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6.自殺未遂の真相は?
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侍女は申し訳なさそうな顔をした。
「マリネット様は私を詰りました。猫がここにいることが大事なのよって。私には意味が分かりませんでしたが……。でも、猫を逃がした私を罰してやるってすごい剣幕でしたので私は泣いてしまったのです」
「?」
マリネットさんのご両親はますます理解ができない顔をしている。
「猫はマリネットにとって一体何だったのだね?」
「分かりません」
侍女はまた泣きそうになった。
「でも『探しなさいよ、猫が見つからなかったら首にしてやる』って。『猫がいなきゃあの人は還ってこない、死んでやる』って。そして『お前のせいだからね』って何度も何度も……。あまりの剣幕で足がすくんでいましたら、『愚図ね、私も探しに行くわ』と仰ってマリネット様はお部屋を飛び出して……私も慌てて追いかけたのですが……そしてエントランスの外の足場に猫を見つけて……捕まえようとした弾みに……」
「落ちたというわけだな。あそこはかなり段差がある……」
とマリネットさんの御父上が後を続けた。
「自殺ではなかった。事故かい」
「はい」
侍女は小さく肯いた。
「なぜもっと早く言わないのだね」
マリネットさんの御父上は呆れた顔で言った。
「事故なんて隠すことでは」
「怒られると思ったので」
侍女は半泣きだ。
「猫を逃がした私のせいだと」
マリネットさんのご両親は柔らかく首を振った。
「残念ながら、今の話が全てなんだったら、マリネットのことは事故にしか聞こえない。そんなに猫に執着する理由はよく分からないが」
私と元夫はぎくっとした。
が、私は一先ず事故だったことにほっとして、それから尋ねた。
「先ほども言った通り、私は飼い猫を探しているのですわ。マリネットさんが拾ってくださったのね。でも捕まえられなかったってことね? それでその猫はその後どこに行ったのかしら」
「分かりませんわ」
侍女は首を振った。
「マリネット様が猫に飛び掛かって、猫がひらりと避けて、そのままマリネット様の悲鳴が聞こえて。もうそこから私はマリネット様のことで頭がいっぱいになりましたので」
「そうね。まあそれはそうだと思うわ」
私は少しがっかりしながら、しかしまあ、身軽に逃げた猫よりマリネットさんの怪我の方が重要というのは否定できないので頷いた。
「兎にも角にも、うちの猫がご迷惑をおかけしたのは本当のようですから、うちからもお見舞いをさせていただきたいですわ。でも、けっして元夫とはよりを戻したなんてことはございませんから誤解なさらないでくださいね。本当に飼い猫を探しに来ただけなのです。こんな不幸な結果になって残念ですわ」
私は形式上丁寧に言った。
そりゃあ本当は「マリネットさんが猫を盗んだからこうなったのよ」と言ってやりたかったがそこはオトナぶって我慢した。
あ、盗ったのは猫だけじゃありませんでしたね。
元夫は私の隣で青い顔をしている。
私は蹴り飛ばしたくなった。
もう、本当に、なんて女に引っかかっているの、この男は!
私の視線やマリネットさんのご両親の視線を感じてか、元夫は居心地悪そうに、しかし何か言わなければならないように、
「と、とにかく、自殺ではないようで良かった」
と辛うじて言った。
「いや、マリネットさんをふったからこうなったんですよね」と私は心の中で思った。
マリネットさんのご両親も近いものを感じたらしい。
そもそも婚約しておいて追い出したから自殺したんだと思っただろうし。
真相が分かった今となったって、婚約しといて追い出した娘の相手を一体どんな顔でご両親は対面したらよかったのだろう?
「それで、元奥様とよりを戻したのではないとしたら、うちの娘がお邸を追い出されたというのはどこが悪かったんですかね? いやあ、あんなに意気揚々と『婚約段階でも一緒に暮らすのだ!』と息巻いていたあなた方でしたから……」
急にマリネットさんのご両親が娘の出戻りについて言及し出した。
元夫は後ろめたそうな顔をした。
相当耳が痛いに違いない。ま、怒られて当然。まさか「猫が……」とは言えまい。
私は知らんぷりして、「では私には関係ないお話ですから、私はこれでお暇します」
と席を立った。
リリーを探さないといけませんしね。
「マリネット様は私を詰りました。猫がここにいることが大事なのよって。私には意味が分かりませんでしたが……。でも、猫を逃がした私を罰してやるってすごい剣幕でしたので私は泣いてしまったのです」
「?」
マリネットさんのご両親はますます理解ができない顔をしている。
「猫はマリネットにとって一体何だったのだね?」
「分かりません」
侍女はまた泣きそうになった。
「でも『探しなさいよ、猫が見つからなかったら首にしてやる』って。『猫がいなきゃあの人は還ってこない、死んでやる』って。そして『お前のせいだからね』って何度も何度も……。あまりの剣幕で足がすくんでいましたら、『愚図ね、私も探しに行くわ』と仰ってマリネット様はお部屋を飛び出して……私も慌てて追いかけたのですが……そしてエントランスの外の足場に猫を見つけて……捕まえようとした弾みに……」
「落ちたというわけだな。あそこはかなり段差がある……」
とマリネットさんの御父上が後を続けた。
「自殺ではなかった。事故かい」
「はい」
侍女は小さく肯いた。
「なぜもっと早く言わないのだね」
マリネットさんの御父上は呆れた顔で言った。
「事故なんて隠すことでは」
「怒られると思ったので」
侍女は半泣きだ。
「猫を逃がした私のせいだと」
マリネットさんのご両親は柔らかく首を振った。
「残念ながら、今の話が全てなんだったら、マリネットのことは事故にしか聞こえない。そんなに猫に執着する理由はよく分からないが」
私と元夫はぎくっとした。
が、私は一先ず事故だったことにほっとして、それから尋ねた。
「先ほども言った通り、私は飼い猫を探しているのですわ。マリネットさんが拾ってくださったのね。でも捕まえられなかったってことね? それでその猫はその後どこに行ったのかしら」
「分かりませんわ」
侍女は首を振った。
「マリネット様が猫に飛び掛かって、猫がひらりと避けて、そのままマリネット様の悲鳴が聞こえて。もうそこから私はマリネット様のことで頭がいっぱいになりましたので」
「そうね。まあそれはそうだと思うわ」
私は少しがっかりしながら、しかしまあ、身軽に逃げた猫よりマリネットさんの怪我の方が重要というのは否定できないので頷いた。
「兎にも角にも、うちの猫がご迷惑をおかけしたのは本当のようですから、うちからもお見舞いをさせていただきたいですわ。でも、けっして元夫とはよりを戻したなんてことはございませんから誤解なさらないでくださいね。本当に飼い猫を探しに来ただけなのです。こんな不幸な結果になって残念ですわ」
私は形式上丁寧に言った。
そりゃあ本当は「マリネットさんが猫を盗んだからこうなったのよ」と言ってやりたかったがそこはオトナぶって我慢した。
あ、盗ったのは猫だけじゃありませんでしたね。
元夫は私の隣で青い顔をしている。
私は蹴り飛ばしたくなった。
もう、本当に、なんて女に引っかかっているの、この男は!
私の視線やマリネットさんのご両親の視線を感じてか、元夫は居心地悪そうに、しかし何か言わなければならないように、
「と、とにかく、自殺ではないようで良かった」
と辛うじて言った。
「いや、マリネットさんをふったからこうなったんですよね」と私は心の中で思った。
マリネットさんのご両親も近いものを感じたらしい。
そもそも婚約しておいて追い出したから自殺したんだと思っただろうし。
真相が分かった今となったって、婚約しといて追い出した娘の相手を一体どんな顔でご両親は対面したらよかったのだろう?
「それで、元奥様とよりを戻したのではないとしたら、うちの娘がお邸を追い出されたというのはどこが悪かったんですかね? いやあ、あんなに意気揚々と『婚約段階でも一緒に暮らすのだ!』と息巻いていたあなた方でしたから……」
急にマリネットさんのご両親が娘の出戻りについて言及し出した。
元夫は後ろめたそうな顔をした。
相当耳が痛いに違いない。ま、怒られて当然。まさか「猫が……」とは言えまい。
私は知らんぷりして、「では私には関係ないお話ですから、私はこれでお暇します」
と席を立った。
リリーを探さないといけませんしね。
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