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三 春の寮初日 挨拶と美味しいおやつ!
しおりを挟む三 春の寮初日 挨拶と美味しいおやつ!
「まあ、かわいらしいお嬢さんたちだこと!」
ぼくと桃代は『春の寮』でくらすことになった。
「ぼくは、こうみえて男子です」
「まあ、ごめんなさい。整った顔立ちをしていたから」
「いえ、よくまちがわれますので、気にしないでください」
と、お兄ちゃんらしく、礼儀正しく答えた。
いつも気になるけれど、どうして女の子に見えるんだろう。
「男の子と女の子だって、わかっていたのだけど。名簿が間違っていることもあるから」
桃代が口元で手を合わせて、くすくす笑う。
この学校には、四つの寮がある。
春、夏、秋、冬。
四季の名前がつけられている。
どの寮にも、お世話をしてくれる人たちがいる。
その代表が、寮母さんと寮父さん。
二人は夫婦で、春の寮を管理している。
「ここでは、私はみんなのお母さん代わりになります。さきほど、お父さまから、二人のことを少しお聞きしました。光くんと桃代ちゃん、よろしくね」
春の寮母さん。
お名前は、春野小町さん。
髪を一つに結いあげて、桜色の簪をさしている。
洋服ではなくて、簪と同じ色の小袖という和服を着ている。
仕草や話し方が滑らかでふんわりとした雰囲気の人。
目尻に優しいしわを寄せて、優しく微笑む小町さん。
春の寮夫さんのお名前は、春野清明さん。
学校のお医者さんで、いつも夜になったら、寮に帰ってくるそう。
「光ちゃんは、なんだか大人みたい」
小町さんの後ろについて歩いていたとき、桃代が耳もとでこそこそ言った。
「わたしの小学校には、光ちゃんみたいな男の子はいなかったわ」
「え、そう?」
「丁寧で、物腰が柔らかくて。あとはね、流れるように話すのが上手」
桃代に褒められて、体が急に熱くほてるくらい照れくさくなる。
「とうさんが、静かな人でしょ?」
「え?声は大きいよね?」
「うーん。声は大きいけど、口数が少ないの!単語ばっかり!わたしのおしゃべりが上達できなかったのは、とうさんのせいよ!」
ほっぺをふくらませて、むくれる桃代。
「そうね、身についた能力はとうさんの表情を読み取って『いしそつう』できることよ!」
「す、すごいね・・・」
「だからわたし、わんちゃんと仲良くなるのが得意なの!」
「す、すごいよ」
小町さんが、肩をふるわせて笑っている。
*
「さあ、ここが食堂ですよ。今日から一緒に生活する同じ学年のみんなです」
案内された食堂は、天井が高くて、窓から太陽の光が差し込んで明るい。
木の温もりと畳の香りが広がる食堂。
男の子達と女の子達がいる。
今年入学して、一緒にこの寮でくらし始める子達。
仲良くなれますように。
ああ、緊張して、声が出ない。
さあ、挨拶をしないと。
いきなり、たくさんの視線をあびて、のぼせてくる。
ぼくは、お兄ちゃん。がんばるんだ、お兄ちゃん。えいっ!
「はじめまして、藤原光です!どうぞよろしく!」
言えた・・・・・・。
どぎまぎして、隣りを向くと、桃代と目があった。
桃代もそうとう緊張しているのか、ぼくの後ろに隠れた。
唇をちょっとだけ噛んで、首を振っている。
ここはお兄ちゃんの出番だ。
ぼく、すごくお兄ちゃんな気持ちがする。
「こっちは、妹の桃代です。見分けはつかなくても、どうぞよろしく」
「光ちゃん、ありがとう。助けてくれて」
小さな声で桃代が言った。
桃代はぼくの横に出てくると、照れたように微笑みながら自己紹介した。
「はじめまして、桃代です。どうぞよろしくお願いします」
そして、食堂の中でどっとみんなの声が大きく響いた。
「すごーい双子なの!」
「同じ顔だ!」
「声も似てる!」
みんなにこっちこっちと、手招きされるままにぼくと桃代は座った。
みんなが次々に、いろいろ質問してくれる。
でもぼくはもう、力を使い果たした気分。
頭がぼーっとする。
だれかが姉妹だと勘違いしていても、もう気にすることもできない。
「さあ、春の新しい子ども達が揃ったところで、お茶にしましょう」
小町さんが食堂のお勝手から、戻ってくる。
お盆の上に美味しそうな艶のある丸いお団子が山盛り。
みんなが歓声をあげる。
みたらし。
つぶあん。
こしあん。
きなこ。
くろごま。
わあ、すごい。
お団子も、しろ、もも、よもぎ。三色もある!
「もも!すごいね!」
「うん!おいしそう!」
桃代も、目がきらきらして、子どもっぽくなった。
きっと、みんな緊張していた。
「みんな、湯のみとお皿はいきわたったかしら?」
はーい、とみんなの声が揃う。
「はい、じゃあ、どうぞ、めしあがれ」
「いただきます!」
あたたかい緑茶と、色とりどりのお団子。
みんな夢中で頬張る。
「おいしい!」
なんて、楽しいんだろう。
小町さんは、次に大きなカステラをもって、お勝手から出てきた。
切り分けたカステラをひとりひとり、お皿に置いていく。
カステラの下のこげ茶色の部分。
紙にくっついているジャリっとした食感のザラメ。
そこがぼく大好きなんだ。
口にいれると、ふんわりしっとり!
カステラのまろやかなこの甘さが、口の中ですっと続いたらいいのに・・・・・・。
「光ちゃん!わたし、楽しい!」
「ぼくも!」
どうか、このまま、いいことばかり続きますように!
そう。
ぼくのお兄ちゃん初日は、こうして始まったんだ。
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