3 / 19
3、沈黙の課長
しおりを挟む
妖怪アニータが、チリチリパーマの髪をいじりながら言った。
「 あ~あ、課長、寝ちゃったわねえ。 今日は、これくらいにしといてくれる? もう、カンバンにするから 」
ここは、居酒屋か・・? 勝手に、閉店すんじゃねえよ。 それに、『 これくらい 』って、どのくらいよ? どれだけ職務を遂行したと思ってやがんだ、妖怪・・! 宇宙、帰すぞ、コラ。
僕は、よろよろと立ち上がり、カウンターにしがみ付きながら、言った。
「 死神・・ ! 何とかしろよ・・! 閻魔大王に、札幌出張の件、言ってもいいのか・・? 」
死神は、ビクッとすると、答えた。
「 よ、よしっ・・! おい、アニータ! え、え~と・・ お前の母ちゃん、出べそ! 」
・・・終わった。
コイツに頼んだのが、間違いだった。 お前の母ちゃん、出べそ? ・・ナニそれ? 小学生だって、ンな事、言わんわ・・・
僕は、落胆よりも、哀れみの表情で、死神を見つめた。
「 えへっ、言っちゃった! アニータに、言ってやったよ、天野クン! 」
嬉しそうな、死神。 ・・良かったね。 もう帰れ、お前。 要らんわ。
「 ちょっと、待ったア~ッ! 」
この声は、サンダス・・! ああ・・ ロクでもないヤツが、どんどん出て来る。 もう勝手にしてくれ。
サンダスは、僕を抱き起こすと、言った。
「 だ、大丈夫かっ?! 天野クン! うわわっ、なっ・・ 何て、ひどい事を・・! 一体、誰が、こんな惨たらしい事を・・! 」
・・お前が、やったんだよ。 しかも、1人でな。
サンダスは、イキナリ叫んだ。
「 我々はァ~ッ! このような不当な弾圧に対してえ~ッ! 断固、対決するう~ッ! 」
労使交渉のストライキかよ、オッさん。
サンダスは、頭に『 ベア確保 』と書かれた、手拭いを巻いている。
「 立て、友よ! 共に闘おう! 」
「 わ~、わ~! 」
死神も、一緒になって、騒いでいる。
「 ちょっと、サンダス様! このような所で、騒いでもらっては、困ります 」
妖怪アニータが言った。
「 ナニを言うか! 大体、オレの兄貴を、こんなんにしたのは、誰だ!」
・・・お前だよ。 分からんのか、たわけが。
「 何、騒いどるんかのう? 」
寝ていた課長が、ひょっこりと起き上がった。
すかさず、僕は小窓に飛び付き、言った。
「 課長さん! 僕のコト、ちゃんと調べて下さい! 」
「 ほう、ほう。 じゃ、この申請書に名前と住所、書いてね 」
「 ・・・・・ 」
僕は、ニコニコしている課長鬼に言った。
「 ・・・あの~・・ さっき、書いたんですケド・・? 」
次の瞬間、課長鬼は、寝ていた。 しかも、鼻提灯は、さっきのより大きい。
僕は、ブチ切れた。
「 サンダスうぅーッ! 」
「 ヘ~イ、ボ~ス・・・! 」
「 今度こそ1発、目の覚めるヤツを、ズバーンと・・ 」
その瞬間、僕の顔面に、ズバーンと、サンダスの特大拳が炸裂した。
( やっぱり・・・? )
一瞬、薄れた意識の中で、サンダスのアホ声が聞こえた。
「 兄貴! 兄貴い~ッ! オレなんか・・・ オレなんか・・・ 兄貴の、ばかやろ~っ! 」
サンダスの、駆けていく足音が、遠ざかっていく。 もう、帰って来なくていいぞ~・・・
鼻血を出し、ピクピクしながら床に転がっている僕に、死神は尋ねた。
「 だ、ダンナ・・・ 大丈夫ですかい・・・? 」
「 ・・・いっぺん、殺せ。 あの男は・・・! 」
人事課では、話にならないので、サンダスと死神は、僕を閻魔大王の所に連れて行った。 ある意味、『 直訴 』である。
宮殿内をしばらく歩くと、『 閻魔大王 』と、大きな板に書かれた札が掛けてある部屋の前に着いた。 ドアノブは、ドクロである。
「 し、死神・・ オレの襟、曲がってないか? 」
サンダスが、死神に聞いた。
アロハ着ているのに、襟の乱れもナニも、無いだろうが。
「 大丈夫だよ。 それより、僕のマント、シワになってない? 」
ボロボロなんだから、シワもクソも無いだろうが。
「 おう、イカしてるぜ? 大丈夫だ 」
ドコが、イカしてるんだ? 君らのセンスには、ついて行けんわ・・・
・・しかし、あのアホ共が、緊張している。 やはり、閻魔様は、怖いのだろう。 僕も正直、怖いが、ビビッたら負けだ。 ここはひとつ、度胸を据えて挑まねば・・・!
ドクロに付いている、太い鉄の輪をゴンゴンと鳴らし、サンダスが、扉を開ける。
そこは、部屋と言うよりは、洞窟風呂のような所だった。 いたるところにロウソクが立ててあり、人骨が散乱している。
正面の奇怪な岩の前に、巨大な執務机があり、その机の上の両脇には、頭にロウソクを乗せた、ドクロが置いてあった。
机の向こうに、小さな子供が立っている。 おそらく、執務係りか、閻魔大王のお側人なのだろう。 こんな小さな子供でも、地獄に落ちる者は、いるのか・・・ このまま、永遠に、ここで働かされるのだろう。 何だか、切ない気持ちになる。
子供が言った。
「 やあ、こんにちは! 閻魔大王です 」
・・・は? 今、何と・・・?
僕は、耳を疑った。
テレビCMに出てくる、子供役者のような顔立ち。 クリクリとした、愛らしい、つぶらな瞳。 さらっとした、清潔感あふれる髪には、天使の輪すら、出来ている。
「 あの・・ 閻魔大王・・・ ですか? 」
にわかには、信じ難く、僕は、彼に聞いた。
「 そうです! 地獄にようこそ! 当地獄では、おいで頂いた、罪人の方のご希望に合わせ、針山・カマゆで・逆落とし谷・股裂きなど、アメニティー豊かな施設において、究極の苦しみをご堪能頂けるよう、従業員一同、誠心誠意の、真心サービスをモットーとしております 」
「 ・・・・・ 」
ひとつ、質問して、いい? 従業員って、ナニ・・・?
真っ白なスーツを着込み、黒い蝶ネクタイをした、可愛らしい閻魔大王は、にこやかに、そしてハキハキと、そう言った。
プリティ閻魔大王は、続ける。
「 先週オープンした、切り刻み水車など、いかがですか? 香り芳しい、ヒノキの水車に縛り付けられ、サビた5寸クギ10本で切り裂かれる、究極の拷問です。 更に、水は塩水。 キズに、よくしみて、極上の苦痛ですよ? 」
閻魔大王は、写真付きの真新しいパンフレットを見せながら、僕に説明した。
「 今なら、オープン記念で、回数券が付きます 」
要らんわ、そんなモン!
「 ・・・ご不満ですか? なるほど! まだ、お若い方ですしね! もっと、豪快なヤツの方が良いワケですか。 それなら、コレです・・ 石臼地獄! 」
何じゃ、そら・・・! 何となく、想像がつくが・・・?
「 直径10メートル、重さ15トンの、石臼の中に入って、少しづつ、皮を、めくられていくんです! 」
そりゃ、エゲツないわ・・
「 時々、上から塩をかけますので、その苦痛と言ったら・・ たまりませんよ? 」
そりゃ、たまらんわな・・
「 特に、体の一部が挟まれたら、そこから段々と、磨り潰されていきますから、そりゃあもう、あなた・・ 気が狂わんばかりの激痛を、体験出来ますよ? 」
まさに、地獄だねえ・・
「 オプションで、焼けた火箸を投げ込む、スペシャルコースもあります 」
そりゃ、至れり尽せりで、結構な事で・・・
「 ・・いかがですか? 」
「 ヤメとく 」
「 ・・・・・ 」
閻魔大王は、しばらく、僕の顔をじっと見ていたが、やがて、サンダスに言った。
「 カマゆで地獄に、お連れして 」
おいっ! 結局、スタンダードコースかいっ! ・・って、クレーム、入れとる場合じゃない。 僕は、天国行きなのだ。 カマゆでされる覚えは、無い。
僕は、訴えるような目で、サンダスを見た。 今回、さすがのサンダスも、ギャグ無しで、閻魔大王に進言した。
「 閻魔様、実は、この客人・・・ 天国行きでしてな。 コレにいる死神が、ちい~と、粗相をやらかしまして・・・ 」
サンダスに言われて、申し訳なさそうに頭をかく、死神。
それを聞いた閻魔大王が、言った。
「 ここに、人事課から、天野さんに関するレポートが届いておりますが・・・? 」
そう言って、机の上にあった書類を手にする、閻魔大王。
何だ、人事課の連中・・ 邪険にしながらも、ちゃんと調書を提出しているじゃないか。
僕は、ホッとした。
閻魔大王が、レポートを読み上げる。
「 天野 進、17歳。 学校からの帰宅途中、トラック( 三菱ふそう 10トン 保冷車 デコトラ )に轢かれそうになった5歳の女幼児を助けようと、路上に踏み込み・・・ 」
ふむ、ふむ・・・
「 その、女幼児の服を剥ぎ取り、路上にて強姦・・ 」
なっ・・! おいっ!
「 ・・その後、自分だけが跳ねられ、即死 」
何、テキトー、書いてんだよ、人事課ァ~ッ!
「 死んでも、女幼児のパンツを、離そうとはしなかった、マル 」
オチまで、あんのかよ! しかも、サイテー。
サンダスと死神の、冷た~い視線が、僕を見ている。
「 フザけんなッ! デタラメじゃんよ! あ~ンの、人事課連中・・ ブッ殺してやる! 」
扉の方へ駆け寄る僕の腕を、サンダスが掴んで、言った。
「 まあまあ、ダンナ。 落ち着いて・・! 」
「 これが、落ち着いていられるかっ! よりによって、幼女強姦だとうっ!? あの、エロじじい・・ イケしゃあしゃあと・・! もう~、あったま来た! 妖怪アニータと共に、スマキにして、房総沖に沈めてやるッ! 」
死神が言った。
「 ダンナ、ダンナ・・ 保険かけて、まぐろ漁船に乗せた方が、いいでっせ・・! 酔わせて、夜、海に放り込ませますわ・・! 1000万くらいので、どうでっか? 」
「 ・・お、おう・・! いいな、それ。 いけ! 」
「 アニータは、どうします? 」
「 サーカスに、売れ! 」
「 剥製にして、びっくり館に売った方が、話題性ありまっせ? 」
「 やるな、死神・・ 」
「 お代官様こそ・・ へっへっへ・・・! 」
いつの間にか、死神は、ちょんまげ姿になっている。
「 お礼の方は、これに・・・! 」
死神は、紫の絹に包まれた小判を、僕に見せた。
ええいっ! やめんか! くだらんギャグ、かましてる場合じゃない。 それに、このノリだと、アイツ( サンダス )が・・・
そう思った瞬間、どこからともなく飛んで来た風車が、サクッと、死神の額に刺さった。
「 ・・・私利欲望に走るテメエらにゃ、まっとうな裁きは、要らねえ・・・! 」
ああ・・ やっぱり、出て来た・・・! しかも、着物姿。 袴を履いてるのはイイが、そのサングラスは、どう見ても、よろしくない。 一昔前のヤクザじゃないか。
しかし、例によって陶酔しているサンダスは、お構いなしのようである。
「 この、桜吹雪が、目に入らねえかっ!? 刺客、勤めさせてもらう・・! 」
お前、メッチャメチャだ。 ジイちゃんが好きだった古い時代劇が、3つくらい入ってるぞ?
死神が言った。
「 ちゃん! ボンカレー! 」
・・・お前も、ナニ言ってんだ? しかも、そのCM、何十年前よ・・?
「 おお、そうであった。 3分間、待つのだぞ? 」
答えるなよ、サンダス。 ・・ちなみに、猫舌の僕は、2分で良い。
その後、ギャグの応酬に乗せられた僕は、くだらん展開へと、突入し、退屈なのか、閻魔大王は執務机の上で寝てしまった。
何で、地獄の連中は、こうもよく寝るのだろう。 しかも、大事な時に限って・・・
地獄人事課の、デタラメな調書の件は、無理やり起こした閻魔大王に、何とか理解してもらい、詳しい調べは、翌日となった。
僕は、閻魔大王の宮殿の1室をあてがわれ、そこで一夜を過ごす事となった。
「 あ~あ、課長、寝ちゃったわねえ。 今日は、これくらいにしといてくれる? もう、カンバンにするから 」
ここは、居酒屋か・・? 勝手に、閉店すんじゃねえよ。 それに、『 これくらい 』って、どのくらいよ? どれだけ職務を遂行したと思ってやがんだ、妖怪・・! 宇宙、帰すぞ、コラ。
僕は、よろよろと立ち上がり、カウンターにしがみ付きながら、言った。
「 死神・・ ! 何とかしろよ・・! 閻魔大王に、札幌出張の件、言ってもいいのか・・? 」
死神は、ビクッとすると、答えた。
「 よ、よしっ・・! おい、アニータ! え、え~と・・ お前の母ちゃん、出べそ! 」
・・・終わった。
コイツに頼んだのが、間違いだった。 お前の母ちゃん、出べそ? ・・ナニそれ? 小学生だって、ンな事、言わんわ・・・
僕は、落胆よりも、哀れみの表情で、死神を見つめた。
「 えへっ、言っちゃった! アニータに、言ってやったよ、天野クン! 」
嬉しそうな、死神。 ・・良かったね。 もう帰れ、お前。 要らんわ。
「 ちょっと、待ったア~ッ! 」
この声は、サンダス・・! ああ・・ ロクでもないヤツが、どんどん出て来る。 もう勝手にしてくれ。
サンダスは、僕を抱き起こすと、言った。
「 だ、大丈夫かっ?! 天野クン! うわわっ、なっ・・ 何て、ひどい事を・・! 一体、誰が、こんな惨たらしい事を・・! 」
・・お前が、やったんだよ。 しかも、1人でな。
サンダスは、イキナリ叫んだ。
「 我々はァ~ッ! このような不当な弾圧に対してえ~ッ! 断固、対決するう~ッ! 」
労使交渉のストライキかよ、オッさん。
サンダスは、頭に『 ベア確保 』と書かれた、手拭いを巻いている。
「 立て、友よ! 共に闘おう! 」
「 わ~、わ~! 」
死神も、一緒になって、騒いでいる。
「 ちょっと、サンダス様! このような所で、騒いでもらっては、困ります 」
妖怪アニータが言った。
「 ナニを言うか! 大体、オレの兄貴を、こんなんにしたのは、誰だ!」
・・・お前だよ。 分からんのか、たわけが。
「 何、騒いどるんかのう? 」
寝ていた課長が、ひょっこりと起き上がった。
すかさず、僕は小窓に飛び付き、言った。
「 課長さん! 僕のコト、ちゃんと調べて下さい! 」
「 ほう、ほう。 じゃ、この申請書に名前と住所、書いてね 」
「 ・・・・・ 」
僕は、ニコニコしている課長鬼に言った。
「 ・・・あの~・・ さっき、書いたんですケド・・? 」
次の瞬間、課長鬼は、寝ていた。 しかも、鼻提灯は、さっきのより大きい。
僕は、ブチ切れた。
「 サンダスうぅーッ! 」
「 ヘ~イ、ボ~ス・・・! 」
「 今度こそ1発、目の覚めるヤツを、ズバーンと・・ 」
その瞬間、僕の顔面に、ズバーンと、サンダスの特大拳が炸裂した。
( やっぱり・・・? )
一瞬、薄れた意識の中で、サンダスのアホ声が聞こえた。
「 兄貴! 兄貴い~ッ! オレなんか・・・ オレなんか・・・ 兄貴の、ばかやろ~っ! 」
サンダスの、駆けていく足音が、遠ざかっていく。 もう、帰って来なくていいぞ~・・・
鼻血を出し、ピクピクしながら床に転がっている僕に、死神は尋ねた。
「 だ、ダンナ・・・ 大丈夫ですかい・・・? 」
「 ・・・いっぺん、殺せ。 あの男は・・・! 」
人事課では、話にならないので、サンダスと死神は、僕を閻魔大王の所に連れて行った。 ある意味、『 直訴 』である。
宮殿内をしばらく歩くと、『 閻魔大王 』と、大きな板に書かれた札が掛けてある部屋の前に着いた。 ドアノブは、ドクロである。
「 し、死神・・ オレの襟、曲がってないか? 」
サンダスが、死神に聞いた。
アロハ着ているのに、襟の乱れもナニも、無いだろうが。
「 大丈夫だよ。 それより、僕のマント、シワになってない? 」
ボロボロなんだから、シワもクソも無いだろうが。
「 おう、イカしてるぜ? 大丈夫だ 」
ドコが、イカしてるんだ? 君らのセンスには、ついて行けんわ・・・
・・しかし、あのアホ共が、緊張している。 やはり、閻魔様は、怖いのだろう。 僕も正直、怖いが、ビビッたら負けだ。 ここはひとつ、度胸を据えて挑まねば・・・!
ドクロに付いている、太い鉄の輪をゴンゴンと鳴らし、サンダスが、扉を開ける。
そこは、部屋と言うよりは、洞窟風呂のような所だった。 いたるところにロウソクが立ててあり、人骨が散乱している。
正面の奇怪な岩の前に、巨大な執務机があり、その机の上の両脇には、頭にロウソクを乗せた、ドクロが置いてあった。
机の向こうに、小さな子供が立っている。 おそらく、執務係りか、閻魔大王のお側人なのだろう。 こんな小さな子供でも、地獄に落ちる者は、いるのか・・・ このまま、永遠に、ここで働かされるのだろう。 何だか、切ない気持ちになる。
子供が言った。
「 やあ、こんにちは! 閻魔大王です 」
・・・は? 今、何と・・・?
僕は、耳を疑った。
テレビCMに出てくる、子供役者のような顔立ち。 クリクリとした、愛らしい、つぶらな瞳。 さらっとした、清潔感あふれる髪には、天使の輪すら、出来ている。
「 あの・・ 閻魔大王・・・ ですか? 」
にわかには、信じ難く、僕は、彼に聞いた。
「 そうです! 地獄にようこそ! 当地獄では、おいで頂いた、罪人の方のご希望に合わせ、針山・カマゆで・逆落とし谷・股裂きなど、アメニティー豊かな施設において、究極の苦しみをご堪能頂けるよう、従業員一同、誠心誠意の、真心サービスをモットーとしております 」
「 ・・・・・ 」
ひとつ、質問して、いい? 従業員って、ナニ・・・?
真っ白なスーツを着込み、黒い蝶ネクタイをした、可愛らしい閻魔大王は、にこやかに、そしてハキハキと、そう言った。
プリティ閻魔大王は、続ける。
「 先週オープンした、切り刻み水車など、いかがですか? 香り芳しい、ヒノキの水車に縛り付けられ、サビた5寸クギ10本で切り裂かれる、究極の拷問です。 更に、水は塩水。 キズに、よくしみて、極上の苦痛ですよ? 」
閻魔大王は、写真付きの真新しいパンフレットを見せながら、僕に説明した。
「 今なら、オープン記念で、回数券が付きます 」
要らんわ、そんなモン!
「 ・・・ご不満ですか? なるほど! まだ、お若い方ですしね! もっと、豪快なヤツの方が良いワケですか。 それなら、コレです・・ 石臼地獄! 」
何じゃ、そら・・・! 何となく、想像がつくが・・・?
「 直径10メートル、重さ15トンの、石臼の中に入って、少しづつ、皮を、めくられていくんです! 」
そりゃ、エゲツないわ・・
「 時々、上から塩をかけますので、その苦痛と言ったら・・ たまりませんよ? 」
そりゃ、たまらんわな・・
「 特に、体の一部が挟まれたら、そこから段々と、磨り潰されていきますから、そりゃあもう、あなた・・ 気が狂わんばかりの激痛を、体験出来ますよ? 」
まさに、地獄だねえ・・
「 オプションで、焼けた火箸を投げ込む、スペシャルコースもあります 」
そりゃ、至れり尽せりで、結構な事で・・・
「 ・・いかがですか? 」
「 ヤメとく 」
「 ・・・・・ 」
閻魔大王は、しばらく、僕の顔をじっと見ていたが、やがて、サンダスに言った。
「 カマゆで地獄に、お連れして 」
おいっ! 結局、スタンダードコースかいっ! ・・って、クレーム、入れとる場合じゃない。 僕は、天国行きなのだ。 カマゆでされる覚えは、無い。
僕は、訴えるような目で、サンダスを見た。 今回、さすがのサンダスも、ギャグ無しで、閻魔大王に進言した。
「 閻魔様、実は、この客人・・・ 天国行きでしてな。 コレにいる死神が、ちい~と、粗相をやらかしまして・・・ 」
サンダスに言われて、申し訳なさそうに頭をかく、死神。
それを聞いた閻魔大王が、言った。
「 ここに、人事課から、天野さんに関するレポートが届いておりますが・・・? 」
そう言って、机の上にあった書類を手にする、閻魔大王。
何だ、人事課の連中・・ 邪険にしながらも、ちゃんと調書を提出しているじゃないか。
僕は、ホッとした。
閻魔大王が、レポートを読み上げる。
「 天野 進、17歳。 学校からの帰宅途中、トラック( 三菱ふそう 10トン 保冷車 デコトラ )に轢かれそうになった5歳の女幼児を助けようと、路上に踏み込み・・・ 」
ふむ、ふむ・・・
「 その、女幼児の服を剥ぎ取り、路上にて強姦・・ 」
なっ・・! おいっ!
「 ・・その後、自分だけが跳ねられ、即死 」
何、テキトー、書いてんだよ、人事課ァ~ッ!
「 死んでも、女幼児のパンツを、離そうとはしなかった、マル 」
オチまで、あんのかよ! しかも、サイテー。
サンダスと死神の、冷た~い視線が、僕を見ている。
「 フザけんなッ! デタラメじゃんよ! あ~ンの、人事課連中・・ ブッ殺してやる! 」
扉の方へ駆け寄る僕の腕を、サンダスが掴んで、言った。
「 まあまあ、ダンナ。 落ち着いて・・! 」
「 これが、落ち着いていられるかっ! よりによって、幼女強姦だとうっ!? あの、エロじじい・・ イケしゃあしゃあと・・! もう~、あったま来た! 妖怪アニータと共に、スマキにして、房総沖に沈めてやるッ! 」
死神が言った。
「 ダンナ、ダンナ・・ 保険かけて、まぐろ漁船に乗せた方が、いいでっせ・・! 酔わせて、夜、海に放り込ませますわ・・! 1000万くらいので、どうでっか? 」
「 ・・お、おう・・! いいな、それ。 いけ! 」
「 アニータは、どうします? 」
「 サーカスに、売れ! 」
「 剥製にして、びっくり館に売った方が、話題性ありまっせ? 」
「 やるな、死神・・ 」
「 お代官様こそ・・ へっへっへ・・・! 」
いつの間にか、死神は、ちょんまげ姿になっている。
「 お礼の方は、これに・・・! 」
死神は、紫の絹に包まれた小判を、僕に見せた。
ええいっ! やめんか! くだらんギャグ、かましてる場合じゃない。 それに、このノリだと、アイツ( サンダス )が・・・
そう思った瞬間、どこからともなく飛んで来た風車が、サクッと、死神の額に刺さった。
「 ・・・私利欲望に走るテメエらにゃ、まっとうな裁きは、要らねえ・・・! 」
ああ・・ やっぱり、出て来た・・・! しかも、着物姿。 袴を履いてるのはイイが、そのサングラスは、どう見ても、よろしくない。 一昔前のヤクザじゃないか。
しかし、例によって陶酔しているサンダスは、お構いなしのようである。
「 この、桜吹雪が、目に入らねえかっ!? 刺客、勤めさせてもらう・・! 」
お前、メッチャメチャだ。 ジイちゃんが好きだった古い時代劇が、3つくらい入ってるぞ?
死神が言った。
「 ちゃん! ボンカレー! 」
・・・お前も、ナニ言ってんだ? しかも、そのCM、何十年前よ・・?
「 おお、そうであった。 3分間、待つのだぞ? 」
答えるなよ、サンダス。 ・・ちなみに、猫舌の僕は、2分で良い。
その後、ギャグの応酬に乗せられた僕は、くだらん展開へと、突入し、退屈なのか、閻魔大王は執務机の上で寝てしまった。
何で、地獄の連中は、こうもよく寝るのだろう。 しかも、大事な時に限って・・・
地獄人事課の、デタラメな調書の件は、無理やり起こした閻魔大王に、何とか理解してもらい、詳しい調べは、翌日となった。
僕は、閻魔大王の宮殿の1室をあてがわれ、そこで一夜を過ごす事となった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
後悔と快感の中で
なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私
快感に溺れてしまってる私
なつきの体験談かも知れないです
もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう
もっと後悔して
もっと溺れてしまうかも
※感想を聞かせてもらえたらうれしいです
【ショートショート】雨のおはなし
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
My Doctor
west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生
病気系ですので、苦手な方は引き返してください。
初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです!
主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな)
妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ)
医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる