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第一章「晴明と美夕達の日常」

❖第2話「もう一人の住人」

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「――様! 晴明様」
 後ろから美夕の声がして晴明が振り向くと、背中にふわりとうちかけを掛けられた。
 美夕は心配そうに、晴明の顔を覗き込んだ。
「晴明様、ここは冷えます。お酒もほどほどになさって、
 もう、お休みになられてはいかがですか?」
「ああ、わかった。もう遅い時間だ……お前も眠ると良い」
 美夕の頬を片手でさすると、彼女は頬をほんのりと染め嬉しそうにうなずいた。



 安倍家の朝は早い、晴明の式神が屋敷中の木戸を開けた頃、
 美夕は朝餉の支度をして晴明と、もう一人の住人が起きて来るのを待つ。
 しばらくして、ふすまが開いたと同時に部屋に入ってきたのは、体格が良く茶髪で
 短髪の見るからに人が良さそうな青年。袈裟けさを着て数珠を首から下げている。
「あ~! 腹減った。飯、飯。あっ、美夕ちゃん、おはよう。俺、大盛りね!」
「道満様、おはようございます」


 美夕は、明るい笑顔でにこやかに迎えた。
 美夕に向けてニカッと、白い歯を見せて人懐っこい大型犬のような、笑みを向けた。
 名を蘆屋道満あしやどうまんという。播州播磨流ばんしゅうはりまりゅうの法師陰陽師で、晴明に占術勝負で負けて弟子になりこうして、一緒に住んでいる。
 弟子とは名ばかりで噂では自称、晴明の好敵手ライバルを名乗っており日々、挑んでいることになっているらしい。



 ふと道満は晴明がいつも、座っている席を見て。
「あれっ、美夕ちゃん。晴明ちゃんは? まだ、来てないの」
 そう、道満は師匠の晴明の事をちゃん付けして呼ぶ。
 本人は親しみを込めて呼んでいるらしいが、当の晴明は、どう思っているのだろう。
 朝餉は、強飯こわいい、(米を蒸した物)かぶの汁物、きゅうりのぬか漬け、なすのしぎやきだ。
 美夕は、道満のひときわ大きな御飯茶碗にご飯を盛り付けながら、横目で見た。
「晴明様は、お屋敷内のお清めをなさっています。道満様も手伝われてはいかがですか?」



 道満は片手をひらひらとさせ、
「ああ、いいの! いいの! 俺がやると仕事が雑だとか言って、
 晴明ちゃん怒るから。晴明ちゃん、綺麗な顔して怒ると怖いんだもの」
 からから笑うと。美夕は、相変わらずの道満の弟子としての責任能力の無さに
 眩暈めまいを覚えながら、戸惑った。
「はぁ、貴方という方は……もう少し、晴明様のお弟子さんという自覚を持ってください」
 眉をハの字にして困っていると、ふすまが開き晴明が入ってきた。
「道満、あまり美夕を困らせるんじゃない」
「あっ、晴明様。おはようございます。朝餉のご用意はしてありますよ。毎朝、お清めお疲れ様です」



 すると、晴明が優しく美夕を見詰め
「ああ、おはよう。美夕、式神にさせても良いのにいつも家事を任せて、すまないな」
 晴明のちょっとした、心遣いに美夕は胸が暖かくなる。
「いいえ、晴明様……このお屋敷に置いてくださって、いるのですもの」
 晴明と美夕の間に、良い雰囲気が流れる。それを見て、道満はむすっとすると、
 晴明と美夕の間に割って入り、美夕を突然、カバッと抱きしめた。
「晴明ちゃん! 美夕ちゃんは俺のなの! 見つめ合うの禁止!」



 美夕はゆでだこのように顔を真っ赤にして、口をパクパクさせている。
 晴明はこめかみに青筋を走らせ、声色が低くなる。
「ほう? 美夕が、お前のだと。さっさと美夕から離れろ! さもなくば」
 晴明の拳骨が、道満の頭に振り下ろされた。
「痛ってえ――!」
 道満の頭に大きなたんこぶが出来、朝餉が始まった。



 道満は暗い表情で、何やらどす黒い気を放ちブツブツと、文句を言いながら
 汁物を掛けた御飯と、なすの漬物をかっ込んでいる。
 晴明はすました顔で、汁物をすすっている。
 いつもの朝の光景に美夕は、思わず肩をすくませ、手を合わせて食べ始めた

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ◇今回の登場人物◇
「蘆屋道満-あしやどうまん」
 


 播磨の法師陰陽師と呼ばれる素性不明の男性。美夕のことを一途に想っている。
 自称「晴明の好敵手」晴明に勝負で負けたため、現在、弟子になっているようだ。
 開けっ広げな性格で、情にもろい。
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