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四 入学式前の朝ご飯といってきます!
しおりを挟む四 入学式前の朝ご飯といってきます!
寮は、相部屋だ。
ぼくはまだ、同じ部屋の先輩に挨拶ができていない。
「帰ってこない?」
「そうなんだ。今朝はまだ眠っていたから、そっとでてきた」
消灯時間になっても、部屋にいない。
夜中にちょっと目が覚めたとき、蝋燭の灯りが揺れていた。
机に向かっている大きな背中が、その人なのか、夢なのか。
寝台のまわりは、書物が溢れ返っている。
ごみ入れも、勉強の跡がたくさん溢れている。
顔を見たかったけど、布団を被っていて見られなかった。
「わたしは、すてきなお姉さんだったの。美桜せんぱいっていうのよ」
寮の生活をいろいろ教えてくれて、案内してくれたと桃代はご機嫌だ。
「光ちゃんのせんぱいは、どんな人だろうね。楽しみね!」
「うーん。どうだろう」
*
楽しみなのは、ご飯だ。
昨日の夜ご飯はご馳走だった!
行ったこともないのに、ホテルのビュッフェで食べているような気分。
夢をみているようだった。
あの分厚いローストビーフ!
まるで漫画に出てきそうなお肉料理!
あの衝撃を、ぼくは絶対忘れないだろう。
外側はちりちりと焼きあがっているのに、中は夕焼けみたいな色をしている。
ぱくりと口の中にいれて、噛み締める。
噛めば噛むほど、肉汁の旨みが広がって、飲みこむのがもったいない!
日本の文化を大事にしている学校だから、和食だけかなって期待していなかった。
期待も何も、食堂の献立は、ぼくの想像を遥かに超えていた。
隣りに座った同じ寮の先輩が教えてくれた。
小町さん率いる春の寮のお料理は飛び抜けて美味しいって評判らしい。
和食、洋食、中華にイタリア、フランス、韓国、世界中の料理。
B級グルメにジャンクフードも、おやつに作ってくれるそう。
それが学校の、寮の方針なんて!
ぼく、いっぱい食べて、いっぱい大きくなる!
*
今日は入学式。
次の日の入学式にどきどきして、なかなか寝つけなかった・・・・・・。
うーん、違うんだ!
次の日の朝ご飯が楽しみで、なかなか寝つけなかった!
待ちに待った朝ご飯!
寮での初・朝ご飯!
みんなが並んでいる列の後ろ。
ぼくと桃代は一緒に、お盆を持って並んだ。
お勝手と食堂をつなぐカウンター越しに小町さん。
寮の生徒ひとりひとりと、挨拶をしている。
「おはよう、光くんと桃代ちゃん」
「おはようございます!小町お母さん!」
桃代は飛び跳ねそうなくらい、元気に挨拶した。
「お、おはようございます」
そんな桃代とは反対に、ぼくはどぎまぎと下を向きながら挨拶した。
お兄ちゃんとして考えたら、格好悪いかなぁ・・・・・・。
「昨日は、ぐっすり眠れたかしら?」
「はい、おかげさまで!」
「ぼくもぐっすり眠れました」
ぼくは顔をあげて、答えた。
「そう、よかった。さあ、朝ご飯、めしあがれ!」
『いただきます!』と、ふたり声を合わせて、受け取る。
朝ご飯がのったお盆を慎重にゆっくりと運ぶ。
「わあ~。わたし、こんな朝ご飯初めて!」
「ぼくもだよ!」
ぼくは自分が食べるご飯を、自分で作っていた。
母さんも、お仕事が大変だから。
もしかしたら、桃代もそうだったのかもしれない。
父さんは、母さんよりも、お仕事の時間が多いはず。
「いただきます!」
「う~ん。おいしい!」
炊きたての白いご飯は、ふっくらしていて少し甘い香りがする。
お豆腐とわかめのお味噌汁。
ひとくち飲んだだけで、からだがぽかぽか温かくなる。
紅鮭の焼き魚。
皮はパリパリ、オレンジ色の身のしょっぱさとご飯が相性抜群。
納豆にかりかり梅。
大根とにんじんの甘酢漬けも!
そして何より、ふわっふわしっとり厚焼きたまご・・・・・・。
きっとこれから、朝起きるのが待ち遠しくなる。
「学校の一日目もいい日になりそうね、光ちゃん!」
桃代がデザートのみかんを頬張りながら、にっこり笑った。
「うん!いい日になるよ!」
*
朝ご飯が終わって、歯を磨いて、学校へいく支度を済ませる。
玄関では、小町さんが寮生を見送っている。
「気をつけて、いってらっしゃい!」
ふと、ひとりで鍵をかけて、家を出かけていたことを、思い出す。
母さんは、ぼくより朝早いから。
この平安学園の制服は、和風と洋風を足して二で割った感じ。
男の子は、ワイシャツの上に、作務衣風の紺色の上着。
下は袴風のスラックス。靴下や靴は自由。
上級生は、ワイシャツの代わりにタートルネックやパーカーを着ている人もいる。
正式な行事のときは、みんな必ずワイシャツを着るのが学校のきまり。
女の子は、茜色の着物風の上着に帯のようなベルト。ひざ丈のスカート。
男の子と一緒で、靴下と靴は自由。
桃代も似合っている。
七夕の乙姫さまみたい。
「光ちゃん、似合ってるよ!男の子の制服もおもしろいね!」
ぼくはまだちょっと、着なれていない。
ああ、もも。
どこが似合っているのか。
教えてほしい・・・・・・。
「ももは、大昔のお姫さまみたいだよ。帯のりぼんで、ももが蝶々に見える」
「ありがとう!光ちゃん、褒め上手ね。てれちゃうよ!」
小町さんが、制服の乱れを直してくれる。
直してもらうのは、顔がまっ赤になりそうなほど、恥ずかしい。
「・・・いってきます・・・・・・」
いってきますの挨拶も、同じくらい恥ずかしい。
反対に桃代は、目をきらきら輝かせて、感動している。
「入学式は、わたしも、寮父の清明も出席します。あとで学校の講堂で会いましょうね」
「はい、小町お母さん!いってきます!」
桃代はどうやら、小町さんに世話を焼いてもらえることが、この上なく嬉しいよう。
それは・・・・・・ぼくも同じ気持ち。
「はい、いってらっしゃい!」
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