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【宝石少年と芸術の国】
芸術を見る視線
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絵を描く時、まずは構図が重要になってくる。特にルルのような、ほとんど身を隠しているような姿では難しい。考えあぐねるアルナイトの代わりに、フロゥがさり気なく尋ねた。
「それをかぶる必要は、何か聞いてもいいだろうか?」
『え?』
姿勢を正す事に集中していたルルは、フロゥの言葉を理解するのに数秒かかった。やがて「あ」と呟くと、フードに触れる。すると、アルナイトが慌てたように手を止めさせた。
「無理しなくていーって!」
『……ありがとう。でも、二人にはいいよ。フードだけなら』
せっかく描いてもらうのなら、できるだけ素の姿の方が嬉しい。彼らに見られる事に抵抗はないが、マントを脱いだところで手を止めた。
それまで自然とフードの中でまとまっていた髪の毛が、床にさらりと広がる。
「お~、ルルって髪の毛長いんだな! サラサラだし、綺麗な色だなぁ。いろんな色が反射してる」
『紫と、銀だけじゃないの?』
「光の反射でそう見えるだけっぽいな。耳と一緒で綺麗だぞ!」
『ありがとう』
何が綺麗か理解できないが、彼の言葉が純粋に思ったままであるのは分かる。気持ちを受け取ってか、暗い色をした唇が、ほんの少し微笑んでいるように見えた。
ひとしきり、じっとルルを観察し終えたアルナイトは、視界に偶然収まったフロゥに首を傾げた。彼だけずっと、時が止まったように唖然とルルを見つめている。すると不思議そうな視線にフロゥはハッとし、立ち上がると小声で叫んだ。
「お、オリクトの民なのか……っ?」
『あ、うん』
「そんな驚くか? ファルベに会った事あるじゃん」
「ある。あるが……」
フロゥは胸元を押さえ、チラチラとルルを見る。顔は火照り赤くなり、どこか緊張しているようだ。二人は彼の様子に、どうしたのかと互いの顔を見合って頭を傾げる。
「ぼ、僕にとって、君たち幻想種族は眩しすぎるんだ」
フロゥの声は小さく震えていて、興奮気味なのが分かる。そんな言葉を聞きながら、アルナイトはこの反応に既視感があると気づいた。既視感の正体を探った頭は、数年前の記憶を見せる。遡ったのは、彼にマリンとファルベを紹介した時の頃。
フロゥは、アルナイトよりも一年ほどあとにアルティアルに訪れた。一人でやって来た彼に、少しでも仲のいい存在を作ってほしいという思いで、マリンたちと会わせた。そこでファルベを見た瞬間、フロゥは顔を赤らめ、今と同じように緊張していたのだ。
「ほえ~、そんな好きだったんだなぁ」
「た、ただ美しい存在が好きなだけだ」
フロゥには収集癖がある。種類や周囲の意見は問わず、美しいと感じたものを幼い頃から集めていた。物心ついた時から19になる現在まで続いているおかげで、部屋の中は集めた物で埋まっている。
そんな彼がこの世で一番だと思っているのが、オリクトの民だ。過去、忠実にその姿を描いた絵画があった。人間の世界にいない、衣服も纏わない自然そのものの姿だ。フロゥはそれを、時間を忘れて鑑賞していた。
「本来、僕らとは次元が違うはずの美しさだ。触れれば、一瞬で汚れてしまう。だがそれが分かっているのに……触れずにはいられない。本当に、危うい美しさなんだ」
ルルは熱烈的に語るフロゥに、仮面下で目を瞬かせる。しばらく黙って聞いていたがおもむろに立ち上がると、周囲に気付く暇さえなくしたフロゥの手を握った。突然の事に彼は大袈裟に見えるほど、体大きく跳ねさせる。
『でも僕は、ここに居るよ』
フロゥの言葉は、間違いなく褒め言葉だ。それは理解している。だがルルにとって、特別視というのは否定的でもあるのだ。
薄青い両手がフロゥの手を包み、仮面が半分隠す頬に添える。
『触っても、壊れないし、汚れないでしょ?』
確かに違う種族だ。本に書かれるように、オリクトの民は人間よりも、神に近い存在かもしれない。だがそれでも、今は同じ空の下で同じ地面を踏み、同じ空気を吸っている。だから、まるで触れ合ってはいけない、壁があるように思ってほしくなかった。
「ルルはルルだもんな~」
言葉と共に、後ろからアルナイトが首に抱きついてきた。頷いたルルの唇は、僅かに上がったように見える。
「それに、ファルベはマリンと恋人だぞ?」
「……あの二人はいいんだよ。お似合いだから」
『じゃあ、僕も僕として、友達にはなれない?』
フロゥは二人からじっと見つめられ、すっかり逃げ場を失った気分になった。しかし、正体を知る前とあとで態度を変えるのは、確かに失礼かもしれない。それにどんな相手とも交友関係を築くのは大事だ。
と、そこまでは理性。本音は、きっと友達になったら楽しいだろうという、好奇心の気持ちが強い。そんな彼が断る理由もなく、フロゥは未だ緊張を残したながらも頷いた。
「その……友好の証として、僕も君を描いていいだろうか?」
『もちろん』
ルルは工房の中央に再び座り、アルナイトの指示でポーズを取った。マントを肩が見える形まではだけさせ、手にはいつもの紺色の本とガラスペンを握っている。
基本モデルは長時間同じ体制でいる必要がある。そのため、時間を潰す道具が手元にあった方がいい。大きく姿勢が変わらなければ、ページを捲る程度なら動いても問題ないのだ。
「つらくなったら言ってくれな?」
『うん』
フードは取ったが、仮面は付けたままにした。二人を信頼していないわけではない。この目を見ても、もう特別視しようと思わないだろう。しかしまだやめておこうと、胸の奥が囁いていた。理由は定かではないが、本能に耳をかたむけておいて損はない。
時間は二時間。もっと時間を使ってもいい申し出たが、アルナイトは一度集中すると止まれない。無理にでも短い時間で締め切った方が、お互いのためなのだそうだ。
「じゃー、はじめ!」
二時間分の砂を入れた砂時計がひっくり返る。それと同時に、アルナイトとフロゥの呼吸が変わったのを、鉱石の耳が報せた。彼らが自分の世界に入ったのだろう。
呼吸が小さくなった事で、他の音がよく聞こえようになった。細かくなった鉱石が落ちる砂時計の音、細い筆と太い筆の動き。
(不思議な感じ)
見られる事には慣れているつもりだ。それなのに、肌に感じる視線が初めての感覚だった。
今までは、容姿や職業などで集めた視線。それらは全て、品定めするようなものだった。しかし今はそうじゃない。一つの対象物を見る視線なのには変わりないのに、嫌な気分にならなかった。
現実のものを芸術に落とし込む眼差しは、自然と背筋を伸ばしてくれる。芸術品は普段からこう見られるのだろうか。何故だか少し羨ましい。
(たまには……描かれるのも、いいかも)
まだ数分と経過していない。ルルは本に記す事も忘れ仮面の下で目を閉じ、この時間をただ体で味わっていた。
サラ、ザラ……と、ガラスの中で砂が落ちた音がした。砂時計の砂が落ち切り、時間が終わったのだ。当然、そんな繊細な音を聞き取れるのはルルだけ。
彼も二人の持つ筆の音を聞くのに夢中になっていたから、ハッとなって気付いた。
『砂が』
反射的に頭に作った言葉が、アルナイトとフロゥにも伝わった。アルナイトは急に音が入った事で体をビクッとさせ、フロゥは冷静に砂時計を確認する。
「終了だな。ルル、もう動いていい。水を持ってくるよ」
「んあー、終わっちゃったぁ」
『お疲れ様、二人とも』
「ルルもおつかれ! ありがとな~」
アルナイトは筆を洗浄液に漬けると、すぐルルに抱きついた。だが集中したせいで汗ばんでいる事に気付き、慌てて離れる。
フロゥが持ってきてくれた水を飲むと、体が思った以上に水分を欲しているのを知った。音を聞いていて楽しかったから、全然疲れていないと思っていたが、やはり同じ体勢を保つのは負担があったのだ。
「へへへ、楽しかったなぁ。乾いたら、どんなか見てくれよ」
「貴重な体験だった。ありがとう」
『こちらこそ、ありがとう。楽しみにしてる』
フードをかぶり直したところで、鉱石の音が工房の外で足音を拾った。ドアの方を向いた時、ノック音が響く。ドアを開けたのはジオードで、彼は見覚えのあるマント姿に、微かに濁った白い目を細めた。
「あれ、先生どーしたの?」
「今日は雨が振る。そろそろ帰れ」
曇天の時、アルティアルは特に暗くなるのが早い。ジオードと住んでいるアルナイトは、すぐ隣だから問題ない。だが少し距離のある場所で一人暮らしをするフロゥは、足元が悪くなる前に帰る必要があった。
二人が道具を片付ける最中、ルルは帰ろうとしたジオードの背中を引き止めた。彼はめんどくさそうに振り返る。
『久しぶり』
「……旅人はずいぶん暇みたいだな」
『僕らも芸術祭に、参加するの。よろしくね』
「あ、そうそう! 乾いてる先生の絵、ルルに触らせてほしいんだ」
「触らせるぅ? なんでそんな事をしなきゃならんのだ」
『僕、目が見えないの』
その時、怪訝そうだったジオードの目が、ピクリと痙攣した。微かな動きで誰も気付かない。
『絵は描ける。でも、絵画に触れた事、ないんだ。少しでも、参考にしたくて』
「勝手にしろ」
ジオードは頭に続く言葉を遮るように、ふんっと鼻を鳴らして背中を向ける。アルナイトは自分の事のように嬉しそうにすると、ルルとハイタッチした。
「それをかぶる必要は、何か聞いてもいいだろうか?」
『え?』
姿勢を正す事に集中していたルルは、フロゥの言葉を理解するのに数秒かかった。やがて「あ」と呟くと、フードに触れる。すると、アルナイトが慌てたように手を止めさせた。
「無理しなくていーって!」
『……ありがとう。でも、二人にはいいよ。フードだけなら』
せっかく描いてもらうのなら、できるだけ素の姿の方が嬉しい。彼らに見られる事に抵抗はないが、マントを脱いだところで手を止めた。
それまで自然とフードの中でまとまっていた髪の毛が、床にさらりと広がる。
「お~、ルルって髪の毛長いんだな! サラサラだし、綺麗な色だなぁ。いろんな色が反射してる」
『紫と、銀だけじゃないの?』
「光の反射でそう見えるだけっぽいな。耳と一緒で綺麗だぞ!」
『ありがとう』
何が綺麗か理解できないが、彼の言葉が純粋に思ったままであるのは分かる。気持ちを受け取ってか、暗い色をした唇が、ほんの少し微笑んでいるように見えた。
ひとしきり、じっとルルを観察し終えたアルナイトは、視界に偶然収まったフロゥに首を傾げた。彼だけずっと、時が止まったように唖然とルルを見つめている。すると不思議そうな視線にフロゥはハッとし、立ち上がると小声で叫んだ。
「お、オリクトの民なのか……っ?」
『あ、うん』
「そんな驚くか? ファルベに会った事あるじゃん」
「ある。あるが……」
フロゥは胸元を押さえ、チラチラとルルを見る。顔は火照り赤くなり、どこか緊張しているようだ。二人は彼の様子に、どうしたのかと互いの顔を見合って頭を傾げる。
「ぼ、僕にとって、君たち幻想種族は眩しすぎるんだ」
フロゥの声は小さく震えていて、興奮気味なのが分かる。そんな言葉を聞きながら、アルナイトはこの反応に既視感があると気づいた。既視感の正体を探った頭は、数年前の記憶を見せる。遡ったのは、彼にマリンとファルベを紹介した時の頃。
フロゥは、アルナイトよりも一年ほどあとにアルティアルに訪れた。一人でやって来た彼に、少しでも仲のいい存在を作ってほしいという思いで、マリンたちと会わせた。そこでファルベを見た瞬間、フロゥは顔を赤らめ、今と同じように緊張していたのだ。
「ほえ~、そんな好きだったんだなぁ」
「た、ただ美しい存在が好きなだけだ」
フロゥには収集癖がある。種類や周囲の意見は問わず、美しいと感じたものを幼い頃から集めていた。物心ついた時から19になる現在まで続いているおかげで、部屋の中は集めた物で埋まっている。
そんな彼がこの世で一番だと思っているのが、オリクトの民だ。過去、忠実にその姿を描いた絵画があった。人間の世界にいない、衣服も纏わない自然そのものの姿だ。フロゥはそれを、時間を忘れて鑑賞していた。
「本来、僕らとは次元が違うはずの美しさだ。触れれば、一瞬で汚れてしまう。だがそれが分かっているのに……触れずにはいられない。本当に、危うい美しさなんだ」
ルルは熱烈的に語るフロゥに、仮面下で目を瞬かせる。しばらく黙って聞いていたがおもむろに立ち上がると、周囲に気付く暇さえなくしたフロゥの手を握った。突然の事に彼は大袈裟に見えるほど、体大きく跳ねさせる。
『でも僕は、ここに居るよ』
フロゥの言葉は、間違いなく褒め言葉だ。それは理解している。だがルルにとって、特別視というのは否定的でもあるのだ。
薄青い両手がフロゥの手を包み、仮面が半分隠す頬に添える。
『触っても、壊れないし、汚れないでしょ?』
確かに違う種族だ。本に書かれるように、オリクトの民は人間よりも、神に近い存在かもしれない。だがそれでも、今は同じ空の下で同じ地面を踏み、同じ空気を吸っている。だから、まるで触れ合ってはいけない、壁があるように思ってほしくなかった。
「ルルはルルだもんな~」
言葉と共に、後ろからアルナイトが首に抱きついてきた。頷いたルルの唇は、僅かに上がったように見える。
「それに、ファルベはマリンと恋人だぞ?」
「……あの二人はいいんだよ。お似合いだから」
『じゃあ、僕も僕として、友達にはなれない?』
フロゥは二人からじっと見つめられ、すっかり逃げ場を失った気分になった。しかし、正体を知る前とあとで態度を変えるのは、確かに失礼かもしれない。それにどんな相手とも交友関係を築くのは大事だ。
と、そこまでは理性。本音は、きっと友達になったら楽しいだろうという、好奇心の気持ちが強い。そんな彼が断る理由もなく、フロゥは未だ緊張を残したながらも頷いた。
「その……友好の証として、僕も君を描いていいだろうか?」
『もちろん』
ルルは工房の中央に再び座り、アルナイトの指示でポーズを取った。マントを肩が見える形まではだけさせ、手にはいつもの紺色の本とガラスペンを握っている。
基本モデルは長時間同じ体制でいる必要がある。そのため、時間を潰す道具が手元にあった方がいい。大きく姿勢が変わらなければ、ページを捲る程度なら動いても問題ないのだ。
「つらくなったら言ってくれな?」
『うん』
フードは取ったが、仮面は付けたままにした。二人を信頼していないわけではない。この目を見ても、もう特別視しようと思わないだろう。しかしまだやめておこうと、胸の奥が囁いていた。理由は定かではないが、本能に耳をかたむけておいて損はない。
時間は二時間。もっと時間を使ってもいい申し出たが、アルナイトは一度集中すると止まれない。無理にでも短い時間で締め切った方が、お互いのためなのだそうだ。
「じゃー、はじめ!」
二時間分の砂を入れた砂時計がひっくり返る。それと同時に、アルナイトとフロゥの呼吸が変わったのを、鉱石の耳が報せた。彼らが自分の世界に入ったのだろう。
呼吸が小さくなった事で、他の音がよく聞こえようになった。細かくなった鉱石が落ちる砂時計の音、細い筆と太い筆の動き。
(不思議な感じ)
見られる事には慣れているつもりだ。それなのに、肌に感じる視線が初めての感覚だった。
今までは、容姿や職業などで集めた視線。それらは全て、品定めするようなものだった。しかし今はそうじゃない。一つの対象物を見る視線なのには変わりないのに、嫌な気分にならなかった。
現実のものを芸術に落とし込む眼差しは、自然と背筋を伸ばしてくれる。芸術品は普段からこう見られるのだろうか。何故だか少し羨ましい。
(たまには……描かれるのも、いいかも)
まだ数分と経過していない。ルルは本に記す事も忘れ仮面の下で目を閉じ、この時間をただ体で味わっていた。
サラ、ザラ……と、ガラスの中で砂が落ちた音がした。砂時計の砂が落ち切り、時間が終わったのだ。当然、そんな繊細な音を聞き取れるのはルルだけ。
彼も二人の持つ筆の音を聞くのに夢中になっていたから、ハッとなって気付いた。
『砂が』
反射的に頭に作った言葉が、アルナイトとフロゥにも伝わった。アルナイトは急に音が入った事で体をビクッとさせ、フロゥは冷静に砂時計を確認する。
「終了だな。ルル、もう動いていい。水を持ってくるよ」
「んあー、終わっちゃったぁ」
『お疲れ様、二人とも』
「ルルもおつかれ! ありがとな~」
アルナイトは筆を洗浄液に漬けると、すぐルルに抱きついた。だが集中したせいで汗ばんでいる事に気付き、慌てて離れる。
フロゥが持ってきてくれた水を飲むと、体が思った以上に水分を欲しているのを知った。音を聞いていて楽しかったから、全然疲れていないと思っていたが、やはり同じ体勢を保つのは負担があったのだ。
「へへへ、楽しかったなぁ。乾いたら、どんなか見てくれよ」
「貴重な体験だった。ありがとう」
『こちらこそ、ありがとう。楽しみにしてる』
フードをかぶり直したところで、鉱石の音が工房の外で足音を拾った。ドアの方を向いた時、ノック音が響く。ドアを開けたのはジオードで、彼は見覚えのあるマント姿に、微かに濁った白い目を細めた。
「あれ、先生どーしたの?」
「今日は雨が振る。そろそろ帰れ」
曇天の時、アルティアルは特に暗くなるのが早い。ジオードと住んでいるアルナイトは、すぐ隣だから問題ない。だが少し距離のある場所で一人暮らしをするフロゥは、足元が悪くなる前に帰る必要があった。
二人が道具を片付ける最中、ルルは帰ろうとしたジオードの背中を引き止めた。彼はめんどくさそうに振り返る。
『久しぶり』
「……旅人はずいぶん暇みたいだな」
『僕らも芸術祭に、参加するの。よろしくね』
「あ、そうそう! 乾いてる先生の絵、ルルに触らせてほしいんだ」
「触らせるぅ? なんでそんな事をしなきゃならんのだ」
『僕、目が見えないの』
その時、怪訝そうだったジオードの目が、ピクリと痙攣した。微かな動きで誰も気付かない。
『絵は描ける。でも、絵画に触れた事、ないんだ。少しでも、参考にしたくて』
「勝手にしろ」
ジオードは頭に続く言葉を遮るように、ふんっと鼻を鳴らして背中を向ける。アルナイトは自分の事のように嬉しそうにすると、ルルとハイタッチした。
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