【完結】離婚の慰謝料は瞳くりくりのふわふわ猫でした!

幌あきら

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19.エリン・ファジルカス伯爵夫人(1)

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「リリーはきっとエリン・ファジルカス伯爵夫人のところに現れるわ。もうただの偶然には思えないもの」
 私は小声でスカイラー様に言った。
 私は、もうアンナリースさんのことは放っておいて、さっさとエリンさんのところへ忠告に行こうと思った。

 スカイラー様も私に賛同した。
「行こう。猫が何をたくらんでいるか分からないけど、厄介やっかいなことが起こる前に未然に防げるなら、その方がいいい」

 私とスカイラー様が連れ立ってテルマン家の応接室を出ていこうとしたので、
「待て、どこへ行く」
と元夫が不審そうに呼び止めた。

「うちのリリーが怪我をさせたわけじゃないのでしたら、ここに長居する必要もありませんしね」
 私はつんと答えた。アンナリースさんにからまれるのはもう御免ごめんだし!

 元夫はまだ探るような目でこちらを見ている。
バーニンガム伯爵スカイラー殿と何かたくらんでいるような素振りだが?」
「何も企んでいません。それにあなたには関係ないことです」
「いや、関係あるね。リリーちゃんがまだ見つかっていないんだ。探しに行くんだろう? 私も行く」

 私は「げえっ」と思った。
「いや、もうこれ以上はついてこないでください。あなたね、分かってますか? マリネットさんもアンナリースさんもなんですよ? あなたのいた種なの。『リリーちゃん』ばっかり言わず、いいかげんに自覚を持ってくださいな」
 ついてくるだけで、この人何もしないしね!

 アンナリースさんはアンナリースさんで、「そうよ、責任取れ」だのなんだのぎゃーぎゃー言っている。まあ、無視すべきだが。

 元夫は私の苦言には返事をしなかった。
 ただ私の顔を見て、
「で、どこに行くんだ」
と聞いた。

「言いませんよ。ってゆか、ここまでくればご自分でも想像つくでしょう!」

「エリンか?」
 元夫は低い声で聞いた。元夫は元夫で一応何かをさっしているようだった。

 私は投げやりな言い方で答えた。
「ええ、その通りですよ! あなたがお付き合いした3人の中で、私が一番嫌いなエリンさんです!」

 エリンさん。
 露出高めのグラマラス美女。
 私が(元)夫と結婚してからすぐに(元)夫と交際を始めた人。

 なぜ一番嫌いかって? なぜなら、私を一番悩ませた人だから!

 当時は(元)夫が妻以外の女性と交際するなんて全く理解できなかったから(もちろん今も、慣れたとはいえ、理解はしていないが)、(元)夫が堂々とあちこちの夜会などにエリンさんを同伴するのが許せず、ひどく私を悩ませていた。

 なぜ? 妻である私を同伴せず、グラマラスな美女と? あの女性と(元)夫の関係は何? もしかして恋人? いや、でも、(元)夫には私という妻がいるはずで……。
 考えはいつも堂々巡どうどうめぐり。

 社交の場に(元)夫が私をエスコートしてくれないのが情けなく、堂々と別な女性と腕を組んでいるのを見せつけられるのが惨めで、そしてあちこちでひそひそと噂されたり同情されたりするのがつらかった。

 しかもエリンさんは前述のとおり露出高めなグラマラス。そしてエリンさんを夜会などに同伴した日は、(元)夫は家に帰ってこないことが何度もあった。
 (元)夫がひどく下品な人間に見え、そんな人間と結婚している自分の品位までおとしめられている気になった。

 私は望んだ人スカイラー様をあきらめてまで、この(元)夫に尽くそうと覚悟して結婚したのに。
 その(元)夫は別の女性とうつつを抜かしている!
 妻って何? 私という存在はいったい何のために存在しているのだろう?

 (元)夫や浮気相手のことを考えると、昼でも夜でもとにかく苦しくて、息ができないような気持ちになった。

 エリンさんは私にとって一番のトラウマ相手になったのだ。
 こんなに時がってもあのときの耐え難い記憶は消えない。
 ええ、今だって、まざまざとあの時の気持ちを思い出すことができますよ!

 私は元夫を睨みつけた。

 元夫は「一番嫌い」という言葉にたじたじとなったようだった。
 しかし、そこでひるむ元夫ではなかった……。
 元夫は真面目な顔で、
「ならば、エリンのことは余計に私が解決しなければなるまい」
と言ったのだった。

「いや、だから――」
 私が、元夫がわずらわしいというのが何で伝わらないのかと、もう一度説明しようとしたとき、
「同行してもらいましょう」
と、スカイラー様が口を挟んだ。

「えっ」
 私は思わずスカイラー様を振り返った。どういうつもり?

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