ区に来るか?」
「え?」
「何をいっている!!」
「王太子殿下から期待人間にはきて良いていう言葉も貰っているよ。
欲しいなら一筆書状でも書いてもらう。
・・・まぁ勿論ただでてことではないんだけど君にはお仕事してもらいたいんだ」
「Ωの、僕に、仕事があるのですか?」
「貴様っまさかΩを売り捌く商人か!」
「やめてくれる?人身売買とかホント嫌いなんだ」
侮蔑の目で男を見つつ、弟にはにこやかに微笑んだ。
「1つ目は、今トシマ区では抑制剤の研究を行ってるんだけど、それの治験を行って欲しいんだ。
俺もやってるよ」
「ちけん?」
「薬の研究だよ」
「僕、文字読めません。。」
途端に落胆して見せるニコ。
貴族なのに?という思考はここに来てΩの処遇をみてもう持たなかった。
「読めないなら勉強しようか?まぁでも治験に識字は関係ないけど」
「しきじ?」
「そう。・・・勉強してもいいし、好きなこともしていい。・・・ニコはやりたいことはないかい?」
そう尋ねると、ニコの瞳が大きく揺れた。
そして俯いた。
それを根気強く待っているとポソリとつぶやいた。
「僕・・・、歌ったり・・・踊ったりしたいです」
「歌や踊りか。それは、いい・・・趣味・・・、・・・、・・・」
出来るだけ優しい声を出しながら話を聞きながら、ふと京の思考にポトリと降ってきた。
「そうか・・・そうか!・・・歌に踊り!!いいよ、ニコっナイスだよ!」
「っ・・・??」
あまりのひらめきに京は興奮気味にニコの頭を撫でる。
Ωの姿をこれまで見てきたが、皆が小柄で可愛らしい人物が多い。
小柄なのは栄養バランスの問題ではないが、見目がいい物が多いのだ。
そして声もとてもいい。
どっかのβがαを引き寄せるために可愛く啼くしかできない下等生物だとか言っていた気がするが、
それくらい聞き心地は良い声をしている。
「ニコ。たくさん練習することになるけど、出来るかい?」
「えっ」
「君にはお仕事がもう一つ増えたよ」
「え・・・?」
そう反応するニコはとても嬉しそうだった。
察しは悪くないようで、歌や踊りに関係すると分かったのだろう。
「貴様っやはり踊り子でもさせて体を売らせる気か!」
「・・・。如月。そいつうるさいから外に出してきて」
「はい」
そう言うと兄のリコをズルズルと引きずっていく如月。
自分より体格の良い男を引きずれるのはやはり凄いなと感心してしまう。
「あの人もΩなんだよ」
「えっ!」
「ここにいる人間殆どΩだよ。
この国服じゃない、俺が着てる服・・・スーツって言うんだけど、今ここでこれ着てる人全員ね」
可笑しくてクスクスと笑う。
それほどニコが唖然としてるからだ。
「歌や踊りを練習してもらってね、ショーを開きたいんだ」
「ショー・・・?見せるのですか?」
「そう。・・・だけど、さっき君の兄が言っていたような体を売るようなことも、裸を見せるようなことも一切させないよ。契約書を書いても良い」
「・・・、」
困惑しながらも目が輝いていた。
聞いたところによる彼等はあまりそういう機会も与えられていないそうなのだ。
「Ωの人って可愛い人多いんだよね。
どからユニット作ろうかなって。男女別とミックス」
そう言いながら、このラージャにはない業種にニマニマする京。
初めはここでやってゆくゆくはトシマ区に拠点を移し、観光地の名物にしたい。
「???」
「ふふっ・・・俺達の言葉でね『可愛いは正義』なんだよ?」
「えーっと?」
困惑しているニコを丸め込むように説得する京。
京はあの妹にして自身もオタクであった。
ドルオタではないが、可愛いは正義は共通語なのである。
☆☆☆
トシマ区に戻ってきた京は、こめかみを抑えていた。
兄から正規な抗議を受けたのである。
王太子からの直々の言葉が欲しいと。
「使えるものは使うべきでしょう~」
そう言ったのはハカセである。
たまたま灯台から戻ってきてたハカセに、ラージャでの抑制剤が効かない珍しい人物がいると言ったら途端にこんな態度を示す。
だが、難しい顔をする京。
いや、もともとそのつもりだったが、あんな態度を取った兄が言ってきたのが不服だったのだ。
弟を傷つけるようなことをしたのに、いざ弟が自分を卑下すると傷ついた顔をする。
大事なら大事となんで態度で示さないんだ
弟の方は自分が思われていることなどつゆとも知らないだろう。
弟・・・リコの方はトシマ区に来たいというので、ルボミールが手配してくれた従業員にスミオラ家に書状をもっていかせ一足先にトシマ区に連れ帰ってしまっていたのだ。
彼は魔法適性があるが使い方が分からないそうで、語学教師としてきているβの先生に魔法を教えてもらうことになっている。
この地にきて当然のように与えらえる権利に嬉しそうにはしゃいでいた。
そんな矢先に、施設においてある通信機から、スミオラ家長男から抗議状が届いたと聞いたのだ。
「あの子引き入れたいんでしょう??」
あの子とはニコの事だ。
アイドルを作ろうと思うと言った時は、興味を示さなかったのに、ラージャの抑制剤が効きにくいと聞いて急に興味を示した。
Ωで虐げられてるようだが、ニコは貴族で高純度な抑制剤を与えられてる筈なのだ。
それが効かない検体を調べたいのだろう。
そのために連れてきたのだから興味を持ってもらわなければ困るのだが。
こうなってしまったら、もうルボミールに頼るそかないのだが。
兄の態度に不服がある以外にもルボミールに頼りすぎているのも少し躊躇してしまう。
「先ほど勢いで言ったけど、・・・頼り過ぎかな?ってちょっと迷ってるだけだよ」
「年下の可愛い子のお願いはいくらされても嬉しいもんだよ~?」
京とルボミールとは10歳離れている。
・・・まぁハカセともそれくらい離れているのだが。
「まぁ言うだけ言ってみたら良いと思うよ~。なんでも相談してって言われてたじゃん」
「好意を寄せられているのに、それに応えずなんだか手玉にのせてるみたいじゃないか」
「御立派なα様なんでしょー?転がしてやれば良いんだよ~」
「でも・・・」
「好きになりそうなの~?」
そう言うハカセはたまに見せる鋭い眼差しを京にむける。
全てを見透かされるような気分になる、この視線が京は苦手だった。
「違う」
「だよね。ケー様女の人が好きなんだし。
発情期でもなきゃ、ルボミールに興奮しないでしょ?」
「しない」
「良心が痛む感じ?」
「普通に考えてそうだろう」
「ボクの普通だったら、ルボミールをもっと使うけどねー。王太子て最高に便利じゃん」
心底トシマ区で良かったと思う発言である。
研究があることもあるが、こう言う発言をするからハカセはあまり連れて行けないのだ。
「それ、俺の前以外で言うなよ?」
前ならフォローも出来るが、他で言われたら救いようがないからだ。
「わかってるよ~」
絶対にわかってないな。
と、思いつつ京はピアスを握り、ハカセをみた。
「わかった。聞いてみるから、今日はもう戻っていいよ」
「ここにいちゃだめ?」
「駄目。ハカセは余計なこというから」
「えー?必要なことしか言ってないのに~」
出て行くハカセを見送りながらため息つく。
東雲として生きている人生で、人に利用されてると思うことはあった。
自分も利用するからWIN-WINだと思うが、今回は頼りきりな気がしてしまう。
連れ帰ってきたΩの中に、今まで貴族も数名いた。
だが、Noを突き返すものや、王家からの承認がなければ駄目などと言ってきたのは始めてだ。
むしろ手切れ金として金を渡してこようとした者もいたと聞く。
勿論金銭は一切受け取っていないが。
「スミオラ家とは結構でかいのかな」
小さくため息をつく京なのだった。
┬┬┬
ご覧いただきありがとうございます❤
島の防御としては幸いにもラージャから魔法防壁の灯台を貸してもらえているので、ひとまず外部からの侵入については問題ない。
事前にルボミールからもしハカセが防衛の機関が気になるなら灯台を解析しても良いと言われていたので、ハカセにそのことを言うと、さっそく食いついてラボを灯台に移し最近ではあまり帰ってこない。
その方面は任せたとしてもう一方の悩みの種の資源だが、こちらは純粋に資源が足りない以外に資金が足りない。
唯一の外貨を手に入れられるラージャでのバース鑑定も、当初は盛況であったが最近では落ち着きつつある。
それもそうだろう。
病院とは違い、次は子供が生まれるまで縁がないことだ。
大陸に鑑定施設を出したかったのは価格が知りたいのもある。
その目的通り市井を見てここ最近では大まか分かった。
施設の場所は中流当たりにおいてもらった。
最初勧められたのはΩに比較的理解がある地域で安全なところと言うことで、伴侶にΩを持つ上流階級の集う街の一角を進められたが、それを説得して安全だが下流も上流も来やすいところに何とかお願いして借りることができた。
安全性を考慮してくれたのだが、そんな所では商売が成り立たない。
金額は低く設定しているのに貴族ばかりのいる場所では、明らかに人口が足りないからだ。
それをルボミールにこんこんと訴えている最中、隣に控えていた側近のダンは驚いている様だったが、京はとまらなかった。
色々助けてもらっているのに厚かましいと思われたのだろう。
だが、これは譲れなかったのである。
で、立ててもらった施設で外の世界を見ているのだが、やはり差別が酷いなと思った。
それも虐げる側は、差別ではなく区別だと思っているようだ。
Ωは虐げられる存在だから迫害ではない。よってこれは区別だ。
だ、そうで。
初めてそれを聞いたときは思わず時が止まったくらいだ。
余りにもひどい迫害を受けているΩは引き取ることもあったが、中には性奴隷にして闇市に売るといって連れて行った人間もいた。心底むかつく話だったが、・・・この世界では当然なのだ。
何よりも、京には守らなければならない人間が5000人以上もいる。
それは増えつつある。
Ωは数が少ないと聞いていたのに、ラージャに思ったよりもいた。
そんな彼等に京がΩを連れ帰っていることが、Ω達の間で噂になり助けを求められることが増えてしまったのだ。
だが、京はルボミールと違いただの善意ではない。
抑制剤の効果を上げるべく、治験に協力をすることを必須にしている。
死ぬ可能性もあることを告げているが、それでも助けを求める者は後を絶たない。
バース鑑定の方は落ち込み気味なのに、これは困ったことだった。
それでも、自分より年上なのにガリガリで貧相な衣服をまとい、不健康そうな顔色で京に悲痛な面持ちで助けを求められて誰が断れるというのか。
ルボミールに許可を取ると、二つ返事でOKをしてくれた。
・・・もともと彼等に戸籍があるものが少ないらしい。
だから、京は連れ帰ってしまうのだ。
幸い、トシマ区にはマンションがたくさんあり、住む場所なら溢れている。
それに、そんな彼等と一緒に住むトシマ区民たちのラージャの語学力・・・会話だけでも上がっているから、悪いことだけではないのだ。
☆☆☆
トシマ区ごと異世界転生してはや半年がすぎた。
教会に睨まれていたバース鑑定も最近では1日10組くればいいほどに安定してきていた。
商売としては困ったものだが、それだけ鑑定が行き届いたということである。
見つけたΩの5倍は多くのαも発見され、ルボミールに感謝された。
まぁベータが圧倒的に多かったが。
ベータが来る理由は、自分が『αか?』というよりも『Ωじゃない』ということが知りたいものが多かった。
どうやら話を聞くと、通常では10代で来る発情期が20代過ぎてくる者もいるらしく、そのためのものだそうだ。
当初、抑制剤を作って稼ごうとしていた。
いや、今も思っているが全体数が少ないことと、稼ぎが少ないどころか無いΩが多いのに売り上げを見込むのは難しかった。
ハカセには甘いと言われたのだが、払えないから売らない。じゃ、作った意味そのものがなくなってしまう。
で、新しい企業探しに乗り出しているのだがどうしたものか・・・。
まだ、観光地化するには防御面が怖く、入れられる人間は限定している状態である。
街中にはロボットが増え、今まで人が働いていた部分を任せ、人は管理する方に回っているのだが、
やはり魔法がネックだった。
どこまで通用するか?が懸念点である。
ハカセが魔法防壁の解読が大方終わったということで、今は試作品を作っているがそれ次第である。
それが吉と出るが凶と出るかは未知数だ。
☆☆☆
京が財源についてどう増やそうか考えていたある日。
2人の兄弟が判定施設に現れた。
自分たちと同じ双子で、一卵性かな?と、思ったがどうやら体格差がある彼等は二卵性なのかもしれない。
診断結果を受け体格の良い方が、怒りに震え小さい方の胸ぐらを掴んだ。
「っ何故お前はΩなんだ!!」
「っにぃ様ごめんなさいっ」
それは見慣れた光景だが、彼は今までで一番激高しているように見えた。
京は合図するとSP達がその男を取り押さえる。
当初護衛は日雇いでαなど雇えないか考えていた時、如月は自らが引き受けると言ってくれた。
彼は常に一緒にいるので、αの危険性が分かったのだろう。
そうは言っても体格差があって最初は心配したのだが、SP達は関節を決めるのが上手く鑑定施設に来るようなαには安心できる戦いで組み伏せていた。
どうやら余計な心配だったようだ。
地面に平伏す男をしゃがみながらみた。
「君はαか。αなのに、店頭や書類に書かれた言葉は理解できなかったの?」
ここ半年で覚えたラージャ語を流ちょうに話す京。
こんなふうに特定後半狂乱するものがいるため、店舗内での乱闘は禁止と記述しているのだが、こうやって暴れる輩は少なくない。本当にΩより優秀とされているαとβなのか?と思ってしまう。
「くっΩ風情がっはなせ!」
「そのΩに組み敷かれるってどんな気分?」
無様に叫ぶαをクスクスと見下しながら、Ωの服の乱れを直してやる。
服は兄と比べ質素ではあるが、街中のΩよりはまともなものを着ている。
その証拠にαに掴まれても服が破れていなかった。
「っ何故これは外れないんだ!!!貴様っ退け!」
抑えつかられたαが懲りずに外しにかかっている。
如月たちは事実を認めこの半年、鍛錬を今まで以上に怠らなかった。
また、防具もハカセの開発したものを纏い、今ではちょっとやそっとの事では負けない。
βにはもちろん、今の様にαにもだ。
特に油断していたαを取り押さえることなど朝飯前なのである。
「さて。君達は兄弟で16歳か。・・・あれ貴族?」
カルテを見つつ首を傾げた。貴族なら教会でするのではないのだろうか。
「っ詐欺だな!貴様ら」
「にぃ様!!」
「うーん」
人の話を聞かない人間の様だ。
α様は違う次元でお話をするのが得意らしい。
それにしても貴族とは面倒くさい。
思わず眉を顰めた。
「教会には行かなかったの?」
弟の方を見ると震えて兄をみる。
「行き、ました。にぃ様を離してくださいっ」
「えー?暴行してきた人間を庇うの??
大体弟を傷つけるって何??
俺なんかみーを妹に手を上げるなんてもってのほかなんだけど」
京にとっては信じられないことだ。
まぁ実際には雅の方が黒帯である上に力も強いのだが。京は護身術程度だ。
「っにぃ様はっスミオラ家の宝なのです!おはなしくださ・・」
ガクガクと震えている少年が気の毒になってくる。
「子は漏れなく宝であるとは思うけどね」
「・・・っ」
お前もそうだと言う言葉も息を飲んだうち下を向いた。
「教会に行ってなんて言われたの。そこでも君達はΩとαて言われなかった?」
「いわれ、ました」
「ニコ!!」
「僕、は。いやしいΩ、なのです」
震えながら涙を流す幼気な子ども。
だが、なんだか聞いていて不愉快になる。
「いやしいΩって誰が言ったの。そこのアレ?」
「Ωごときが調子にのるな!!」
「その見下してるΩに組み敷かれてる、辛うじてαの兄は黙っててくれる?」
「なんっだと?!」
ちょっと煽りすぎただろうか。
取り押さえているSPの体が揺れ焦りが見えた。
チラリと目で合図を送れば3人で取り押さえる。
すると、ニコと呼ばれた弟は真っ青になり、兄をかばうようにSPをはがそうとしている。
「っ僕はっαを惑わす下賤なΩなのです!!だからっ僕がいけないのですっ!」
「っ」
しかし、その言葉に傷ついたようにしたのは兄の方だった。
苦しそうに悔しそうに・・・痛そうに顔を歪ませた。
「??なんで貴方がそんな表情するんだ。
よくわからないけど、αを惑わさなければ良いなら、抑制剤飲めば?ラージャにもあるでしょう?」
「僕は、あまり、効かなくて」
「っく・・・」
それを聞いてなんだか同情してしまう。
京はラージャの抑制剤は飲んだことがないが、日本産の風邪薬というなの抑制剤を毎日飲んでいる。
ホルモンバランス(?)の影響なのか飲んでないと発情期が来てしまうからだ。
「・・・。なるほどね。・・・ねぇ。トシマ区に来るか?」
「え?」
「何をいっている!!」
「王太子殿下から期待人間にはきて良いていう言葉も貰っているよ。
欲しいなら一筆書状でも書いてもらう。
・・・まぁ勿論ただでてことではないんだけど君にはお仕事してもらいたいんだ」
「Ωの、僕に、仕事があるのですか?」
「貴様っまさかΩを売り捌く商人か!」
「やめてくれる?人身売買とかホント嫌いなんだ」
侮蔑の目で男を見つつ、弟にはにこやかに微笑んだ。
「1つ目は、今トシマ区では抑制剤の研究を行ってるんだけど、それの治験を行って欲しいんだ。
俺もやってるよ」
「ちけん?」
「薬の研究だよ」
「僕、文字読めません。。」
途端に落胆して見せるニコ。
貴族なのに?という思考はここに来てΩの処遇をみてもう持たなかった。
「読めないなら勉強しようか?まぁでも治験に識字は関係ないけど」
「しきじ?」
「そう。・・・勉強してもいいし、好きなこともしていい。・・・ニコはやりたいことはないかい?」
そう尋ねると、ニコの瞳が大きく揺れた。
そして俯いた。
それを根気強く待っているとポソリとつぶやいた。
「僕・・・、歌ったり・・・踊ったりしたいです」
「歌や踊りか。それは、いい・・・趣味・・・、・・・、・・・」
出来るだけ優しい声を出しながら話を聞きながら、ふと京の思考にポトリと降ってきた。
「そうか・・・そうか!・・・歌に踊り!!いいよ、ニコっナイスだよ!」
「っ・・・??」
あまりのひらめきに京は興奮気味にニコの頭を撫でる。
Ωの姿をこれまで見てきたが、皆が小柄で可愛らしい人物が多い。
小柄なのは栄養バランスの問題ではないが、見目がいい物が多いのだ。
そして声もとてもいい。
どっかのβがαを引き寄せるために可愛く啼くしかできない下等生物だとか言っていた気がするが、
それくらい聞き心地は良い声をしている。
「ニコ。たくさん練習することになるけど、出来るかい?」
「えっ」
「君にはお仕事がもう一つ増えたよ」
「え・・・?」
そう反応するニコはとても嬉しそうだった。
察しは悪くないようで、歌や踊りに関係すると分かったのだろう。
「貴様っやはり踊り子でもさせて体を売らせる気か!」
「・・・。如月。そいつうるさいから外に出してきて」
「はい」
そう言うと兄のリコをズルズルと引きずっていく如月。
自分より体格の良い男を引きずれるのはやはり凄いなと感心してしまう。
「あの人もΩなんだよ」
「えっ!」
「ここにいる人間殆どΩだよ。
この国服じゃない、俺が着てる服・・・スーツって言うんだけど、今ここでこれ着てる人全員ね」
可笑しくてクスクスと笑う。
それほどニコが唖然としてるからだ。
「歌や踊りを練習してもらってね、ショーを開きたいんだ」
「ショー・・・?見せるのですか?」
「そう。・・・だけど、さっき君の兄が言っていたような体を売るようなことも、裸を見せるようなことも一切させないよ。契約書を書いても良い」
「・・・、」
困惑しながらも目が輝いていた。
聞いたところによる彼等はあまりそういう機会も与えられていないそうなのだ。
「Ωの人って可愛い人多いんだよね。
どからユニット作ろうかなって。男女別とミックス」
そう言いながら、このラージャにはない業種にニマニマする京。
初めはここでやってゆくゆくはトシマ区に拠点を移し、観光地の名物にしたい。
「???」
「ふふっ・・・俺達の言葉でね『可愛いは正義』なんだよ?」
「えーっと?」
困惑しているニコを丸め込むように説得する京。
京はあの妹にして自身もオタクであった。
ドルオタではないが、可愛いは正義は共通語なのである。
☆☆☆
トシマ区に戻ってきた京は、こめかみを抑えていた。
兄から正規な抗議を受けたのである。
王太子からの直々の言葉が欲しいと。
「使えるものは使うべきでしょう~」
そう言ったのはハカセである。
たまたま灯台から戻ってきてたハカセに、ラージャでの抑制剤が効かない珍しい人物がいると言ったら途端にこんな態度を示す。
だが、難しい顔をする京。
いや、もともとそのつもりだったが、あんな態度を取った兄が言ってきたのが不服だったのだ。
弟を傷つけるようなことをしたのに、いざ弟が自分を卑下すると傷ついた顔をする。
大事なら大事となんで態度で示さないんだ
弟の方は自分が思われていることなどつゆとも知らないだろう。
弟・・・リコの方はトシマ区に来たいというので、ルボミールが手配してくれた従業員にスミオラ家に書状をもっていかせ一足先にトシマ区に連れ帰ってしまっていたのだ。
彼は魔法適性があるが使い方が分からないそうで、語学教師としてきているβの先生に魔法を教えてもらうことになっている。
この地にきて当然のように与えらえる権利に嬉しそうにはしゃいでいた。
そんな矢先に、施設においてある通信機から、スミオラ家長男から抗議状が届いたと聞いたのだ。
「あの子引き入れたいんでしょう??」
あの子とはニコの事だ。
アイドルを作ろうと思うと言った時は、興味を示さなかったのに、ラージャの抑制剤が効きにくいと聞いて急に興味を示した。
Ωで虐げられてるようだが、ニコは貴族で高純度な抑制剤を与えられてる筈なのだ。
それが効かない検体を調べたいのだろう。
そのために連れてきたのだから興味を持ってもらわなければ困るのだが。
こうなってしまったら、もうルボミールに頼るそかないのだが。
兄の態度に不服がある以外にもルボミールに頼りすぎているのも少し躊躇してしまう。
「先ほど勢いで言ったけど、・・・頼り過ぎかな?ってちょっと迷ってるだけだよ」
「年下の可愛い子のお願いはいくらされても嬉しいもんだよ~?」
京とルボミールとは10歳離れている。
・・・まぁハカセともそれくらい離れているのだが。
「まぁ言うだけ言ってみたら良いと思うよ~。なんでも相談してって言われてたじゃん」
「好意を寄せられているのに、それに応えずなんだか手玉にのせてるみたいじゃないか」
「御立派なα様なんでしょー?転がしてやれば良いんだよ~」
「でも・・・」
「好きになりそうなの~?」
そう言うハカセはたまに見せる鋭い眼差しを京にむける。
全てを見透かされるような気分になる、この視線が京は苦手だった。
「違う」
「だよね。ケー様女の人が好きなんだし。
発情期でもなきゃ、ルボミールに興奮しないでしょ?」
「しない」
「良心が痛む感じ?」
「普通に考えてそうだろう」
「ボクの普通だったら、ルボミールをもっと使うけどねー。王太子て最高に便利じゃん」
心底トシマ区で良かったと思う発言である。
研究があることもあるが、こう言う発言をするからハカセはあまり連れて行けないのだ。
「それ、俺の前以外で言うなよ?」
前ならフォローも出来るが、他で言われたら救いようがないからだ。
「わかってるよ~」
絶対にわかってないな。
と、思いつつ京はピアスを握り、ハカセをみた。
「わかった。聞いてみるから、今日はもう戻っていいよ」
「ここにいちゃだめ?」
「駄目。ハカセは余計なこというから」
「えー?必要なことしか言ってないのに~」
出て行くハカセを見送りながらため息つく。
東雲として生きている人生で、人に利用されてると思うことはあった。
自分も利用するからWIN-WINだと思うが、今回は頼りきりな気がしてしまう。
連れ帰ってきたΩの中に、今まで貴族も数名いた。
だが、Noを突き返すものや、王家からの承認がなければ駄目などと言ってきたのは始めてだ。
むしろ手切れ金として金を渡してこようとした者もいたと聞く。
勿論金銭は一切受け取っていないが。
「スミオラ家とは結構でかいのかな」
小さくため息をつく京なのだった。
┬┬┬
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