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【2.王子の妃候補 後編】
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ロスダン王子は呆れてわざとらしくため息をついた。
「君しぶといね。それって僕を拒否してるってことかな? さすがに僕だって分かるよ」
それでもアレリアは、
「だってぇ、他に教養深くて美しく、身分も高い令嬢がたっくさんいますでしょう? なんで私なんですか? 普通なら『変な女、関わり合いになるよそう』となるでしょうけど、あなたは面倒くさそうな顔をしている割には全然引こうとしないんですもの。どういったわけですのよぅ?」
とまくし立てる。
面倒くさそうな顔と言われて、王子はぎくっとして慌ててまた麗しい笑顔を作った。
そして、勿体つけたように、
「そうだね、目が覚めるように美しい令嬢も、立ち居振る舞いにほれぼれとするような令嬢も、そりゃいるよ。でも僕は別にそんな女性ばっかりが好きなわけじゃないんだから。君は身分がしっかりしているのに少し変わってる。僕の言葉にも簡単に靡かない。面白いと思ってもいいんじゃない? どう? この理由なら満足?」
と言ってのけた。
「嘘ですよね」
表情を変えずにさらりとアレリアは言うと、ちょうどアレリアの横を通ろうとした、ごてごてに着飾った令嬢の足をわざとぎゅっと踏んだ。
「きゃああっ」
普段から悲鳴の練習をしているのか、その令嬢は可愛らしい悲鳴を上げると、美しい所作で体勢を崩した。
こけるっ!と思ったロスダン王子が反射的にその令嬢の体をさっと支え、令嬢は王子の腕にすっぽりと包まれる形になった。
「まあっ! ロスダン王子!」
令嬢の目がきらりと光って、一瞬で潤み、令嬢はそのまま王子にしなだれかかる。
「あちゃあ~足を踏んでしまいました。申し訳ありませんわっ」
とアレリアがたいして申し訳なく思ってない口調で言うと、足を踏まれた令嬢はアレリアの方をキッと睨んで、
「許してあげるから、あんたみたいなブスさっさとひっこんでなさいよ、王子と二人っきりにして頂戴」
と言った。
てっきりロスダン王子もそのつもりなのかと、令嬢が王子の顔をうっとりと見上げようとすると、王子の冷たい視線にぶつかった。
「え?」
王子は不愉快そうに眉を顰めていて、
「今こちらの令嬢にダンスを申し込んでいるのだ」
と足を踏まれた令嬢に静かに言った。
足を踏まれた令嬢は目を白黒させながら、それでも、
「え? この令嬢にダンスを? この人私の足を踏んだんですのよ。王子様も踏まれちゃいます。ささ、どうぞ私と一緒に」
ともう少し粘ってみたが、ロスダン王子が、
「分からない人だね」
と令嬢の体を放し、今度は強引にアレリアの手を引いて舞踏場の方へ引っ張って行こうとするので、足を踏まれた令嬢はポカンとした。
アレリアの方はいきなり腕を掴まれて驚き、思惑と違ったので唇を噛んだ。当初の計画では、自分が足を踏んだ令嬢にロスダン王子を押し付けて、自分は立ち去ろうと思っていたのだ。
しかし、このまま流されてダンスなどとんでもない。
アレリアは歩みを止めると王子の手を振り払い、ヘラヘラっと薄気味悪く笑って、お断りしますとひらひらと掌を振って見せた。
ロスダン王子はアレリアの奇怪で頑なな態度に、逆にすっかり覚悟を決めたようだった。
「正直に言おう。君を妃候補に考えている」
王子ははっきりと宣言した。
アレリアは心の中で青ざめたが、ここで王子のペースに乗ってはいけないと、
「あはははっ!」
とわざとらしく爆笑して見せ、
「またぁ、ご冗談を~。でもそんな突拍子もないご提案、冗談でも受けられませんわぁ」
とにべもなく断った。
アレリアは心の中じゃ大真面目、笑っていられる場合じゃなかったが、ヘラヘラふわふわ体を揺すってニコニコする。
王子の方は、なんとなくアレリアがわざとこんな態度をしているのではないかと疑い深い目をアレリアに向けている。
傍からはそうは見えないが、二人はしばらく無言のまま睨み合っていた。
しかし、ロスダン王子の連れの高位貴族の若者たちが、酔っぱらった様子で、
「ロスダン王子、探しましたよー」
と底抜けに明るい笑い声と共にやってきたので、ロスダン王子はハッと我に返ったようだった。
何も言わずにヘラヘラしたアレリアに軽く一礼すると、連れたちとその場を立ち去って行った。
アレリアは迷惑な男がいなくなってほっとした。
しかし、王子が『妃候補に考えている』と言ったことに強い危機感を感じていた。
妃? とんでもない!!
何のために不謹慎なブスを演じてきたと思っているの!
「君しぶといね。それって僕を拒否してるってことかな? さすがに僕だって分かるよ」
それでもアレリアは、
「だってぇ、他に教養深くて美しく、身分も高い令嬢がたっくさんいますでしょう? なんで私なんですか? 普通なら『変な女、関わり合いになるよそう』となるでしょうけど、あなたは面倒くさそうな顔をしている割には全然引こうとしないんですもの。どういったわけですのよぅ?」
とまくし立てる。
面倒くさそうな顔と言われて、王子はぎくっとして慌ててまた麗しい笑顔を作った。
そして、勿体つけたように、
「そうだね、目が覚めるように美しい令嬢も、立ち居振る舞いにほれぼれとするような令嬢も、そりゃいるよ。でも僕は別にそんな女性ばっかりが好きなわけじゃないんだから。君は身分がしっかりしているのに少し変わってる。僕の言葉にも簡単に靡かない。面白いと思ってもいいんじゃない? どう? この理由なら満足?」
と言ってのけた。
「嘘ですよね」
表情を変えずにさらりとアレリアは言うと、ちょうどアレリアの横を通ろうとした、ごてごてに着飾った令嬢の足をわざとぎゅっと踏んだ。
「きゃああっ」
普段から悲鳴の練習をしているのか、その令嬢は可愛らしい悲鳴を上げると、美しい所作で体勢を崩した。
こけるっ!と思ったロスダン王子が反射的にその令嬢の体をさっと支え、令嬢は王子の腕にすっぽりと包まれる形になった。
「まあっ! ロスダン王子!」
令嬢の目がきらりと光って、一瞬で潤み、令嬢はそのまま王子にしなだれかかる。
「あちゃあ~足を踏んでしまいました。申し訳ありませんわっ」
とアレリアがたいして申し訳なく思ってない口調で言うと、足を踏まれた令嬢はアレリアの方をキッと睨んで、
「許してあげるから、あんたみたいなブスさっさとひっこんでなさいよ、王子と二人っきりにして頂戴」
と言った。
てっきりロスダン王子もそのつもりなのかと、令嬢が王子の顔をうっとりと見上げようとすると、王子の冷たい視線にぶつかった。
「え?」
王子は不愉快そうに眉を顰めていて、
「今こちらの令嬢にダンスを申し込んでいるのだ」
と足を踏まれた令嬢に静かに言った。
足を踏まれた令嬢は目を白黒させながら、それでも、
「え? この令嬢にダンスを? この人私の足を踏んだんですのよ。王子様も踏まれちゃいます。ささ、どうぞ私と一緒に」
ともう少し粘ってみたが、ロスダン王子が、
「分からない人だね」
と令嬢の体を放し、今度は強引にアレリアの手を引いて舞踏場の方へ引っ張って行こうとするので、足を踏まれた令嬢はポカンとした。
アレリアの方はいきなり腕を掴まれて驚き、思惑と違ったので唇を噛んだ。当初の計画では、自分が足を踏んだ令嬢にロスダン王子を押し付けて、自分は立ち去ろうと思っていたのだ。
しかし、このまま流されてダンスなどとんでもない。
アレリアは歩みを止めると王子の手を振り払い、ヘラヘラっと薄気味悪く笑って、お断りしますとひらひらと掌を振って見せた。
ロスダン王子はアレリアの奇怪で頑なな態度に、逆にすっかり覚悟を決めたようだった。
「正直に言おう。君を妃候補に考えている」
王子ははっきりと宣言した。
アレリアは心の中で青ざめたが、ここで王子のペースに乗ってはいけないと、
「あはははっ!」
とわざとらしく爆笑して見せ、
「またぁ、ご冗談を~。でもそんな突拍子もないご提案、冗談でも受けられませんわぁ」
とにべもなく断った。
アレリアは心の中じゃ大真面目、笑っていられる場合じゃなかったが、ヘラヘラふわふわ体を揺すってニコニコする。
王子の方は、なんとなくアレリアがわざとこんな態度をしているのではないかと疑い深い目をアレリアに向けている。
傍からはそうは見えないが、二人はしばらく無言のまま睨み合っていた。
しかし、ロスダン王子の連れの高位貴族の若者たちが、酔っぱらった様子で、
「ロスダン王子、探しましたよー」
と底抜けに明るい笑い声と共にやってきたので、ロスダン王子はハッと我に返ったようだった。
何も言わずにヘラヘラしたアレリアに軽く一礼すると、連れたちとその場を立ち去って行った。
アレリアは迷惑な男がいなくなってほっとした。
しかし、王子が『妃候補に考えている』と言ったことに強い危機感を感じていた。
妃? とんでもない!!
何のために不謹慎なブスを演じてきたと思っているの!
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