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第二章「異変の始まり」
第13話「美夕の異変」
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晴明は夜中、目が覚め。水を飲もうと炊事場に行った。
その時、炊事場の方からピチャ、ピチャと奇妙な水音が聞こえてきた。
そっと覗いて見ると、水瓶の陰にうずくまる黒い人影。
晴明は物の怪か、盗人かと思い。「誰だ!」と鋭く叫んだ。
すると、人影はビクッと肩を震わし振り返った。
晴明は、燭台のろうそくの灯りで照らした。闇に浮かんだものは、美夕だった。
見ると、唇に赤い液体が付着していた。
手のひらからは血が出ていて、傍らには、陶器の破片が落ちていた。
何をしていたかは、容易に想像がついた。
そのような症例を、彼は仕事柄、幾度と無く見てきていた。
「自分の血を、飲んでいたのか?」
晴明は、静かに美夕に問いかけた。
「はい」
美夕は、コクンとうなずいた。
晴明は、懐から布を取り出し、素早く美夕の手のひらに巻きつけ止血した。
肩を抱き居間に連れて行くと、道満が火鉢にあたり、酒を飲んでいた。
道満は、覇気の無い美夕の顔を見ると、酒を飲む手を止め。
「どうしたの? 美夕ちゃん。晴明ちゃん、美夕ちゃんに何かあったの?」
と、返事を返さない美夕を心配そうに聞いてきた。
晴明は薬箱から、血止めの薬を取り出すと、美夕の傷口に塗り込み、包帯を巻きながら
「美夕はな……自身の血を、飲んでいたのだ。
どうやら、あの一件から血の味が、忘れられんようだな」
というと、道満は眉根を寄せガシガシと、荒く自分の頭をかいて、興奮して身を乗り出した。
「晴明ちゃん……それって、鬼の血を引く。美夕ちゃんにとってとっても、不味い事なんじゃないの!?」
晴明は、あごを撫でながら答えた。
「ああ、本来ならまずい状況だ。
血を欲しがると言う事は、生なり…鬼に成りかけているという証拠で。
血の次に欲するのが、人の肉だ……」
「そうなってしまっては、鬼女になってしまうのも時間の問題。
そうなる事は是が非でも、避けたい……
その前に手を打たなくては、ならない」というと。
美夕が、青ざめて晴明にすがってきた。
「晴明様っ! 私もあの男のように、母様を食べた。
あの憎い男のように、鬼になってしまうのですか!? いやぁああっっ!!」
と、頭を激しく振り、泣き叫ぶ美夕。
「美夕ちゃん! 美夕ちゃん! しっかりして、大丈夫だから!!」
と慌てて、美夕を落ち着かせようとする道満。
晴明も、静かに美夕の背中をさすりながら。
「美夕、気をしっかり持つのだ……今のうちなら、何とかなる。
最悪の事態にならないよう。私が、血の欲求から逃れられる血断ちの札と、
鬼の血を封じられる、封魔の札を用意しよう。これはどちらも、お前の人の血に働きかけ血を濃くする物だ。お前の精神力も大きく係わってくる……」
「私も誠心誠意、力を尽くそう。だから美夕、お前も鬼の血に負けないように気をしっかり、持つのだ」
すると、美夕は少し落ち着きを取り戻し、深々と頭を下げた。
「はい! 晴明様。私、頑張ります。私、父様の様には。死んでも、なりたくないんです」
道満はホッと胸を撫で下ろしニカッと、白い歯を見せて笑う。
「んで? 晴明ちゃん。俺は、何をすれば良いの?愛する美夕ちゃんの為なら、何でもするよん?」
晴明は人差し指を立て、説明し始めた。
「まず、道満がすべき事は、桃を買ってきて毎日、美夕に食わせるのだ、あれは、魔を祓う効果がある。干した物でも良い。後は禊をさせ、身を清めさせた上で、隔離をして物忌みをさせる。そして、血が欲しくならなくなるまで、血断ちをさせ、祈祷をする。これで、鬼女化を止められるはずだ」
「わかった! 明日、水菓子屋の桃を買ってくるよ!」
道満は、力強くうなずいた。
🌛・・・・・・・・・・・・・・・・・・・🌛
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回は第三章に入ります。
〇ちょこっと言の葉〇
水菓子=果物
※気になった方は、検索してみてください。
その時、炊事場の方からピチャ、ピチャと奇妙な水音が聞こえてきた。
そっと覗いて見ると、水瓶の陰にうずくまる黒い人影。
晴明は物の怪か、盗人かと思い。「誰だ!」と鋭く叫んだ。
すると、人影はビクッと肩を震わし振り返った。
晴明は、燭台のろうそくの灯りで照らした。闇に浮かんだものは、美夕だった。
見ると、唇に赤い液体が付着していた。
手のひらからは血が出ていて、傍らには、陶器の破片が落ちていた。
何をしていたかは、容易に想像がついた。
そのような症例を、彼は仕事柄、幾度と無く見てきていた。
「自分の血を、飲んでいたのか?」
晴明は、静かに美夕に問いかけた。
「はい」
美夕は、コクンとうなずいた。
晴明は、懐から布を取り出し、素早く美夕の手のひらに巻きつけ止血した。
肩を抱き居間に連れて行くと、道満が火鉢にあたり、酒を飲んでいた。
道満は、覇気の無い美夕の顔を見ると、酒を飲む手を止め。
「どうしたの? 美夕ちゃん。晴明ちゃん、美夕ちゃんに何かあったの?」
と、返事を返さない美夕を心配そうに聞いてきた。
晴明は薬箱から、血止めの薬を取り出すと、美夕の傷口に塗り込み、包帯を巻きながら
「美夕はな……自身の血を、飲んでいたのだ。
どうやら、あの一件から血の味が、忘れられんようだな」
というと、道満は眉根を寄せガシガシと、荒く自分の頭をかいて、興奮して身を乗り出した。
「晴明ちゃん……それって、鬼の血を引く。美夕ちゃんにとってとっても、不味い事なんじゃないの!?」
晴明は、あごを撫でながら答えた。
「ああ、本来ならまずい状況だ。
血を欲しがると言う事は、生なり…鬼に成りかけているという証拠で。
血の次に欲するのが、人の肉だ……」
「そうなってしまっては、鬼女になってしまうのも時間の問題。
そうなる事は是が非でも、避けたい……
その前に手を打たなくては、ならない」というと。
美夕が、青ざめて晴明にすがってきた。
「晴明様っ! 私もあの男のように、母様を食べた。
あの憎い男のように、鬼になってしまうのですか!? いやぁああっっ!!」
と、頭を激しく振り、泣き叫ぶ美夕。
「美夕ちゃん! 美夕ちゃん! しっかりして、大丈夫だから!!」
と慌てて、美夕を落ち着かせようとする道満。
晴明も、静かに美夕の背中をさすりながら。
「美夕、気をしっかり持つのだ……今のうちなら、何とかなる。
最悪の事態にならないよう。私が、血の欲求から逃れられる血断ちの札と、
鬼の血を封じられる、封魔の札を用意しよう。これはどちらも、お前の人の血に働きかけ血を濃くする物だ。お前の精神力も大きく係わってくる……」
「私も誠心誠意、力を尽くそう。だから美夕、お前も鬼の血に負けないように気をしっかり、持つのだ」
すると、美夕は少し落ち着きを取り戻し、深々と頭を下げた。
「はい! 晴明様。私、頑張ります。私、父様の様には。死んでも、なりたくないんです」
道満はホッと胸を撫で下ろしニカッと、白い歯を見せて笑う。
「んで? 晴明ちゃん。俺は、何をすれば良いの?愛する美夕ちゃんの為なら、何でもするよん?」
晴明は人差し指を立て、説明し始めた。
「まず、道満がすべき事は、桃を買ってきて毎日、美夕に食わせるのだ、あれは、魔を祓う効果がある。干した物でも良い。後は禊をさせ、身を清めさせた上で、隔離をして物忌みをさせる。そして、血が欲しくならなくなるまで、血断ちをさせ、祈祷をする。これで、鬼女化を止められるはずだ」
「わかった! 明日、水菓子屋の桃を買ってくるよ!」
道満は、力強くうなずいた。
🌛・・・・・・・・・・・・・・・・・・・🌛
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回は第三章に入ります。
〇ちょこっと言の葉〇
水菓子=果物
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