5 / 6
5.国王の買収
しおりを挟む
そこからはご想像のとおりです。
夜は(謎の薬のせいで)王妃に夢中の国王陛下、お妾殿が国王陛下に会うためには昼間しかない。だからお妾殿は昼間に国王の公務の邪魔になる程度まで国王を追い回した。
国王陛下の方は少々困り顔で「今は仕事だから、夜に。今夜行くから」とやんわりお妾殿をなだめすかそうとしたが、お妾殿の方は「仕事と私、どっちが大事ーっ!?」と聞く耳を持たなかった。それどころかお妾殿は逆に「一蹴された」と頭にきて、余計に時間と場所も考えず国王の執務に割って入ろうとするので、周囲は完全に困ってしまった。
一度くらい邪魔された分には大目に見た国王だったが(それでも公務が邪魔されたので関係者は大迷惑だったが)、あまりのお妾殿の聞き分けのなさにすっかり国王は怒ってしまった。
「昼は分刻みでスケジュールが入っているんだ!」
それで案の定エリオットが呼ばれた。ぎゃーぎゃー「中に入れろ」と部屋の外で喚いているお妾殿の声が聞こえる中、
「おい、あの妾をなんとかしろ」
と国王はうんざり顔でエリオットに命令した。
エリオットの方も面倒くさそうな顔をする。
「何で私が」
「おまえ、女紹介してもらうとかでリーガンと接点があっただろ?」
「あっ! そんな話もありましたね。でももう私は王妃に寝返ったんで」
エリオットは澄まし返っている。
国王はあんぐり口を開けた。
「王妃派に!? 何があったのか知らんがそつないな!」
「ええ。なのでもうお妾殿の関係者じゃありません。ってゆかご自分の妾でしょ、ご自分で何とかしてくださいよ」
エリオットはふうっとため息をついた。
国王もふうっとため息をつく。
「そりゃあね。自分で何とかしたいのだが、昼も夜も忙しくて」
「ああ、そうでしたね」
エリオットは思わず頷いた。
そのあまりの自然さに逆に国王はは何か勘付いたようだ。
「おまえ、そうでしたねって何だ?」
「あっ。あ、いえ……」
エリオットは急に我に返って焦った。
国王はその表情の変化を見逃さない。
「何か隠してるだろ!」
エリオットの背中を冷や汗が流れた。
「いや、そんなことは、はは、ないですよぉ~」
「うわー露骨に歯切れが悪いじゃないか。汗かいてんじゃねーよ」
「はっはっは! まさかあ~国王陛下に隠し事なんて~」
エリオットは白々しく笑って見せる。
「ん? じゃあ最近おまえと噂のアルテミア嬢に『エリオットともう会うな』と命令するぞ」
国王は早々に切り札を出してきた。
エリオットは大慌て。
「うわっ! それ言います!? 【妾<王妃<国王】の関係ではアルテミア嬢だって太刀打ちできませんよ! もう仕方ないな。はい! たった今からわたくし国王派になります」
国王は大いに肯いた。
「そりゃよい心がけだ。まあヘッドハンティングだと思ってくれたまえ。では知っていることをさっさと全部話せ」
「ははあ……」
エリオットは観念して王妃の薬の話を洗いざらい喋った。
国王はぽかんと口を開けて聞いていた。
「薬だと? それは反則だろ? どうりで夜は王妃しか目に入らなかったわけだ」
エリオットは国王の非難じみた言葉に、
「いや~一応弁解しておきますとそろそろ世継ぎが必要という……」
と汗をかきかき、自分を庇うかのように付け加えておいた。
国王は腑に落ちない顔をしている。
「うんまあ、それは一理あるけれども。でも薬はなあ。俺めっちゃ操られてたってことじゃん」
「操りがいがあったでしょうね」
「感心してる場合か。自由恋愛の危機だぞ」
「自由恋愛……誰かさんも同じこと言っていたような」
エリオットは何か強い意志を持って宣言していたお妾殿の顔を思い浮かべた。
国王はそんなエリオットは無視して、
「とにかく王妃は私をバカにしている。今日からは晩御飯は一人で食べる!」
と語気を強めた。
エリオットは慌てて口を挟む。
「いや、シェフを買収してたら一緒でしょう」
「はっそうか」
「そうか、じゃないですよ。アホですか」
「うむ、どうしよう」
「こちらがシェフを買収しましょう」
国王の顔がぱっと笑顔になった。
「それは名案だな。シェフの弱みは何かないか?」
「あ、あのシェフも髪かき上げ系が好きですよ。陛下のお妾殿をあてがっては」
「おおそれは名案……ってバカもん! リーガンをやっちゃあ本末転倒じゃないか!」
エリオットは、普通に国王の威厳を笠に着てシェフを脅せばいいと思ったが、それを言いかけて止めた。
「買収って私が言い出しましたけどね、陛下。それよりやっぱり王妃殿に素直に薬をやめるよう頼んでみるのが筋かと思いますけど。王妃殿とちゃんと話合いなさいませ」
国王はエリオットの真面目な提案にため息をついた。それが正論であることはよく分かっている。しかし気が乗らない。
「妾のことを王妃とちゃんと話すのか……気まずさMax」
「それは……お察ししますが」
「うーんでも、俺は国王だし。王妃より偉いし。たまには亭主関白ぶりを見せつけるのもアリか?」
「妾のことで亭主関白っていうのは離婚されるかもしれませんけどね」
国王はぎくっとなった。
「え、じゃあどうすれば」
「下手に出て謝ってお願いなさいませ」
エリオットは国王を励ますように言った。
「あほだろーっ! それで俺がいかに妾を好きかを王妃に誠実にお話しするのか? それこそ離婚だっつの」
「確かに……。ってゆか正妻と妾ってのは難しいもんですね。いっそあなた様が公務の邪魔をした女(お妾殿)に愛想を尽かしてくれた方が都合がいいんですけど」
国王は途端にしゅんとした。
「う。あ、ああ……。でもなあ……。公務を邪魔するほど俺に会いたいってことは、いじらしいと言っちゃあいじらしいからなあ……」
「メンヘラ好きですか!」
「そっちこそっ! 愛想を尽かしてくれとか言いたい放題だな! 面倒くさいって顔に書いてあるぞ。おまえの願望が駄々洩れだ」
国王は唇を尖らせた。
エリオットはムッとして言い返した。
「ええ。言わせてもらいます。こっちは何かつまらない争いに巻き込まれてるんですよ。さっさと愛想尽かしてもらうのが一番なんで!」
夜は(謎の薬のせいで)王妃に夢中の国王陛下、お妾殿が国王陛下に会うためには昼間しかない。だからお妾殿は昼間に国王の公務の邪魔になる程度まで国王を追い回した。
国王陛下の方は少々困り顔で「今は仕事だから、夜に。今夜行くから」とやんわりお妾殿をなだめすかそうとしたが、お妾殿の方は「仕事と私、どっちが大事ーっ!?」と聞く耳を持たなかった。それどころかお妾殿は逆に「一蹴された」と頭にきて、余計に時間と場所も考えず国王の執務に割って入ろうとするので、周囲は完全に困ってしまった。
一度くらい邪魔された分には大目に見た国王だったが(それでも公務が邪魔されたので関係者は大迷惑だったが)、あまりのお妾殿の聞き分けのなさにすっかり国王は怒ってしまった。
「昼は分刻みでスケジュールが入っているんだ!」
それで案の定エリオットが呼ばれた。ぎゃーぎゃー「中に入れろ」と部屋の外で喚いているお妾殿の声が聞こえる中、
「おい、あの妾をなんとかしろ」
と国王はうんざり顔でエリオットに命令した。
エリオットの方も面倒くさそうな顔をする。
「何で私が」
「おまえ、女紹介してもらうとかでリーガンと接点があっただろ?」
「あっ! そんな話もありましたね。でももう私は王妃に寝返ったんで」
エリオットは澄まし返っている。
国王はあんぐり口を開けた。
「王妃派に!? 何があったのか知らんがそつないな!」
「ええ。なのでもうお妾殿の関係者じゃありません。ってゆかご自分の妾でしょ、ご自分で何とかしてくださいよ」
エリオットはふうっとため息をついた。
国王もふうっとため息をつく。
「そりゃあね。自分で何とかしたいのだが、昼も夜も忙しくて」
「ああ、そうでしたね」
エリオットは思わず頷いた。
そのあまりの自然さに逆に国王はは何か勘付いたようだ。
「おまえ、そうでしたねって何だ?」
「あっ。あ、いえ……」
エリオットは急に我に返って焦った。
国王はその表情の変化を見逃さない。
「何か隠してるだろ!」
エリオットの背中を冷や汗が流れた。
「いや、そんなことは、はは、ないですよぉ~」
「うわー露骨に歯切れが悪いじゃないか。汗かいてんじゃねーよ」
「はっはっは! まさかあ~国王陛下に隠し事なんて~」
エリオットは白々しく笑って見せる。
「ん? じゃあ最近おまえと噂のアルテミア嬢に『エリオットともう会うな』と命令するぞ」
国王は早々に切り札を出してきた。
エリオットは大慌て。
「うわっ! それ言います!? 【妾<王妃<国王】の関係ではアルテミア嬢だって太刀打ちできませんよ! もう仕方ないな。はい! たった今からわたくし国王派になります」
国王は大いに肯いた。
「そりゃよい心がけだ。まあヘッドハンティングだと思ってくれたまえ。では知っていることをさっさと全部話せ」
「ははあ……」
エリオットは観念して王妃の薬の話を洗いざらい喋った。
国王はぽかんと口を開けて聞いていた。
「薬だと? それは反則だろ? どうりで夜は王妃しか目に入らなかったわけだ」
エリオットは国王の非難じみた言葉に、
「いや~一応弁解しておきますとそろそろ世継ぎが必要という……」
と汗をかきかき、自分を庇うかのように付け加えておいた。
国王は腑に落ちない顔をしている。
「うんまあ、それは一理あるけれども。でも薬はなあ。俺めっちゃ操られてたってことじゃん」
「操りがいがあったでしょうね」
「感心してる場合か。自由恋愛の危機だぞ」
「自由恋愛……誰かさんも同じこと言っていたような」
エリオットは何か強い意志を持って宣言していたお妾殿の顔を思い浮かべた。
国王はそんなエリオットは無視して、
「とにかく王妃は私をバカにしている。今日からは晩御飯は一人で食べる!」
と語気を強めた。
エリオットは慌てて口を挟む。
「いや、シェフを買収してたら一緒でしょう」
「はっそうか」
「そうか、じゃないですよ。アホですか」
「うむ、どうしよう」
「こちらがシェフを買収しましょう」
国王の顔がぱっと笑顔になった。
「それは名案だな。シェフの弱みは何かないか?」
「あ、あのシェフも髪かき上げ系が好きですよ。陛下のお妾殿をあてがっては」
「おおそれは名案……ってバカもん! リーガンをやっちゃあ本末転倒じゃないか!」
エリオットは、普通に国王の威厳を笠に着てシェフを脅せばいいと思ったが、それを言いかけて止めた。
「買収って私が言い出しましたけどね、陛下。それよりやっぱり王妃殿に素直に薬をやめるよう頼んでみるのが筋かと思いますけど。王妃殿とちゃんと話合いなさいませ」
国王はエリオットの真面目な提案にため息をついた。それが正論であることはよく分かっている。しかし気が乗らない。
「妾のことを王妃とちゃんと話すのか……気まずさMax」
「それは……お察ししますが」
「うーんでも、俺は国王だし。王妃より偉いし。たまには亭主関白ぶりを見せつけるのもアリか?」
「妾のことで亭主関白っていうのは離婚されるかもしれませんけどね」
国王はぎくっとなった。
「え、じゃあどうすれば」
「下手に出て謝ってお願いなさいませ」
エリオットは国王を励ますように言った。
「あほだろーっ! それで俺がいかに妾を好きかを王妃に誠実にお話しするのか? それこそ離婚だっつの」
「確かに……。ってゆか正妻と妾ってのは難しいもんですね。いっそあなた様が公務の邪魔をした女(お妾殿)に愛想を尽かしてくれた方が都合がいいんですけど」
国王は途端にしゅんとした。
「う。あ、ああ……。でもなあ……。公務を邪魔するほど俺に会いたいってことは、いじらしいと言っちゃあいじらしいからなあ……」
「メンヘラ好きですか!」
「そっちこそっ! 愛想を尽かしてくれとか言いたい放題だな! 面倒くさいって顔に書いてあるぞ。おまえの願望が駄々洩れだ」
国王は唇を尖らせた。
エリオットはムッとして言い返した。
「ええ。言わせてもらいます。こっちは何かつまらない争いに巻き込まれてるんですよ。さっさと愛想尽かしてもらうのが一番なんで!」
10
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている
五色ひわ
恋愛
ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。
初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。
かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。
ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。
二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

実在しないのかもしれない
真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・?
※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。
※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。
※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。

婚約破棄されたので、契約不履行により、秘密を明かします
tartan321
恋愛
婚約はある種の口止めだった。
だが、その婚約が破棄されてしまった以上、効力はない。しかも、婚約者は、悪役令嬢のスーザンだったのだ。
「へへへ、全部話しちゃいますか!!!」
悪役令嬢っぷりを発揮します!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる