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【宝石少年と霧の国】
おぼろげな記憶
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翌日。ルルは、命の籠で絶えず流れ続ける滝が作る池に、足を入れてボーッとしていた。動かす足を追いかけるような煌めきをじっと見つめ、膝の上に置いた剣へ視線を移す。
(剣を使って、力を操る)
今朝アンブルが、強くなる方法の一つを教えてくれた。まずルルは、膨大な力をコントロールできない。そのせいもあり感情によって、無意識に力を放出させる事もあった。
本来、世界の王は鉱石を出す能力を使い、命すら作る事ができるのだという。それほどの力を自身を壊さず操るには、体が耐えられるようになるために、何百年と言う成熟期間が必要だ。だから、道具を通して安定させるのがいいと、案を出してくれた。時々魔法使いの中でも、力のコントロールが難しい場合は、慣れるまで魔道具を通して使用する事があるのだ。
魔法を使えないオリクトの民であるルルにとっては、魔道具はただの物体でしかない。更に王の力を通しても耐えられる器は中々無かった。しかし幸いな事に、最も大事な存在がそれになり得た。
ルルの持つ剣は、様々な宝石で繋ぎ合わさっている。そのどれもが硬度が高く、純度も最高峰だ。これならば簡単には壊れず、真っ直ぐ力を放出させてくれる。
(剣の中に、力を)
ルルは立ち上がると、見様見真似で剣を構えて目を閉じる。今はゆっくりでいい。呼吸を最大まで小さくし、多くの音の中から鼓動に耳を傾ける。そうすると、剣の音がよく聞こえてきた。
今だ、剣を振ろう。しかしそう思った時だ。静かだった頭の中に、背後から誰かの足が小枝を踏む音が割って入った。夢中になっていたルルは、咄嗟に剣と共に勢いよく体を振り向かせる。その瞬間、孤を描いた切先の動きに操られるように、鉱石の棘が地面から突き上がった。
棘が襲った場に居たのはアウィン。彼は反射的に手を翳し、真下から生える鉱石からシールドで身を守った。
棘が成長しきったのか動きを止めると、辺りはしんと静まった。衝撃に耐えきれずにガラスのように崩れたシールドの音で、ルルは我にかえる。唖然としているアウィンに慌てて駆け寄った。
『アウィン! ごめんなさい、大丈夫? 怪我して、ないっ?』
「あ、あぁ……ええ、なんとか」
『ごめん、ごめんなさい……僕』
「ルル、大丈夫、大丈夫ですよ。私こそ、急に近付いて申し訳ありません」
服を握る薄青い手が震えている。アウィンは地面に膝をつくと、ルルを抱きしめて背中を優しくさすった。
集中している事を、アウィンは分かっていた。だから出来るだけ邪魔しないよう、気配を消していたのだが、それが仇となってしまった。彼は内心ホッと胸を撫で下ろす。自分の無事にではない。あのままシールドが遅れて身が刻まれれば、一生のトラウマを植え付ける。そんな最悪な事態にならなかった事に、安堵しているのだ。
しかし剣によって抑えられているとはいえ、なんて鋭利で大量の鉱石だろう。こんな小さな体に、どれほど無限の力があるのか。確かにこれは、正しく扱えなければその身を壊すだろう。
(アンブル様が危惧するのも分かりますね)
アウィンがルルの元に来たのは、彼女に指導を任されたからだ。教える事はいい経験になるし、自分も鍛えられるだろうと、快く受けた。まあ、力量が違いすぎるのを今、目の当たりにしたばかりだが。それでも降りる気は、何故か少しも湧いてこない。
「ルル、顔を上げて。今ので少し恐ろしくなったでしょう。貴方は自分の力が強いと、自覚する必要があります」
『ん……』
「だからそれを制御し、味方につけましょう。ルルならできます。もちろん一人ではなく、私と一緒に」
『怪我、させちゃうかも』
「大丈夫。今だって、私は怪我をしませんでしたよ」
『でも』
「辞めれば誰も傷つけませんが、守れもしません。そうでしょう?」
ルルはそこでようやく顔を上げた。記憶に粘りつく他者の死が、また手が血で濡れるのを連想させていた。しかしそれは力を使えなかったから。もうそこに留まらないと、自分に約束したじゃないか。
「私を信じてくれますか?」
『うん』
ルルの頷きに、アウィンは笑みを返した。
~ ** ~ ** ~
アンブルはアガットの部屋から自室へ帰って来た時、室内の変化に周囲を見渡す。数秒間眺めて気付いた。窓が一つ増えている。木が何かを伝えるために増やしたのだろう。
カーテンのように垂れ下がった蔓草を手で退け、外の様子を覗く。坂の下の広場で、互いの剣を向け合っているアウィンとルルが見えた。順調に特訓できている様子にアンブルは微笑む。しかし木は喧嘩をしていると思ったらしく、心配を消すよう木肌を宥めるように撫でた。
「あの子たちは、強くなろうと頑張っているんだ。何もせずに見守ってあげるんだよ?」
木は頷くように枝を揺らした。
蔓草のカーテンを閉めたところで、ドアがノックされた。少しぎこちなく入って来たのはコーパル。
「獣人たちの様子が気になるんだ。ジプスとコーディエだけで、全員を集められるのか?」
「もちろん、二人だけじゃない。獣人はそれぞれ種族でグループとなっているんだ。そこにまとめ役は必ず居る。その子らに、ジプスたちが呼びかけて協力を煽ってるところだよ」
今はほとんどの種族が、着実にアンブルの住むこの命の籠へ向かって来ている。コーディエたちからの連絡によれば、早ければ今晩には辿り着くだろう。
だが全員が全員、移動できる種族ではない。その場から離れて生きられない者も居る。しかし彼らはむしろ、そこで待機する方が安全だ。そういった場は、基本的に他者の侵入は容易ではないのだ。
それを聞くと、コーパルは安堵の息を吐く。
「獣人の事は調べているだろうから、その習性を利用して、捉えようとするはずだ。だがもう移動しているなら大丈夫だ。おそらくアパティア本人は、そのあと本格的に動くだろう」
「本人はずいぶんと遅いじゃないか」
「ああ。俺の目で追えなくなったのは大きいが、アイツ自身、自分が動く事を極力嫌うんだ」
アパティアは何人もの部下を持っている。その全てを捨て駒とし、使うのが好きだった。自分のひと声で、周囲が動くのが快感なのだ。他者の力を自分の力と捉えているというのもある。そのため、彼女本人が出るのは、目的を捉えた時か戦略失敗のどちらかなのだ。
「そうか。なら、こちらも作戦を立てやすい。ありがとうね」
「これくらいしか役に立たないからな。また分かった事は、すぐ報告する」
「……いいんだね? 坊や」
何がだと言いかけたのを、コーパルは飲み込んだ。こちらを試すような視線に、意味を理解する。アンブルは最後のチャンスを与えているのだ。あちら側、アパティアたちの元へ帰る事ができる、最後だと。
今戻れば、多くの情報を相手へ渡す事で、寿命が伸びるだろう。裏切れば、間違いなく破壊される。だがそこに恐怖は無い。
「この命は、誰にも使わせない」
記憶を失い、アンブルたちに出会い、彷徨っていた命の存在意義を知った。この命、散るのならば、新しくできた自分の心に従いたい。それは彼女の元へ帰るのではなく、ここに残る事だ。
アンブルは優しく微笑み、子供にするように黒髪をクシャリと撫でた。コーパルはなんとも言えない顔をする。しかし何だか懐かしく、落ち着く。きっと昔、誰かにこうしてもらったのだろう。
くすぐったさにつぶった目蓋を開いた時、彼は自分の目を疑った。目の前に誰かが居る。優しい微笑みを浮かべる、若い女性。彼女も確か、こんなこんなふうに少し強い撫で方をしていた。
「坊や、どうした?」
顔を覗き込まれ、コーパルは現実にかえる。今、まだこの体になる前の、遠い昔の記憶を頭が描いたような気がする。しかしそれはほんの僅かな時間で、意識しても思い浮かべられない。
返らない返事に首をかしげたアンブルに、コーパルは慌てて頭を横に振った。それに彼女は少し可笑しそうに目尻を下げる。その仕草が、どこか先程の記憶を連想させた。
「アンブル──」
「ん? なんだ?」
「…………おそらく、アパティア本人は国宝を探す事に注力するだろう。獣人の捕獲は、部下が行うはずだ。それを……思い出したんだ」
「そうか。いい加減、私たちに国宝の場所を教えてくれないか?」
アンブルはコーパルから、視線を部屋の壁と化した木へ向ける。しかし彼らはただ拒否を示すように、天井から垂らした枝を振った。何故こうも頑ななのか、溜息が深く吐き出される。これ以上問い詰めると、ただの木のように物言わなくなるため、アンブルの方が先に口をつぐんだ。
もう一つ、諦めに小さな息が吐く。しかしその時、いつもは無い空間の変化を肌に感じた。空気の揺れる音は不思議と耳ではなく、肌で分かる。コーパルもその感覚に驚いて振り返った。
壁にかかった大きな丸鏡。鏡面が水のように波打つと、ルルの姿を映し出した。
「……世界の王が見つけると言いたいんだね?」
肯定するように鏡は元に戻り、二人を映す。
「やれやれ。国宝探しも、同時に急ぐ必要がありそうだ。コーパル、協力してくれるね?」
「ああ」
アンブルはふぅっと細い息をつくと、部屋を出て行った。すると、一人残ったコーパルの目の前に、いそいそと枝が降りてきた。何だか落ち着きがなく探るような動きで、彼は眉根を寄せて笑う。
木は、先程アンブルの名を呼んだ続きが、アパティアについてではないと気付いているのだ。
「大丈夫だ。お前たちの主人を、惑わせるような事はしない。俺の勘違いだ。奪わないから、安心してくれ」
コーパルは優しく枝を撫でる。するとまるで慰めるように、青い花が咲いた。彼はそれを摘むと、そっとアンブルの机に飾る。
そうだ、気のせいだ。彼女が記憶の中の女性と、奇妙なくらいそっくり重なったなんて。
(剣を使って、力を操る)
今朝アンブルが、強くなる方法の一つを教えてくれた。まずルルは、膨大な力をコントロールできない。そのせいもあり感情によって、無意識に力を放出させる事もあった。
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魔法を使えないオリクトの民であるルルにとっては、魔道具はただの物体でしかない。更に王の力を通しても耐えられる器は中々無かった。しかし幸いな事に、最も大事な存在がそれになり得た。
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しかし剣によって抑えられているとはいえ、なんて鋭利で大量の鉱石だろう。こんな小さな体に、どれほど無限の力があるのか。確かにこれは、正しく扱えなければその身を壊すだろう。
(アンブル様が危惧するのも分かりますね)
アウィンがルルの元に来たのは、彼女に指導を任されたからだ。教える事はいい経験になるし、自分も鍛えられるだろうと、快く受けた。まあ、力量が違いすぎるのを今、目の当たりにしたばかりだが。それでも降りる気は、何故か少しも湧いてこない。
「ルル、顔を上げて。今ので少し恐ろしくなったでしょう。貴方は自分の力が強いと、自覚する必要があります」
『ん……』
「だからそれを制御し、味方につけましょう。ルルならできます。もちろん一人ではなく、私と一緒に」
『怪我、させちゃうかも』
「大丈夫。今だって、私は怪我をしませんでしたよ」
『でも』
「辞めれば誰も傷つけませんが、守れもしません。そうでしょう?」
ルルはそこでようやく顔を上げた。記憶に粘りつく他者の死が、また手が血で濡れるのを連想させていた。しかしそれは力を使えなかったから。もうそこに留まらないと、自分に約束したじゃないか。
「私を信じてくれますか?」
『うん』
ルルの頷きに、アウィンは笑みを返した。
~ ** ~ ** ~
アンブルはアガットの部屋から自室へ帰って来た時、室内の変化に周囲を見渡す。数秒間眺めて気付いた。窓が一つ増えている。木が何かを伝えるために増やしたのだろう。
カーテンのように垂れ下がった蔓草を手で退け、外の様子を覗く。坂の下の広場で、互いの剣を向け合っているアウィンとルルが見えた。順調に特訓できている様子にアンブルは微笑む。しかし木は喧嘩をしていると思ったらしく、心配を消すよう木肌を宥めるように撫でた。
「あの子たちは、強くなろうと頑張っているんだ。何もせずに見守ってあげるんだよ?」
木は頷くように枝を揺らした。
蔓草のカーテンを閉めたところで、ドアがノックされた。少しぎこちなく入って来たのはコーパル。
「獣人たちの様子が気になるんだ。ジプスとコーディエだけで、全員を集められるのか?」
「もちろん、二人だけじゃない。獣人はそれぞれ種族でグループとなっているんだ。そこにまとめ役は必ず居る。その子らに、ジプスたちが呼びかけて協力を煽ってるところだよ」
今はほとんどの種族が、着実にアンブルの住むこの命の籠へ向かって来ている。コーディエたちからの連絡によれば、早ければ今晩には辿り着くだろう。
だが全員が全員、移動できる種族ではない。その場から離れて生きられない者も居る。しかし彼らはむしろ、そこで待機する方が安全だ。そういった場は、基本的に他者の侵入は容易ではないのだ。
それを聞くと、コーパルは安堵の息を吐く。
「獣人の事は調べているだろうから、その習性を利用して、捉えようとするはずだ。だがもう移動しているなら大丈夫だ。おそらくアパティア本人は、そのあと本格的に動くだろう」
「本人はずいぶんと遅いじゃないか」
「ああ。俺の目で追えなくなったのは大きいが、アイツ自身、自分が動く事を極力嫌うんだ」
アパティアは何人もの部下を持っている。その全てを捨て駒とし、使うのが好きだった。自分のひと声で、周囲が動くのが快感なのだ。他者の力を自分の力と捉えているというのもある。そのため、彼女本人が出るのは、目的を捉えた時か戦略失敗のどちらかなのだ。
「そうか。なら、こちらも作戦を立てやすい。ありがとうね」
「これくらいしか役に立たないからな。また分かった事は、すぐ報告する」
「……いいんだね? 坊や」
何がだと言いかけたのを、コーパルは飲み込んだ。こちらを試すような視線に、意味を理解する。アンブルは最後のチャンスを与えているのだ。あちら側、アパティアたちの元へ帰る事ができる、最後だと。
今戻れば、多くの情報を相手へ渡す事で、寿命が伸びるだろう。裏切れば、間違いなく破壊される。だがそこに恐怖は無い。
「この命は、誰にも使わせない」
記憶を失い、アンブルたちに出会い、彷徨っていた命の存在意義を知った。この命、散るのならば、新しくできた自分の心に従いたい。それは彼女の元へ帰るのではなく、ここに残る事だ。
アンブルは優しく微笑み、子供にするように黒髪をクシャリと撫でた。コーパルはなんとも言えない顔をする。しかし何だか懐かしく、落ち着く。きっと昔、誰かにこうしてもらったのだろう。
くすぐったさにつぶった目蓋を開いた時、彼は自分の目を疑った。目の前に誰かが居る。優しい微笑みを浮かべる、若い女性。彼女も確か、こんなこんなふうに少し強い撫で方をしていた。
「坊や、どうした?」
顔を覗き込まれ、コーパルは現実にかえる。今、まだこの体になる前の、遠い昔の記憶を頭が描いたような気がする。しかしそれはほんの僅かな時間で、意識しても思い浮かべられない。
返らない返事に首をかしげたアンブルに、コーパルは慌てて頭を横に振った。それに彼女は少し可笑しそうに目尻を下げる。その仕草が、どこか先程の記憶を連想させた。
「アンブル──」
「ん? なんだ?」
「…………おそらく、アパティア本人は国宝を探す事に注力するだろう。獣人の捕獲は、部下が行うはずだ。それを……思い出したんだ」
「そうか。いい加減、私たちに国宝の場所を教えてくれないか?」
アンブルはコーパルから、視線を部屋の壁と化した木へ向ける。しかし彼らはただ拒否を示すように、天井から垂らした枝を振った。何故こうも頑ななのか、溜息が深く吐き出される。これ以上問い詰めると、ただの木のように物言わなくなるため、アンブルの方が先に口をつぐんだ。
もう一つ、諦めに小さな息が吐く。しかしその時、いつもは無い空間の変化を肌に感じた。空気の揺れる音は不思議と耳ではなく、肌で分かる。コーパルもその感覚に驚いて振り返った。
壁にかかった大きな丸鏡。鏡面が水のように波打つと、ルルの姿を映し出した。
「……世界の王が見つけると言いたいんだね?」
肯定するように鏡は元に戻り、二人を映す。
「やれやれ。国宝探しも、同時に急ぐ必要がありそうだ。コーパル、協力してくれるね?」
「ああ」
アンブルはふぅっと細い息をつくと、部屋を出て行った。すると、一人残ったコーパルの目の前に、いそいそと枝が降りてきた。何だか落ち着きがなく探るような動きで、彼は眉根を寄せて笑う。
木は、先程アンブルの名を呼んだ続きが、アパティアについてではないと気付いているのだ。
「大丈夫だ。お前たちの主人を、惑わせるような事はしない。俺の勘違いだ。奪わないから、安心してくれ」
コーパルは優しく枝を撫でる。するとまるで慰めるように、青い花が咲いた。彼はそれを摘むと、そっとアンブルの机に飾る。
そうだ、気のせいだ。彼女が記憶の中の女性と、奇妙なくらいそっくり重なったなんて。
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