9 / 22
9.ほんとについて来るし
しおりを挟む
ずっと待たされていた元夫は、私がようやく元夫の前に姿を見せたので、ほっとした顔をした。
そして、「リリーちゃんが行方不明だからね、私も一緒に探しに行こうと思う」
とな~んにも分かっていない顔で言った。
「はあ、そうですか」
私はイライラしながら返事をした。
元夫は私の苛々に気付いたようで、少しだけ殊勝な顔をして、
「いや、昨晩はね、浮気相手の家に君を連れて行く羽目になったことを多少は悪いとは思っているのだよ」
としおらしく言った。
なるほど、私に謝る気はあったらしい。確かに尋常ではありませんでしたものね、あの状況!
「それで、リリーの行方に何か心当たりはあるのかい?」
「はあ。まあね。バーニンガム伯爵様が保護してくださっているようですよ」
それを聞いて元夫は弾かれたように顔を上げた。
「おお、それは良かった! リリーちゃんがバーニンガム伯爵の敷地に迷い込んだんだろうか、道で拾ってくださったんだろうか! しかし、とにかくリリーちゃんが寒空の下、身をふるわせているわけではなさそうだから、ちょっとほっとしたよ! バーニンガム伯爵にはお礼をしなければな!」
私とスカイラー様の昔の関係など露にも知らない元夫は、ただリリーが見つかったことだけを素直に喜んでいる。
まあね。私も昔の気持ちは改めて胸の奥深くに厳重に封印することにしましたけどね。このカオスな状況で、再度身の程を思い知らされましたから!
「では、これから迎えに行くのだよね? 私も行く!」
「いや、いきなりあなたも一緒に行ったら先方が驚きますよ。離婚した元夫がなぜって」
「? なんで驚く? 確かに離婚はしたが、私たち夫婦はリリーの飼い主だったのだから、私だって心配する権利はあると思うが? 何か変かな?」
私は呆れてこめかみを押さえた。
たかが猫ごときに離婚した元夫が出てくるなんて、普通の感覚ではありえませんけどね?
それに、この人、もう自覚がなくなっているかもしれませんが、まだ真っ黒尽くしの魔王スタイルなんですよ。
「……まあよろしいわ。私が止めてもあなたは絶対についてくるんでしょうしね。もうこれ以上は言いません」
「おお、同行許してくれるようでよかった」
元夫は屈託ない笑顔を見せた。
そして私は元夫を連れてバーニンガム伯爵邸を訪れた。
私たちが通された客間にはスカイラー様がいた。
スカイラー様がリリーを抱いていたので私はけっこう驚いた。
リリーがこんな見知らぬ人に大人しく抱かれているなんて!
そしてその光景を見て、元夫は私の隣で小さく呻いた。リリーが他の男に抱かれているのが許せなかったようだ。
そして呻いたのはスカイラー様もだった。スカイラー様はいつになく硬い表情をして、元夫の方を見ていた。
「あの、うちの猫がご厄介になって。どうもすみませんでした。保護してくださってありがとうございます」
私はお辞儀をしながら丁寧にお礼を言った。
「ええ、猫がうちの敷地に迷い込んできたんですよ。それで首輪にラングストン伯爵家(※私の旧姓)の紋章が入っていたので、もしかしてディアンナ様の猫かと思ったのです」
スカイラー様が私の方を少しだけ優しい目で見た。
私はリリーに紋章入りの首輪を特注してよかったと思った。
離婚する前は元夫のマクギャリティ侯爵家の紋章を入れた首輪を付けさせていましたけどね、離婚した後はこちらの気持ちを一新するためにも、リリーちゃんに似合う美しい首輪を新しく用意しましたのよ。もちろん私の実家の紋章入りでね!
「よかったですわ。昨日から姿が見えず、ずっと落ち着かなかったのです」
「おとなしい猫ですね。私に抱かれても文句も言わない。ずっとこの調子でくつろいでくれるんです」
スカイラー様は目を細め、優しい手つきで猫の頭を撫でた。
私はその光景にぐっときた。
好意を寄せた人が私の猫をこんなに優しく撫でてくれるなんて!
しかし、リリーが知らない人におとなしく抱かれているなんて、珍しいこともあるもんだなあと思った。
家ではワガママ放題の猫なのに。気に入らなければ飼い主の私にだって撫でさせてはくれないのに。
そして、「リリーちゃんが行方不明だからね、私も一緒に探しに行こうと思う」
とな~んにも分かっていない顔で言った。
「はあ、そうですか」
私はイライラしながら返事をした。
元夫は私の苛々に気付いたようで、少しだけ殊勝な顔をして、
「いや、昨晩はね、浮気相手の家に君を連れて行く羽目になったことを多少は悪いとは思っているのだよ」
としおらしく言った。
なるほど、私に謝る気はあったらしい。確かに尋常ではありませんでしたものね、あの状況!
「それで、リリーの行方に何か心当たりはあるのかい?」
「はあ。まあね。バーニンガム伯爵様が保護してくださっているようですよ」
それを聞いて元夫は弾かれたように顔を上げた。
「おお、それは良かった! リリーちゃんがバーニンガム伯爵の敷地に迷い込んだんだろうか、道で拾ってくださったんだろうか! しかし、とにかくリリーちゃんが寒空の下、身をふるわせているわけではなさそうだから、ちょっとほっとしたよ! バーニンガム伯爵にはお礼をしなければな!」
私とスカイラー様の昔の関係など露にも知らない元夫は、ただリリーが見つかったことだけを素直に喜んでいる。
まあね。私も昔の気持ちは改めて胸の奥深くに厳重に封印することにしましたけどね。このカオスな状況で、再度身の程を思い知らされましたから!
「では、これから迎えに行くのだよね? 私も行く!」
「いや、いきなりあなたも一緒に行ったら先方が驚きますよ。離婚した元夫がなぜって」
「? なんで驚く? 確かに離婚はしたが、私たち夫婦はリリーの飼い主だったのだから、私だって心配する権利はあると思うが? 何か変かな?」
私は呆れてこめかみを押さえた。
たかが猫ごときに離婚した元夫が出てくるなんて、普通の感覚ではありえませんけどね?
それに、この人、もう自覚がなくなっているかもしれませんが、まだ真っ黒尽くしの魔王スタイルなんですよ。
「……まあよろしいわ。私が止めてもあなたは絶対についてくるんでしょうしね。もうこれ以上は言いません」
「おお、同行許してくれるようでよかった」
元夫は屈託ない笑顔を見せた。
そして私は元夫を連れてバーニンガム伯爵邸を訪れた。
私たちが通された客間にはスカイラー様がいた。
スカイラー様がリリーを抱いていたので私はけっこう驚いた。
リリーがこんな見知らぬ人に大人しく抱かれているなんて!
そしてその光景を見て、元夫は私の隣で小さく呻いた。リリーが他の男に抱かれているのが許せなかったようだ。
そして呻いたのはスカイラー様もだった。スカイラー様はいつになく硬い表情をして、元夫の方を見ていた。
「あの、うちの猫がご厄介になって。どうもすみませんでした。保護してくださってありがとうございます」
私はお辞儀をしながら丁寧にお礼を言った。
「ええ、猫がうちの敷地に迷い込んできたんですよ。それで首輪にラングストン伯爵家(※私の旧姓)の紋章が入っていたので、もしかしてディアンナ様の猫かと思ったのです」
スカイラー様が私の方を少しだけ優しい目で見た。
私はリリーに紋章入りの首輪を特注してよかったと思った。
離婚する前は元夫のマクギャリティ侯爵家の紋章を入れた首輪を付けさせていましたけどね、離婚した後はこちらの気持ちを一新するためにも、リリーちゃんに似合う美しい首輪を新しく用意しましたのよ。もちろん私の実家の紋章入りでね!
「よかったですわ。昨日から姿が見えず、ずっと落ち着かなかったのです」
「おとなしい猫ですね。私に抱かれても文句も言わない。ずっとこの調子でくつろいでくれるんです」
スカイラー様は目を細め、優しい手つきで猫の頭を撫でた。
私はその光景にぐっときた。
好意を寄せた人が私の猫をこんなに優しく撫でてくれるなんて!
しかし、リリーが知らない人におとなしく抱かれているなんて、珍しいこともあるもんだなあと思った。
家ではワガママ放題の猫なのに。気に入らなければ飼い主の私にだって撫でさせてはくれないのに。
68
お気に入りに追加
175
あなたにおすすめの小説
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました
しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。
そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。
そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。
全身包帯で覆われ、顔も見えない。
所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。
「なぜこのようなことに…」
愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。
同名キャラで複数の話を書いています。
作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。
この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。
皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。
短めの話なのですが、重めな愛です。
お楽しみいただければと思います。
小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
妹に婚約者を取られましたが、辺境で楽しく暮らしています
今川幸乃
ファンタジー
おいしい物が大好きのオルロンド公爵家の長女エリサは次期国王と目されているケビン王子と婚約していた。
それを羨んだ妹のシシリーは悪い噂を流してエリサとケビンの婚約を破棄させ、自分がケビンの婚約者に収まる。
そしてエリサは田舎・偏屈・頑固と恐れられる辺境伯レリクスの元に厄介払い同然で嫁に出された。
当初は見向きもされないエリサだったが、次第に料理や作物の知識で周囲を驚かせていく。
一方、ケビンは極度のナルシストで、エリサはそれを知っていたからこそシシリーにケビンを譲らなかった。ケビンと結ばれたシシリーはすぐに彼の本性を知り、後悔することになる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】裏切ったあなたを許さない
紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。
そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。
それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。
そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました
紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。
ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。
ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。
貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる