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【3.父は乗り気】
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ロスダン王子に妙な絡まれ方をしてから数日後。
家族で取っていた朝食時に、いきなり父カッチェス侯爵がアレリアに向かって、
「アレリア、明後日、デザイナーのヘレン・ウィリアムズを呼んでいる。彼女は今、王都で一番人気のデザイナーなようだね。予定を開けておきなさい」
と言った。
「ヘレン・ウィリアムズ? ドレスでも新調するのですか? でも新しいドレスなど特に必要ありませんけど。それに、もしドレスを新調するにしても、わざわざヘレン・ウィリアムズに頼む必要はありませんわ。そこそこのデザイナーで結構です」
アレリアは嫌な予感がして、ひとまず口答えした。
カッチェス侯爵は、娘のその反応はいつものことで、特別どうと思うこともなく、
「もう金を積んで頼んだのだ。ドレスは数着作っておけ。いくつかの用途に合わせて」
と有無を言わさぬ命令口調だ。
「急になんです、お父様」
とアレリアが不服そうに聞くと、
「ロスダン王子にお茶を申し込まれている。ロスダン王子はおまえにご執心だということだ。このままいけば婚約も申し込まれるかもしれない。そうであれば、新しいドレスの一つや二つ必要だろう」
とカッチェス侯爵は少し誇らしそうに言った。
アレリアはぎょっとして息を呑んだ。
一緒に食事をとっていた弟のウィーラーも、その妻のジェーンも驚いてスプーンと落した。
「何だね、おまえたち」
3人が不自然なほど驚いていたので、カッチェス侯爵が不満そうに言う。
アレリアは憤慨しながら父に文句を言った。
「何だねじゃありません、お父様! そんな話に乗ろうというのですか? ウィーラーの件をお忘れですか!?」
ウィーラーも無言のまま大きく頷いている。
するとカッチェス侯爵は、
「ウィーラーの件があるからこそではないか! カッチェス家はロスダン王子に誠意をもってお応えしなければならん」
ともっともらしく高らかに宣言した。
アレリアは父を窘めた。
「いえ! ウィーラーの件があるからこそ、変だとは思わないのですか? なぜ急に王子が私に気を留めることになったのでしょう? 私はこれまで何一つ王子と接点はなかったのですよ?」
すると、カッチェス侯爵は首を竦め、
「そんなのは私の知る由もないよ。ウィーラーの件でロスダン王子はおまえの存在を知ったのではないかね。それできっとお前が気に入ったのだ。それでいいじゃないか」
と乱暴に言い放った。
「よくありません! そんな都合よく私を気に入りますか? というか、気に入られないように振舞ってきたつもりですけど」
「じゃあ聞くがおまえは王子の何が気に入らない? 私が言うのも変だが、世の中の娘どもはみんなあの見てくれの良い王子に夢中だと聞くぞ。整った顔立ち、洗練された立ち居振る舞い、女性に優しく品行方正、悪い噂は何も聞かん。王子にお茶を申し込まれたなど、喜びこそすれ嫌な顔をする娘など聞いたことない!」
カッチェス侯爵は、おまえの方が変だとばかりにアレリアを問い詰めた。
アレリアは反抗する。
「逆に、そんなより取り見取りの王子様がなんで私なんかを選びますか? 私は美しいわけでもなく、地味で、家柄こそ低くはありませんが同程度の家はたくさんあります。社交界だって付き合いの良い方ではありません。お父さんが王宮で活躍しているならまだしも、そうではないでしょう?」
カッチェス侯爵は「活躍してない」と暗に言われ口をへの字に曲げた。
「言ってくれるね」
「王子が私を望むなんて変じゃないですか」
アレリアは繰り返す。
しかし、カッチェス侯爵の方は機嫌を悪くしていたので、
「おまえは疑り深いな。自分で王子に聞けばよかろう」
とだけ言って、ふいっと横を向いてしまった。
アレリアとウィーラーとその妻は、心配そうに目を見合わせるばかりだった。
家族で取っていた朝食時に、いきなり父カッチェス侯爵がアレリアに向かって、
「アレリア、明後日、デザイナーのヘレン・ウィリアムズを呼んでいる。彼女は今、王都で一番人気のデザイナーなようだね。予定を開けておきなさい」
と言った。
「ヘレン・ウィリアムズ? ドレスでも新調するのですか? でも新しいドレスなど特に必要ありませんけど。それに、もしドレスを新調するにしても、わざわざヘレン・ウィリアムズに頼む必要はありませんわ。そこそこのデザイナーで結構です」
アレリアは嫌な予感がして、ひとまず口答えした。
カッチェス侯爵は、娘のその反応はいつものことで、特別どうと思うこともなく、
「もう金を積んで頼んだのだ。ドレスは数着作っておけ。いくつかの用途に合わせて」
と有無を言わさぬ命令口調だ。
「急になんです、お父様」
とアレリアが不服そうに聞くと、
「ロスダン王子にお茶を申し込まれている。ロスダン王子はおまえにご執心だということだ。このままいけば婚約も申し込まれるかもしれない。そうであれば、新しいドレスの一つや二つ必要だろう」
とカッチェス侯爵は少し誇らしそうに言った。
アレリアはぎょっとして息を呑んだ。
一緒に食事をとっていた弟のウィーラーも、その妻のジェーンも驚いてスプーンと落した。
「何だね、おまえたち」
3人が不自然なほど驚いていたので、カッチェス侯爵が不満そうに言う。
アレリアは憤慨しながら父に文句を言った。
「何だねじゃありません、お父様! そんな話に乗ろうというのですか? ウィーラーの件をお忘れですか!?」
ウィーラーも無言のまま大きく頷いている。
するとカッチェス侯爵は、
「ウィーラーの件があるからこそではないか! カッチェス家はロスダン王子に誠意をもってお応えしなければならん」
ともっともらしく高らかに宣言した。
アレリアは父を窘めた。
「いえ! ウィーラーの件があるからこそ、変だとは思わないのですか? なぜ急に王子が私に気を留めることになったのでしょう? 私はこれまで何一つ王子と接点はなかったのですよ?」
すると、カッチェス侯爵は首を竦め、
「そんなのは私の知る由もないよ。ウィーラーの件でロスダン王子はおまえの存在を知ったのではないかね。それできっとお前が気に入ったのだ。それでいいじゃないか」
と乱暴に言い放った。
「よくありません! そんな都合よく私を気に入りますか? というか、気に入られないように振舞ってきたつもりですけど」
「じゃあ聞くがおまえは王子の何が気に入らない? 私が言うのも変だが、世の中の娘どもはみんなあの見てくれの良い王子に夢中だと聞くぞ。整った顔立ち、洗練された立ち居振る舞い、女性に優しく品行方正、悪い噂は何も聞かん。王子にお茶を申し込まれたなど、喜びこそすれ嫌な顔をする娘など聞いたことない!」
カッチェス侯爵は、おまえの方が変だとばかりにアレリアを問い詰めた。
アレリアは反抗する。
「逆に、そんなより取り見取りの王子様がなんで私なんかを選びますか? 私は美しいわけでもなく、地味で、家柄こそ低くはありませんが同程度の家はたくさんあります。社交界だって付き合いの良い方ではありません。お父さんが王宮で活躍しているならまだしも、そうではないでしょう?」
カッチェス侯爵は「活躍してない」と暗に言われ口をへの字に曲げた。
「言ってくれるね」
「王子が私を望むなんて変じゃないですか」
アレリアは繰り返す。
しかし、カッチェス侯爵の方は機嫌を悪くしていたので、
「おまえは疑り深いな。自分で王子に聞けばよかろう」
とだけ言って、ふいっと横を向いてしまった。
アレリアとウィーラーとその妻は、心配そうに目を見合わせるばかりだった。
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