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【8.ディクティス神官】
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秘密の手紙まで暴露されてロスダン王子はたじたじとなった。
「だ、だって、俺は、ずっとジェーンのことを……幼い時から……! 横から奪ったのはおまえなんだぞ、ウィーラー!」
そして言い訳のようにウィーラーを詰った。
「にしてもこんな卑劣な手を!」
アレリアが吐き捨てると、ロスダン王子は開き直ったように答えた。
「卑劣じゃない! 今父が国王をしているが、俺が国王になったらカッチェス家は潰してやろうと思ってたくらいなんだぞ。アレリアが俺の妃になるなら別だがな!」
「妃になった私を人質に、ジェーンに関係を迫るつもりだったんでしょう! あなたはクズだわ!」
「おまえみたいなブスに言われる筋合いはない。誰にも嫁にもらってもらえないところを俺が妃にしてやると言っているんだ!」
ロスダン王子が恩着せがましく酷いことを言う。
「誰にも嫁にもらってもらえないことはないと思いますよ」
と不意に、あきれ返った冷めた声がして、その場の者が一斉に振り返った。
「ディクティス神官様!?」
アレリアは情けないものを見られてしまたとバツの悪そうな顔をする。
アレリアの表情に苦笑しながら、ディクティス神官は、
「こりゃ、思ったよりよっぽど質の悪い王子ですね。廃嫡するよう国王に進言しましょう」
と言った。
ロスダン王子が目を剥く。
「なんだと貴様、何の権限で」
「分かっていないのは王子ですよ。あなたにとってたいそうお気の毒なことに、今年は100年の式典。式典の本来の意味はご存知ですかね? 100年ごとに土地の支配者と『契約』するのです。200年前、『契約』されなかった王朝がどうなったかは歴史で習ったのではないですか? 今度の式典、あなたが王太子のままで『契約』が進むと思わないでくださいね」
ディクティス神官はゆっくりと嚙み含めるように説明した。
ロスダン王子は真っ青になったが、まだ反論した。
「う、うぬぼれるな! 神殿の神が『契約』しないなどとなぜおまえが言えるのだ! おまえは神殿の神じゃない、ただの神官だろう!」
「ええ、ただの神官です。次の中央の神官長に内定していますがね。確かに仰る通り、私は神殿の神ではありません。でもお判りでしょう、神官が祀ってこその神です。神官が『契約』を認めなければ式典は行われません。つまり、神殿の神との『契約』は破棄されます。幸いまだ式典の準備期間。あなたが国の当主として相応しくないと神官が判断すれば、式典はいつでも中止できるでしょう」
ディクティス神官は言った。
「さっきから『契約』とうるさいな。だが『契約』が何だ! 『契約』無しでも俺は国を治めてみせる! 確かに俺はジェーンを正当に手に入れることはできなかったさ。だが、国を治める能力は別だ! 人間なら俺に逆らえない!」
ロスダン王子が開き直って言うので、ディクティス神官は完全に呆れ返ってしまった。
「不倫で失脚した大臣とかいましたよね。例え能力があったとしても支持されるかは別の話ですよ。それに信仰を舐めない方がいいです。信仰は良心。神殿が認めない王家を民は信頼できるでしょうか。民が徴税にも徴兵にも応じなかったら、虚しい空っぽの王位で何ができますか。王家は衰退します」
「!」
ロスダン王子は言い返すことができなかった。悔しそうにぎゅっと拳を握った。
ディクティス神官は、そんな様子を横目に柔らかい言葉をかけた。
「王子、あなたの愛し方は間違っていました。でも心を入れ替えたらよろしいのでは。別に命まで取ろうとは思っていません。で、アレリア様との縁はなかったものとあきらめてください」
そうして、ディクティス神官はアレリアに「こんなものでよかったかな」と目配せした。
アレリアはまさかディクティス神官が自分の味方になってロスダン王子を糾弾してくれるとは思わなかったので、心底感謝して、深く頭を下げた。
「だ、だって、俺は、ずっとジェーンのことを……幼い時から……! 横から奪ったのはおまえなんだぞ、ウィーラー!」
そして言い訳のようにウィーラーを詰った。
「にしてもこんな卑劣な手を!」
アレリアが吐き捨てると、ロスダン王子は開き直ったように答えた。
「卑劣じゃない! 今父が国王をしているが、俺が国王になったらカッチェス家は潰してやろうと思ってたくらいなんだぞ。アレリアが俺の妃になるなら別だがな!」
「妃になった私を人質に、ジェーンに関係を迫るつもりだったんでしょう! あなたはクズだわ!」
「おまえみたいなブスに言われる筋合いはない。誰にも嫁にもらってもらえないところを俺が妃にしてやると言っているんだ!」
ロスダン王子が恩着せがましく酷いことを言う。
「誰にも嫁にもらってもらえないことはないと思いますよ」
と不意に、あきれ返った冷めた声がして、その場の者が一斉に振り返った。
「ディクティス神官様!?」
アレリアは情けないものを見られてしまたとバツの悪そうな顔をする。
アレリアの表情に苦笑しながら、ディクティス神官は、
「こりゃ、思ったよりよっぽど質の悪い王子ですね。廃嫡するよう国王に進言しましょう」
と言った。
ロスダン王子が目を剥く。
「なんだと貴様、何の権限で」
「分かっていないのは王子ですよ。あなたにとってたいそうお気の毒なことに、今年は100年の式典。式典の本来の意味はご存知ですかね? 100年ごとに土地の支配者と『契約』するのです。200年前、『契約』されなかった王朝がどうなったかは歴史で習ったのではないですか? 今度の式典、あなたが王太子のままで『契約』が進むと思わないでくださいね」
ディクティス神官はゆっくりと嚙み含めるように説明した。
ロスダン王子は真っ青になったが、まだ反論した。
「う、うぬぼれるな! 神殿の神が『契約』しないなどとなぜおまえが言えるのだ! おまえは神殿の神じゃない、ただの神官だろう!」
「ええ、ただの神官です。次の中央の神官長に内定していますがね。確かに仰る通り、私は神殿の神ではありません。でもお判りでしょう、神官が祀ってこその神です。神官が『契約』を認めなければ式典は行われません。つまり、神殿の神との『契約』は破棄されます。幸いまだ式典の準備期間。あなたが国の当主として相応しくないと神官が判断すれば、式典はいつでも中止できるでしょう」
ディクティス神官は言った。
「さっきから『契約』とうるさいな。だが『契約』が何だ! 『契約』無しでも俺は国を治めてみせる! 確かに俺はジェーンを正当に手に入れることはできなかったさ。だが、国を治める能力は別だ! 人間なら俺に逆らえない!」
ロスダン王子が開き直って言うので、ディクティス神官は完全に呆れ返ってしまった。
「不倫で失脚した大臣とかいましたよね。例え能力があったとしても支持されるかは別の話ですよ。それに信仰を舐めない方がいいです。信仰は良心。神殿が認めない王家を民は信頼できるでしょうか。民が徴税にも徴兵にも応じなかったら、虚しい空っぽの王位で何ができますか。王家は衰退します」
「!」
ロスダン王子は言い返すことができなかった。悔しそうにぎゅっと拳を握った。
ディクティス神官は、そんな様子を横目に柔らかい言葉をかけた。
「王子、あなたの愛し方は間違っていました。でも心を入れ替えたらよろしいのでは。別に命まで取ろうとは思っていません。で、アレリア様との縁はなかったものとあきらめてください」
そうして、ディクティス神官はアレリアに「こんなものでよかったかな」と目配せした。
アレリアはまさかディクティス神官が自分の味方になってロスダン王子を糾弾してくれるとは思わなかったので、心底感謝して、深く頭を下げた。
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