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九 頑張りすぎちゃったぼく・・・・・・
しおりを挟む九 頑張りすぎちゃったぼく・・・・・・
さあ、朝ご飯だ。
「いただきます!」
ほら、もう大丈夫。
いっぱい眠ったから、元気いっぱい!
こんがりやけたトースト。
とろけるバター。
机にならぶ色とりどりの瓶。
苺ジャム、林檎ジャム、マーマレード。
さっとあぶられた、まぐろのたたきサラダには、温泉卵がとろっ。
あめいろのオニオンスープ。
汁を吸ってやわらかくなったパンに、煮えたチーズがのっている。
くだものは、さっぱりと甘酸っぱいすもも。
桃代おそいなぁ。具合わるいのかな。
「桃代ちゃんは、そのうち来ますよ」
毎朝の恒例になった健誠先輩ののんきな声。
あれ、ぼく口に出したっけ。
「力みすぎっすよ、光お兄ちゃん」
「せんぱいにお兄ちゃんて呼ばれても困ります」
「じゅうぶん、お兄ちゃんっすよ」
健誠先輩は、トーストにバターをぬって、温泉卵をはさむ。
器用に片手で食べながら、本を読んでいる。
「力が入りすぎてますよ」
せんぱい、みみにたこですから。
桃代の笑顔には、やっぱりすこしだけ元気がないんだ。
「心配しすぎているんです」
む。
そんなことない。
健誠先輩は、最近、朝寝坊しなくなった。
そして、よく健誠先輩から話しかけてくる。
「光くんはまじめっす」
先輩の話を聞きながら、オレンジジュースをこくこくと飲む。
「きみが思ってるうちの、八分目くらいがちょどいいんじゃないっすか」
自分ひとりで全てをこなそうとしないこと。
まいにちまいにち。
「ひとりで抱えこむなら、自分がいます」
だからせんぱい、みみにたこ。
「医務室には清明お父さんがいます。ひとりで抱えこんで、もうがんばらないで、休みましょっ?」
「光ちゃーん、おはよ~」
あ、桃代だ。隣りには美桜子先輩。
よかった。今日も元気そう。
「うわー今日も美味しそう!」
桃代がぼくの隣りに座る。
「光ちゃん?」
桃代の声がとおざかる。健誠先輩がぼやけていく。
「光くん!」
あれ・・・・・・?
*
「だから、みみにたこです。せんぱい!ももの心配して何がいけないんですか。もも、いっしょに学校行こう!あれ?」
おかしい。
さっきまで、隣りにいた桃代がいない。
「桃代ちゃんは、とっくに美桜子さんと学校に行きましたよ」
「え?」
いつの間にか、周りに人がいない。
みんな、学校へ行ったんだ。
ぼくはどれ位、ぼーっと固まっていたんだろう。
健誠先輩は、本を読みながら、目の前で口をもぐもぐしている。
口の中にあるものを飲みこんで、静かに言った。
「たとえば、ものごとに、優先する順番をつけるとする」
「はい」
「光くんが一番に心配するのは、桃代ちゃんじゃあ、ありませんよ?」
「じゃあ、なんですか」
「光くんっすよ」
ふう、と息を吐いて話す目元はやさしい。
「ぼくが・・・・・・一番?」
「自分は、光くんが光くんに、一番やさしくしてほしいです」
健誠先輩と目が合う。
つい、目線をそらしてしまう。
ぼくは、今まで全部ひとりでどうにかできたんだ。
「光くん、牛乳のおかわりください」
「自分で注いでください」
初めて、仲間はずれにされたわけじゃない。
小さい頃から、何度もあった。
また、ひとりになっただけ。
ひとりになったけれど・・・・・・。
「桃代ちゃんから、『健誠せんぱい、光ちゃんをお願いします』って、光くんをたくされました」
「ももが」
「光くん。今日はお休みしますか?」
「いいえ!」
「強情っすね」
「このくらい、なんともないです!」
「つきあうって言ってるじゃないっすか!」
「健誠せんぱいが、ただ単に休みたいだけです!」
「さすが、光くん。図星っす!だからもう、自分といっしょに学校休みましょう」
健誠先輩と話していると、気が晴れるのはどうしてだろう。
*
ぼくたちは、小町さんにごちそうさまをして、身支度をして、学校に出かけた。
途中、神宮の森を通り抜けるとき、健誠先輩は道草ばかり。
あ、鳥だ。
あ、花だ。
あ、虫だ。
学校に行くつもりがないのかと思ってしまうくらい、カメみたいにゆっくり歩く。
むきになって、ぼくがいそいで学校に行こうとすると、道草が始まることに気付いた。
「健誠せんぱい!わかりました。ぼくもう、今日は医務室で寝ます!もう、つかれちゃいました!」
「いいっすね!待ってました、その言葉。自分も大賛成っす!さぁいざ、医務室!」
今までの、のんびりぶりはどこに行ったのか。
ぼくはひょいっと、担がれる。
入寮日に、大荷物を担いだ父さんを、思い出した。
すたすたと進む健誠先輩。
カメがウサギに変わったみたい。
百段超えの石階段も、息も切らさず、登っていく。
あっという間に、医務室の扉の前にぼくたちはいた。
それからしばらくの間、ぼくはクラスで授業を受けなかった。
そのかわり、清明先生の医務室に通った。
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