2 / 22
2.復縁の理由は
しおりを挟む
「離婚が決まって1カ月。もうダメなんだ! 僕は真実の愛に気付いた。もう離れて暮らしているとつらいんだ……」
元夫が涙を流さんばかりに額を床にこすりつける。
「ちょっと、そんなみっともない真似はさすがにやめてくださいませんか?」
私はちょっと気の毒になって声をかけた。
「いやッ! 君が許してくれるまではここにこうしていいる」
元夫は床に手を突いたまま、頑なに立ち上がろうとしなかった。
私はため息をついた。
「マリネットさんは?」
「もうすっかりどうでもよくなって邸から叩き出した。違うんだ。あの邸にいるべきなのはマリネットじゃない」
「いやいや、私には話が全く見えません。その心変わり、何かあったのですか? だって、あんなにマリネットさんにご執心だったではありませんか」
私は困惑を隠せずに聞いた。
だって、まだ元夫は魔王みたいな恰好をしているし。
「それは君が出て行ったからじゃないか」
「それは出ていきましたけど、それが何か? 何かあなたとマリネットさんに問題でも?」
「マリネットのことはもうどうでもいい! 過去の女だ。幸いマリネットとは婚姻前だった。ああ、再婚する前に気付けて良かった!」
「マリネットさんとの再婚、やめるんですか?」
「ああ、やめるとも! 目が覚めたんだ。真実の愛はマリネットじゃない」
「はあ……」
私はなんだか腑に落ちないまま返事した。
「君が大事だということだ。君が出て行って、本当につらかった。こんな虚無感に苛まれたのは初めてだ。俺は今まで愛というものを勘違いしていた」
元夫は必死で訴えかけるように言った。
しかし私はこれまで散々浮気されていたので、今更そんな言葉を信じられるほど乙女でもなかった。
「その言葉、全然信用ならないんですけど。だってあなた、私のこと愛してくださったことなんて全くなかったじゃないですか」
「それは……」
と元夫は言葉を濁した。
そして元夫は顔を伏せたが、顔を苦々しく歪めて唇を噛みしめ、言わなければいけないことを絞り出すように、
「本当は君のことを愛していたんだ!」
と言った。
私は元夫の嫌そうな顔に、余計に不信感が募った。
「その顔で!?」
「あ、いやっ」
元夫が慌てて笑顔を作った。
と、その時。
「にゃ~~~ん」
と猫の鳴き声がした。
私の飼い猫だ。
猫は昼寝していたところ元夫が入ってきたので目が覚めて、こちらを警戒するようにしばらく眺めていたが、眺めていることに飽きたのだろう。
部屋を出ていきたくなったらしい。
「ドア開けろ」と要求しているのだった。
しかし、その猫の声を聞いた途端、元夫の目が潤んだ。
ばっと猫の方へ振り向くと「リリーちゃぁんっ」と声をあげた。
私はピンときた。
「あっ! リリーですわねっ!?」
私は叫んだ。
「いなくなって寂しいのは私じゃなくてリリーなんでしょう!?」
元夫は図星の顔で「しまった」と呟いた。
リリーは私の飼い猫である。もともとは私たち夫婦の飼い猫だ。
まだ結婚中、(元)夫が海外視察に行ったときに、たまたま向こうの商人が希少品として扱っていたのを見かけ、珍しいと思って買って帰ってきた。邸にきたリリーの可愛らしい見た目に私はすっかりメロメロになって、すぐさま(元)夫に譲るようにお願いした。
白色のふわっふわの長毛種。(元)夫は最初はうさぎかと思ったらしい。
くりくりの瞳は緑色。警戒心があまり強くない種であるわりには、ぴんと立った耳がわりかしひょこひょこ動いている。
(元)夫は笑いながら了承した。
日当たりのよい窓辺やクッションの隙間で目を細めて丸まっている姿は生き物の可愛らしさをすべて詰め込んだような完璧な姿で、神々しさまで感じさせるほどだ。
その割には、目覚めると少し性格がきつく、食事の好みもなかなかうるさい。まあそれに関しては私とお抱えシェフで甘やかしまくったせいもあるかもしれないが。肉の味の違いが分かる、なかなかの猫になってしまった。
シェフがリリー用に用意した数品の料理をまずふんふんと嗅ぎ、気に入ったものだけ食べる……。ひどいときは何も口にしないので、シェフも作り直しだ。いやもう、気に入った料理だけ毎日出せばいいじゃないかと思うのだが、それはそれで飽きると一切口を付けないので、まあ結局はレパートリー勝負になる。
元夫が涙を流さんばかりに額を床にこすりつける。
「ちょっと、そんなみっともない真似はさすがにやめてくださいませんか?」
私はちょっと気の毒になって声をかけた。
「いやッ! 君が許してくれるまではここにこうしていいる」
元夫は床に手を突いたまま、頑なに立ち上がろうとしなかった。
私はため息をついた。
「マリネットさんは?」
「もうすっかりどうでもよくなって邸から叩き出した。違うんだ。あの邸にいるべきなのはマリネットじゃない」
「いやいや、私には話が全く見えません。その心変わり、何かあったのですか? だって、あんなにマリネットさんにご執心だったではありませんか」
私は困惑を隠せずに聞いた。
だって、まだ元夫は魔王みたいな恰好をしているし。
「それは君が出て行ったからじゃないか」
「それは出ていきましたけど、それが何か? 何かあなたとマリネットさんに問題でも?」
「マリネットのことはもうどうでもいい! 過去の女だ。幸いマリネットとは婚姻前だった。ああ、再婚する前に気付けて良かった!」
「マリネットさんとの再婚、やめるんですか?」
「ああ、やめるとも! 目が覚めたんだ。真実の愛はマリネットじゃない」
「はあ……」
私はなんだか腑に落ちないまま返事した。
「君が大事だということだ。君が出て行って、本当につらかった。こんな虚無感に苛まれたのは初めてだ。俺は今まで愛というものを勘違いしていた」
元夫は必死で訴えかけるように言った。
しかし私はこれまで散々浮気されていたので、今更そんな言葉を信じられるほど乙女でもなかった。
「その言葉、全然信用ならないんですけど。だってあなた、私のこと愛してくださったことなんて全くなかったじゃないですか」
「それは……」
と元夫は言葉を濁した。
そして元夫は顔を伏せたが、顔を苦々しく歪めて唇を噛みしめ、言わなければいけないことを絞り出すように、
「本当は君のことを愛していたんだ!」
と言った。
私は元夫の嫌そうな顔に、余計に不信感が募った。
「その顔で!?」
「あ、いやっ」
元夫が慌てて笑顔を作った。
と、その時。
「にゃ~~~ん」
と猫の鳴き声がした。
私の飼い猫だ。
猫は昼寝していたところ元夫が入ってきたので目が覚めて、こちらを警戒するようにしばらく眺めていたが、眺めていることに飽きたのだろう。
部屋を出ていきたくなったらしい。
「ドア開けろ」と要求しているのだった。
しかし、その猫の声を聞いた途端、元夫の目が潤んだ。
ばっと猫の方へ振り向くと「リリーちゃぁんっ」と声をあげた。
私はピンときた。
「あっ! リリーですわねっ!?」
私は叫んだ。
「いなくなって寂しいのは私じゃなくてリリーなんでしょう!?」
元夫は図星の顔で「しまった」と呟いた。
リリーは私の飼い猫である。もともとは私たち夫婦の飼い猫だ。
まだ結婚中、(元)夫が海外視察に行ったときに、たまたま向こうの商人が希少品として扱っていたのを見かけ、珍しいと思って買って帰ってきた。邸にきたリリーの可愛らしい見た目に私はすっかりメロメロになって、すぐさま(元)夫に譲るようにお願いした。
白色のふわっふわの長毛種。(元)夫は最初はうさぎかと思ったらしい。
くりくりの瞳は緑色。警戒心があまり強くない種であるわりには、ぴんと立った耳がわりかしひょこひょこ動いている。
(元)夫は笑いながら了承した。
日当たりのよい窓辺やクッションの隙間で目を細めて丸まっている姿は生き物の可愛らしさをすべて詰め込んだような完璧な姿で、神々しさまで感じさせるほどだ。
その割には、目覚めると少し性格がきつく、食事の好みもなかなかうるさい。まあそれに関しては私とお抱えシェフで甘やかしまくったせいもあるかもしれないが。肉の味の違いが分かる、なかなかの猫になってしまった。
シェフがリリー用に用意した数品の料理をまずふんふんと嗅ぎ、気に入ったものだけ食べる……。ひどいときは何も口にしないので、シェフも作り直しだ。いやもう、気に入った料理だけ毎日出せばいいじゃないかと思うのだが、それはそれで飽きると一切口を付けないので、まあ結局はレパートリー勝負になる。
76
お気に入りに追加
175
あなたにおすすめの小説
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました
しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。
そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。
そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。
全身包帯で覆われ、顔も見えない。
所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。
「なぜこのようなことに…」
愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。
同名キャラで複数の話を書いています。
作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。
この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。
皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。
短めの話なのですが、重めな愛です。
お楽しみいただければと思います。
小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】裏切ったあなたを許さない
紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。
そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。
それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。
そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】真実の愛はおいしいですか?
ゆうぎり
恋愛
とある国では初代王が妖精の女王と作り上げたのが国の成り立ちだと言い伝えられてきました。
稀に幼い貴族の娘は妖精を見ることができるといいます。
王族の婚約者には妖精たちが見えている者がなる決まりがありました。
お姉様は幼い頃妖精たちが見えていたので王子様の婚約者でした。
でも、今は大きくなったので見えません。
―――そんな国の妖精たちと貴族の女の子と家族の物語
※童話として書いています。
※「婚約破棄」の内容が入るとカテゴリーエラーになってしまう為童話→恋愛に変更しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】本当に私と結婚したいの?
横居花琉
恋愛
ウィリアム王子には公爵令嬢のセシリアという婚約者がいたが、彼はパメラという令嬢にご執心だった。
王命による婚約なのにセシリアとの結婚に乗り気でないことは明らかだった。
困ったセシリアは王妃に相談することにした。
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる