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十一 ぼくの大胆宣言!
しおりを挟む十一 ぼくの大胆宣言!
朝がきた。
鳥がぴいっと鳴いて、窓の外をとおりすぎる。
今日が無事に終わるよう、目をとじて手を合わせて、気合を入れる。
健誠先輩を起こす。
おはようって、洗面所はにぎやか。
ぼくも顔をあらって、口をゆすぐ。
部屋にもどって、身支度をする。
てきぱき動く。
今日の朝ご飯、なんだろう。
「あ、いけない。羽織り羽織り。食べこぼしても、これで安心!ってきいてる光くん?」
あくびがとまらない健誠先輩の背中を押しながら、歩く。
走らないけれど、いつもより、足早に食堂に向かう。
甘い香りとジューっと何かを焼いている音がする。
それを聞いて、すこし緊張がほどけた。
食堂に入ると人がいっぱい。
お勝手にいる小町さんに朝の挨拶をする。
「おはようございます。小町さん」
「おはよう、光くん。今日の体調はどうかしら?」
「はい、絶好調です」
「まぁ、よかった。さあ、朝ご飯、めしあがれ」
「いただきます」
朝ご飯の献立は、パンケーキ。
あと厚く切られた豚肉が、カリカリ焼いてある。
ほうれん草にとろけたチーズがかかっている。
くだものは小粒のいちごと食べやすく切られた一口サイズのオレンジとバナナ。
汁ものは、じゃがいもとたまねぎのお味噌汁。
ぼくと健誠先輩は、一生懸命、ゆでたまごをむきはじめる。
桃代が後ろから飛びついてきた。今朝はずいぶんご機嫌みたい。
「おはよう、光ちゃん。おはようございます、健誠せんぱい」
「おはよう、もも。はい、ゆでたまご。むいておいたよ」
「おはようございまっす、自分のもどうぞ。桃代ちゃん、今朝もすてきで可憐っすね」
「ありがとうございます」
「せんぱい、ももから離れてください」
「ひどい、なんてことを言うんですか、光くん」
今日も朝から、ぼくたちふたり、漫才をしているんだろうか。
「あはははは!今日もふたりは息ぴったりね。わたし、小町お母さんから、お膳もらってくるね!」
もどってきた桃代はぼくのとなり、健誠先輩の向かいに座る。
「光ちゃん、メープルシロップ取って」
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
「光くん、牛乳おかわり」
「自分で注いでください」
「あ、それならわたしが」
「ああもう、ぼくがやります!」
*
なんで、ぼくが健誠先輩の荷物運びの手伝いしているんだろう。
重い。何をこんなに読んでいるんだろう。
そもそも、本を借りすぎている。
ちらっと中を見ると、返却予定日が過ぎていた。もう一冊、さらにもう一冊・・・・・・。
なんて人だ!返していないから、溜まっていくんだ!もう。
「せんぱい、行きますよ~」
健誠先輩の足どりは、いつもよりさらにゆっくりだ。
「すまない、光くん。先に行っててくれ。腹が痛い」
「わかりました、お大事に。では、本はここに置いておきますね」
「あ、本は図書室の前によろしく!」
「なんでぼくが持って行くんですか!自分でやってください!」
へらへらとしている健誠先輩。
いったいどこがブッダ先輩だ。
ぼくは絶対にブッダに見えない。
どうしてあだ名がブッダなんだ。
「大丈夫?光ちゃん」
桃代が女の子部屋の廊下から、玄関に現れた。
ああ、こんなところを見たら、桃代のことだから手伝うって言うに決まってる。
「あ!わたしも半分、持つ!」
「大丈夫、ぼくが持つから。ももまでせんぱいの手伝いしなくていいよ」
「も~も~よちゃぁ~ん」
ああ、びっくり。美桜子先輩が後ろから現れた。
なんだか肌色がいつもより白くて、元気がない。
まだ寝巻のまま、ふっくらした綿の羽織を肩にかけてる。
うす桃色の布巾で鼻と口をおおっていた。
「ごめんなさい、桃代ちゃん」
「どうしましたか?やっぱり具合よくないですか?」
「うん。やっぱりわたし、かぜひいちゃったみたい。学校お休みするわ」
「ゆっくり、お休みして、お大事にしてくださいね。美桜せんぱい」
「うん、ありがとう。桃代ちゃん」
「はいはい、とにかく、気をつけていってらっしゃい!」
小町さんが制服のみだれを直しながら、微笑う。
後ろには美桜子先輩。と、健誠先輩。
桃代は、はしゃいでもう先に歩きはじめる。
「光ちゃん、行こうよ~」
いつのまにか、毎日がこんなににぎやかで、さわがしい。
毎日が、おもしろい。
ぼくのあたりまえの日常になった。
桃代に追いつくと、ぼくの目をみつめて、何か言いたそうにしている。
二人同時に、頷いて、振り返る。
寮の玄関には、小町さんと美桜子先輩が手を振っている。
「桃代ちゃーん、光くーん、いってらっしゃーい」
健誠先輩も、お腹をさすりながら、手をあげた。
ぼくと桃代は元気いっぱいに声を出した。
「いってきまーす!」
*
学校に到着した、げた箱の前。
桃代が心配そうな顔をしている。
「ぼくを待たないで、先に寮に帰ってね?」
「うん。寮で、待ってるからね。光ちゃん。いってらっしゃい!」
桃代がぼくの手を両手で握った。
「うん。いってきます」
ぼくも、頷いて、手を握り返した。
*
放課後。
ぼくは立ち上がって、聖一やみんなをひとりひとりみつめて、勇気を出して、大きな声で宣言した。
「ぼく、決めたんだ!
ぼくはもうやめる!
聖一やみんなに仲間に入れてって、友だちになってって言うのやめる!
ぼくの中で答えがでたんだ!そう、気付いたんだ!
友だちや仲間って、がんばって、努力して、なってもらうものじゃない!
友だちって、いつの間にか近くにいて、だんだん仲間になっていくものだって!
それがぼくの出した、答えだ!」
*
「かっこよかった~。いや~ほんとにかっこうよかったっすよ。何度思い返しても立派な雄姿でした」
ぼくを陰からのぞき見していた?
見守ってくれていた健誠先輩との帰り道。
「いえ、べつに。健誠せんぱいのおかげです」
「そうっすね」
「素直に受け取るんですね」
「はい。自分はそれ以上に、光くんの勇気がすごいと感じましたけどね」
「ありがとうございます」
いろいろあった。
妹へのいじめ。
奮闘。
孤立。
休養。
勇気。
「光くんは大物になりそうっすね」
「大物?ぼくも、なんかそう思います」
「素直に受け取るんすね」
ハハハハハと、大きな声で笑って、ぼくの肩を叩く。
ぼくは最近、似てきたのかもしれない。
実はもう、自覚している。
桃代がいじめられたとき、本当はもっと頼ってほしかった。
妹に、弱音をはいてほしいと思った。
一番の相棒になるって約束したから。
でも、それはぼくのわがままだった。
ぼくだって、桃代に見せることができなかった。
もしかしたらこれからも、本音を話せるのは、健誠先輩と清明先生だけかもしれない。
こころを開くって難しい。
「意外と人って、そういうものじゃないっすか」
「そうですか?」
「とりあえず自分はそうっすよ」
例えば、一番、守りたい人。
大切な人の前では、弱音をはかない。ううん、はけない。
つよがっちゃう。
「このまま、ずっとそうなんでしょうか・・・・・・」
「それはどうでしょう」
「そうですよね、変わらないことのほうが難しいですよね?」
健誠先輩は、目をすこし見開いて、お腹を抱えて笑いだした。
「真面目に話してるんです。笑わないでください」
「ハハッ。光くんは、とっくに自分で答えを出しているじゃないっすか」
一本取られました。そう言いながら、おもしろい顔をする。
「せんぱい、きいてください。」
「なんすか?」
「ぼくは、毎日元気にくらすんです!桃代やせんぱい達と、こころの底から笑って!」
どんな人でも、誰でも。
最優先は、自分。
自分を大切にしてから。
それができたら、きっといつの間にか。
自然と周りを大切にしている。
そう自然に、笑ってすごしている。
「今夜の献立は、小町お母さん特製特大ハンバーグ、めだまやきのせ、だそうっすよ」
「ぼくもう、おなかぺこぺこです」
「半分、自分にわけてくれてもいいんすよ?」
「え、いやです」
「ここはせんぱいにお礼をするものじゃないんすか」
「ぼくもハンバーグ大好物だからだめです。あ、にんじんはいいですよ!」
「にんじん、苦手なんすね」
「はい。だから、せんぱいへのお礼はにんじんで」
「あ、到着っすね」
寮の入り口から明かりがもれている。
扉をあけると、玄関広場にある休憩場所のやわらかいソファーで、寮生が夕食前の時間をくつろいでいる。
ぼくたちに気付いた寮生のみんなから、『おかえり』がきこえてくる。
ぼくも、健誠先輩も、『ただいま』と何回も挨拶する。
小町さんがお勝手から、顔を出して、『二人ともおかえりなさい。今夜はハンバーグよ~』って、やさしく微笑んで迎えてくれる。
奥の方で、桃代と美桜子先輩が、楽しそうにおしゃべりをしている。
ぼくと健誠先輩に気付いて、桃代が立ちあがって、手をぶんぶんと振る。
「ただいま!もも!」
「光おにいちゃ~ん!おかえりなさ~い!」
あれ?
ぼく、今なんて呼ばれた?
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