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11.あいつは許しておけまい 前編
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メリーウェザーは「え~と」と躊躇いがちに口を開いた。
「いや、あのね、おかしいと思っていたんですよ、アシェッド王太子。マリアンヌさんのことは真実の愛だと仰っていたのに、それでもなお『夜伽用の女奴隷』を調達しようとなさるなんて」
結婚式会場中の招待客たちはぎょっとした。多くの人が下品な言葉に顔を顰めた。『夜伽用の女奴隷』とは?
ざわざわざわ……
「うわあ」
不名誉な単語第二弾に、アシェッド王太子は焦った。
もう一度「しーっ」と言ってみたが、もう後の祭りである。
会場が騒然としている中、メリーウェザーは平然と続ける。
「好みの女を『夜伽用の女奴隷』で調達しようとするあなた、ですよ。女を囲うことに抵抗がないのなら、私を表に据えておいて、裏でマリアンヌさんでも女奴隷さんでもいくらでも好きになさると思うの。私をわざわざ殺してまで、マリアンヌさんを王妃に就けなければならない理由って何なんだろうって思いまして」
アシェッド王太子は開き直った態度で腕組みをした。
「ふ、深く考えすぎだ、禿げるぞ。簡単に分かりやすく説明してやろう! マリアンヌを愛している。しかし性癖を思う存分ぶちまける相手が欲しいから夜伽用の女奴隷を買おうと思った。それだけだ!」
『性癖を思う存分ぶちまける相手』? メリーウェザーはゲエっと思った。そんなのにさせられそうになってたの? マジでご免なんですけれど。キモイ。
メリーウェザーは顔を顰めて口元を覆いながら言葉を続けた。
「今更嘘なんかつかないで結構ですよ。それでマリアンヌさんについて調べてみました。アシェッド王太子殿下。王家の財務状況がこんなに大赤字だとは知りませんでしたよ」
「ふ、ふん。どこの国の王室も基本大赤字だ」
「と仰るわりには、いろいろ涙ぐましく改ざんしようとした跡がございましたけれどね。でも残念ながら、もうほとんど財産と呼べるものはなくなっていましたね……」
メリーウェザーは憐みの口調で言った。
結婚式会場中の招待客たちは知っていた者も知らなかった者もいるのだろう、「え、そうだったの」とか「まあそうだろう」とか、そんな声が聞こえた。
財政状況をばらされてアシェッド王太子は少々気まずそうな顔をした。しかし開き直った態度は相変わらずで、
「そこまで言うほどではない。というか、金の話は当主である父王に言ってくれるか。そこにいるぞ」
と突っぱねた。
メリーウェザーはちらりと国王陛下を見た。
国王陛下は微動だにせずそこに座っていた。
仮にも王太子の婚約者だったのだからメリーウェザーは知っている。この人は自分の利益が確定するまでは見ない振り聞かない振りをするのが得意だ。それが例え息子に関わることだとしても。
根っからの保身家なのである。
国王陛下はこれだけメリーウェザーに視線を投げかけられても、無視を決め込み、何か言葉を発するそぶりは見せなかった。
今はまだメリーウェザーが勝つのかアシェッド王太子が勝つのか分からないから、どちらの味方もしないのだろう。
メリーウェザーは視線をアシェッド王太子の方に戻した。
「国王陛下からは特にお言葉はありませんようで」
「ふ、ふんっ」
アシェッド王太子は少し焦りが見えた。国王陛下さえ味方になろうとしない。『トカゲの尻尾切り』という言葉が脳裏をよぎった。
メリーウェザーは続ける。
「膨らみ過ぎた借金に、返済の不能を恐れて借金の利子がどんどん高くなる。それでも返済のために新たに借金をしなければならず、王家の会計は余計に火の車です」
アシェッド王太子はまたしても父王をちらりと見たが、父王の方はメリーウェザーの話を聞いているのかいないのか、焦点の定まらない顔をしている。当然アシェッド王太子の視線も無視だ。
仕方なくアシェッド王太子が答える。
「ふ、ふん。確かに利子は上がっているが、うちの借金だけ特別に利子が高いというわけではないよ」
「ご冗談を。うちの実家がもし借りるとなってもそんな利子はつけられたりしませんよ」
メリーウェザーは苦笑した。
「でもそんなあなた方にいい話が来た。外国の大財産家であるマリアンヌさんのご実家が、金銭的援助を申し出てくれたんですってね。もちろん無償ではありません。相応の見返りを要求したはずです。しかもマリアンヌさんのお父さんは生ぬるい方ではなかった。『借金を用立てる代わりに贔屓してもらう』という程度では満足しなかった。徳政令で泣きを見る金貸しも多かったですからね。それで浮上したのがマリアンヌさんの結婚です。あなたとマリアンヌさんの結婚が金銭的援助の条件でした」
「マリアンヌの実家が金銭的援助を申し出てくれたのは確かだ。だが、それは順番が逆だ。私がマリアンヌと結婚するから援助を申し出てくれたんだ。親戚としてね」
アシェッド王太子は毅然とした態度で訂正した。
「どっちでも一緒です……」
メリーウェザーは呆れた顔をした。
「娘が王太子妃になれば王宮内での発言権が増しますから、投資する価値が十分にあるというだけです。今後マリアンヌさんに色々と便宜を図ってもらえるし、徳政令も簡単には出せないでしょう」
「ま、まるで俺が利用されているかのような言い方をするじゃないか」
「違いますか? あなただって本当に愛だけだと言い切れる自信がおありですか? マリアンヌさんの莫大な持参金を前にして? この結婚式もマリアンヌさんのご実家が用立てたそうじゃないですか」
メリーウェザーは大きくため息をついた。
「いや、あのね、おかしいと思っていたんですよ、アシェッド王太子。マリアンヌさんのことは真実の愛だと仰っていたのに、それでもなお『夜伽用の女奴隷』を調達しようとなさるなんて」
結婚式会場中の招待客たちはぎょっとした。多くの人が下品な言葉に顔を顰めた。『夜伽用の女奴隷』とは?
ざわざわざわ……
「うわあ」
不名誉な単語第二弾に、アシェッド王太子は焦った。
もう一度「しーっ」と言ってみたが、もう後の祭りである。
会場が騒然としている中、メリーウェザーは平然と続ける。
「好みの女を『夜伽用の女奴隷』で調達しようとするあなた、ですよ。女を囲うことに抵抗がないのなら、私を表に据えておいて、裏でマリアンヌさんでも女奴隷さんでもいくらでも好きになさると思うの。私をわざわざ殺してまで、マリアンヌさんを王妃に就けなければならない理由って何なんだろうって思いまして」
アシェッド王太子は開き直った態度で腕組みをした。
「ふ、深く考えすぎだ、禿げるぞ。簡単に分かりやすく説明してやろう! マリアンヌを愛している。しかし性癖を思う存分ぶちまける相手が欲しいから夜伽用の女奴隷を買おうと思った。それだけだ!」
『性癖を思う存分ぶちまける相手』? メリーウェザーはゲエっと思った。そんなのにさせられそうになってたの? マジでご免なんですけれど。キモイ。
メリーウェザーは顔を顰めて口元を覆いながら言葉を続けた。
「今更嘘なんかつかないで結構ですよ。それでマリアンヌさんについて調べてみました。アシェッド王太子殿下。王家の財務状況がこんなに大赤字だとは知りませんでしたよ」
「ふ、ふん。どこの国の王室も基本大赤字だ」
「と仰るわりには、いろいろ涙ぐましく改ざんしようとした跡がございましたけれどね。でも残念ながら、もうほとんど財産と呼べるものはなくなっていましたね……」
メリーウェザーは憐みの口調で言った。
結婚式会場中の招待客たちは知っていた者も知らなかった者もいるのだろう、「え、そうだったの」とか「まあそうだろう」とか、そんな声が聞こえた。
財政状況をばらされてアシェッド王太子は少々気まずそうな顔をした。しかし開き直った態度は相変わらずで、
「そこまで言うほどではない。というか、金の話は当主である父王に言ってくれるか。そこにいるぞ」
と突っぱねた。
メリーウェザーはちらりと国王陛下を見た。
国王陛下は微動だにせずそこに座っていた。
仮にも王太子の婚約者だったのだからメリーウェザーは知っている。この人は自分の利益が確定するまでは見ない振り聞かない振りをするのが得意だ。それが例え息子に関わることだとしても。
根っからの保身家なのである。
国王陛下はこれだけメリーウェザーに視線を投げかけられても、無視を決め込み、何か言葉を発するそぶりは見せなかった。
今はまだメリーウェザーが勝つのかアシェッド王太子が勝つのか分からないから、どちらの味方もしないのだろう。
メリーウェザーは視線をアシェッド王太子の方に戻した。
「国王陛下からは特にお言葉はありませんようで」
「ふ、ふんっ」
アシェッド王太子は少し焦りが見えた。国王陛下さえ味方になろうとしない。『トカゲの尻尾切り』という言葉が脳裏をよぎった。
メリーウェザーは続ける。
「膨らみ過ぎた借金に、返済の不能を恐れて借金の利子がどんどん高くなる。それでも返済のために新たに借金をしなければならず、王家の会計は余計に火の車です」
アシェッド王太子はまたしても父王をちらりと見たが、父王の方はメリーウェザーの話を聞いているのかいないのか、焦点の定まらない顔をしている。当然アシェッド王太子の視線も無視だ。
仕方なくアシェッド王太子が答える。
「ふ、ふん。確かに利子は上がっているが、うちの借金だけ特別に利子が高いというわけではないよ」
「ご冗談を。うちの実家がもし借りるとなってもそんな利子はつけられたりしませんよ」
メリーウェザーは苦笑した。
「でもそんなあなた方にいい話が来た。外国の大財産家であるマリアンヌさんのご実家が、金銭的援助を申し出てくれたんですってね。もちろん無償ではありません。相応の見返りを要求したはずです。しかもマリアンヌさんのお父さんは生ぬるい方ではなかった。『借金を用立てる代わりに贔屓してもらう』という程度では満足しなかった。徳政令で泣きを見る金貸しも多かったですからね。それで浮上したのがマリアンヌさんの結婚です。あなたとマリアンヌさんの結婚が金銭的援助の条件でした」
「マリアンヌの実家が金銭的援助を申し出てくれたのは確かだ。だが、それは順番が逆だ。私がマリアンヌと結婚するから援助を申し出てくれたんだ。親戚としてね」
アシェッド王太子は毅然とした態度で訂正した。
「どっちでも一緒です……」
メリーウェザーは呆れた顔をした。
「娘が王太子妃になれば王宮内での発言権が増しますから、投資する価値が十分にあるというだけです。今後マリアンヌさんに色々と便宜を図ってもらえるし、徳政令も簡単には出せないでしょう」
「ま、まるで俺が利用されているかのような言い方をするじゃないか」
「違いますか? あなただって本当に愛だけだと言い切れる自信がおありですか? マリアンヌさんの莫大な持参金を前にして? この結婚式もマリアンヌさんのご実家が用立てたそうじゃないですか」
メリーウェザーは大きくため息をついた。
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