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12.あいつは許しておけまい 中編
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「ああ、分かった。分かったよ。そうさ、この結婚は愛だけじゃあない。俺は、俺たちは、マリアンヌを王太子妃にしてやる必要があったのさ。でもな、それの何が悪い! 王族の結婚なんて政略結婚が基本だ、それを何で今更」
アシェッド王太子は開き直った。
「えー? いやいやいや!」
メリーウェザーは不平の声をあげた。
「何だ」
「何だじゃございませんでしょう? 私、殺されかけてるんですけど!? 一方的な婚約破棄の口封じだとか言って! いやいやいや、一方的な婚約破棄っていうのも相当な礼儀違反だと思いますけど、それ以上に、殺すとか何? せめて相談して下れば、私が同意すれば婚約の解消だって十分に穏便に行けたかもしれませんよ。殺人を何だと思っているのです。私も自分ができた人間だとは言いませんけれど、処刑されるほどの罪は犯していないつもりです」
メリーウェザーは真っすぐにアシェッド王太子の顔を見た。
あの日崖の上で言わせてもらったけど、あっさり無視されて海に突き落とされたから、ここは観客の前できちんと言ってやらなくちゃ!
アシェッド王太子は冷や汗を流して顔を背けた。
「あ、ちょっと。だんまりですか? ずるいじゃないですかーっ」
メリーウェザーは不満たっぷりに地団太を踏んだ。
が、アシェッド王太子もマリアンヌも無視するので、しょぼんとなってぷうっと頬をふくらませた。
「じゃあもう言っちゃいますけど、マリアンヌさんが私を殺すよう主張なさったのかしらって思っているのですけれど」
メリーウェザーは、アシェッド王太子の横でふてぶてしく腕組みをしているマリアンヌの方を見た。
マリアンヌは首を軽く傾げて見せた。
「何のことかしら」
メリーウェザーはキッと真面目な顔でマリアンヌを睨んだ。
「あなたは賢い方だから、将来の不安の芽を摘んどこうと考えたのかなって。マリアンヌさんは商家の娘さんですから、貴族が将来にわたっていつまでも自分の味方で居続けてくれるとは考えていない。マリアンヌさんが口を出せば出す程、貴族が敵に回る可能性も出てくるでしょう。そうなれば、敵性貴族に真っ先に担ぎ出されるのは私でしょうからね。一方的な婚約破棄で王室乗っ取りだなんて、マリアンヌさんを断罪するいい理由になりますもの。そんな悪い将来を見越して、私に事故死してもらった方が都合がいいと思ったんじゃないかなって」
マリアンヌの額を汗がつーっと流れた。
が、マリアンヌ嬢は取り澄ましたまま首を軽く横に振った。
「さっきからいったい何のことかしら」
メリーウェザーはいい加減腹が立ってきた。殺そうとした上に、それを決して認めないなんて。謝ってほしいのに。
そして息を吸い込んだ。
「あくまで白を切るつもりなんですね。でも無駄ですよ。実は、私を海から突き落とした男の一人を身柄確保しているんです」
「は?」
マリアンヌの眉がピクリと動いた。
が、また涼しい顔をする。
「またまた冗談を。そんな人いませんけど」
メリーウェザーは「そりゃ信用しませんよね」とちょっとがっかりした顔をした。
「まあそうですよね。あなたに不利な証言なんてするまいと思っているんでしょう。でもねえ、白状しましたよ、その男は。なんならはっきりと命令書まで見せてくれました。……意外でしたよ、あなたが犯罪の証拠を文書なんかに残すなんてね」
が、マリアンヌはぷいっとよそを向いた。
「う、嘘よ。私を揺さぶっているのね。証拠を得たなんて嘘。そうやって私を騙して、私を自白させようって魂胆なんでしょうけど、おあいにく様。そんな手にはのらないわ。そんな男は知らないし。もしそんな男がいたとしても、あなたには下手人を脅すカードなんて持ちあわせちゃいないはずよ」
メリーウェザーはその言葉に心外だといった顔をした。
「いえいえ、とんでもないです、男の自白は簡単でしたよ! だってあなたの正体をばらしてやったもの!」
「!!!」
ついにマリアンヌは露骨に顔色を変えた。
「正体ですって! なぜ……!」
メリーウェザーはそこまで言ってからマリアンヌから視線を外し、アシェッド王太子の方を見た。
「アシェッド王太子様もねえ、マリアンヌさんの正体を知ったら結婚やめろって言う意味が分かると思いますけど」
アシェッド王太子は目を丸く見開いて聞き返した。
「マリアンヌの正体だと? おまえは何を言っているんだ。結婚をやめろという理由?」
メリーウェザーは頷いた。
「ええ。マリアンヌさんの正体はねえ、さすがに私もちょっと見過ごせませんでした。私はなにも身分のことを言っているわけではありません。マリアンヌさんのご実家は外国でお爺様の代で爵位を金で買った家柄ですが、そんな身分だからと頭ごなしに結婚を否定したりはしません。そりゃ王族の結婚と思うと、マリアンヌさんの実家のような身分だとちょっと斬新だなあとは思いますけど。まあ本人が好き合っていたりそれなりの理由がございましたら、その身分でも可能な場合もあるかと思います。しかし、マリアンヌさんという人選に限ってはちょっと受け入れられません。国民をバカにしているとしか思えませんもの!」
「バカにしているだと?」
アシェッド王太子は本当に思い当たる節がないようできょとんとしている。
「メリーウェザー様! あんまり突飛な嘘はつかないことよ!」
マリアンヌが牽制した。
マリアンヌの語調が強いので、メリーウェザーはちょっとタジタジとしたが、恐る恐る口を開いた。
「えっと、嘘じゃあございません。マリアンヌさんのお爺様は海賊でしたでしょう?」
「か、海賊!?」
アシェッド王太子は驚きすぎて声がかすれていた。
アシェッド王太子は開き直った。
「えー? いやいやいや!」
メリーウェザーは不平の声をあげた。
「何だ」
「何だじゃございませんでしょう? 私、殺されかけてるんですけど!? 一方的な婚約破棄の口封じだとか言って! いやいやいや、一方的な婚約破棄っていうのも相当な礼儀違反だと思いますけど、それ以上に、殺すとか何? せめて相談して下れば、私が同意すれば婚約の解消だって十分に穏便に行けたかもしれませんよ。殺人を何だと思っているのです。私も自分ができた人間だとは言いませんけれど、処刑されるほどの罪は犯していないつもりです」
メリーウェザーは真っすぐにアシェッド王太子の顔を見た。
あの日崖の上で言わせてもらったけど、あっさり無視されて海に突き落とされたから、ここは観客の前できちんと言ってやらなくちゃ!
アシェッド王太子は冷や汗を流して顔を背けた。
「あ、ちょっと。だんまりですか? ずるいじゃないですかーっ」
メリーウェザーは不満たっぷりに地団太を踏んだ。
が、アシェッド王太子もマリアンヌも無視するので、しょぼんとなってぷうっと頬をふくらませた。
「じゃあもう言っちゃいますけど、マリアンヌさんが私を殺すよう主張なさったのかしらって思っているのですけれど」
メリーウェザーは、アシェッド王太子の横でふてぶてしく腕組みをしているマリアンヌの方を見た。
マリアンヌは首を軽く傾げて見せた。
「何のことかしら」
メリーウェザーはキッと真面目な顔でマリアンヌを睨んだ。
「あなたは賢い方だから、将来の不安の芽を摘んどこうと考えたのかなって。マリアンヌさんは商家の娘さんですから、貴族が将来にわたっていつまでも自分の味方で居続けてくれるとは考えていない。マリアンヌさんが口を出せば出す程、貴族が敵に回る可能性も出てくるでしょう。そうなれば、敵性貴族に真っ先に担ぎ出されるのは私でしょうからね。一方的な婚約破棄で王室乗っ取りだなんて、マリアンヌさんを断罪するいい理由になりますもの。そんな悪い将来を見越して、私に事故死してもらった方が都合がいいと思ったんじゃないかなって」
マリアンヌの額を汗がつーっと流れた。
が、マリアンヌ嬢は取り澄ましたまま首を軽く横に振った。
「さっきからいったい何のことかしら」
メリーウェザーはいい加減腹が立ってきた。殺そうとした上に、それを決して認めないなんて。謝ってほしいのに。
そして息を吸い込んだ。
「あくまで白を切るつもりなんですね。でも無駄ですよ。実は、私を海から突き落とした男の一人を身柄確保しているんです」
「は?」
マリアンヌの眉がピクリと動いた。
が、また涼しい顔をする。
「またまた冗談を。そんな人いませんけど」
メリーウェザーは「そりゃ信用しませんよね」とちょっとがっかりした顔をした。
「まあそうですよね。あなたに不利な証言なんてするまいと思っているんでしょう。でもねえ、白状しましたよ、その男は。なんならはっきりと命令書まで見せてくれました。……意外でしたよ、あなたが犯罪の証拠を文書なんかに残すなんてね」
が、マリアンヌはぷいっとよそを向いた。
「う、嘘よ。私を揺さぶっているのね。証拠を得たなんて嘘。そうやって私を騙して、私を自白させようって魂胆なんでしょうけど、おあいにく様。そんな手にはのらないわ。そんな男は知らないし。もしそんな男がいたとしても、あなたには下手人を脅すカードなんて持ちあわせちゃいないはずよ」
メリーウェザーはその言葉に心外だといった顔をした。
「いえいえ、とんでもないです、男の自白は簡単でしたよ! だってあなたの正体をばらしてやったもの!」
「!!!」
ついにマリアンヌは露骨に顔色を変えた。
「正体ですって! なぜ……!」
メリーウェザーはそこまで言ってからマリアンヌから視線を外し、アシェッド王太子の方を見た。
「アシェッド王太子様もねえ、マリアンヌさんの正体を知ったら結婚やめろって言う意味が分かると思いますけど」
アシェッド王太子は目を丸く見開いて聞き返した。
「マリアンヌの正体だと? おまえは何を言っているんだ。結婚をやめろという理由?」
メリーウェザーは頷いた。
「ええ。マリアンヌさんの正体はねえ、さすがに私もちょっと見過ごせませんでした。私はなにも身分のことを言っているわけではありません。マリアンヌさんのご実家は外国でお爺様の代で爵位を金で買った家柄ですが、そんな身分だからと頭ごなしに結婚を否定したりはしません。そりゃ王族の結婚と思うと、マリアンヌさんの実家のような身分だとちょっと斬新だなあとは思いますけど。まあ本人が好き合っていたりそれなりの理由がございましたら、その身分でも可能な場合もあるかと思います。しかし、マリアンヌさんという人選に限ってはちょっと受け入れられません。国民をバカにしているとしか思えませんもの!」
「バカにしているだと?」
アシェッド王太子は本当に思い当たる節がないようできょとんとしている。
「メリーウェザー様! あんまり突飛な嘘はつかないことよ!」
マリアンヌが牽制した。
マリアンヌの語調が強いので、メリーウェザーはちょっとタジタジとしたが、恐る恐る口を開いた。
「えっと、嘘じゃあございません。マリアンヌさんのお爺様は海賊でしたでしょう?」
「か、海賊!?」
アシェッド王太子は驚きすぎて声がかすれていた。
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