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露天風呂でドッキリ

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「それでさー。あいつがさぁ……」
「ははっ、マジで?」

露天風呂にやってきたのは、大学生のグループで、人数は四人。

運動系サークルの合宿か何かで来ているらしいが、会話といったら合コンや女の話ばかりで、一体何のサークルかさえ伺えない。

しかも。

(男の癖に長風呂かよ……)

奴らが来て、既に30分は経っているが、一向に出ていく様子がないガキ共に、チッと舌打ちする。

「小谷さん、大丈夫?」

俺はまだいいが、彼女は俺が来る前から風呂に浸かっていた訳で。しかも俺が来てからは身体を隠すために肩までしっかり浸かっている状態に、逆上せてやしないかと肩越しに問いかける。

「……だ、大丈夫……です」

弱々しいその声に、実際はかなりキツそうだと確信する。

「もう少し頑張れ。何とかしてみる」
「は、はい……」

狭い岩影に潜んでいるため、時折背中に触れてしまう彼女の背に心臓を跳ねさせながらも、何とか平静を装い解決策を模索する。

(何か……ないか…?)

キョロキョロと見回すも、この宿の露天風呂は川に面しており、その先には鬱蒼とした山の木々が見えるのみ。当然、この状況を打破するための“何か”なんてある訳がない。

(いや、まてよ……)

ふと、昼間観光した“くま牧場”を思い出す。

(使える……か?)

俺はゴクリと唾を飲み込むと、一か八かの賭けに出た。

学生達の様子をみつつ、近くに置いてあった、先程俺の顔面を直撃した手桶を、背後の植え込みに思いっきり投げる。

「な、なんだっ?」

ガサガサッ! とそれはうまい具合に植え込みの木々を揺らし、学生達は驚いて固まった。

「……痴漢、とか?」
「おいおい。今ここ男湯時間だろ。痴漢なんている訳ねーだろがっ」
「じゃ、なんなんだよっ」

ザワザワしだしたガキ共に向かって、すかさず俺は、ちょっと怯えた声でこう言った。

「……そういえばこの辺、この間も熊が出たって……」
「ええっ!? マジッすか!?」
「シィッ! 分からないけど、あんたらこのままそっと背を向けずに風呂出て」
「あ、あの……お兄さんは……?」
「俺は距離が近いから、直ぐには動けない。様子見ながら、そっと出る」
「や、宿の人に伝えた方が……」
「いや。パニックになったら困るだろ。熊だって確認出来たら俺が読んでくるから、あんた達は入り口のとこに清掃中の札でも掛けといて。人が入ってきたら、危険だろ」
「わ、分かったっス……」
「そっと、出ろよ?」

よくよく考えたら、直ぐに宿の人間を呼んだ方がいいだろうとか色々穴のある嘘だが、怯えているせいか冷静に思考が働かないのだろう。学生達は俺の嘘を簡単に信じてくれた。

もちろん、それもこちらの思うツボなのだが。

「お、お兄さんも、気を付けて……」
「ああ」

学生達はビクビクしながらも最後にこう言い残して、去っていった。

「ふぅ……行ったか。小谷さん、確認してくるからもうちょっと待ってて」

俺は背後の彼女にそう言い残すと、急いで風呂から上がって脱衣場で浴衣を羽織り、入り口に清掃中の札が掛かっていることを確認してから、露天風呂の扉を小さく開けた。

「小谷さん! もう誰もいないから、急いで出て!」

…………。

しかし、露天風呂に響き渡るのは俺の声だけで、彼女からの返事はない。

「……小谷、さん?」

もしやと心配になった俺は、そっと彼女が隠れていた岩影を覗いてみる。

するとそこには。

「こ、小谷さん!?」

やはり心配していた通り、ぐったりと岩に寄り掛かる小谷さんの姿が。

「小谷さん! おいっ、大丈夫か!?」

ザブザブと湯を掻き分け、彼女の元に行って肩を揺さぶるが、意識がないようで。

「ま、マジかよ……」

まさかの事態に、思わず天を仰ぐ。

早急に湯から出さないといけないのは分かっているが、それは裸の彼女を抱き上げないといけないということで……。

「ああ、もうっ!」

考えている暇などない。俺は理性を総動員して一声叫ぶと、なるべく見えないように眼鏡を外してそこらに放り、羽織っていた浴衣を彼女に掛けた。

そして、それごと彼女を抱き上げ脱衣場に向かう。

浴衣越しとはいえ、ぐったりした彼女のしどけない肢体が、俺の裸の胸にペタリと張り付いて。

(や、柔らかい……)

いつもゆるめのナチュラル系ファッションの彼女からは想像もしてなかった、豊満な胸が当たり、下半身に熱が集中する。

ゴクリ。

眼鏡を外したせいであまり見えないが、それが余計に想像力を掻き立てる結果になってしまい、思わず生唾を飲み込んだ。

「り、理性理性理性っ!」

俺は頭をブルブルと振って邪念を追い払うと、軽い彼女の身体を抱き直し脱衣場にある竹のベンチにそっと横たえるのだった……。
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